2002年12月29日(日)
デクスター・ゴードン「アワ・マン・イン・パリ」(BLUE NOTE/東芝EMI TOCJ-9045)
(1)SCRAPPLE FROM THE APPLE (2)WILLOW WEEP FOR ME (3)BROADWAY (4)STAIRWAY TO THE STARS (5)A NIGHT IN TUNISIA
テナー・サックス奏者、デクスター・ゴードン、63年のアルバム。パリにての録音。
61年に移籍して以来、デクスターは10枚以上のアルバムをブルーノートに残しているが、マスターピース「GO!」に次ぐ人気を集めているのがこのアルバムだろう。
演奏はもちろんのことだが、なんといってもジャケット写真が素晴らしい。
モノクロで撮られたデクスターの横顔に、赤と青の文字で小さくタイトルが入るこのデザイン。カッコよすぎ!
彼の端正な顔立ちだからこそ、キマったともいえるこのジャケ写。デザインはレイド・マイルズ。
そして撮影はフランシス・ウルフ。そう、アルフレッド・ライオンとともに、ブルーノートを創立した人物である。
ジャケットだけでも買うに値いする一枚だと、筆者はいたく気にいっている。
もちろん、中身も超一級品だ。
パーソネルはデクスターのほか、天才ピアニスト、バド・パウエル、欧州ではバドのバックをつとめることの多かったフランス人ベーシスト、ピエール・ミシュロ、そしてMJQの初代ドラマーでもあった、モダン・ドラミングの創始者、ケニ-・クラーク。
付き合いも長い、気心の知れた仲間ばかりである。
この当時一流のジャズマンが和気あいあいの演奏を繰り広げるのだから、悪くなるはずがない。
(1)はジャズファンなら誰でも知っている、チャーリー・ヤードバード・パーカーの代表作。アップテンポで快調にスウィングしまくる一曲だ。
デクスターはテナー、バードはアルトという違いはあれど、デクスターがバードの強い影響下にあるのは間違いない。
先人へのリスペクトをこめてブロウするプレイは、実にイマジネーションに富んでいて、8コーラスにも及ぶ長尺のソロも、聴き手を決してあきさせるということがない。
また、バドも(当時は決して彼の全盛期ではなかったにもかかわらず)デクスターのプレイに大いに刺激を受けたと見えて、生き生きとしたバッキングを聴かせてくれる。
音楽はプレイする相手がいかに重要かを、痛感するね。
(2)はこれまた、超有名曲。
もともとはティン・パン・アリー発の「小唄」的な歌曲だったのが、ジャズマンやシンガーのお気に入りとなり、レッド・ガーランド、トミー・フラナガンやサラ・ヴォ-ンらにより、数多くの名演が生まれている。
この「ジャズマン必修科目」のようなバラードを、デクスターは歯切れのよいスウィンギーなプレイで、自分流に鮮やかに料理して見せる。そのアイデアに満ちたフレージングは、汲めども尽きることのない泉のようだ。
彼の変幻自在のソロに続いては、バドのソロも聴かれるが、これが実に素晴らしい。全盛期のバドをほうふつとさせる、クリアで切れのいいフレージングだ。
(3)もまた、ジャズマンなら一度は手がけたことがあるはずの、超スタンダード。
もともとはスウィング・ジャズのバンドが好んでプレイしていた曲だが、そのノリのよさから、モダン以降のプレイヤーにも引き続き愛されている。
アップテンポの豪快なソロで、ぐいぐいとバックを引っ張っていくデクスター。回りも負けじと、熱のこもった演奏を繰り広げる。
スウィング・ジャズ系の曲とはいえ、デクスターもエキサイトしてくると、予定調和外の突飛なフレーズを繰り出すし、バドもモダンな味わいのソロを聴かせてくれる。
そのへんは、やはりバップだ。ノスタルジーに終わらぬ、新しい解釈を必ず提示することで、マンネリズムを排し、自分たちなりの音を主張しとるのだね。
バランスよく、次はしっとりとしたスロー・バラードの(4)。これもスタンダードとして人口に広く膾炙されたナンバーだ。
甘美なメロディを、ほどよいビターなフレージングでアレンジしていくデクスター。コーラスを重ねるごとに、少しずつ味わいを変化させていくサウンド。しかも、通して聴いてみて、見事な整合感がある。
これぞ、インプロヴィゼーションの極みだ。まさに天賦の才というべきアドリブ。
テナーマンがバラードもので陥りがちな「ムード過剰」になることなく、あざやかにまとめた手腕に脱帽である。
さて、ラストはバード・ナンバー(1)と好一対の、ディジー・ガレスピーの十八番、(5)。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズも最重要レパートリーとしていたビ・バップの名曲だ。
ミディアム・ファスト・テンポで、これぞバップ!という豪快な演奏を聴くことが出来る。
トランペットによるテーマ演奏をテナーに置き換え、全編デクスターが一団をリード。
途中「サマータイム」のメロディをおり込んだりして、延々とソロを展開するのだが、彼のテクニック、アイデアがすべてそこにはき出された好演となっている。
中間のバドのソロも、それまでのデクスターのバリバリのブロウから一転、クールなタッチでキメていて実にカッコよい。
クラークの、ブレイキーの向こうを張ったようなパワフルなソロを経て、ふたたびデクスターがリードを取り、終幕となる。
8分18秒という長さをまったく感じさせない、スリリングな演奏に、ノックアウト間違いなしの一曲だろう。
とにかくこのアルバム、リーダーのデクスターのブロウといい、バックの三人の手堅いプレイといい、非常にリラックスした、イキのいいプレイが詰まっている。
あえて多くのプレイヤーが手がけた曲ばかりやっているのも、相当の自信あってのことだろう。「自分がやれば、このくらいのレベルは難なくこなせるからね」、みたいな。
「ワン・ホーン・ジャズ」の、シンプルでストレートな魅力が満載の一枚。有名曲揃いなので、ビギナーのかたにも、おススメ。
評価は最高点とまでは行かないものの、下記の通り。なお、おまけの☆は、イカした「ジャケ写」に捧げます(笑)。
<独断評価>★★★★☆