仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

人生の達人

2011年11月10日 17時15分03秒 | Weblog
星を見ていた。
ダンボールの切れ目から、まぶしいほどの光が入ってきた。
たった一つの星なのに、それは輝いていた。

空想も想像もすべてが停滞していた。
空腹とそれを満たすための行為だけが存在を支えていた。

ボンボン

ダンボールをたたく音がした。
「もう、ここもヤバイらしいぞ。」
カリさんの声がした。

どうして生きているんですか。

そう聞いたとき、無視もせず、殴りもせず、ただ見つめ返して
「お前も一緒だろ。」
と言ってくれたのはカリさんだけだった。

必要とされなくなっただけだ。
いや、必要でなくなったのかもしれない。
死が怖いから、生きているだけかもしれない。
考えることは苦しい。

この恐怖から、逃れるために一生懸命だった。

それも今は、どうでもいい。

ここいる誰もがいう。
「死んだら終わりだよなあ。死んじまったら、終わりだよ。」

公園の噴水の縁に腰掛けたままで、肌の色が変わっていたスズキさんをその辺の住人が眺めに行った。
警察が来て、救急車が来て、保健所が来て、スズキさんはいなくなった。

「死んだら終わりだよなあ。死んじまったら、終わりだよ。」

空腹とそれを満たすための行為だけしかないその辺の住人が口をそろえて言っていた。

「カリさん。」
「なんだ、」
「カリさんはどうするんですか。」
「わかんねえなあ。保健所がきたのがまずっかたらしい。」
「そうなんですか。」
「俺についてくるなんて思うなよ。めんどくさいのは嫌いだ。」
「はい。」
「でも、おまえ、何でもいいが、もう少しきれいにしろよ。」
「はい。」
「まあ、人に言えたことじゃないが、拾いもんでも髪の毛くらいは切れるだろ。」
ほろりと油と垢で髪の毛はバリバリに固まり、いたるところで不安定な幾何学模様を作っていた。
体の臭いはすでに感じなくなっていたが。