前略。
フリーターの次女が、そのまま10日間帰省してくれた。
スムーズに筋と表面の傷口が治るように、私は指先に圧がかからないように、
常に左手を胸の高さにキープする。
人差し指は、アルミの添え木のようなもので固定され、一日おきに村の診療所に消毒に通う。
三角巾を断ったことが、悔やまれた。無駄に肩が凝る。正常な右腕も凝る。
とにかく、左指が何故か全体に痛い。ズキズキした痛みが、指先に集中している。
抗生物質が5日間処方されている。気温が高い分、傷には最悪の環境だ。
中でバイ菌が増殖しているのではないか?
整形の先生、ずっと話しながら処置していたけれど、上手に縫っているのか?
こういう場合、想像力が豊かな分、かえって厄介になる。
とにかく、左手が使えない。
次女が、言ってくれる。
『母ちゃん、何でも用事言ってよ』
『母ちゃん、遠慮せんと言ってよ』
「ありがとう、ホンマに迷惑かけるなあ。ごめんよ」
当日の夜は、次女にシャンプーを手伝ってもらい、乾かしてもらい、
医者の指示通り、左手はクッションに乗せ、頭側に置き、どこかの奥様気分で、眠りについた。
あくる朝、セミの声で目覚める。
5時半に習慣のように目が覚め、再び頑張って1時間眠る。
次女は、熟睡している。遮光カーテンの窓越しに鳴いているセミの声なんか、全く届いてないみたいだ。
起こさないように、ゆっくりと起き、音をたてないように、ドアを閉める。
床の軋む音で、目を覚ましては申し訳ないから、すり足で移動する。
いつもの日課の始まりだ。
お茶を沸かす。別々の部屋に置かれたお仏壇のお茶とお水を交換する。
軽いから右手で十分に可能だった。
ハナシバの水を替えたかったが、きちんと生けたハナシバが
バラバラになるから、片手でやるのは、諦めた。
抗生物質と痛み止めを早く飲みたかったから、パンを適当に食べた。
音をたてないように静かにニュースを見る。
統○教会の話題をメディアは挙って取り上げている。
その隙に国会では色んな法案が可決されている。
メディアに操られながら、何かオカシイ?と気づいている人は、
この島国にどの位いるんだろう。指がズキズキする。平和ボケの身には、なんて贅沢な痛み。
次女が、起きてきた。
『母ちゃん、ゆっくり寝れた?痛くないん?』
「寝れたよ。ありがとう。朝、パン先に食べたから、適当に食べてな」
次女が、パンを食べ終わる頃に、気になって仕方ないハナシバの花瓶の水の交換をお願いした。
ちょっと待ってよと言いながら、メイクなんかをしている。
その隙に私は、昨日大量に購入した、消毒グッズを小分けして、片付ける。
次女は、花瓶のハナシバを交換しながら、これを毎日やっているん?と聞く。
お茶とお水と花瓶の水の交換は、毎日だと応えると、エライなあーと褒めてくれた。
ハナシバの微妙な挿し方を注文すると、コダワリが強いなあと、低いトーンで言われた。
仏壇に置いて頂き、座ろうとした次女にすぐにお願いした。
「神棚のサカキの水も替えて欲しい」
ちょっと待ってよと言いながら、次女はアイスコーヒーを容れていた。
時々、こちらを見て愛想笑いもしながら、ゆっくり飲んでいる。
すでに、起床から二杯目のコーヒーだ。
サカキの水を交換して頂き、次の用事をお願いした。
『掃除機をかけてほしいんよ。右手でかけれるけど、今日はちょっとやめとくわ』
『掃除機?』
「うん」
『どこを掃除機かけるん?』
「とりあえず、この部屋と台所と廊下」
『どこが、汚れとるん?部屋、キレイなよ』
「いや、小さいホコリとか、髪の毛落ちとるし」
『母ちゃん、気にし過ぎよ。全然キレイなよ』
私が返事をしなかったら、次女は渋々掃除機をかけ始めた。
何でも言ってよと、昨日優しく言ってくれたから頼んだのに、却下されかけた。
とにかく、時間の過ぎるのが早い。時計は11時を過ぎている。
昼食は、大量のレトルト食品のメニューから選ぼう!と私は決めていた。
次女がポツリと呟いた。*次女は主人に似て、とてもとても、食い意地が強い。
『母ちゃん、お昼、何食べるで?』
「何にしようか。イッパイあるなあ」と言いながらも、大量に頂いた夏野菜も気になる。
「茄子の煮浸しする?」と次女に聞くと、速攻返事が返ってきた。
『食べたいっ!食べたいっ!母ちゃんの煮浸し食べたいっ!』
「へっ?」と次女の顔を見ると、既に茄子を切る準備を始めていた。
『材料きるけん、味付けだけ側で言うて』
次女が、茄子を切る。
我が家の包丁が切れないと言うので、それは20年くらい前に、
高知の姉が捨てようとした包丁だと教える。
『なんでも切るけん、言うてな』
次女は、切る気マンマン、意気揚々だ。
私は左腕を胸の高さに上げたまま、ひたすらに茄子と豚肉とピーマンを煮る。
味噌汁を作り、キュウリの浅漬けを作る。
『やっぱり、母ちゃんのご飯、美味しいわー』と歓びながら、次女は見事に完食された。
食器、後で洗うけん、そのままにしとってな。とご機嫌であった。
『ちょっと眠たいけん、寝るな』
と言いながら、次女はお昼寝を始めた。物音をたてないように気をつけて、次女のお昼寝を見守った。
瞬く間に、夕方がやってきた。
次女が、時計を見ながら、ポツリと呟く。
『母ちゃん、晩ご飯、何作るで?』
後半に続く。
フリーターの次女が、そのまま10日間帰省してくれた。
スムーズに筋と表面の傷口が治るように、私は指先に圧がかからないように、
常に左手を胸の高さにキープする。
人差し指は、アルミの添え木のようなもので固定され、一日おきに村の診療所に消毒に通う。
三角巾を断ったことが、悔やまれた。無駄に肩が凝る。正常な右腕も凝る。
とにかく、左指が何故か全体に痛い。ズキズキした痛みが、指先に集中している。
抗生物質が5日間処方されている。気温が高い分、傷には最悪の環境だ。
中でバイ菌が増殖しているのではないか?
整形の先生、ずっと話しながら処置していたけれど、上手に縫っているのか?
こういう場合、想像力が豊かな分、かえって厄介になる。
とにかく、左手が使えない。
次女が、言ってくれる。
『母ちゃん、何でも用事言ってよ』
『母ちゃん、遠慮せんと言ってよ』
「ありがとう、ホンマに迷惑かけるなあ。ごめんよ」
当日の夜は、次女にシャンプーを手伝ってもらい、乾かしてもらい、
医者の指示通り、左手はクッションに乗せ、頭側に置き、どこかの奥様気分で、眠りについた。
あくる朝、セミの声で目覚める。
5時半に習慣のように目が覚め、再び頑張って1時間眠る。
次女は、熟睡している。遮光カーテンの窓越しに鳴いているセミの声なんか、全く届いてないみたいだ。
起こさないように、ゆっくりと起き、音をたてないように、ドアを閉める。
床の軋む音で、目を覚ましては申し訳ないから、すり足で移動する。
いつもの日課の始まりだ。
お茶を沸かす。別々の部屋に置かれたお仏壇のお茶とお水を交換する。
軽いから右手で十分に可能だった。
ハナシバの水を替えたかったが、きちんと生けたハナシバが
バラバラになるから、片手でやるのは、諦めた。
抗生物質と痛み止めを早く飲みたかったから、パンを適当に食べた。
音をたてないように静かにニュースを見る。
統○教会の話題をメディアは挙って取り上げている。
その隙に国会では色んな法案が可決されている。
メディアに操られながら、何かオカシイ?と気づいている人は、
この島国にどの位いるんだろう。指がズキズキする。平和ボケの身には、なんて贅沢な痛み。
次女が、起きてきた。
『母ちゃん、ゆっくり寝れた?痛くないん?』
「寝れたよ。ありがとう。朝、パン先に食べたから、適当に食べてな」
次女が、パンを食べ終わる頃に、気になって仕方ないハナシバの花瓶の水の交換をお願いした。
ちょっと待ってよと言いながら、メイクなんかをしている。
その隙に私は、昨日大量に購入した、消毒グッズを小分けして、片付ける。
次女は、花瓶のハナシバを交換しながら、これを毎日やっているん?と聞く。
お茶とお水と花瓶の水の交換は、毎日だと応えると、エライなあーと褒めてくれた。
ハナシバの微妙な挿し方を注文すると、コダワリが強いなあと、低いトーンで言われた。
仏壇に置いて頂き、座ろうとした次女にすぐにお願いした。
「神棚のサカキの水も替えて欲しい」
ちょっと待ってよと言いながら、次女はアイスコーヒーを容れていた。
時々、こちらを見て愛想笑いもしながら、ゆっくり飲んでいる。
すでに、起床から二杯目のコーヒーだ。
サカキの水を交換して頂き、次の用事をお願いした。
『掃除機をかけてほしいんよ。右手でかけれるけど、今日はちょっとやめとくわ』
『掃除機?』
「うん」
『どこを掃除機かけるん?』
「とりあえず、この部屋と台所と廊下」
『どこが、汚れとるん?部屋、キレイなよ』
「いや、小さいホコリとか、髪の毛落ちとるし」
『母ちゃん、気にし過ぎよ。全然キレイなよ』
私が返事をしなかったら、次女は渋々掃除機をかけ始めた。
何でも言ってよと、昨日優しく言ってくれたから頼んだのに、却下されかけた。
とにかく、時間の過ぎるのが早い。時計は11時を過ぎている。
昼食は、大量のレトルト食品のメニューから選ぼう!と私は決めていた。
次女がポツリと呟いた。*次女は主人に似て、とてもとても、食い意地が強い。
『母ちゃん、お昼、何食べるで?』
「何にしようか。イッパイあるなあ」と言いながらも、大量に頂いた夏野菜も気になる。
「茄子の煮浸しする?」と次女に聞くと、速攻返事が返ってきた。
『食べたいっ!食べたいっ!母ちゃんの煮浸し食べたいっ!』
「へっ?」と次女の顔を見ると、既に茄子を切る準備を始めていた。
『材料きるけん、味付けだけ側で言うて』
次女が、茄子を切る。
我が家の包丁が切れないと言うので、それは20年くらい前に、
高知の姉が捨てようとした包丁だと教える。
『なんでも切るけん、言うてな』
次女は、切る気マンマン、意気揚々だ。
私は左腕を胸の高さに上げたまま、ひたすらに茄子と豚肉とピーマンを煮る。
味噌汁を作り、キュウリの浅漬けを作る。
『やっぱり、母ちゃんのご飯、美味しいわー』と歓びながら、次女は見事に完食された。
食器、後で洗うけん、そのままにしとってな。とご機嫌であった。
『ちょっと眠たいけん、寝るな』
と言いながら、次女はお昼寝を始めた。物音をたてないように気をつけて、次女のお昼寝を見守った。
瞬く間に、夕方がやってきた。
次女が、時計を見ながら、ポツリと呟く。
『母ちゃん、晩ご飯、何作るで?』
後半に続く。