NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#120 リトル・フィート「DIXIE CHICKEN」(WARNOR BROS. 2686-2)

2022-03-14 05:00:00 | Weblog

2002年9月29日(日)



リトル・フィート「DIXIE CHICKEN」(WARNOR BROS. 2686-2)

(1)DIXIE CHICKEN (2)TWO TRAINS (3)ROLL UM EASY (4)ON YOUR WAY DOWN (5)KISS IT OFF (6)FOOL YOURSELF (7)WALKIN ALL NIGHT (8)FAT MAN IN THE BATHTUB (9)JULIETTE (10)LAFAYETTE RAILROAD

リトル・フィートのサード・アルバム。73年リリース。

フランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションにいたギタリスト、ローウェル・ジョージを中心に、69年アメリカ西海岸で結成されたのがリトル・フィート。

結成当初はセッション・バンド的な性格が強かったが、この3作目あたりでグループとしての個性を獲得し、広く人気を集めるようになった。

まずはタイトル・チューン、オリジナルの(1)。ノスタルジックなイメージのアルバム・ジャケット同様、ディキシーランド・ジャズの血を引くオールド・タイミーなメロディに、当時最新のファンキーなビートをかけ合わせて、リトル・フィートならではのサウンドを確立した、記念碑的な一曲だ。

揺れるような陽気なリズムは、もちろんニューオーリンズのセカンドライン・ファンクからの影響が大。とりわけ、ミーターズのジガブーのドラミングが、彼らに強力なインスピレーションを与えたようだ。

セカンド・アルバムまでの、いかにも「白人バンド」っぽい生硬なリズムから脱皮、ひとまわりスケールの大きい音楽性を身に付けたといえる。

曲作りにも、微妙な変化があらわれている。ストレートなロックから、粘りとコシのあるファンク、R&B的な曲調へと重心が移ってきているのだ。

続く(2)は、(1)同様、ファンキーなリズムがごキゲンなオリジナル。バックの女声コーラスが、ローウェルのドラ声をうま引き立てている。以前のアルバムには見られなかったアレンジだ。ボニー・ブラムレット、ボニー・レイットといった、豪華な布陣にも注目したい。

(3)もオリジナル。(1)が「動」の典型とすれば、これは対照的に「静」そのもののナンバーだ。

アコギのサウンド、そしてコーラスをしたがえて、ローウェルは穏やかで味わいの深い歌唱を聴かせてくれる。

(4)は、ニューオーリンズを代表する名プロデューサー、アラン・トゥーサンの作品。

ビル・ペインの「いかにもN.O.」なピアノ・イントロにいざなわれて展開するのは、スローでダル、粘っこくてアンニュイなR&Bサウンド。

これまたフィートとしては、新機軸といえそう。新加入のコンガ奏者、サム・クレイトンがバンドの音に厚みを与えている。

一方、ローウェルのシャープなスライド・ギター・プレイにも、いっそう磨きがかかってきた。

(5)は、再びオリジナル。アコギとシンセをフィーチャーした、スローなサウンドにのせてうたわれる、ローウェルの歌は、メロディも歌いぶりもかなり「陰」で「鬱」なイメージ。

「フィート=ディキシー・チキン=めちゃ明るい」という理解をしている一般リスナーには「えっ!?」という感じの、意外な世界といえそう。

でも、実はこれこそが「素(す)」のローウェル・ジョージなのであって、「ディキシー・チキン」的ローウェルは「演出」なのかも知れない。

(6)はどちらかといえば、リトル・フィートの従来の路線上にある音。80年代、リトル・フィート再結成の際にはメンバーとなったシンガー、フレッド・タケットの作品。

スティール・ギターの使いかたといい、コーラスの入れ方といい、典型的ウェスト・コースト・サウンドという感じだ。

もし、こういうタイプの曲ばかりで占められていたら、このアルバムは「よくある及第点のアルバム」のひとつに片付けられ、時の流れの中に埋没してしまったに違いない。

(7)は、ビル・ペインとポール・バレーアー(このアルバムより加入)の作品。ニューオーリンズ風味の濃い、R&Bナンバー。

ギターが奏でるリフ、そしてノリノリのビートが実にカッコいい。やはり、このへんの新機軸こそが、フィートをフィートたらしめたと思うのだが、いかがであろうか。

(8)は、(1)とならぶ本盤の白眉。ファンキーでファニーなフィート・サウンドの真骨頂。

もちろん、ローウェルのオリジナル。彼の歌、スライド・ギターが縦横に活躍、バック・コーラス、ビルのピアノ、そしてリズム隊が叩きだす、怒濤のセカンドライン。すべてがカンペキなんである。

お祭り騒ぎのような(8)が終わると、対照的なラヴソング、(9)が始まる。フルートをフィーチャーした、メロウで官能的なサウンド。泣きのギターも、なかなかよろしい。

ラストは、ローウェルとビルの共作のインスト・ナンバー。少しダルな感じのレゲエ風ビートにのせて、再びローウェルのスライド・ギターをフィーチャー。

白人スライド・ギタリストといえば、もちろんデュアン・オールマンがその最高峰にあることは間違いないが、ローウェル・ジョージは彼とはまた違った個性、方法論で、同じく第一人者の座を獲得した。

情念のかたまりのようなオールマンのプレイとは対照的な、あくまでも澄み切ったそのトーンは、バンド全体のアンサンブルと見事に調和、非のうちどころのない音世界を構築している。

その後グループは79年に解散、ローウェルはその直後に若過ぎる死をむかえるが、彼らの傑出したオリジナリティと演奏力を超えるバンドはそう出ていない。

かのクワタ氏にも、計り知れない影響を与えた一枚。いまだに色褪せぬサウンドに、再注目してみよう。

<独断評価>★★★★


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