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アウストラロピテクス・セディバ
南アフリカ共和国の洞穴から約200万年前の人類の祖先である猿人の新種の化石がみつかった。ほぼ完全な頭の骨に加え、歯や骨盤、腕、脚の一部などが発掘されており、全身像も判明した。初期のヒト属が生まれたと考えられる時期と重なっており、ヒト属の起源を探る上で重要な手がかりになりそうだ。
同国や米国などの研究者でつくる国際チームはこの新種の猿人を「アウストラロピテクス・セディバ(セディバ猿人)」と名付けた。セディバは南アフリカのソト語で「泉・水源」を意味し、ヒト属の起源解明への期待を込めた。
セディバ猿人の化石はヨハネスブルクの北約40キロにある洞穴の195万~178万年前の地層から男女1体ずつ計2体見つかった。身長はともに約1.27メートルで、体重は男性が約27キロ、女性が約33キロと推定された。年齢は、男性が10歳前後の子ども、女性が20代後半~30代前半。男性の脳の容量は420~450立方センチで現生人類の3分の1程度という。
骨盤の筋肉の付き方など下半身の特徴は、ヒト属に近く、二足歩行していたと考えられる。一方で、腕は長く木登りに向くという猿人の特徴も兼ね備えている。研究チームは、体全体としてはアウストラロピテクスの特徴が多いため、その一種と判断した。 研究成果は3月9日付の米科学誌サイエンスに発表される。
国立科学博物館の馬場悠男名誉研究員(人類形態進化学)は「一つの種の化石が2体分もあるのは非常に貴重で、これまでに部分的に見つかっていた他の猿人の化石研究で参考になる」という。
東京大総合研究博物館の諏訪元(げん)教授(自然人類学)も「『ヒト属の起源につながる新種』との解釈は現段階ではできないが、南アフリカにおける猿人の進化や、東アフリカも含む地域で見つかっている初期人類の進化の理解に貢献する貴重な新発見だ」と話している。(松尾一郎) 200万年前の新種猿人化石 ヒト属起源探るてがかり(asahicom 2010年4月9日18時48分)
猿人と人類
先日ロシア南部で見つかったのは、約4万年前の未知の人類で、発見された地名から「デニソワ人」と命名された。ミトコンドリアDNAの解析によると、約104万年前に現生人類やネアンデルタール人と共通の祖先から枝分かれし、独自に進化した人類らしい。骨片が出土した地層の年代が4万8000~3万年前だったことから、4万年前まで存在していたことも判明した。
昨年話題になった「ラミダス猿人」は東京大総合研究博物館の諏訪元教授らの研究グループがエチオピアで発見した化石。この約440万年前の人類の化石から、全身像を復元することに成功した。この猿人は二足歩行をしていたらしい。
化石は「アルディピテクス・ラミダス」という種類の猿人で、身長1メートル20の女性、全身骨格としては最古のものである。化石が発見されたのは1994年、47人の研究者が10年以上かけて詳細に分析した。
猿人は人類の遠い祖先にあたる存在だ。約700万年前にアフリカ大陸に出現し、約130万年前まで生息していただろうと考えられる初期の人類である。
ミトコンドリアDNAの分析では、有名な猿人である「アウストラロピテクス属」から人類「ホモ属」が分化したとする説が有力である。人類と呼べるのは、加工した石器を使い始めた、ホモ・ハビリス(約250万年~200万年前)からだといわれる。
ミッシングリンクの可能性
新たに発見された200万年前の人類の祖先の化石、“アウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba、セディバ猿人)”。研究チームによると、猿人に近いアウストラロピテクス属と、最初期のヒト属(Homo)との間をつなぐ重要なミッシングリンクの可能性があるという。
今回の研究チームのリーダーでヨハネスバーグにあるウィットウォータースランド大学のリー・ベルガー氏は、研究成果の掲載誌「Science」(2010年4月8日発行)で、「初期の人類としては、これまで確認されたことがない特徴がある」とコメントしている。
南アフリカ共和国の地下に広がる洞窟で発見された2体の化石は、年齢30歳前後の女性と8~13歳の少年と推定されている。2人の血縁関係は不明だが、ほぼ同時期に洞窟内の穴に墜落死したようだ。穴の底にはサーベルタイガーなどの捕食動物の獣骨も散乱していたという。
“セディバ”は南アフリカのソト語で「泉」を意味し、現生人類の祖先である可能性を研究チームは報告している。ただしベルガー氏は、別の可能性にも期待しているという。
同氏は古代エジプトの象形文字の解読に道を開いたロゼッタ・ストーンを例にして、「これは私と同僚の考えだが、セディバはヒト属の謎を解明する重要な手掛かりを提示してくれるかもしれない」とコメントしている。
最大でも身長1.2メートル程度と見られるセディバには、ホモ・ハビリスのような初期人類に分類できる重要な特徴が数多くある。長い足や骨盤の筋肉などの下半身を備え、優れたエネルギー効率の歩行や走りが可能だったのではないかと研究チームは述べている。また、小さな歯と現生人類に似た鼻の形も大きな特徴であるという。さらに保存状態が極めて良好だった頭蓋骨からは、右脳、左脳の形が人間と同じように不揃いだったとわかる。
現在は顔の復元中で、「あまりにも人間らしいセディバに、きっと多くの人々が驚くことだろう」と、ベルガー氏は4月7日の記者会見でコメントしている。
アウストラロピテクスとの共通点
しかし、ここまで類似点があるにもかかわらず、なぜ研究チームはセディバをヒト属に分類しないのだろうか。
それについて同チームは、セディバにはアウストラロピテクス属に似た特徴もあり、猿人に分類せざるを得ないと考えているという。例えばアウストラロピテクス属と類似する特徴として、脳が極めて小さい点が挙げられる。原始的な手首と長い腕という木登りに適した猿人の特徴も兼ね備えている。
多くの人類学者たちも興奮を隠せない様子だ。だが、セディバを先史時代の猿人種と現生人類の間をつなぐ種とする研究チームの考えには、疑問の声も上がっている。
ジョージ・ワシントン大学の人類学者バーナード・ウッド氏は、「アウストラロピテクス属とヒト属をつなぐ有力な証拠はほとんどない」と指摘している。同氏は今回の研究には参加していないが、「セディバは、われわれが予想していたヒト属の祖先と一致しない」と話している。例えば、猿人類そっくりの非常に長い腕だ。またセディバの身体は最初期の人類の祖先のように直立歩行に適していないという。
さらに同大学の人類学者ブライアン・リッチモンド氏は、178万~195万年前のセディバは、ヒト属の祖先にして単純に”若すぎる”と主張している。同氏は230年前のホモ・ハビリスを念頭に置いて、「50万年近くも遅れて登場したセディバはヒト属の祖先と断定できないだろう」と述べている。
ベルガー氏は、別のアウストラロピテクス属に近い可能性を主張している。セディバの骨格は木登りに向く特徴を備えているからだ。「セディバは、ヒト属へと進化する前の段階の種だ」と同氏は説明する。
年代について同氏は、今後の研究でセディバがさらに数十万年溯ると予想しているという。初期のホモ・サピエンスの祖先として十分考えられる年代ということになる。「セディバはある時間の断面に存在していた。彼らが種の最初、または最後の生き残りというわけでもない」と同氏は話している。
アメリカ、オハイオ州にあるケース・ウェスタン・リザーブ大学のスコット・シンプソン氏は、「今回発見された化石は極めて重要だ。あらゆる議論のきっかけになるだろう」と述べている。「疑問を一刀両断に解決する答えなどありはしない。新たな観点を示してくれたセディバについて、長いディスカッションが交わされることになる」。 (National Geographic News April 9, 2010)
ホモ・ハビリスかホモ・エレクトスか?
ホモ・ハビリス(Homo habilis)は、250万年前から200万年前まで存在していたヒト属の一種。"handy man" 器用な人の意。
1964年、タンザニアのオルドヴァイでルイス・リーキーによって発見された。現在分かっている限り最も初期のヒト属である。容姿はヒト属の中では現生人類から最もかけ離れており、身長は130cmと低く、不釣合いに長い腕を持っていた。ヒト科のアウストラロピテクスから枝分かれしたと考えられている。脳容量は現生人類の半分ほどである。
研究チームのリーダーであるリー・ベルガー氏は、今回の新種アウストラロピテクス・セディバ(セディバ猿人)は、ホモ・ハビリスか、その後に登場する原人ホモ・エレクトスの直接の祖先にあたる可能性があると言う。
これには異論もある。例えば、1470番頭蓋はセディバ猿人の化石よりも年代的に少し古く、さらに年代をさかのぼるヒト属の化石も見つかっている。「50万年も古い化石がすでにある。セディバ猿人がヒト属の最初期の祖先とは言い難い」と、ワシントンD.C.にあるジョージ・ワシントン大学の人類学者ブライアン・リッチモンド氏は指摘している。 (National Geographic News April 9, 2010)
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われら以外の人類 猿人からネアンデルタール人まで (朝日選書 (783)) 内村 直之 朝日新聞社 このアイテムの詳細を見る |