2023年1月8日(日)
#417 SONNY BOY WILLIAMSON「HIS BEST」(MCA/Chess CHD-9377)
サニーボーイ・ウィリアムスンのチェスにおけるベスト・アルバム。97年リリース。
サニーボーイ二世ことアレック・ライス・ミラーは、これまでもオリジナル・アルバムを4枚取り上げて来た。
どのアルバムも良盤なので、出来れば全てを聴くのがいいのだが、実際には特にファンでもないリスナーは、そうもいかないだろう。
もし「一枚だけ聴いて彼の全容を把握したい」というのならば、このアルバムが一番適当なのではなかろうか。LP2枚分、20曲が収められていて、サニーボーイの世界をじっくりと堪能出来るからだ。
アルバムは「Good Evening Everybody」でスタート。サニーボーイの作品(基本的に彼のナンバーはオリジナル)。
最初期の55年と時代的に古いせいか、演奏も録音もラフな感じだ。他のアルバムにはほとんど収められていないので、要チェキな一曲。
ギターはジミー・ロジャーズ、マディ・ウォーターズ、ピアノはオーティス・スパン、ベースはウイリー・ディクスン、ドラムスはフレッド・ビロウと、チェスの代表選手が勢揃い。先日取り上げたロジャーズのパーソネルとほぼ共通している。
同じメンバーで2曲続く。「Don’t Start Me To Talkin’」「All My Love In Vain」だ。前者はサニーボーイのブロウがカッコよく、彼の代表曲ともいえる。後者はタイトルは似ているが、ロバート・ジョンスンの「Love In Vain」とは全く違う曲である。
上記のメンツからスパンが抜けて、ギターがルーサー・タッカー、ロバート・ロックウッド・ジュニアに代わったラインナップで3曲。
56年録音の「Keep It To Yourself」はダブル不倫のカップルが主人公という、刺激的な歌。まぁ、寝取られ(NTR)は黒人ブルースにありがちなテーマだが。ディクスンの曲「Back Door Man」とかがそうだ。田舎の小作農の黒人にとっては、NTRも数少ない娯楽のひとつ、なのかな?
「Fattening Frogs For Snakes」は珍妙なタイトルだが、当然ながらウラの意味がある。英語に堪能な方は歌詞にも注意して聴いてみよう。
タネ明かしをすると、カエルとは弱いくせに賭博で有り金を全部かけてプロにカモにされる素人、ということのようです。
「I Don’t Know」はもちろんウイリー・メイボンの名曲とは別物であります。
「Cross My Heart」「Born Blind」「Ninety Nine」はこの3曲のメンバーにスパンが加わってのレコーディング。57年録音。
この中では、スロー・ブルース「Cross〜」のギターオブリがこの上なくイカしている。必聴。
以上の曲の大半は、「Down And Out Blues」、そう、ホームレス老人のジャケ写で有名なアルバムでも聴ける。
続いて、ギターのうちタッカーがユージーン・ピアスン、ピアノがラファイエット・リークに代わったナンバーが2曲。「Your Funeral And My Trial」「Keep Your Hands Out Of My Pockets」だ。58年録音。
ピアノのリークが、バックで結構熱演をしているのが、後者。50年代ブルースの影の立役者は、やはりピアノだな。
再び「Cross〜」等と同じメンバーで「Sad To Be Alone」「Checkin’ Up On My Baby」。ともにアルバム「The Real Folk Blues」でも聴ける。
後者はとりわけイカした、アップテンポの演奏だ。数あるサニーボーイの曲の中でもベストスリーに入る出来ではないかな。
ロックウッドのギターが入ると、それだけで演奏がビシッとしまるように思う。この人ホント、ツボを押さえているんだよなぁ。
「Down Child」はギターがタッカー、ロックウッド、ピアノがリーク。60年の録音。
「Nine Below Zero」は「Cross〜」と同じ編成。61年録音のスロー・ブルース。
これも重要な曲だ。アルバム「More Real Folk Blues」でも聴ける。
終盤はパーソネルも大きく変わり、ギターがマット・ギター・マーフィ、ベースがミルトン・レクター、オルガンがビリー・エマースンまたはリーク、ドラムスがアル・ダンカンになる。
伝統的なブルース・スタイルから60年代らしい、よりコンテンポラリーでファンキーなサウンドに変化している。
「Bye Bye Bird」は、サニーボーイひとりだけでも演ることのあるナンバー。サニーボーイとディクスンの共作。63年の録音。
ここではアップ・テンポで快調な演奏を聴かせてくれる。
「Help Me」はブッカー・T・アンド・MGズを意識したようなビートとオルガン・サウンド。63年の録音。
哀願するような、もの悲しい歌とハープがしみる名曲。
「Bring It On Home」はディクスンの作品で、レッド・ツェッペリンのカバー(一部だけど)で知られるナンバー。歌とハープの巧みな切り替えは、まさに至芸だ。
最もあとの時代と思われるレコーディングは「My Younger Days」。
ギターがバディ・ガイ、ベースがエイシズのジャック・マイヤーズ、ピアノがリーク、ドラムスがビロウ、サックスがドナルド・ハンキンス、ジャレット・ギブソン。
ギターが変わりホーンも加わると、サウンドの印象もだいぶ違ってきて、都会的な感じだ。
そしてラストの61年録音、「One Way Out」でシメとなる。これはベストワンにしてもいい名演だ。
この曲は、オールマンズのカバーで有名となった。もともとはエルモア・ジェイムズの曲だけどね。
メンバーは「Cross〜」と同じようだ。やはり、ロックウッドのプレイが光っている。
この曲の研ぎ澄まされたリズム感覚は、とうてい60年代初頭とは思えない。白人のロック・ミュージシャンたちにもリスペクトされたのも、むべなるかな。
この一枚を聴いて興味を持った人は、あとはヤードバーズやアニマルズとの共演盤などに手を出していくといい。
サニーボーイのひなびて古臭いようで意外と先進的なセンスを、この20曲にかぎ取って欲しい。
<独断評価>★★★★
サニーボーイ・ウィリアムスンのチェスにおけるベスト・アルバム。97年リリース。
サニーボーイ二世ことアレック・ライス・ミラーは、これまでもオリジナル・アルバムを4枚取り上げて来た。
どのアルバムも良盤なので、出来れば全てを聴くのがいいのだが、実際には特にファンでもないリスナーは、そうもいかないだろう。
もし「一枚だけ聴いて彼の全容を把握したい」というのならば、このアルバムが一番適当なのではなかろうか。LP2枚分、20曲が収められていて、サニーボーイの世界をじっくりと堪能出来るからだ。
アルバムは「Good Evening Everybody」でスタート。サニーボーイの作品(基本的に彼のナンバーはオリジナル)。
最初期の55年と時代的に古いせいか、演奏も録音もラフな感じだ。他のアルバムにはほとんど収められていないので、要チェキな一曲。
ギターはジミー・ロジャーズ、マディ・ウォーターズ、ピアノはオーティス・スパン、ベースはウイリー・ディクスン、ドラムスはフレッド・ビロウと、チェスの代表選手が勢揃い。先日取り上げたロジャーズのパーソネルとほぼ共通している。
同じメンバーで2曲続く。「Don’t Start Me To Talkin’」「All My Love In Vain」だ。前者はサニーボーイのブロウがカッコよく、彼の代表曲ともいえる。後者はタイトルは似ているが、ロバート・ジョンスンの「Love In Vain」とは全く違う曲である。
上記のメンツからスパンが抜けて、ギターがルーサー・タッカー、ロバート・ロックウッド・ジュニアに代わったラインナップで3曲。
56年録音の「Keep It To Yourself」はダブル不倫のカップルが主人公という、刺激的な歌。まぁ、寝取られ(NTR)は黒人ブルースにありがちなテーマだが。ディクスンの曲「Back Door Man」とかがそうだ。田舎の小作農の黒人にとっては、NTRも数少ない娯楽のひとつ、なのかな?
「Fattening Frogs For Snakes」は珍妙なタイトルだが、当然ながらウラの意味がある。英語に堪能な方は歌詞にも注意して聴いてみよう。
タネ明かしをすると、カエルとは弱いくせに賭博で有り金を全部かけてプロにカモにされる素人、ということのようです。
「I Don’t Know」はもちろんウイリー・メイボンの名曲とは別物であります。
「Cross My Heart」「Born Blind」「Ninety Nine」はこの3曲のメンバーにスパンが加わってのレコーディング。57年録音。
この中では、スロー・ブルース「Cross〜」のギターオブリがこの上なくイカしている。必聴。
以上の曲の大半は、「Down And Out Blues」、そう、ホームレス老人のジャケ写で有名なアルバムでも聴ける。
続いて、ギターのうちタッカーがユージーン・ピアスン、ピアノがラファイエット・リークに代わったナンバーが2曲。「Your Funeral And My Trial」「Keep Your Hands Out Of My Pockets」だ。58年録音。
ピアノのリークが、バックで結構熱演をしているのが、後者。50年代ブルースの影の立役者は、やはりピアノだな。
再び「Cross〜」等と同じメンバーで「Sad To Be Alone」「Checkin’ Up On My Baby」。ともにアルバム「The Real Folk Blues」でも聴ける。
後者はとりわけイカした、アップテンポの演奏だ。数あるサニーボーイの曲の中でもベストスリーに入る出来ではないかな。
ロックウッドのギターが入ると、それだけで演奏がビシッとしまるように思う。この人ホント、ツボを押さえているんだよなぁ。
「Down Child」はギターがタッカー、ロックウッド、ピアノがリーク。60年の録音。
「Nine Below Zero」は「Cross〜」と同じ編成。61年録音のスロー・ブルース。
これも重要な曲だ。アルバム「More Real Folk Blues」でも聴ける。
終盤はパーソネルも大きく変わり、ギターがマット・ギター・マーフィ、ベースがミルトン・レクター、オルガンがビリー・エマースンまたはリーク、ドラムスがアル・ダンカンになる。
伝統的なブルース・スタイルから60年代らしい、よりコンテンポラリーでファンキーなサウンドに変化している。
「Bye Bye Bird」は、サニーボーイひとりだけでも演ることのあるナンバー。サニーボーイとディクスンの共作。63年の録音。
ここではアップ・テンポで快調な演奏を聴かせてくれる。
「Help Me」はブッカー・T・アンド・MGズを意識したようなビートとオルガン・サウンド。63年の録音。
哀願するような、もの悲しい歌とハープがしみる名曲。
「Bring It On Home」はディクスンの作品で、レッド・ツェッペリンのカバー(一部だけど)で知られるナンバー。歌とハープの巧みな切り替えは、まさに至芸だ。
最もあとの時代と思われるレコーディングは「My Younger Days」。
ギターがバディ・ガイ、ベースがエイシズのジャック・マイヤーズ、ピアノがリーク、ドラムスがビロウ、サックスがドナルド・ハンキンス、ジャレット・ギブソン。
ギターが変わりホーンも加わると、サウンドの印象もだいぶ違ってきて、都会的な感じだ。
そしてラストの61年録音、「One Way Out」でシメとなる。これはベストワンにしてもいい名演だ。
この曲は、オールマンズのカバーで有名となった。もともとはエルモア・ジェイムズの曲だけどね。
メンバーは「Cross〜」と同じようだ。やはり、ロックウッドのプレイが光っている。
この曲の研ぎ澄まされたリズム感覚は、とうてい60年代初頭とは思えない。白人のロック・ミュージシャンたちにもリスペクトされたのも、むべなるかな。
この一枚を聴いて興味を持った人は、あとはヤードバーズやアニマルズとの共演盤などに手を出していくといい。
サニーボーイのひなびて古臭いようで意外と先進的なセンスを、この20曲にかぎ取って欲しい。
<独断評価>★★★★