2002年9月7日(土)
ロイ・ブキャナン「LIVE STOCK」(Polydor 831 414-2)
(1)REELIN' AND ROCKIN' (2)HOT CHA (3)FURTHER ON UP THE ROAD (4)ROY'S BLUZ (5)CAN I CHANGE MY MIND (6)I'M A RAM (7)I'M EVIL
ロイ・ブキャナン、75年リリースのライヴ盤。
まずは、ジャケ写がなんともいえずいい。アメリカの片田舎ならどこにでもありそうな、古びた構えの店(看板から察するに肉屋か?)。
ここでライヴが行われたかと思いきや、さにあらず。実際はニューヨークのタウン・ホールにて収録。そう、かのビル・エヴァンスもコンサートを行った場所だ。
時は74年11月27日、メンバーはブキャナンのほか、ビリー・プライス(vo)、ジョン・ハリスン(b)、バード・フォスター(ds)、マルコム・ルーケンス(kb)の5人。
まずは、ロイ・ミルトン&ヒズ・オーケストラのロックン・ロール・ナンバー、(1)から。チャック・ベリーやジョニー・ウィンターらで有名なR&R曲とは同名異曲なれど、こちらもノリのよさでは負けていない。
快調なテンポで、名刺がわりの演奏をキメる5人。やけにスムースなプライスのヴォーカルといい、前のめりのリズムといい、そのグルーヴの基本はやはり、C&Wだな。メンバー全員が白人だから、当然といえば当然だが。
続く(2)は、ウィリー・ウッズ作、ジュニア・ウォーカーのヒットで知られるインスト・ナンバー。こちらも、ポップ色の濃い、明るいノリの演奏。
ブキャナンのギターも、あくまでも陽性で歯切れのいいプレイだ。正直言って、さしたる個性の輝きは感じられないが。
(3)は、一転してブルースシンガー、ボビー・ブルー・ブランドのナンバー。プライスのヴォーカルは依然としてブルースっぽくないが、ブキャナンのギターはアタックの強いブルーズィなフレーズを紡ぎ出し、ようやく異彩を放ちはじめる。
予定調和を無視した、鋭角的でスピーディなプレイが、耳を直撃する。そうこなくっちゃ。
8分以上と長尺のオリジナル・ブルース、(4)では、ブキャナン自らヴォーカルもとる。
ボソボソとした下手ウマ系の歌のあと、いよいよお待ちかねのブキャナンのソロが始まる。
スローなビートにのせて、愛器テレキャスターが泣き、喚(わめ)き、うめき、唸る。
ときには天へと高く駆け上り、ときには地の底へと深く落ちてゆく、そんなプレイが延々と展開される。
エフェクトもほとんど使わず、ただただ彼の指使いによってのみ紡ぎ出された、音のカレイドスコープ。見事としかいいようがない。
さて、(5)はデスペンザ=ウルフォークのコンビの作品。タイロン・デイヴィスのヒットで知られる、ソウル・ナンバー。ファンキーなリズムが耳に心地よい。
ブキャナンもここでは、うってかわってトロピカルなムードの強い、流麗なソロ&コードワークを聴かせる。
白黒、カントリー、ロック、ブルース、ソウルと、さまざまなレパートリーが絶妙にブレンドされたライヴが続く。
続く(6)は、アル・グリーンのナンバー。黒いソウル・ビートを白人ブキャナンなりの解釈でとらえ、鮮やかなロックに料理してみせている。
ラストの(7)もまた、ブキャナン自身のオリジナル・ブルース。
6分18秒という限られた時間の中で、己れの心の「暗部」を、歌そしてそのギター・プレイでとことん表現してみせた、渾身の一曲。
そのかきむしるようなトーン、聴く者のはらわたを抉(えぐ)るようなプレイに、「ブルース」の真髄を感じないヤツはいるまい。
たった35分余りのライヴの中に、「明」と「暗」、「静」そして「動」、彼のギタリストとしての魂がすべて凝縮されている。
ギターを弾くということ、ギターで表現するということの「意味」を知りたければ、この1枚を聴くべし。
答えは、彼の「音」の中にある。
<独断評価>★★★★