秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

奥祖谷春点描

2010年03月05日 | Weblog
いつものようにわたしの庭のような久保集落の景色を愛でながら
最上のT老婦を訪ねて世間話などで楽しんで集落をあとにした。
京上まで来たときにふっとコーヒーが欲しくなり、ホテル奥祖谷に
立ち寄ってみた。

役場のすぐ近くにあって、感じのいい綺麗な旅館だが、女将さんが
なかなかの美人なのもいい。
コーヒーを注文して椅子に座りほっとしていたときであった。
女将さんの声がして
「お帰りになりましたか、お疲れでしょう」
「疲れたわ、コーヒーが欲しいわ、ねえ、お母様、」
若い女のひとの声がして喫茶室のドアが開いたが直ぐに座っているわたしを
見つけて
「あら、さきほどはどうも、、、、、、、失礼しました」
と挨拶してから後をふりむいて
「お母様、山でお会いした方がいらっしゃいますわ」
と遅れてきた母親に云った。
「まあー、ほんとに、、、、またお会いしましたね、」
笑顔でほっとした様子にわたしは咄嗟に
「ほんとですね、ご縁にコーヒーご一緒に、どうですか」
わたしの座っているテーブルに案内すると快く応じてもらえた。

「ところで、あの道が行き止まりなのをお知らせするのを忘れてしまい
とんだ失礼をしました、あの、、行き止まりの廃家まで行かれましたか」

「いえ、かまいませんわ、はい、あそこまで行きました」
そのとき、コーヒーが来て、忽ちいい香りに包まれた。飲みましょうと
いうことになり、わたし達は一服の幸せに静かに身を沈めた。
疲れがすーと消えて行くような快感を覚えていたが、娘さんが口を開いた

「あのお家と周辺の風景をご覧になって、どう、思われましたか?
ご感想をお聞かせ下さればうれしいですが」

「そうですねえ、、、こちらへ来ますともう彼方此方に空き家が見られて
過疎が進んでいると何時も実感するのですが、今日は何時もと違い初めての
道に入りあの家を見つけたわけです。
いやあ、驚きましたね、道は行き止まりだし、廃家はカヤと低木の埋もれて
いるが、前面がドーンと開けて素晴らしい姿の山が正面はるかに眺める
風景には感動しましたね。

しばらくぼう然と眺めていましたが、突然にですよ、お嬢さん、家が話し
かけてきたのには驚きましたね、、」

「まあー!ほんとですか、信じられないわ!」

「いえね、そりゃあ家が話をするわけないです、そのように思っただけなんですがね、
何と云いますか、不思議な体験でしたが、わたしと廃家とは妙に想いが一致したと
云いますか、電流が流れたような感じでした。
それはあの場所が一種独特の清らかな素晴らしい風景と廃家とはいえ凛とした
風格を漂わせていた家の精が為せたのかもしれませんね。」


「それで、家の精はどのように思っていたのでしょうか」

娘さんは目を耀かせて、ちょっと紅潮させ日本人離れした彫の深い顔が
喫茶室の仄かな灯りと傾きかけた陽射しに浮びあがって、やっぱり
綺麗な娘さんだと思った。

傍でわたしと娘の話のやり取りを静かに聞いている母親は、微かに憂いの
翳がありものの、いかにも都会育ちの上品な物腰であり、微笑みながら
聞き入っていた。喫茶室にはわたし達三人だけであった。


















コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 奥祖谷春点描 | トップ | 菜菜子の気ままにエッセイ ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事