2002年8月31日(土)
レッド・ツェッぺリン「フィジカル・グラフィティ」(ワーナー・パイオニア 32P2-2739/40)
Disc 1(1)CUSTARD PIE (2)THE ROVER (3)IN MY TIME OF DYING (4)HOUSES OF THE HOLY (5)TRAMPLED UNDER FOOT (6)KASHMIR Disc 2(1)INTHE LIGHT (2)BRON-Y-AUR (3)DOWN BY THE SEASIDE (4)TEN YEARS GONE (5)NIGHT FLIGHT (6)THE WANTON SONG (7)BOOGIE WITH STU (8)BLACK COUNTRY WOMAN (9)SICK AGAIN
レッド・ツェッぺリン、6枚目のアルバム。1975年リリース。
彼ら自身のレーベル、「SWAN SONG」からの初のアルバムであると同時に、初の2枚組アルバムでもある。
まずは、ペイジ=プラントのオリジナル、1-(1)。これぞZEP!といいたくなるような、キャッチーなギターリフで始まる、ファンキーな一曲。
オリジナルとはいえ、彼らのご多分にもれず、古いブルースからの「パクり」はふんだんに見られる。
タイトルは「CUSTARD PIE BLUES」、「I WANT SOME OF YOUR CUSTARD PIE」あたりから。もちろん、性的な暗喩を含んでいる。
歌詞はそれらの他に、「SHAKE'EM ON DOWN」、「DROP DOWN MAMA」あたりからも頂戴したフシあり。
まさに、ブルース通な彼ららしい、やりたい放題、し放題。でも、カッコいい音だから、許す(笑)。
毎度おなじみ、プラントのハープ・プレイもキマっている。
1-(2)は、本来前作「聖なる館」に入るはずだった曲がおクラ入りになっていたもの。ペイジ=プラントの作品。
これまた、ZEPのギターリフのカッコよさを前面に押し出したナンバー。ペイジはほんに「リフ名人」である。
哀感あふれるメロディラインも、かの「天国への階段」を思わす出来ばえで、グー。
1-(3)はブルース濃度の高い一作。もともとは「JESUS GONNA MAKE UP MY DYING BED」として知られるトラディショナルだが、ZEP流に四人でアレンジ、ペイジのスライドギターをフィーチャーしている。
ボンゾのパワー・ドラミングが約11分にわたって炸裂する、ヘビー級ブルース。いやー、おなか一杯。
1-(4)は、これまた前アルバムのアウトテイク。曲名が示すように、もともとタイトル・チューンとして入る予定だったようだ。
彼らお得意の、ワンコード調ロックン・ロール。ペイジ=プラントの作品。
前曲の詞・サウンドの「重さ」から一転、妙に陽気なお祭り騒ぎ状態。これもまたええもんです。
続く1-(5)はファンキー&ダンサブルなチューン。ペイジ=プラント=ジョーンズの作。日本ではシングルカットされたから、記憶に残っているかたも多いだろう。
ジョーンジーのクラヴィネットが、スティーヴィ・ワンダー風なグルーヴを弾き出す、イカした一曲だ。
1枚目におけるハイライトは、なんといっても、1-(6)だろう。ペイジ=プラント=ボーナムの作。ペイジの東洋音楽趣味がふんだんに盛り込まれた、エキゾチックなメロディが耳を刺激する。
ZEPとしては異例の、管・弦ともにセッション・ミュージシャンを加えた、大所帯レコーディングを敢行。
ペイジによって緻密にアレンジされた「音曼荼羅」が約8分半、繰り広げられる。
ギターソロにたよらず、もっぱらオーケストレーションで構築された世界。ZEP=ハードロック・バンドとして把握しているひとたちには、若干奇異に感じられるかもしれないが、幅広い音楽性を持つZEPの、ほんの一側面に過ぎないのだ、これは。
さて、2枚目へ行こう。2-(1)は、かすかなシンセ音から始まり、ゆるやかなヴォーカルが流れ、ミディアム・テンポへと盛り上がって行くナンバー。ペイジ=プラント=ジョーンズの作品。
ハードでもアコースティックでもない、彼らの「第三の顔」的ナンバー。どこかファースト・アルバムの「時が来たりて」やセカンドの「サンキュー」を連想させる、余裕あふれる前向きな雰囲気の歌詞、そしてサウンドである。
このトラックでの「聴きもの」はやはり、入念に多重録音されたペイジのギター・プレイであろう。
2-(2)は、タイトルを見るとおわかりになるだろうが、サード・アルバムのB面とつながりの深い一曲。「BRON-Y-AUR STOMP(スノウドニアの小屋)」同様、70年、ブロン・イ・アーという地に滞在した際に、ペイジが書いた、インスト・ナンバー。
一台のアコースティック・ギターで演奏されたとはとても思えないくらい、ゆたかで深い響きを持ったサウンドだ。
2-(3)も前の曲同様、サード・アルバムでおクラ入りだったナンバー。ペイジ=プラントの作品。ゆったりとしたフォーク・ロック調のビートがなんとも心地よい。
途中、平和な雰囲気が一転、緊迫感あふれるサウンドへと変化(へんげ)し、さらには再びのどかな曲調へと戻る。このへんのアレンジも実にカッコよい。
2-(4)もまた荘厳にして華麗なギター・アレンジが光る一曲。ペイジ=プラントの作品。
ミディアム・ビートにのせて、ギター・オーケストラとでもいうべきペイジの多重録音プレイが堪能できる。ペイジはライヴではいまイチなことが多いプレイヤーだが、スタジオ録音ではよく練れた、すばらしい演奏を聴かせてくれる。
「ロック=アレンジなり」、そういう意識革命を、彼はわれわれに初めてもたらしたと言えそうだ。
2-(5)は、ギター&オルガン・サウンドがどことなくFaces風のナンバー。ペイジ=プラント=ジョーンズの作品。
シンプルな8ビートに乗せて、プラントのセクシーなシャウトが全開。
ZEPにしてはえらくストレートでオーセンティックな曲調だが、もちろん、ソツなくまとまっている。
2-(6)はアップ・テンポの変拍子ふうビート、ボンゾ大活躍のナンバー。ペイジ=プラントの作品。
へヴィーメタル系の多くのバンドに、絶大なる影響を与えたに違いない一曲。とにかく、ノリのよさは本アルバム随一。
ただ期待に反し、あえてヘヴィメタ調ゴリゴリ・ギターを弾かず、ヘナチョコ風ソロが展開する。これは、ペイジの洒落っ気のあらわれか!?
2-(7)はステューことイアン・ステュアートをゲスト・ピアニストに迎えての一曲。「ラ・バンバ」のヒットで知られる早世のロッカー、リッチー・ヴァレンスの「オー・マイ・ヘッド」を下敷きに、五人がアレンジを加えている。
シンプルなブギウギのリズムが実にごきげん。ジャム・セッションをそのまま収録したようなイキのよさがある。
2-(8)は、一転、ディープなカントリー・ブルースの世界へわれわれをいざなう一曲。ペイジ=プラントの作品。
これも以前(72年ころ)にレコーディングされ、おクラ入りになっていたテイクらしい。
歌詞からうかがうに、まるでロバート・ジョンスンが生きていた30年代の、デルタ・ブルースの世界そのままという感じ。
情は深いが、嫉妬心、独占欲もまた一段と強い女との痴話喧嘩、そんなイメージ。(筆者の貧弱な英語力での判断なので、違っていたらゴメンナサイ。)
アコースティック・ギターのサウンドをベースに、マンドリン、ドラムスなども加えて、力強いサウンドに仕上げている。プラントのハープも、いい味をかもし出している。
ラストの2-(9)は、ふたたび正調ZEP流ハードロックに戻って、しめくくり。ペイジ=プラントの作品。
スライドギターを絡めた、重心の低い、粘っこいビート。暴れまくるボンゾのドラムスが実にいい。
これこそ、ZEPにしか出せないグルーヴ。彼抜きでは絶対ZEPは成立しなかったことが、よくわかる。
以上、16曲。ZEPが持てるすべてが投入された、究極の2枚組。全米チャートで6週連続トップだったのも、当然だと思う。
ZEPのアルバムとして「最高傑作」であるかどうかは、いささか異論もあるだろうが、一番の「力作」であることは間違いないだろう。
ま、好き嫌いはあるだろうが、ロックにたずさわっている人間なら、一度はチェックしなくちゃ。そのくらい、ロック史上、無視できない一枚だと思う。
<独断評価>★★★★☆