仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

その坂を下って

2010年10月20日 16時22分32秒 | Weblog
 夜に近い夕暮れ。
 二人は「ベース」に向かう坂を降り始めた。するとダンボールをかかえた十代に見える青年、少年が声をかけてきた。
「今日の直販は終わっちゃったんですけど。」
「いえ、あの。」
「明日は三時からですから。」
「そうじゃなくて、あのアキコはいますか。」
「えっ。」
「ヒデオは。」
「はっ。」
「あの友達なんですけど。」
「アキコさんもヒデオさんもいませんよ。」
当たり前のように言われてヒトミは動揺した。
「マサルは、マサミは、ヒカルは・・・・。」
ヒトミの表情が急変するのに少年は驚いた。
「あの、ああ、マサルさんなら、後、三十分もすれば戻りますけど。」
「どこかで、待たせてもらえないかな。」
ツカサの声が響いた。
「お客さんだったんですか。すみません。」
少年は二人を「ベース」の中に案内した。ハルが明日、出荷用のダンボールをつんでいた。
「ハルさん、マサルさんにお客さん。」
「マサルに。」
真新しいジーンズにティーシャツ、作業服のようなジャンパーの男と
やはり、真新しいジーンズにティーシャツ、大きめブルゾンを羽織った濃い目の化粧の女。
マサルの友人。
新しい「ベース」の参加者ならほとんどを知っていた。この二人は記憶をたどっても、見つからなかった。そこは「ベース」、来るものは拒まない。
「マサルの知り合い。」
「はい。」
「あれ、大丈夫、顔色悪いけど。」
「大丈夫です。」
「少し、休ませてくれませんか。」
「いいけど。」
そういうと、ハルは叫んだ。
「マー。マー。マサルの知り合いだって。上の部屋、開いてる。」
「だれー。」
「だから、マサルの知り合いだって。」

 二階はさらに改造が進み、構造上必要な壁以外は全て取り払われ、広いスペースになっていた。皆がそこで寝た。ヒカルとミサキがいた部屋はそのまま独立していて、応接間的に使われていた。一階のルームはそのままだったが、土間、食堂、増築されたスペースは所狭しと集荷用品やダンボールが積まれていた。

 マーが二階から降りてきた。
「ヒカルの部屋は開いてるよ。」
「始めまして、マサルさんの・・・・。」
と言いかけてヒトミがよろめいた。ツカサが支えた。
「わー、どうぞ、どうぞ、二階だけど。」
「すみません。」
そういうとツカサはヒトミを抱えて、マーの後から二階へ上がった。

 なぜか懐かしい臭いがした。
窓の近くに、ヒカルが夕日を見ていた窓のそばにヒトミを寝かせた。あの日と同じように夕日はきれいだった。