2002年6月23日(日)
ハンブル・パイ「AS SAFE AS YESTERDAY IS」(Repertorie REP 4237-WY)
1.DESPERATION
2.STICK SHIFT
3.BUTTER MILK BOY
4.GROWING CLOSER
5.AS SAFE AS YESTERDAY
6.BANG!
7.ALABAMA '69
8.I'LL GO ALONE
9.A NIFTY LITTLE NUMBER LIKE YOU
10.WHAT YOU WILL
11.NATURAL BORN BOOGIE
12.WRIST JOBB
ハンブル・パイ、記念すべきデビュー・アルバム。69年リリース。
以前取上げたスモール・フェイセズの「Ogden's Nut Gone Flake」(2001.4.21分)の項も合わせて読んでいただきたいが、69年3月にスモール・フェイセズをひとり脱退したスティーヴ・マリオットは、その後、理想のサウンドを追求するべく、新バンドのメンバー探しに腐心する。
そうやって、同年に結成されたのがハンブル・パイである。
平均年齢20才(若い!)、平均身長5フィート7インチとわりと小柄なメンバーの多いこのグループ、でもあなどれない実力派ぞろいの「スーパー・グループ」でもあった。
ギター、ヴォーカルのスティーヴ・マリオットは、もちろん一世を風靡したモッズ・バンド、スモール・フェイセズのリーダー格だった男。小兵ながら、そのソウルフルな歌いぶりはロック界随一との定評あり。
同じくギターとヴォーカルのピーター・フランプトンは、ザ・ハードというポップロック・バンドで活躍、その甘いマスクで少女たちの人気を一身に集めていたが、ジャズをベースにしたギターの腕前もなかなかのものだった。
ベースとヴォーカルのグレッグ・リドリーは、グループ一長身で男っぽいタイプ。彼は以前、スプーキー・トゥースというなかなか小味なハードロック・バンドに在籍していた。
ドラムスのジェリー・シャーリーは加入当時、まだ17才。パイ以前はリトル・ウーマン、アポストリック・インターヴェンションといったマイナー・バンドにいたのを引き抜かれたかたちだ。
この4人が生み出すサウンド、みな若いだけあって、実にパワフルでフレッシュだ。
ステッペン・ウルフのリーダー、ジョン・ケイ作曲の(1)は、オルガンをフューチャーしたR&B風の重たいリズムが、だいぶスモール・フェイセズっぽいサウンド。
だが、曲が進むにつれて次第にパイ独自のカラーも出てくるようになる。
曲の大半はマリオットのペンによるもの。フランプトンも共作も含めて3曲を提供している。
(2)はフランプトン作で、リード・ヴォーカルも彼が担当。サイケデリック・ロック風の、なかなか新鮮な音だ。
ハードロック調の(3)は、マリオット作。のちに「いかにもハンブル・パイっぽい」とよばれることになる、ベースとドラムスのインタープレイ、そしてふたつのギターの絡み合いといった要素が、すでに随所に見られる。
これらは、スモール・フェイセズではほとんど見受けられなかった、ハードロック特有の要素である。
スモール・フェイセズにおいてはイアンのキーボードがバンドの「カナメ」であったが、それがパイではグレッグのベースに移ったといえそうだ。
この曲はおもしろいことに、イントロが、当時ヒットしていたステッペン・ウルフの「ワイルドで行こう」にクリソツなのである。(1)の選曲から考えても、偶然の一致ではなさそう。
また、ピーターが、彼がリスペクトするというスティーヴ・スティルス的なプレイを見せているのも興味深い。
このほかにもパイは、いくつかの曲で、他の有名なロックバンドのパクりというか、パロディをやっている。
(8)は、二部形式の構成。前半はアコースティック・サウンドによるインスト・ナンバー。作曲したフランプトンが、なんと、シタールに挑戦しているのが聴きモノ。なかなか器用に弾きこなしている。
で、問題なのは、その後半。もうイントロからして、ZEPの「コミュニケーション・ブレイクダウン」(笑)。ちょっとテンポが違うだけ。
前年末デビュー、いきなりスターダムに躍り出たZEPのことは、彼らも相当意識していたのであろう。
いってみれば、当面の最大のライヴァルだもんな(笑)。
そして、ボーナス・トラックの(11)。これまた当時ヒットしていたビートルズの「ゲット・バック」に酷似。
とくに、ビリー・プレストンふうエレクトリック・ピアノの演奏がまんま(笑)。
まあ、パクりというよりは、シャレ心の現われといえますが。マリオットの作品。
さて、曲の順に戻ると、(4)はなぜかスモール・フェイセズのイアン・マクラガンの曲を取上げている。アコギを弾いてフォーク風に仕上げており、初期パイに強い「アコースティック指向」をしめす一曲。
アルバム・タイトルにもなっている(ISの有無の違いはあるが)(5)は、マリオット・フランプトンの共作。
フランプトンがヴォーカルを取り、マリオットがコーラスでバックアップ。アコースティックとエレクトリックが融合した、壮大な広がりのあるサウンドだ。メロディも、ブルース、R&Bだけでなく、カントリーやブリティッシュ・トラッドの要素が加わり、より幅が出てきた。
(6)はマリオット作。ロックン・ロール調、とはいえ、ストーンズあたりのとはひと味違う。リズム・セクションがもっと前面に出ている感じなのだ。
(7)も同じくマリオット作。彼のハープをバックに、グレッグがヴォーカルをとる。マリオットのアメリカ指向がモロに出た、いなたいナンバー。
(9)はいかにもハンブル・パイらしい、テンションの高い、アップテンポのハードロック・ナンバー。ブレイクのあと、後半は自由なインプロヴィゼーションが延々と続く構成。マリオットの作品。
(10)はゆったりしたテンポの、バラード調ロック。作者のマリオットが、抑えめのセンシティヴな歌声を聴かせてくれる。
ラストの(12)は(11)同様、ボーナス・トラック。ここでもオルガンがフィーチャーされているが、もはやスモール・フェイセズ色は感じられない。女声コーラスも加え、ハンブル・パイ独自のソウルフルな世界がすでに形成されているのがよくわかる。
フランプトン脱退後のパイを予感させるような、かなりブルーズィで「黒い」サウンドである。
一枚を聴いていくと、マリオットとフランプトンという、かなり違った個性がうまくブレンドされ、さらにはグレッグという「隠し味」も加わって、これまでにない新しい音を生み出しているのがよくわかる。
ハードロックとアコースティック・サウンドが、一枚でフルに楽しめます。おすすめです。
<独断評価>★★★☆