2002年10月20日(日)
クロスビー・スティルス・アンド・ナッシュ「CROSBY, STILLS & NASH」(ATLANTIC 19117-2)
(1)SUITE: JUDY BLUE EYES (2)MARRAKESH EXPRESS (3)GUINNEVERE (4)YOU DON'T HAVE TO CRY (5)PRE-ROAD DOWNS (6)WOODEN SHIPS (7)LADY OF THE ISLAND (8)HELPLESSLY HOPING (9)LONG TIME GONE (10)49 BYE-BYES
クロスビー・スティルス・アンド・ナッシュのデビュー・アルバム。69年リリース。
元バーズのデイヴィッド・クロスビー、元バッファロー・スプリングフィールドのスティヴン・スティルス、元ホリーズのグレアム・ナッシュの三人によって結成されたのが、CS&N。
当時ブームの、いわゆる「スーパー・グループ」の代表格でもある。
単に有名バンドに在籍していたというだけでなく、三人のいずれもがリード・ヴォーカルをとれ、曲も書ける実力派であるということで、彼らのデビューは当時大いに注目された。
そして、そのポピュラリティを決定づけたのは、デビュー3か月後の同年8月に出演した「ウッドストック・フェスティヴァル」であることはいうまでもない。
ニール・ヤングを加えた四人編成のCSN&Yとして出演。さらには、フェスティヴァルのテーマともいうべき「ウッドストック」という曲をレコーディングし、ヒットさせたことで、彼らはこの「音楽と愛の祭典」のシンボル的な役割をになったといえる。
前置きはこのへんにして、まずは(1)から聴いていこう。
アップテンポのアコギ・ソロ、そして三人の完璧なヴォーカル・ハーモニーから始まるナンバー(1)は、スティルスの作品。
7分22秒にもおよぶ、組曲形式のナンバー。だが、緩急自在、山あり谷ありの構成でダレず、少しも長さを感じさせない。
筆者がこの曲を初めて(30年以上前)聴いたときは、正直、ぶっとんだ。今までのバンドにはない、強力無比なコーラス、そして爽快なアコースティック・サウンド。新しい時代の到来を感じたものだ。
ところで歌詞の内容は、タイトルでわかるように、スティルスの当時の恋人、シンガーのジュディ・コリンズによせたラヴ・ソング。
彼女の青く美しい瞳をたたえる、究極のオマージュ。
そして、恋する男のもどかしさも見事に歌い上げた、ラヴ・ソングのマスターピースとも言える。
(2)は、ナッシュの作品。彼の少し甘い、高めのソロ・ヴォーカルが印象的な、軽快なテンポのナンバー。
もちろんここでも、三人の息のぴったり合ったコーラスが聴かれる。
歌詞は「キミとともにマラケッシュ急行に乗って南に行こう」というような、脳天気なもの。
これも一種のラヴ・ソングといえそう。アヒルやブタ、鶏、コブラといった、いかにも地方色ゆたかな風物が曲にいろどりを添えている。
続く(3)はクロスビーの作品。「王妃グゥイネヴィア」という日本題がついていたという記憶があるが、その通り、アーサー王の伝説に登場する美しい王妃に自分の恋人をたとえ、彼女に愛をささやく、そういうラヴ・ソング。
静かなアコギ・サウンドに乗せて、ふつうのメジャーとはひと味違った、複雑なメロディ、こみいった和声のコーラスが展開する。
これぞCS&Nならではのサウンドといえそう。
クロスビーらが弾く、変則チューニングとおぼしきギター・プレイも、当時非常に話題になった。
どうチューニングし、どう弾くのか誰もまったくわからず、それでも後年、映画「ウッドストック」を注意深く観ていた、あるギタリストがついにその調弦&奏法を「解明」したのは、日本のフォーク界ではかなり有名な話。
ちなみにそのギタリストとは、元GAROのトミーこと、今は亡き日高富明さん、その人である。
日本で初めてCS&Nをフル・コピーしたのがGARO。そういうことだ。
さて、ここまで聴いてくると、CS&Nの三人のメンバーは、いずれもラヴ・ソングを作り、歌うことを得意としているんだなと強く感じる。
何をかくそう、彼らにはその「理由」がちゃんと「存在」していたのだ。
前述のスティルスのケースに限らず、当時メンバーはみなシングルで、それぞれにたいへん魅力的な恋人とつきあっていた。
クロスビーは自らデビューを後押ししたシンガー・ソングライター、ジョニ・ミッチェルと長らくつきあっていた。(この時点では、別の女性と交際。)
一方、ナッシュは、最初の妻ローズと別れて独身だったが、クロスビーと別れたのちのジョニ・ミッチェルとつきあうことになる。
このふたりの女性、コリンズ、ミッチェルの存在も、CS&Nの音楽にとって、きわめて重要な役割を果たしているといえる。
同じアーティストとして、プライヴェートでのパートナーとして、彼らとたがいに大きな影響を与え合っていたのは、間違いない。
彼らは、69年にはすでに名声を獲得していて、実年齢もそう若くはなかったが、こういう少年の初恋のようなういういしいラヴ・ソングを書けたのは、そんな私生活を送っていたこととも、大いに関係があるな。
筆者のようにオッサンになると、ついつい「恋する心」なんてものを忘れがちになるが、これなくしてはみずみずしい音楽なんて生まれやせんのよ。
「私生活」が枯れて、殺伐としている人間に、艶っぽい歌なんて歌えるわけがない。よーく肝に銘じておきたいものだ。
そういう意味で、まさにCS&Nは「青春まっただ中」の音楽だという印象がある。昔も、今も。
さて、お次の(4)は、ふたたびスティルスの作品。落ち着いたミディアム・テンポの、フォーキーなサウンドのナンバー。
これはラヴ・ソングとはいっても、ポジティヴな「賛歌」ではなく、少しビターな内容。
以前に別れてしまった恋人のことを思い出して、「キミが泣くことはない。泣くのはこのボクさ」という、辛い男心のうた。
く~っ、泣けますね。出会いあれば、必然的に別れもある、これが恋のサダメでございます。
アナログではA面ラストの(5)は、ナッシュの作品。彼ならではの明るい曲調で、相思相愛の喜びを歌い上げる。
こちらはリズム・セクションも結構前面に出た、エイトビートのナンバー。スティール・ギターふうに弾くスティルスのギター・プレイがなかなかカッコよろしい。
(6)は、映画「ウッドストック」の中でも登場していたナンバー。クロスビーとスティルスの共作。
内容は甘いラヴ・ソングから一転、反戦思想を寓意したメッセージ・ソングへ。いかにもウッドストック世代の代表選手である彼ららしい。
エレクトリックになると、アコースティックのときとは違って、結構ブルーズィで重ためのサウンドになるのが。彼らの特徴だ。
(7)は、ナッシュの作品。これもまたジョニ・ミッチェルとの生活からの「収穫」なのだろうか。
おだやかなアコギの伴奏にのせて、このうえなく優しいメロディを歌うナッシュ。
あとのふたりも、清冽なハーモニーで、しっかりと後押し。なんとも心のなごむ一曲。
(8)は、彼らのフォーキーな魅力が全開の佳曲。スティルスの作品。
オーソドックスなスリー・フィンガーの伴奏にのせて、三人が生み出すハーモニーは、「優しいのに、パワフル」、そういう感じ。
CS&Nの場合、ビートルズやS&Gあたりに比べると、ひとりひとりの持つ個性は、どちらかといえばジミなんだが、ひとたび三人が一緒になると、「無敵」のハーモニーを繰り出すところが、なんとも面白い。
まるで、毛利元就の「三本の矢」みたいな話ですな(笑)。
(9)も、映画「ウッドストック」で使われておなじみとなった、エレクトリック・アレンジのナンバー。
こちらも、結構ヘヴィなサウンド。クロスビーの意外に太く低い声が、印象的。
甘いラヴ・ソングばかりやおまへん、ドスのきいた、ハード・ボイルドな歌詞もまた、彼らの持ち味であるのだ。
ラストの(10)は、スティルスの作品。カントリー・ロック調のエレクトリック・アレンジ。
ミディアム・テンポで、別れをテーマとしながらも、どこかのんびり、ほのぼのした印象のある曲。
「WHO DO YOU LOVE?」のリフレインが、ブルース好きなスティルスの趣味を反映しているようで、ほほえましい。
一枚を通して聴くに、それぞれのメンバーが、前のグループではなかなか自由には試せなかった、新しい音楽のアイデアを思い切りふくらませているのが感じ取れる。
この「のびのび」感が、何ともいえず、好ましいんだよなぁ。
最後に、もうひとこと。このアルバムが、当時200万枚を越えるセールスを記録したという事実を知れば、彼らの登場がどれだけ「驚き」をもって迎えられたかをおわかりいただけるであろう。
33年の歳月を経てなお、新鮮な輝きを放ち続ける、CS&Nのハーモニーに再注目、である。
<独断評価>★★★★