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ビタミンK2投与は当然
日本周産期・新生児医学会は8月5日、新生児の頭蓋内出血を防ぐため、ビタミンK2シロップ投与の重要性を再確認するよう、会員の産婦人科医や小児科医、助産師らに求める緊急声明を出した。
代替療法「ホメオパシー」を実践する一部の助産師が、シロップの代わりに「レメディー」と呼ばれる砂糖玉を渡し、新生児が死亡し訴訟になったことを受けた。緊急声明は長妻昭・厚生労働相にも提出、厚労省として積極的に指導するよう求めた。 (asahi.com 2010年8月6日)
このニュースを見て、ビタミンKとは何かまず疑問に思った。ビタミンは体に必須の栄養素で5大栄養素のうちの1つである。ビタミンKは、骨の石灰化調節因子となるタンパク質や血液凝固に必要なタンパク性の凝固因子に関与している。 産科では、出生時、出生1週間、一か月健診などの頃合いで赤ちゃんにビタミンKシロップを投与する。
人間に必要な、ビタミンを外部から摂るのは当たり前である。ということで、日本周産期・新生児医学会は当たり前のことを言っているだけなので、このニュースはすぐに忘れてしまった...。ところが、問題はそう単純ではなかった。
ホメオパシー療法に「科学的根拠なし」
昨年10月山口県で、助産師にビタミンK2の代わりにホメオパシー療法の特殊な錠剤を投与された乳児がビタミンK欠乏性出血症で死亡した。このことを受け、日本学術会議の金沢一郎会長は8月24日、「ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されている。医療関係者が治療に使用することは厳に慎むべきだ」との談話を発表した。
ホメオパシー療法は18世紀末ドイツで始まった。病気と似た症状を起こす植物や鉱物を何度も水で薄めてかくはんし、この水を砂糖玉にしみこませた錠剤(レメディー)を服用して自然治癒力を引き出し、病気を治すというもの。元の物質は水にほとんど残っていないが、実践する人たちは「水が記憶している」と主張している。
欧米やインドで盛んだが、最近は効果を巡り議論が起きている。日本でもごく一部の医療関係者ががんやうつ病などの患者にレメディーを投与している。
日本学術会議は政府に科学振興策などを勧告できる、日本の科学者の代表機関。記者会見した金沢会長は国内で死者が出た事態を重視し「ホメオパシーに頼り過ぎると、有効な治療法を受ける機会を逸する」と指摘。欧米のように普及する前に、医療分野で広がらない手だてが必要と主張した。唐木英明・同会議副会長も「ただの水なので効果はない」と訴えた。
山口県の乳児死亡では、母親が助産師を相手に損害賠償を求める裁判を起こしている。ビタミンK欠乏性出血症は新生児約4000人に1人の割合で発症する。乳児死亡後、厚生労働省や日本周産期・新生児医学会は、新生児にビタミンK2シロップを与えるよう医療関係者に訴えている。
ところが、ホメオパシー療法の普及活動をしている「日本ホメオパシー医学協会」(東京都)は「欧米の実績で分かるように、ホメオパシー療法は治癒効果が科学的に証明されている」と反論していた。
厚労省が効果調査へ
こうした状況を受け、長妻昭厚生労働相は25日、「本当に効果があるのかないのか、厚労省で研究していく」と述べた。視察先の横浜市内で記者団に語った。医学者らによる研究班をつくり、近くホメオパシー療法を含む代替医療に関するデータ集めを始める。
日本医師会と日本医学会は同日、金沢会長の談話に「全面的に賛成する」との見解を発表した。都内で開いた記者会見で、日本医学会の高久史麿会長は「日本学術会議からホメオパシーの危険性を検討してほしいと依頼があり、科学的根拠がないと一致した」と述べた。日本医師会の原中勝征会長も「科学的には全く無意味だ。根拠のないことの広がりには危機感を持たざるを得ない」と強調した。
ホメオパシー療法は病気と似た症状を起こす植物や鉱物などを何度も水で薄めてかくはんし、この水を染み込ませた錠剤を飲む療法。8月24日に出された会長談話は「(これに頼ることで)確実で有効な治療を受ける機会を逸する可能性がある」と警告した。推進団体は談話に反発している。(毎日新聞 2010年8月25日)
ホメオパシー療法とは?
ホメオパシー療法とはあまり聞かないが、どんなものだろうか?
ホメオパシーは、「健康な人間に与えたら似た症状をひき起こすであろう物質をある症状を持つ患者に極く僅か与えることにより、体の抵抗力を引き出し症状を軽減する」という理論およびそれに基づく行為である。
ホメオパシーは、ドイツの医師医療ライターであるサミュエル・クリスティアン・フリードリヒ・ハーネマン(1755年~1843年)によって創始された。
マラリアの治療薬であるキニーネを自ら飲んだところマラリアそっくりの症状が(キニーネの重篤な副作用にマラリアの黒水熱に似た症状がある)出たことが、この理論を考案するきっかけとなったという。
ハーネマンの主著「オルガノン」(1810年刊)によると、彼は類似したものは類似したものを治すという「類似の法則」を発見し、ある物質を健康な人に投与した時に起こる症状を治す薬として、その物質そのものが有効であると彼は考えた。
今日でもイギリス、インド、中南米各国を中心とした複数の国にホメオパシーは浸透しているが、サイモン・シンらが行った根拠に基づいた医療(EBM)手法を用いた調査において、ホメオパシーはプラセボ以上の効果を持たないとして、その代替医療性は完全に否定されている。また、学術誌を含むいくつかの文献によって、科学的根拠の欠落が指摘されている。
ホメオパシーの問題点は、その科学的裏付けが全く存在せず、臨床においても有効性が統計的に(つまり科学的に)全く立証されていないことである。それにもかかわらず、医師や看護師などが、すべての症状にホメオパシー治療を行うことは、人の生命を預かる医師の使命を無視した無謀な治療法といえる。
減感作療法に類似
ハーネマンの主張を原理とする「少量の毒によって健康を増進する」という考え方は、アレルギー治療における減感作療法と類似したものと捉えられることもある。しかし与えられる物質はホメオパシーの理論上は「同種」とされるに過ぎず、医学的観点からはアレルゲンのような症状の原因ではないという点で減感作療法とは異なっている。
また、減感作療法についてはそれが有効であるということが科学的にも立証されており、またその効果は免疫に寛容を誘導することにより発揮されているというメカニズムも解明されている。しかし、ホメオパシーの理論では極度に低濃度の物質を用い、生体に何らかの影響を及ぼすことは考えにくいため(発案当時は分子や原子の存在が未確認であった)、この点においても減感作療法とは異なる。
レメディーの原料のほとんどは前述の薬草・鉱物・動物であるが、結核や梅毒などの病原菌、各種の癌細胞、場合によってはベルリンの壁の破片、X線、月光といった種々雑多な物体も使用される。これら性質も形状も全く異なるものが、「水で希釈する」という同一の操作によって治療薬となり得るというのは、科学的見地からは考えにくい。
ビタミン欠乏症にはビタミンを、信仰欠乏症には信仰を
科学技術の進んだ現代に、西洋医学の進んでいるはずの欧米で、これほど、科学的根拠のない療法が、広く信じられているとは思わなかった。これは医学というより信仰である。しかも盲信、つまり「鰯の頭でも」信じるという感じだ。
ホメオパシー療法の「人の持つ自然治癒力を引き出し、病気を治す」という考えは間違っていない。例えば、子供が小さいときに、何回も風邪をひきながら、病原菌に対する抵抗力を高めていくのはよく知られている。また、大人でも、寒い時期に薄着をしたり、乾布摩擦をして体に刺激を与えて、病気に対する抵抗力をつけることは、十分正しい。
しかし、人に不可欠で足りない、ビタミンなどの栄養素は、どんなに鍛えても自分でつくり出せるものではない。どうやらこのホメオパシー療法、ビタミンなどの欠乏症からくる病気には効き目はなさそうだ。
欧米では、信仰は大切な生活の一部である。1人の人がすべてを知っていることは有り得ない。世の中には「ルルドの泉」のような、説明のつかない奇跡が起きることもある。だから、わからないことについては、信仰は大切だと思う。しかし、今回のケースは原因と結果がはっきりしており、ちょっと考えれば自分で判断できることだ。科学的に解明できているものについては、科学的な方法で対処した方がよい。
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