暗所でもできる?葉緑素
植物などの光合成にかかわる葉緑素を暗い所でも作り出せる働きを持つたんぱく質の構造を、名古屋大大学院の藤田祐一准教授(生命農学)らのグループが解析した。19日付の英科学誌ネイチャー電子版で発表する。肥料を使わない農作物の開発にもつながる可能性があるという。
葉緑素が作られる過程では、大豆のように明るい場所で芽生えさせないと緑にならない種と、クロマツなど暗い場所でも緑になる種の二つがあるが、詳しいメカニズムは分かっていない。
藤田さんらは、光合成をする細菌を使い、暗い所で葉緑素を作り出す「NBたんぱく質」の立体構造を詳しく調べた。その結果、空気中の窒素を取り込んでアンモニアに変える、別のたんぱく質の構造に極めてよく似ていることが分かった。
今後、明るい場所で葉緑素を作るたんぱく質の構造も調べる予定で、藤田さんは「窒素肥料の代わりに、光を使って窒素を取り込む農作物の開発につながるかもしれない」と話している。(asahi.com 2010年4月19日)
NBタンパク質が緑化させる?
一般に葉緑素は、光が当たることによって緑色になることが知られている。もやしなどが黄色いのはそのためだ。ところが裸子植物の葉緑素は暗所でも緑化することが分かっていたがその仕組みは謎であった。
研究グループは、暗いところでも緑色になるクロマツなどの裸子植物や藻類などに着目。光がなくても葉緑素を緑色にする働きを持つ酵素の主成分「NBタンパク質」が葉緑素と結びついた状態と、単体の状態をそれぞれ精製し結晶化した。
それらをエックス線で分析し、構造を比較し、葉緑素の特定部分がNBタンパク質と化学反応を起こし緑色に変化していることを突き止めた。
葉緑素を緑色にする酵素は酸素に触れると壊れてしまうため実験が困難だったが、酸素を抜いた部屋で行って成功した。
藤田准教授らによるとマメ科の植物が大気中の窒素を取り込み養分にする能力を支える酵素と酷似していることも発見。同じ酵素だったのが、進化の過程で分かれた可能性が浮かび上がった。
ニトロゲナーゼと緑化酵素「DPOR」
この暗所での緑化に働く酵素が、暗所作動型プロトクロロフィリド(Pchlide)酸化還元酵素(dark-operative protochlorophyllide oxidoreductase;DPOR)で、クロロフィルaの直接の前駆体であるクロロフィリドaを形成するために必要なPchlideのC17=C18二重結合の立体特異的な還元を触媒する。
今回、紅色光栄養細菌であるRhodobacter capsulatus由来のDPORの成分であるNBタンパク質の結晶構造が決定された。この構造から、PchlideのC17=C18二重結合の還元機序と考えられる化学反応機構が示唆された。
また、DPORはよく知られた窒素固定酵素であるニトロゲナーゼと似ており、窒素固定と暗所でのクロロフィル形成の分子機構の関係が進化的に近いことが考えられる。
ニトロゲナーゼと窒素固定
窒素固定(Nitrogen fixation)とは、空気中に多量に存在する安定な(不活性)窒素分子を、反応性の高い他の窒素化合物(アンモニア、硝酸塩、二酸化窒素など)に変換するプロセスをいう。
自然界での窒素固定は、いくつかの真正細菌(細菌、放線菌、藍藻、ある種の嫌気性細菌など)と一部の古細菌(メタン菌など)によって行われる。これらの微生物には、種特異的に他の植物や、動物(シロアリなど)と共生関係を形成しているものもある。また、雷の放電や紫外線により、窒素ガスが酸化され、これらが雨水に溶けることで、土壌に固定される。
ある種の細菌がもっている酵素のニトロゲナーゼは、大気中の窒素をアンモニアに変換するはたらきを持ち、この作用を生物学的窒素固定といい、窒素固定を行う微生物をジアゾ栄養生物(diazotroph)という。
ニトロゲナーゼによる窒素固定反応は、次式のように表される。
N2 + 8H+ + 8e- + 16 ATP → 2NH3 + H2 + 16ADP + 16 Pi
この反応による直接の生成物はアンモニア(NH3)であるが、これはすぐにイオン化されてアンモニウム(NH4+)になる。生きているジアゾ栄養生物であれば、ニトロゲナーゼで作られたアンモニウムは、グルタミンシンセターゼ/グルタミンシンターゼ経路によって同化され、グルタミン酸塩となる。
また、亜硝酸菌や硝酸菌といった硝化細菌の存在下では、最終的にアンモニウム塩は硝酸塩として、植物が利用できる形になる。 生物学的窒素固定はオランダの微生物学者、マルティヌス・ベイエリンクによって発見された。
マメ科植物との共生的窒素固定
クローバーなどのマメ科植物は根に根粒があり、窒素化合物を生産する根粒菌(リゾビウム属)の共生細菌を宿しているため、土壌を肥やすはたらきをすることが知られている。マメ科の大部分はこの共生関係を持つが、2,3の属(例えば、Styphnolobium)は持っていない。
マメ科植物に荒れ地でも生育可能なものが多いのは、いわば根で窒素肥料が合成できるためである。また、沖縄のギンゴウカン群落に見られるように、ある種のマメ科植物は土質を窒素過多にし、そのため他の植物の侵入が困難となり、長期にわたって単独種の群落を維持する場合がある。
マメ科以外との共生的窒素固定
以下の植物は、マメ科植物と同様に窒素固定生物と共生している。共生微生物はそれぞれ異なっており、藍藻や放線菌と共生するものもある。(Wikipedia)
参考HP Wikipedia「ニトロゲナーゼ」「窒素固定」・大阪大学 蛋白質研究所「DPORのX線分析」・Nature「暗所で緑化を起こす物質」
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