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分子構造の左右作り分けで新手法 東京理科大学の山下俊准教授と奈良先端科学技術大学院大学の藤木道也教授の研究チームは、同じ原子成分を持ちながら、“右手と左手”のように鏡に映った対称的な構造を持つ分子を、簡単に作り分ける手法を開発した。液体を寒天のように固めるゲル化剤を水に入れ80℃にして、時計回りか反時計回りにかき混ぜた。
分子構造の左右の偏りを調べる手法を使い、溶液内で左手系分子と右手系の分子を作り分けられることを示した。なぜこうなるかについて、岡野久仁彦東京理科大助教は「かき混ぜ方でゲル化剤を構成する分子の塊が、右巻きもしくは左巻きにねじれた構造をとるのでは」と話す。
医薬品や調味料などの分野への応用が期待できる。長野県テクノ財団が推進する文部科学省補助事業の一環で行われ、成果は独化学会誌電子版に近日、掲載される。(2011年10月27日日刊工業新聞)
鏡像異性体は化学反応性や物性はほとんど同じであるため分離や作り分けが困難だが、生体への影響などは全く異なる場合があり、工業的にはこれらを選択的に得ることは非常に重要である。
このような鏡像異性体の作り分けは、これまでにも盛んに研究されてきており、例えば2001年のノーベル化学賞を鏡像異性体の作り分けに関する研究で野依氏らが受賞した。
それがまさか、固めてかき混ぜながら作るという、単純な方法で作り分けできるとは驚きである。
鏡像異性体とは何か?
ある特定の分子構造に対し、鏡像関係にあり、等価でない(重なり合わない)分子について比較表現として用いられる用語。比較表現でない場合は、光学活性化合物(もしくは不斉化合物)と呼ばれる。
分子内部にねじれの要素がある場合、ある配置の分子とその鏡像関係の配置の分子は重ねあわすことができず、異性体になる。それぞれ平面偏光を逆向きに回転させる性質をもつ。
ほとんどの鏡像異性体は、光学活性炭素原子上に4つの異なる官能基が置換することによって発現する。ある物質とその鏡像異性体を比較すると、ほとんどの物性や反応性が同じであるが、性質を及ぼす基質が光学活性化合物の場合に限り、反応性に違いが見られる。
すべての分子とその鏡像体を比較すると、沸点、融点、屈折率、誘電率、紫外吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトルおよび質量スペクトルなどの物性や分光学的データは完全に同一である。ただし、円偏光(もしくは楕円偏光)に対する吸収スペクトルは、わずかに異なる。
サリドマイドの鏡像異性体の一方は睡眠薬としての薬効を示すが、もう一方は妊婦が服用すると、生まれた子供の手足が短くなる「奇形児アザラシ肢症」という副作用を引き起こす。体内の蛋白質を構成するアミノ酸は、全て鏡像異性体の片方のL体である。
鏡像異性体と光学異性体
「鏡像異性体(エナンチオマー)」とは、「二つの化合物の構造式について、平面に書いた(=3次元立体構造を無視した)構造式は等しいが、立体構造を考えると重なり合わず、丁度鏡に映した物同士の関係(実像と鏡像)になるもの」を指す。例えば右手と左手。L-アミノ酸とD-アミノ酸など。
鏡像異性体を有する分子構造を「キラル(掌性)」と呼ぶ。一般に炭素原子に異なる四つの置換基が着くとキラルな分子と成り、その四つの異なる置換基がついた炭素原子の事を「不斉炭素」と呼ぶ。
「光学活性」とは、光の偏光面を回転させる性質のある物質のこと。「光学異性体」とは、「鏡像異性体」の内「光学活性」なものの関係を指す。一般に、全ての光学活性体には光学異性体の関係を満たす分子が存在し、その光学異性体同士は、光の旋光面が丁度正負の関係で反転している。例えば、ある化合物が光学活性でその旋光度が+20°なら、その鏡像異性体は-20°の旋光度を持ち、それらは光学異性体の関係にある。
全ての「光学活性体」はキラルな構造を有し「鏡像異性体」が存在するが、全てのキラルな分子が「光学活性体」では無い。また、「不斉炭素」を持たない「キラル」化合物があり、「不斉炭素」有していてもキラルでない(=アキラル)、すなわち、光学不活性な分子も存在する。
例えば、L-酒石酸は光学活性でその光学異性体(かつ鏡像異性体)は、D-酒石酸だが、世の中には光学不活性なメソ酒石酸なる分子も存在する。この三つの分子構造は、平面状に書くと(立体を無視すると)全て同じだ。
また、キラルで光学不活性(鏡像異性体が存在するのに光学不活性)な分子として、5-エチル-5-プロピルウンデカンという分子が存在する。(Wynberg. H, Hulshof. L. A., Tetrahedron, 1974, 30, 1775)
これまでの不斉合成
化学物質は物理化学的な性質がまったく同じでも立体構造が異なることがる。これは光学異性体と呼ばれ、分子構造が右手と左手のように鏡に映した関係にある。しかし、生体が作り出す物質は、アミノ酸が左手型、遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)が右手型というように異性体の一方しかない。医薬品や農薬、調味料、香料などもどちらか一方の光学異性体しか効力がない。
通常、医薬品などを人工的に合成しようとすると左手型と右手型が一対一の割合でできる為、効率が悪い。このため、どちらか一方の型だけを選択的に合成する製造プロセスに導入されている。現在の不斉合成法は触媒や酵素を使った熱反応が主流(熱不斉合成)。
触媒を使った熱反応は反応工程が7、8段階必要なうえ、反応温度の制約も受ける。一方、酵素反応は生物が必要とする物質しか合成できず、光学異性体のどちらをつくるかという選択の余地もなくなってしまう。
野依良治氏は不斉な配位子を持つ金属錯体を触媒として、不斉要素を持たない化合物の鏡像体(エナンチオ)選択的還元反応において有用な方法を開発し、ノーベル化学賞を受賞している。
今回発見された方法のように、ただ、左右にかき回すだけで鏡像異性体ができるのであれば、非常に簡易で便利な方法である。
参考HP Wikipedia 不斉合成・キラリティー・光学異性体 キリヤQ&A 異性体
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