コロナ禍での自殺者「30代以下の女性」が7割も増えた4つの事情
■派遣雇い止めが経済を直撃
警察庁によると8月に自殺した人は全国1854人で、昨年同月比16%増加した。とくに女性が急増し、男性は同6%増だったが、女性は40%増。さらに30代以下の女性に限れば、107人から189人へと76%も増えた。
厚労省は、新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めが、6万439人(9月23日時点)になったと発表。8月には5万人を超え、急速な増加を続けている。
2019年の女性の就業者数は2992万人。うち、非正規雇用者の割合は56・4%に上り、1687万人は契約・派遣社員ということになる。男性の非正規雇用者は22・3%だから、派遣の雇い止めは女性に大きな影響を与えたといえる。
全文はこちらで→https://news.goo.ne.jp/article/nikkangendai/life/nikkangendai-673002
政府の要請も「無視」 「派遣切り」を強行する人材派遣大手の実態とは
厚生労働省は7月31日付で、新型コロナウイルス感染症に関する解雇が4万1000人を超えたと発表した。うち非正規の雇い止め・解雇は、5月25日からのわずか2ヶ月で、1万6000人を突破している。しかも、これらはあくまで労働局やハローワークが相談などで把握している数にすぎず、氷山の一角でしかない。
その非正規の雇い止めの少なからぬ数が、派遣社員である。この続発するコロナ派遣切りに対しては、国も手をこまねいているわけではない。厚生労働大臣は派遣業界団体に対して、安易な雇い止めを控えるよう求め、雇用調整助成金を使うなどして雇用を維持するようにと5月末に「要請」を出している。これに対して、派遣業界団体も「報告」で応じ、派遣社員の雇用維持を力強く宣言している。
この「報告」によれば、派遣業界は「現在の労働者派遣契約の維持・継続を推進いたします」「すぐに新たな派遣先の提供に至らなかったケースにつきましても、一時的な休業の実施や教育・研修機会の提供など、…(略)…政府の助成金などを活用させていただくことも含めて、派遣社員の安定と保護に努めてまいります」ということだ。
だが、これは本当だろうか。筆者が代表を務めるNPO法人POSSEや、全国の労働組合でつくる団体「生存のためのコロナ対策ネットワーク」には、派遣労働者の雇い止めの相談が相次いでいる。
そんな疑念を裏付けるように、今回この「派遣切り」に対して、二つの重大な事実が発覚している。
まず、派遣業界最大手のスタッフサービスにおいても、コロナを理由とした派遣社員の雇い止めが起きていることがわかった。業界最大手までもが、厚労大臣の「要請」に応じていないのである。
さらに、7月末、上記団体による厚労省に対する申し入れが行われ、そこで厚労省が「派遣切り」の実態を深刻には捉えていないことが明らかになったのだ。
本記事では、ますます拡大することが予想される「派遣切り」について、業界最大手の派遣会社や国の認識を明らかにしながら、改めて対抗策を考えていきたい。
派遣最大手のスタッフサービスにすら無視される厚労大臣の要請
株式会社スタッフサービスは、国内の派遣会社において、「業界最多」の求人数を誇る最大手だ。試しに、8月10時点で関東地域に絞って派遣社員・紹介予定派遣の求人数をスタッフサービスグループのウェブサイトで検索すると、3万4550件がヒットし、テンプスタッフのウェブサイト6560件、マンパワーのウェブサイト4750件を大きく引き離している。
また、スタッフサービスは2008年にリクルートホールディングスに買収されており、リクルートグループの傘下にある。リクルートホールディングスは、派遣会社として以前からリクルートスタッフィングを抱えていたが、スタッフサービスも手中におさめ、人材ビジネス業界で国内最大の売上を維持してきた。
しかし、そのスタッフサービスもまた、厚労大臣の「要請」に応じていなかったことがわかった。
関東圏在住の30代の男性Aさんは、昨年8月から金属加工機械メーカーの事務職として派遣先に勤務していた。ところが、今年6月末でコロナによる経営悪化を理由として派遣契約を更新されず、そのまま派遣会社を雇い止めとなった。
スタッフサービスは、7月以降のAさんの派遣先の候補を3件紹介したが、いずれも派遣先側の都合で就労決定には至らなかったという。その後も、コロナを理由として派遣先が減少しているとして、新たな派遣先は紹介されず、Aさんはすでに2ヶ月近く失業状態が続いている。
Aさんは厚労大臣の5月26日付の「要請」の存在を知っていたため、スタッフサービスの担当者に対し、7月以降も雇用契約を更新し、厚労省の要請に応じて雇用調整助成金を利用して休業補償を払ってもらえないかと求めた。
すると担当者からは、予想外の答えが返ってきたという。担当者は「国や人材派遣協会から「こうしなさい」という指示が降りてきているわけではないので、現場サイドとしては特にできない」「雇用調整助成金の受給の基準を満たさない」と返答したのだ。
こうした実態に疑問を感じたAさんは、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンに加入して、7月末にスタッフサービスに団体交渉を申し入れた。
ユニオンの申し入れを受けて、同社の法務担当者は、コロナによる雇い止め以降に対して、雇用調整助成金を利用しての休業補償の支給は一般的に考えていないと説明した。Aさんのケースは例外ではなく、スタッフサービス全体として、厚労大臣の「要請」に応じていなかったということだ。
派遣業界のリーディングカンパニーとしての責任を果たすべき最大手スタッフサービスですら、雇用調整助成金の利用による雇用維持に全社的に消極的であるとすれば、いったいどこの派遣会社が「要請」に対応しているというのだろうか。
厚労省「大臣の要請は派遣会社全部に受理されている」
では、国はこうした実態をどのように捉えているのだろうか。
相次ぐ派遣切りに対して、7月30日、雇い止めされた派遣労働者と労働組合らが、前述の「生存のためのコロナ対策ネットワーク」として、厚生労働省に要請を行った。派遣会社に対して、雇用調整助成金を利用して雇い止めをさせないようにするため、より強い指導をするように厚生労働省に求めたのだ。その場には、スタッフサービスのAさんもいた。
ところが、派遣社員たちが、派遣会社が「要請」に応じていない実態を訴えると、厚労省の担当者は驚くべき答えを口にした。
「(厚生労働大臣の)要請が無視されず、全部受理されるという前提で動いている」
「7月時点での(派遣社員の)契約更新については、経済団体からの報告やヒアリングでは、それほど大きな現状(影響)はないと報告を受けている」
「要請に反する実態があるという声をいただいたが、要請以上に強制力のあることはできない。現時点でできる対応はこれがすべて」
つまり、厚労省は経済団体の声を根拠として、「派遣切り」はほとんど起きていないという認識であり、それは厚労大臣の「要請」が受け入れられているからと考えているということだ。国は、中小企業や中堅の派遣会社はもとより、最大手のスタッフサービスまでが厚労大臣の「要請」に応じていないという実態を、「把握」さえしていないということである。
厚労省には、経営団体の声ばかりに耳を傾けるのでなく、派遣切りの実態を調査した上で、派遣会社に対する実効力のある指導をすることが求められると言えよう。さらにいえば、派遣会社が雇用を維持しないことに対して、制度的な強制力が全くないこと自体に問題があると考えられる。
このコロナ危機において、派遣労働という制度のあり方そのものが問われているのではないだろうか。
全文はこちらで→https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200811-00192723/
竹中平蔵パソナ現会長の“改革”で、4割が非正規雇用で働く日本に…人に値する生活を営めず
2019.05.06 08:00
https://biz-journal.jp/2019/05/post_27776.html
労基法を骨抜きにした「非正規雇用」システム
筆者が暮らす東京23区内の某区役所の窓口に、「テンプスタッフ」の名札を首からぶら下げた職員がいて大変驚かされたのは、3年ほど前のことだ。いなくなった区の正規職員は、どこに消えてなんの仕事をしているのだろうと思ったものだが、最近ではその某区役所の至るところに派遣職員(=非正規公務員)がいるのが当たり前の光景となっている。国の機関である法務局の出張所にしても同様なのだ。
2018年の総務省「労働力調査」(速報)によると、会社役員や自営業者を除く日本の「労働者」5596万人のうち、37.9%に当たる2120万人が、契約社員や派遣社員、非常勤の従業員や非正規雇用の公務員などの「非正規雇用」労働者なのだという。非正規雇用率を男女別に弾き出してみると、男性で22.2%、女性では56.0%だった。
正規雇用の上司社員からのセクハラに抗議すれば雇い止めの憂き目に遭い、有給休暇やボーナスもなく、身分や収入が不安定極まりない「非正規雇用」が、人を幸せにしないシステムであることは論を俟たない。しかも、「非正規雇用」は違法行為というわけでもない。そんな過酷な立場にいる人たちが4割近くもいるという今の日本は、極端なことこの上なく、異常というほかない。
この4割の人たちの多くは、経済的な余力を持てず、子どもを持つことはおろか結婚さえも諦め、それでも明日に備え、節約に走る。「浪費」や「無駄遣い」なんて言葉は、彼らにとって遥か昔の「昭和言葉」なのだろう。これで日本の景気が良くなるわけがない。
「非正規雇用」システムは、日本という国を絶対に幸せにしない。いったい誰がこんな日本にしたのか。
行政機関や大企業までが「非正規雇用」システムに手を染めるなか、その現実を報じ、批判を加え、世直しするのが役目の報道機関(マスコミ)はどうしているのか。
筆者は25年ほど前の1990年代からテレビの民放キー局に出入りし、たまに番組制作を手掛けることもある。テレビ業界はその90年代頃から「非正規雇用」システムを積極的に取り入れている。今も昔も局内は、出入り業者の社名が入った名札を首からぶら下げた人たちでごった返ししている。そんな「非正規雇用」労働者である若いディレクターから25年ほど前に、「テレビの世界で自分のやりたい仕事をしたいなら、局の正社員になるか、放送作家になるしかない」と、皮肉交じりに言われたことを、つい先日のことのように思い出す。その後、同様のセリフを何人もの「非正規雇用」ディレクターたちから聞いたものだ。
つまりテレビ業界は、行政機関や大企業の世界より早くから「非正規雇用」システムを導入していた“大先輩”であり、先駆者であり、いわば同じ穴の狢だった。
ちなみに、25年ほど前に皮肉を吐いていた「非正規雇用」ディレクターの一人は、今から10年ほど前、くも膜下出血で急逝した。享年39。過労が原因だった。当時、彼は慢性的な金欠状態に陥っていたため、加入していた郵便局の「簡易保険」保険料の支払いが滞り、亡くなる1カ月前に保険が失効。遺族は保険金を受け取ることができなかったという。
ところで、我が国の労働基準法の第一条は次のように述べている。
労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
誰がこの労基法を骨抜きにしたのか。
小泉純一郎氏が騙されていたのは「原発」だけではない
非正規とは正規に非(あら)ず――。まるで身分の低い人間であるかのような呼び名に聞こえる。
非正規雇用、とりわけ労働者派遣業は今の世に、戦前の「小作農(こさくのう)」制度を蘇らせていた。雇い主が直接、非正規雇用する契約社員や非正規公務員は「直接小作人」そのものであり、派遣業者というブローカーを通した派遣社員にしても「間接小作人」とそっくりだ。参考までに書き添えておくと、2010年度の厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」によれば、一般労働者派遣事業の「派遣料金」の平均は1万7096円で、派遣労働者に支払われる平均賃金は1万1792円。これから弾き出されるマージン率(ピンハネ率)はおよそ30%である。
雇用は本来、「正規」と「非正規」に分けて考えるものではない。雇用は雇用である。問題は、「正規」労働者には当たり前のこととして認められている、労働者としての基本的な権利(有給休暇、ボーナス、労災請求、住居手当、扶養手当、通勤手当、食事手当、福利厚生、退職金など)が、「非正規」の労働者にはなぜか認められていない――という点にある。「雇い止め」に至っては、「非正規」労働者限定用語だ。
厚労省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2014年)によれば、従業員が5人以上いる民間の事業所が、従業員を非正規雇用で賄っている最大の理由は「賃金の節約のため」(38.8%)だった。
民間ばかりかお役所までが率先して非正規雇用を増やすようになるきっかけは、2005年の自民党・小泉純一郎政権下で打ち出された「集中改革プラン」である。同プランを推進する中核を担ったのは総務省。当時、総務大臣を務めていたのは、同プランの恩恵を最大限に享受している労働者派遣業大手・パソナグループの現会長・竹中平蔵氏である。以降、全国各地の自治体では、正規公務員の採用枠を減らしていく一方で、非正規公務員の数を激増させていくことになった。
小泉政権の旗印は「郵政民営化」と「聖域なき構造改革」(公的企業の民営化、政府規制の緩和など)だった。そして「非正規雇用」システム導入の裏付けとなった経済政策のスローガンが「規制緩和」である。例えば派遣業に関しては、それまで高度専門職に限定されていた派遣の職種が、小泉政権では製造業まで緩和されている。
国民の4割を「非正規雇用」へと追い込み、それと引き換えに富を謳歌している竹中氏。自らへの批判をものともしないことで知られる竹中氏は、現在の安倍政権下でも内閣府・国家戦略特区の「特区諮問会議」議員として重用されている。しかし、そんな竹中氏を最初に重用し始めたのは、かつての首相・小泉純一郎氏なのだ。
小泉さん、あなたが進めた「構造改革」と「規制緩和」の結果、国民の4割近くが非正規雇用という不安定極まりない状態へと追い込まれたのです。今では「脱原発の旗手」といった感さえある小泉さんですが、あなたが騙されていたのは「原発」だけではありません。竹中氏にも騙されていたのです。竹中氏の任命責任はあなたにあります。今からでも遅くありません。竹中氏を叱ってやってください。
「非正規雇用」システムは「童貞」も量産する?
日本人の活気と未来、そして国力までを削ぐ「非正規雇用」システム。同システムは、いわゆる「ワーキングプア」を生み出すことで不景気にも拍車をかける。さらにその影響は、人間の“生命力”にまで及ぶようだ。
4月8日、時事通信が「30代、1割が性交渉未経験=男性は低収入と関連」と題した記事を配信した。東京大学のチームが出生動向基本調査のデータなどをもとに、日本の「性交渉未経験率」を推計し、分析したところ、25~39歳の男性では正規雇用に比べ、非正規雇用と時短勤務の人の未経験率は3.82倍になり、無職では7.87倍にも達したのだという。収入が低いほど未経験率は高かったのだそうだ。分析を担当した上田ピーター・東大客員研究員は同記事中で、
「性交渉を求めない傾向は『草食系男子』などと言われてきたが、実際には収入や雇用形態の影響で不本意ながら経験していない面があるのでは」とコメントしていた。
「非正規雇用」システムは、明白な労働基準法第一条違反であり、もはや存在自体が悪であることは、「人たるに値する生活を営むため」に必要な賃金をもらっていない人が4割近くもいるという結果からみても明らかだろう。労働者にまともな賃金を支払えない企業や自治体は、そもそも人を雇用してはいけないのである。
「非正規雇用」の割合を減らす有効策が見当たらないというなら、いっそのこと、「非正規雇用」システムの権化ともいえる労働者派遣業を「違法行為である」と定義し直すところから始めてみてはいかがだろう。日本の敗戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)最高司令官のダグラス・マッカーサーが実施したいわゆる「農地開放」が、地主制度から小作人を解き放ったのと同等のインパクトがありそうだ。
(文=明石昇二郎/ルポライター)
↓ https://news.yahoo.co.jp/byline/fujitatakanori/20200901-00196188/ より ↓
大手人材派遣業・竹中平蔵パソナグループ会長が8月29日にTwitterを更新した。
安倍首相の辞意表明を受けて「ねぎらいの言葉」を述べながら、メディア報道のあり方を批判しつつ、「このままだと、日本を良くするのは益々難しくなる」と書き連ねている。
「このままだと、日本を良くするのは益々難しくなる」という言葉に今回も驚かされた。
日本を良くすることを考える前に、これ以上、日本を壊さないでほしいという感想を持つ。
竹中氏は言うまでもなく、大手人材派遣業の会長という立場であり、派遣労働者が存在することで利益を上げるグループの経営者である。
現在、日本を良くするか否か以前に、足元の派遣労働者の生活が新型コロナ禍でどうなっているのか、確認してほしい。
新型コロナで苦しんでいる派遣労働者や非正規労働者
今年3月以降、新型コロナウイルスの影響から生活相談を多数受けてきた。
店舗や事業所が休業するなか、解雇や雇い止めによる相談対応や支援に奔走している。
以下の記事でも「コロナ解雇、8月末で5万人超に 非正規中心、増加止まらず」と見出しをつけている通り、失業者の大多数は派遣労働を含む元非正規労働者である。
厚生労働省は1日、新型コロナウイルス感染拡大に関連する解雇や雇い止めが、8月31日時点で見込みも含めて5万326人になったと明らかにした。
この1カ月余りで1万人が職を失い、失業者の増加に歯止めがかかっていない。
政府は雇用助成の日額引き上げなど特例期限を12月末まで延長して対応するが、感染収束の兆しは見えず、非正規労働者を中心に厳しい雇用状況が続く。
厚労省は2月から新型コロナによる解雇と雇い止めを集計。
5月21日に1万人、6月4日に2万人を超え、その後はおおむね1カ月に1万人のペースで増えている。
事業所の報告に基づいており、実数はさらに多いとみられる。
出典:コロナ解雇、8月末で5万人超に 非正規中心、増加止まらず 9月1日 共同通信
各人材派遣会社は役割を果たせという批判に応答するべき
相談を受けるなかで、人材派遣会社が派遣先を確保することもなく、雇い止めをする事例がずっと続いている。
以前から派遣労働者は「雇用の調整弁」と言われ、景気後退の場面では常に犠牲を強いられてきた。
今回も休業手当は支給せず、新規派遣先も紹介せず、「中間搾取」するだけで役割を果たさない派遣会社の事例が多く見られる。
いわゆる「派遣切り」である。
実態については、ともに相談支援活動に取り組む今野晴貴氏の以下の記事も参照いただきたい。
派遣労働者にたいしても、本来であれば、休業中の補償や雇用の維持が求められているにも関わらず、「コロナだから」と、十分な説明・措置も取られないまま、生活に困窮する派遣労働者が後を絶たない。
この点、派遣元・先ともに役割を全うしておらず、その責任は大きい。
派遣会社は、仕事がなくなっても派遣先を新たに見つけたり、労働者を訓練することで就労先を確保する機能が求められている。
当然、派遣先がなくなっても簡単に解雇しないことが前提だ。
そうでなければ、労働者は「間接雇用」によってただ「中間搾取」された上に、不安定な身分におかれるだけである。
出典:無責任な派遣会社は「社会悪」 国の呼びかけも法律も無視して「派遣切り」が横行 今野晴貴
「このままだと、日本を良くするのは益々難しくなる」という言葉は私から竹中氏にも返しておきたいものである。
人材派遣業界が最低限の役割も果たさずに「中間搾取」の機能だけを発揮するならば、日本は絶対に良くならない。
竹中氏は人材派遣業界に影響を与える立場にいる。
派遣労働者の生活や将来を奪い、その犠牲によって利益を上げるのではなく、最低限の責任を果たしてほしい。
竹中氏は「みなさんには貧しくなる自由がある」と過去に若者へ酷い言葉を送っているが、当然、働く若者に罪はなく、貧しくなる自由などない。
竹中氏自身がリスクをとってでも、雇用維持に奔走してからメッセージを発するべきではないか。
私が、若い人に1つだけ言いたいのは、「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。
「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と。
以前、BS朝日のテレビ番組に出演して、堺屋太一さんや鳥越俊太郎さんと一緒に、「もっと若い人たちにリスクを取ってほしい」という話をしたら、若者から文句が出てきたので、そのときにも「君たちには貧しくなる自由がある」という話をした。
出典:竹中平蔵(下)「リーダーは若者から生まれる」 2012年11月30日 東洋経済オンライン
派遣労働者は努力しても雇い止めにあい、将来に悲観している。
何もしたくないのではなく、普通に働いても貧しくなる働き方が存在していることが問題である。
竹中氏が若年派遣労働者の犠牲の上にいて、「このままだと、日本を良くするのは益々難しくなる」などと言える社会はおかしくないだろうか。
「ポスト安倍」が注目を集めているが、次の内閣では竹中氏を要職から外してほしいし、人材派遣業界が政策に口出しするなら、最低限の責任を全うしてから発言をさせてほしいものだ。
藤田孝典NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授
社会福祉士。生活困窮者支援ソーシャルワーカー。専門は現代日本の貧困問題と生活支援。聖学院大学客員准教授。北海道医療大学臨床教授。四国学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。元・厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(生活困窮者自立支援法)。著書に『棄民世代』(SB新書2020)『中高年ひきこもり』(扶桑社 2019)『貧困クライシス』(毎日新聞出版2017)『貧困世代』(講談社 2016)『下流老人』(朝日新聞出版 2015)。共著に『闘わなければ社会は壊れる』(岩波書店2019)『知りたい!ソーシャルワーカーの仕事』(岩波書店 2015)など多数。
持続化給付金だけじゃない、日本の至る所にちらつく「竹中平蔵氏の影」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73379
規制緩和の先に利益がある
国の持続化給付金に関する経産省の委託費をめぐり、一般社団法人「デザインサービス協議会」から広告代理店大手・電通へ、さらに電通から人材派遣大手・パソナなどへ業務が何重にも外注されていたことが指摘され、問題となっている。
「新型コロナ禍で生まれた利権にまで食い込んでいるとは……彼の常套手段とはいえ、呆れてしまう」
さる政府関係者がこう述べるのは、かねて「政商」あるいは「レントシーカー」と指摘されてきたパソナグループ会長・竹中平蔵氏を指してのことだ。
「レントシーカー」とは、政府や役所に働きかけ、法や制度、政策を自らに都合のいいように変更させて、利益を得る者のことをいう。
竹中氏は、東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授といった学識者の肩書に加えて、パソナグループ取締役会長、オリックス社外取締役など企業人としての肩書を持つ。その一方で、安倍政権の成長戦略のアドバイザーとして未来投資会議、国家戦略特別区域諮問会議において民間議員の肩書も持っており、規制緩和や民間委託を推進する立場にある。
外国人労働者の拡充にも…
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73379?imp=0
前出の政府関係者によれば、竹中氏の「利権への関与」は近年だけでも枚挙に暇がない。順を追って挙げてゆこう。
まずは、外国人労働者にかかわる事業だ。
2018年12月8日、入管法が改正され(正式には「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」)、これにより外国人労働者の受け入れが大幅に拡大されるとともに、それにかかわる業務も拡充される運びになった。
改正を主導したのは、国家戦略特区諮問会議。前述の通り、同会議の議員のひとりである竹中氏は、入管法改正を「きわめて重要」な規制緩和だとして、早期の実現を主張していた。
一方、2019年4月の改正法施行に先立つ同年2月、竹中氏が会長を務める人材派遣大手のパソナグループは、外国人労働者をサポートする「外国籍人材定着支援サービス」を開始すると発表した。これは、日本で働こうとする外国人に、在留資格や就労ビザ取得などの事務手続きに関する説明や代行取次、日本語学習、日本のビジネスマナー講習、さらには新生活開始のための諸手続きの支援などを行う事業だ。
もし入管法改正、外国人労働者受け入れの拡大がなかったら、果たしてパソナはこのタイミングで、このような事業に乗り出していただろうか。竹中氏が規制緩和を推進し、それによって生まれたビジネスチャンスに、竹中氏自身が経営に関わる企業がいち早く参入してくる――この「丸儲け」のしくみが、いまや日本の至るところに存在する。
水道事業の民営化にも…
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73379?page=3
次に触れたいのが水道事業だ。2019年12月25日、水道法が改正された(正式には「水道法の一部を改正する法律」)。これについても、竹中氏の数年がかりの関与が見てとれる。
たとえば2013年4月。竹中氏は産業競争力会議(現・未来投資会議)において、「インフラの運営権を民間に売却して、その運営を民間に任せる。世界を見渡してみれば、港湾であれ空港であれ、インフラを運営する世界的企業が存在します」と発言している。
翌2014年5月には、産業競争力会議と経済財政諮問会議(内閣府に設置)の合同会議の場で、『コンセッション制度(注・所有権はそのままに、運営権だけ民間に売却すること)の利活用を通じた成長戦略の加速』という資料を配付。さらに2016年10月、未来投資会議において、「(『水メジャー』と呼ばれる世界的な水処理企業である)ヴェオリアは世界数十カ国で水道事業をやっている。ヴェオリアは日本に進出しようとしているけれども、日本にそういう企業がない」と、外資系企業が日本の水道事業に参入することに、エールを贈るかのような発言までしていた。
さらなる梃入れもあった。竹中氏は水道事業の民間委託を広げる目的で、自らの「名代」を補佐官として菅義偉官房長官のもとに送り込んだと永田町では噂された。PFI(Private Finance Initiative:民間資金を利用して公共施設などを整備すること)に通じる、コンサルタントの福田隆之氏のことだ。同氏は、ヴェオリアからの接待疑惑が報じられる中、2018年11月に辞任したが、改正法そのものは無事、成立した。
なお、竹中氏が社外取締役を務めるオリックスは、2017年5月に設立された「浜松ウォーターシンフォニー」なる会社にヴェオリアとともに出資している。同社は2018年4月、コンセッション方式を採用した浜松市の下水道事業を受注している。
そしてオリンピックにも…
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73379?page=4
三つ目がオリンピックだ。
会計検査院は2019年12月、東京オリンピック・パラリンピックの関連事業に対する国の支出がすでに1兆600億円に達しているとの集計結果を公表したが、この事業にもパソナグループは手を伸ばしている。
パソナグループの中核企業・パソナは、会計検査院の発表の直前にあたる同年11月、「組織委員会運営スタッフ」を募集した。求人誌に掲載された情報によれば、時給1600円以上の有償のアルバイト・スタッフで、募集人数は2000人。10月には大会組織委員会が、20万人もの応募があった「ボランティア・スタッフ」のうち12万人を不採用としたばかりであった。
これに関しては、竹中氏が政権のアドバイザーとしてあからさまな介入を行った形跡はない。しかし、ならばなぜ、膨れ上がる五輪費用の削減に目が向けられる中、余分な出費までしてパソナを潤わせるのか。
ちなみに、有償のスタッフの任期は2月から9月の約240日間。日給およそ1万3000円として、1日当たり2600万円の出費。総費用は60億円以上にも上る。これにパソナへの手数料――委託費が加算される。
そして、今回の持続化給付金に関する騒動で、国民の目に触れなかった利権漁りの一つがまた明らかになったわけである。
「持続化給付金」だけではなさそうだ
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73379?page=5
一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」は、2016年5月、パソナの他に大手広告代理店の電通、IT企業のトランス・コスモスなどよって設立されたが、その直後から経産省から多くの委託事業を受注していた。
同年8月に「サービス産業海外展開基盤整備事業」を4680万円で受託したのをはじめ、2017年には「IT導入補助金事業」を100億円で、また「IT導入支援事業」を499億円で請け負っている。
さらに2018年「IT導入補助金事業」で100億円、2019年には「事業継承補助金」などで54億円の受注がある。これらの事業の多くが、電通グループやパソナなどに再委託されていることも確認されている。
そして、今年5月、新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業などへの緊急経済対策の目玉の一つとして支給が決定され「持続化給付金」の手続き業務を769億円で受託。20億円を中抜きし、749億円で電通に丸投げしていた。今後もほかの手続き事業を受注する予定だとされている。
このほかにも、現在進行中のものがあるという。空港事業だ。
竹中氏は現在、未来投資会議の分科会である「構造改革徹底推進会合・第4次産業革命会合」会長でもあり、公共施設のコンセッション政策のとりまとめも行っている。全国各地の空港もその対象に含まれているが、今年1月に開かれた会合で、竹中氏は各空港の財務状況を分析した資料を開示するよう、国交省に強硬に求めたという。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73379?page=6
竹中氏が社外取締役を務めるオリックスは、関西国際空港の運営に参入している。そのため、国交省は利益相反の観点から当初、難色を示したものの、最終的には折れざるを得なかった。
竹中氏の頭には、今後の空港事業の入札があったとみられる。
「竹中氏については『政商』や『レントシーカー』『利益相反』との批判が常につきまとうが、批判だけではこうした行為を止めることはできない。そろそろ法律で規制することを考える時ではないか」(前出・政府関係者)
政治の世界を跋扈し、そこで生み出した果実を自らの経営する企業に食わせる――「規制緩和」の流行が生み出したこのやり口を、このまま野放しにしてよいのだろうか。
非正規雇用者がコロナ禍で「116万人減」…失業者は一体どこに消えた?
https://news.goo.ne.jp/article/dot/bizskills/dot-2020100600024
2020/10/07 08:00
コロナ禍の中、非正規雇用者は2月からの5カ月間で116万人も減少した。だが統計上、失業者は38万人増。職を失った人々はどこに「消えた」のか。AERA 2020年10月12日号が迫った。
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「10月で契約が切れますが、コロナで継続はできません」
関東地方のホテルに契約社員として勤める男性(57)は9月23日、支配人に呼ばれてこうはっきりと告げられた。
男性はパン職人として長年、全国を転々としながら働いた。このホテルで働き始めたのは昨年11月。新型コロナの影響で専門外の仕事に回されることもあり、雇い止めを知ったその日は朝からレストランでフレンチトーストを焼いていた。
当初、給料は手取りで22万円あったが、勤務が減り6月は15万円に。過去の借金の返済もあり9月に食費とガソリン代以外に使えたお金は3万円だった。6本600円強の「第3のビール」は飲むが、たばこはやめた。
男性にはあらためて総務部門の担当者から説明があった。離職の理由は「特定理由離職者」とする旨を告げられた。やむを得ない事情による自己都合退社──。契約の延長を希望していたにもかかわらずだ。
「コロナが理由の雇い止めにしたくなかったんでしょうね」
契約終了後、1週間程度でホテルの寮を出て行くように言われている。複数の公的な貸付制度で35万円借り、さらに30万円追加する予定だ。
「稼ごうと思ってこのホテルに来たのに、まさか借金を作って辞めることになるとは……」
厚生労働省によると、新型コロナが原因で解雇や雇い止めにあった人は、見込みも含めて9月25日現在で6万923人。各地のハローワークなどの情報を端緒に厚労省でまとめており、数字は氷山の一角だろう。
■増え続けた非正規雇用
労働市場への甚大な影響は、他の公表データからも推察される。非正規雇用者は第2次安倍政権下で増え続け、総務省の労働力調査によれば昨年9月には2200万人超。今年は2月の2159万人をピークに5カ月の間に減っており、7月は2043万人だ。116万人が減少した計算になる。
この116万人はどこに消えたのか。非正規雇用者だった人の行き先は、(1)正規雇用(2)役員(3)完全失業者・非労働力人口、のいずれかとなる。
同様に2月と7月で比較すると、完全失業者は38万人増え、その結果完全失業率は2.3%から2.9%へ上がった。一方、役員を含む正規雇用者は32万人増えた。とはいえ、コロナ禍の中で多数の非正規雇用者が正規雇用や役員になったとは考えにくいだろう。また主婦やリタイアしたお年寄りなど、失業率に関与しない非労働力人口は1万人減っていた。
調査では「休業者」の人数も公表している。仕事はあるが1週間の調査期間中に限り仕事をしなかった人たちで、失業者とは違う。2月の196万人から4月には597万人にまで増え、7月は2月より24万人多い220万人だ。
こうした数字を踏まえ、116万人の非正規雇用者はどの層へと移ったと考えられるのか。
東京大学の川田恵介准教授(労働経済学)は「これまでの不況と比べても立場の弱い人が大きな影響を受けている今回のようなコロナ禍では、そのように細かく分析する価値は大きいのですが、公表されているデータのみでは正確に特定することはできません」と言う。
■「非労働力化」の可能性
そんな中、あくまで推測ではあるが、大蔵(現・財務)省で官僚も務めた一橋大学の野口悠紀雄名誉教授は非労働力人口の動きに注目する。
今年の2月と7月で、非労働力人口は前述の通り1万人減とほぼ横ばいだった。ただ、非労働力人口はここ数年、年初が多くその後徐々に減る傾向がある。そのため、2月と7月では7月の方が少なくなるのが通常だ。その差は2019年は67万人、18年は85万人、17年は134万人、16年は111万人と7月の方が圧倒的に少ない。
非正規雇用者数が実数で公表されているため、ここまでは非労働力人口も実数で比較してきたが、こちらは季節的な要因を排除した「季節調整値」も公表されている。季節調整値で見ても近年は7月の方が少なくなっているにもかかわらず、今年は7月のほうが49万人多いという異例の状態となっている。
「これが意味するところは、実数でみると変わらないように見える今年の非労働力人口が、実は例年に比べて大きく増えているということです。116万人の非正規の人たちの多くが、統計上は『非労働力化』したことが考えられます」(野口教授)
野口教授がさらに関心を寄せるのは、7月現在で220万人いる休業者の層だ。別の統計だが、財務省の法人企業統計調査(4〜6月期)の結果でも企業の人員数が昨年同期比で234万人減っており、野口教授はその多くが休業者になっているとみる。
「この人たちの多くは今、雇用調整助成金を原資とした給料が支払われているはずです。この助成金は永久には続きません。リーマン・ショック後も長く助成を続けたことで労働力の温存が不適切に行われました。医療など労働力が不足している部門への配置転換計画が同時に行われなければなりませんが、今はほとんど議論されていません」
助成が切れたときにこの層がどうなるかも、注視しておかなければならないだろう。(編集部・小田健司)
※AERA 2020年10月12日号より抜粋
経済評論家・植草一秀氏が喝破する“安倍より危ない”菅義偉の正体
菅政権は「竹中平蔵直伝の"政商"内閣」だ
http://www.zaiten.co.jp/article/2020/09/post-3.html
9月16日に発足した菅義偉内閣の方向性を一言で表すとすれば、「特定の有力資本への利益供与を図る政商政治」ということになるでしょう。菅氏はアベノミクスをはじめとする安倍晋三内閣の継承を宣言していますが、そもそも安倍政権が目指したのは「グローバル巨大資本の利益極大化」でした。菅氏はこの路線をさらに〝純化〟させて、ビジネスと利権に特化した〝政商内閣〟になるのは確実であると見ています。
というのも、安倍氏の場合、憲法改定や歴史認識の見直し、一応、拉致問題や北方領土問題も含めて様々な関心事項がある上で、国民から支持を取り付けるために経済を重要政策に位置付ける形でした。ところが、菅氏にはこうした政治理念や哲学はない。なので、その政権は経済政策の方向へのみ特化するというわけです。
その意味を正確に理解するためにも、まずは安倍政権の経済政策を総括しておく必要があります。
そもそも世界経済の背景には、アメリカ合衆国大統領の意向すら凌ぐ勢力、つまり多国籍企業や軍産複合体、あるいは金融資本などのグローバルな巨大資本が米国を支配しており、同時に日本をも支配しているという構図がある。第2次安倍内閣が7年8カ月もの長期政権を運営できたのは、まさにそうした「ディープ・ステート」とも呼ばれる巨大資本の利益極大化に務めてきたからなのです。
日本でこうした勢力の手先となる政策を本格的に採用したのが、2001年当時、「構造改革」と表現された路線をひた走った小泉純一郎政権、中でもその司令塔の役割を果たした竹中平蔵氏でした。基本的に安倍氏もこれを踏襲しており、第1次政権こそ竹中氏の影が若干薄れましたが、第2次政権では構造改革を「成長戦略」と言い換えて、改めて路線を鮮明にしていきました。
売国アベノミクスの継承
アベノミクス3本の矢の「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」のうち、核心は3つ目にあります。言葉の響きから良いイメージを持ちやすいのですが、問題は「誰の何の成長なのか」ということ。それは結局、巨大資本の利益の拡大でした。裏返して言えば、一般の庶民や労働者の不利益の助長です。この成長戦略は①農業を中心とする既存産業の自由化、②労働規制の撤廃、③公営事業の民営化、④特区の創設、⑤法人税の減税を5つの柱としましたが、いずれも日本の富を国際巨大資本に売り渡す〝売国〟的な政策です。
たとえば①農業の自由化の実質は、既存の日本農業を破壊して国際資本が支配する農業に変えることでした。種子法廃止と種苗法改定、漁業法改定が畳み掛けるように行われ、グローバル資本が日本の食をも支配するような構造に転換されようとしています。
TPP(環太平洋パートナーシップ)にしても多国籍企業の利益極大化の究極戦略であり、米国側から突きつけられていた「年次改革要望書」から延々と続く日本の経済植民地化の集大成でした。トランプ大統領はTPPから離脱しましたが、より日本が不利益を被る日米貿易協定(FTA)を押し付けている。菅氏の大きな任務は、このFTAを第2段階に進めることにあります。現在、一部関税などについては合意ができていますが、これからは各種規制や制度改革に踏み込んだステージに移行しますから、そこで菅内閣の本質が露わになるでしょう。
②の労働規制の撤廃も、「働き方改革」なんて綺麗な名前がついていますけれども、実際には長時間残業が合法化されたり、残業代なしの制度が拡大されたり、あるいは外国人労働力の輸入と増進が強行された。突き進めれば、解雇の自由化や最低賃金の撤廃へと進んでいくものです。
あるいは③民営化にしても、実質的には公共サービスの「営利化」と呼ぶべき代物です。公共サービスというのは基本的に生活必需品であって、基本的に独占形態になりやすいので、誰がやっても必ずビジネスとして成立する。同時に、独占事業だと価格決定が不透明になりますから、仮に民間事業者が事業権を譲渡されれば確実に儲かるというカラクリ。さらに価格設定の自由化が行われると、高い価格を設定していけばいくほど、超過利潤を得られるのです。
民営化推進論者は「民間が行うと効率が良くなる」と主張しますが、民間企業の目的は営利追求ですので、利潤の分だけ必ず価格が高騰します。つまるところ、巨大資本の利益を増やすための政策と言わざるを得ない。これが小泉政権から安倍政権にかけて全面的に展開され、空港や図書館、挙げ句には水道というところにまでコンセッション(公共施設等運営権)方式の名の下に広がっている。
特に水道については、麻生太郎氏が13年に米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で「日本の水道はすべて民営化する」と宣言していました。ただ、欧州などでは民営化の弊害が大きく、再公営化の流れが加速している。グローバル巨大資本の利益極大化のために周回遅れでも日本を売り渡そうという強い意志を感じます。
......続きは「ZAITEN」2020年11月号で。
安倍政権を受け継ぐ形で誕生した菅義偉首相(71才)は、これまで安倍前首相の補佐役としてその政策を支えてきた。ところが、安倍前首相が推し進めたアベノミクスへの評価は芳しくない。経済評論家の浜矩子さんはいう。
「安倍前首相の求める強くて大きな国をつくるために、株価を上げて雇用を増やし、経済活動を活発にしようとした。そもそも目的が間違っていて、何ひとつ評価できません」(浜さん)
事実、株価は上昇したが国民の格差が広がり、所得が減って生活保護受給者の数が増えている。成功例とされるインバウンドも、実際に潤ったのは東京、大阪、京都、福岡、広島などの大都市だけ。地方は疲弊し、地域格差の広がりも指摘されている。
菅首相がことあるごとに自分の手柄としてアピールするのが、総務相時代に主導して2008年からスタートした「ふるさと納税」。自分が応援したい自治体を選んで寄付すると、特産品や宿泊券などの返礼品がもらえて、税制面でも優遇される制度だ。
「そもそも菅さんが人口減に苦しむ故郷の秋田に貢献しようとして考え出した制度です。地元は、菅さんのおかげで潤ったと大喜びしました」(政治関係者)
しかし、『総理の影 菅義偉の正体』(小学館)の著者でジャーナリストの森功さんは「完全な愚策」と断言する。最大の問題は、返礼品をつけてしまったことだ。
「寄付とは名ばかりで、高級な返礼品をお得に入手するネット通販のように受け取られている。年収が多いほど税控除の金額が高く、金持ちほど得をするため、ますます格差が広がっています」(森さん・以下同)
制度を導入する際、菅首相は冷徹な一面をのぞかせた。
「自治体間で返礼品競争が起きるはず。制限をつけるべき」と進言した当時の総務省自治税務局長・平嶋彰英さんは、これが菅首相の逆鱗に触れて左遷。事務次官候補とまでいわれた人物が総務省を追われることとなった。
「霞が関は官邸による恐怖人事と震え上がり、“この人に逆らったら飛ばされる”という雰囲気が蔓延しました」
2017年には、加計学園ありきで獣医学部が設置されたのではないかと疑われた問題で、経緯について元文部科学事務次官だった前川喜平さんが「(安倍)総理のご意向」と明かすと、当時官房長官だった菅首相は、前川さんの社会的信用を傷つけるような個人攻撃を執拗に行った。
菅首相は今回の総裁選のさなかに「自分の方針に従わない官僚は異動させていただく」と発言し、物議を醸している。平嶋さんもある新聞社のインタビューで、役人は官邸が進める政策の問題点を指摘すると、自分以外の上司や部下、ひいてはトップの事務次官や大臣らの人事にも響くことを恐れていると語っている。その一方で、菅首相の覚えめでたい官僚は出世できる。
「通常、首相秘書官になるのは総務課長以上のキャリアを持つ人ですが、菅内閣で首相秘書官になる6人中4人が、その資格を持たない官房長官秘書官の持ち上がりです。つまり、自分のお気に入りを出世させている。ずっと登用し続けることで、菅さんの威を借る官邸官僚が好き勝手するようになり、周囲の忖度が生まれる。これは安倍さんのときと同じ構図です」
官房長官時代に記者会見で何度もバトルを演じ、菅首相の「天敵」とさえ呼ばれる東京新聞記者の望月衣塑子さんは「菅首相の権力の源泉は人事権」と指摘する。7年8か月かけて人事権を掌握したことが、総裁選の結果につながったというのだ。
「菅さんは自民党や中央官庁だけでなく、民放連や横浜市の人事にまでかかわっているといわれています。菅さん自身、『本当に自分を慕ってついてくるやつはわずか。皆、強いやつについていく』と語っていたと聞きます。だから“弱さを見せたら終わりだ”という意識が強いのでは。記者会見での私に対する横柄な態度も意図的なもので、強い自分を見せることで権威を高めたいのでしょう」(望月さん)
菅首相が総裁選で掲げたのは「自助・共助・公助」。一見聞こえはいいが、それこそに強さと冷たさを感じる。9月4日放送のTBS系『news23』での発言はこうだ。
「自分でできることは基本的には自分でやる、自分ができなくなったら家族や地域で協力してもらう。それでできなかったら必ず国が守ってくれる。そういう信頼をされる国、そうした国づくりというものを進めていきたい──」
この考え方に激しく反発するのは森さんだ。
「『自助を最優先にする』など、政治家が言うべきではありません。政治は本来、弱者をいかに救い上げるかを最優先してセーフティーネットを築くべきです。小学校の先生ならともかく、政治家が“自分でやれることはやりなさい”というところに、競争を好む菅さんらしさを感じます」
「頑張れば面倒を見てくれる」は、いずれ「頑張らないから面倒を見なくていい」に変わる。秘書時代から培った菅首相の思考の根底にあるのが、「おれはこんなに頑張ったのだから、みんなも頑張ればいいんだ」という価値観。頑張りたくても頑張れない弱者は切り捨てられてもやむを得ないなどと考えているのなら、国のトップとしてこんなに恐ろしいことはない。
※女性セブン2020年10月15日号
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