仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

夜になるまで6

2010年10月18日 17時43分09秒 | Weblog
ツカサも目を閉じた。
が、目を閉じると風の音、水の音とは違う音が鼓膜を刺激した。
ガサッ。
草のすれる音、車のエンジン音、工場の機械音、人の声。
意識が別の方向に向かいそうになった。
眼を開け、ヒトミを見た。
ヒトミは綺麗だった。
覆いかぶさるようにしながら、体重をかけないように抱いた。
温もりが伝わった瞬間、ツカサの意識がとんだ。

それは一瞬のことかもしれない。
一瞬が、永遠につながる瞬間だったのかもしれない。

ヒトミの髪がツカサの頬をくすぐる少し前。
夢を見た。

身体を構成している全ての分子がひも状に変形していった。
頭の一番上の部分から、ひもが解けて行く感覚。
ひもは螺旋を描きながら、上に、中空に伸びていった。
それと同時に、今まで意識していた身体がひもとして分解した。
気付くと膝の上で寝ているヒトミの頭部からも同じようなひもが伸びていた。
そして、ヒトミの身体も分解した。
身体の全ての部分がひもになると自分を意識しているのか、いないのかわからなくなった。
今まで、他人と自分を隔てていた皮膚がなくなった。
今まで、人と自分をつなげていた肌がなくなった。
空気の流れに沿って、ひもは漂った。
草に絡まり、木々に絡まり、ヒトミのひもと絡まり、
強い風が吹くと、ほどけた。
何度となくそれを繰り返すうちに、ひもはその事物を構成する全ての分子と融合した。
存在はなく、存在した。
ただ、融合しきれない十センチの部分があった。
その部分がヒトミの十センチを探した。