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氷の下に生命存在?
2003年に運用を終えた木星探査機「ガリレオ」の観測結果と、地球の氷床を参考にしたモデルによって、衛星エウロパの一部には比較的浅いところに内部湖がある可能性が示された。エウロパは地下に海が存在すると考えられているが、この海が生命に適したものであるかどうかの鍵を握りそうだ。
木星探査機「ガリレオ」は1989年にスペースシャトル「アトランティス号」で打ち上げられ、木星やガリレオ衛星などの探査を行い、大きな成果をあげた。その中でも特に重要なものとして知られているのが、衛星エウロパの内部に大量の液体の塩水が存在しているという有力な証拠を発見したことだ。しかし、その表面を覆っている氷が非常に厚いため、内部海と地表面との間でエネルギーや物質のやり取りがなく、生命には適した環境ではないと考えられてきた。
今回、研究チームはエウロパのカオス地形(chaos terrains)の画像に注目した。火山の上を覆っている氷棚や氷河に見られる地球の地形の形成プロセスに基づいた理論モデルを作成することで、どのようにしてこのカオス地形が作られるのか調べたのだ。
その結果、カオス地形の地下数kmという浅いところに、液体の水でできた湖がありそうだということがわかった。また、エウロパのカオス地形は表面の氷と内部湖が混ざってできたことを示唆しており、表面にある物質などを内部湖を通じて内部海に供給している可能性がある。これまで、エウロパの内部海は厚い氷に覆われ、表面と物質の循環をしていなかったと考えられていたが、表面から物質の供給があることで、より生命に適した環境である可能性が出てきた。
「これらの成果は、20年以上におよぶ地球の氷床や氷棚の研究の成果なくしては得られなかった」と研究チームのDon Blankenship氏は語っている。
より詳しいことを調べるには、やはり実際にエウロパまで探査機を送る必要がある。エウロパの探査は全米研究評議会が選ぶ惑星探査ミッションの大型ミッションのうち2番目の優先順位に位置づけられており、その実現が期待されている。(2011年11月18日 NASA)
カオス(斑状崩壊)地形
エウロパには、これまでに取り上げた線状・帯状地形の他に、カオスと呼ばれる斑状地形が表面全体に散在している。カオスとは表面の一部が多角形や楕円形状に変形・崩壊した地形を指し、ボイジャー時代には画像解像度の低さから暗い斑点の様に見えたのでレンティキュラ(lenticulae: ラテン語で斑点の意味)と呼ばれていた。
カオスには中央丘やクレーターリム、イジェクタといった衝突起源の地形が持つ特徴が見られないため、カオスは表面下での活動を反映した内因性の地形と言える。カオスのサイズは直径数km から数百km まで様々で、その外見も極めて多彩である。形態に従った区別として周囲よりも隆起しているドーム地形や、逆に沈降しているピット地形、起伏がほとんどなくアルベドやテクスチャだけが周囲と異なるスポット地形等がある。サイズの大きなカオスの中には、表面が多数のブロック状に破砕されまるで流氷のように表面を漂ったかのように見えるものもあり非常に興味深い。
このような流氷状カオスを構成する破砕物は破砕前の地形が良く保存されておりジグソーパズルの様に復元できることから、表面またはその直下には比較的粘性が小さく流動性の高い物質が存在していたことを窺わせる。カオスの成因としては現在までに「ダイアピルモデル」と「局所融解モデル」が提唱されており、このモデルの違いは前者は厚い地殻を仮定し後者は薄い地殻を仮定している点にある。
ダイアビルモデル
前者は、氷地殻内部で発生した固相対流運動に伴う暖かい氷のプリュームやダイアピルが表面を隆起させたり、氷が表出して氷河のような外見を作り出したとするモデルである。そもそも氷地殻内で対流が駆動するためには、氷地殻が臨界レイリー数を超える必要がある。エウロパの表面温度は約100K、氷地殻の底はH2O の融点であるから、氷の粘性にも依るが少なくとも氷地殻は20km 以上の厚さを持っている必要がある。
このモデルはダイアピル上昇によるリソスフェアの押し上げを想定しているので、ドーム地形の形成には調和的だが沈降を伴うピット地形や流氷状カオスを作り出すことは難しい。また氷地殻の厚さを大きく上回るサイズのカオスを作り出すことも困難である。
局所融解モデル
一方、氷地殻の局所融解によってカオスが形成したとする後者のモデルは、氷地殻底部に何らかの余剰熱が集中する状況を前提としている。具体的には内部海の海底で熱水噴出のように局所的に供給された熱が海中を上昇し、天体の回転作用で拡散を免れながら、地殻へ到達するという過程が提示されている。その熱によって地殻の局所融解が進むと、表面はアイソスタシー効果によって沈降しピット地形を形成する。
さらに融解が進んで表面に達すると、液体水の表出とともに激しい表面破壊を起こすというシナリオである。このモデルでは、必要な熱源を確保するためにエウロパの内側を回る衛星イオで観測された表面熱流量をエウロパの軌道要素やサイズでスケーリングし、エウロパ岩石コア(岩石層と金属コアを合わせて便宜上こう呼ぶことにする)の潮汐発熱率として想定している。しかし理論的解析から岩石コアでの潮汐発熱は氷地殻でのそれに比べて小さいと考えられている上、高い内部発熱に伴って地殻の厚さが薄いという状況も前述のクレーター解析によって推定される地殻厚さと相反しており、議論の余地が残っている。また地殻の局所融解では隆起した地形を作り出すことが出来ないといった問題も抱えている。
このように、エウロパにおいては地殻構造が決定していないために地形形成過程を1 つに制約できていないのが現状である。ただし、地殻には予測されていない不均質が存在する可能性もある上、そもそもカオスとして一括りされた地形群が全て単一のメカニズムで作られる必然性はない。ここで強調されるべき点は、どの形状のカオスを作るにも内部海の存在が必要だと言うことである。
褐色は塩類の存在を示す
内部海が完全に固化している場合、観測されるスケールのカオスを局所融解によって作り出すことは不可能であり、またダイアピルがH2O 層底部で生じてもダイアピルの上昇時間よりダイアピル寿命の方が短くなるため、やはり地形形成には寄与できない。
カオスが氷地殻での何らかの熱的な異常を反映した地形であることに異論の余地はないが、地殻熱構造に寄与し得る要因として他に考えられるのは氷地殻中の不純物の存在とそれに伴う凝固点降下の影響である。リニアと同じくカオスも褐色を示すものが多く、水和塩物質の存在が示されている。
形成直後のエウロパが次第に冷却し塩類が溶解したH2O 水の固化によって氷地殻が成長していく過程では、基本的に塩類は液体層へ追いやられ氷地殻は高純度のH2O 氷で構成される。しかし同時に、表面は小天体の衝突による継続的な塩類供給を受けている。
内部海の存在は明らか
塩類とH2O の固体・液体が混在する系で地殻がどのような熱的物質的構造を持つかという問題については明確な議論が無いが、氷地殻にはかなりの物質的な不均質が存在するだろう。このようにして形成した“汚れた”氷地殻の中でダイアピルが塩分濃集部に達した場合、凝固点降下によって融解を起こし流氷状カオスのような大規模な破砕が生じると考えられる。
またダイアピルと潮汐発熱の相互作用によって地殻浅部で融解が生じる可能性もあるが、氷のレオロジーに強く依存する現象である点に注意を要する。
以上のようにエウロパ表面の地形形成は氷地殻での潮汐変形や熱異常が主要因であり、そのためには内部海の存在が必要であることが明らかになってきた。しかし、個別の地形と内部構造との関係で見ると、地形によって必要とされる地殻の厚さが異なるということが重要な争点となっている。
地殻の進化に従ってリニアとカオスとの間に形成年代の明瞭な前後関係が生じる可能性もあり、次世代探査で地形層序を詳しく調べることが必要になるだろう。またこれまでの研究の大部分はH2O の一成分から成る氷地殻を想定しているが、地殻中の様々な不純物の存在を考慮した地殻進化を調べることによって、地形形成論に関わる様々な問題に活路が見出されるかもしれない。
参考HP アストロアーツ エウロパの海は生命に適している? 東京大学 エウロパの表面地形と内部構造
ここまでわかった新・太陽系 太陽も地球も月も同じときにできてるの?銀河系に地球型惑星はどれだけあるの? (サイエンス・アイ新書) | |
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