2023年1月19日(木)
#428 DREAMS COME TRUE「THE SWINGING STAR」(Epic/Sony ESCB 1350)
ポップ・グループ、ドリームズ・カム・トゥルーの5枚目のアルバム。92年リリース。彼ら自身とマイク・ピラによるプロデュース。ピラはデビュー・アルバム以来の英国人プロデューサーだ。
92年というと、なんともう30年以上も前のアルバムではないか!
時の経過の異常なまでの速さに、目まいすら覚える筆者であった。
リリース当時、あっという間に300万枚を売り上げ、本邦初のトリプル・ミリオンという大記録を打ち立てたのを昨日のことのように覚えている。
久しぶりに聴き返してみて、筆者は改めてグループのモンスターぶりを再認識した。
ラジオのジングル風の「The Swinging Star」で本盤は始まる。つまり、アルバム全体をさまざまな曲を流すラジオ番組に見たてた、洒落た構成なのだ。
「あの夏の花火」は、ボーカルの吉田美和が作詞、作曲はベースの中村正人とキーボードの西川隆宏の共作。デビュー以来曲作りには一切タッチしてこなかった西川が、初めて手がけた曲だ。
ドリカムにおいて、作詞はほぼ全て吉田、作曲は大半が中村だが、一部は吉田も手がけている。アレンジは全て中村の手によるもの。
極言してしまえば、ドリカムは吉田のボーカルと中村の作編曲、このふたつの才能によって成り立っている。残念ながら、西川はグループとしての体裁を整えるための要員に過ぎなかったってことだな。
結局、西川自身、10年余り在籍しても自分の居場所を見つけられなかったのだろう、2002年に脱退している。
そんな彼ではあったが、「あの夏の花火」は伸びやかなメロディ・ラインが美しい良曲だ。
西川はこれとあと2曲しか作曲にタッチしていないが、彼の残した「いい仕事」として記憶に留めておくべきだろう。
「DA DIDDLY DEET DEE」は作曲も吉田による、跳ねるエイト・ビートが特徴的なポップ・ナンバー。吉田のボーカルのハジけかたがハンパない。
ピアノとかギターなどの楽器に頼ることなく、こんなふうに自由自在に曲作りができる彼女ってスゴいなと思う。天然コンポーザーとでも呼ぼうか。
「SAYONARA(ExtendedVersion)」は、ラテン風味のディスコ・ビートのナンバー。中村は70年代のTV番組「ソウル・トレイン」をしっかりチェックしていたんだろうなと思ってしまう、見事なファンキー・アレンジだ。
「行きたいのはMOUNTAIN MOUNTAIN」は、ダジャレなタイトルが楽しい、スウィング・ジャズ・ナンバー。ここで聴かせる吉田のボーカルは、まさに「平成の美空ひばり」とでもいうべき強力なもの。卓越したリズム感において、吉田はひばりと互角といっていいだろう。
中村のブラス・アレンジには、一分の隙もない。見事だ。
「眼鏡越しの空」は、再び吉田作曲のナンバー。切ないラブ・ソングだ。ブラス・セクションの響きが大人っぽいポップスに仕上げている。
B面トップに相当するのが、「決戦は金曜日(Version of “THE DYNAMITES”)」。先行シングルとしてリリース、グループ初のミリオン・ヒットとなったナンバー。
これがもう、完全にアース・ウィンド&ファイアーのトリビュート。ちょっと似ている、どころじゃない。
名曲「Let’s Groove」のノリを見事に再現してみせている。100人が聴いたら、100人ともそう感じるであろう出来ばえ。
こうなると、ここまで寄せ切ったアレンジャーの手柄というほかない。中村正人、おそるべし。
「涙とたたかってる」は作曲が吉田と中村の共作。ブラック・コンテンポラリー系のアレンジで、落ち着いた雰囲気に仕上がったバラード。
「HIDE AND SEEK」はファンク・アレンジでラップも聴けるナンバー。いかにも中村好みのブラコン路線だ。
「太陽が見てる」は「決戦は〜」と両A面扱いでシングル化されたナンバー。アースやラムゼイ・ルイスを意識したような、ラテン・テイストなファンク。
ドリカムはもともと、スウィング・アウト・シスターのような洗練されたポップ・サウンドを目指して結成されたグループだ。
日本固有の湿度の高いポップスなどは、はなから視野に入れず、海外の一番センスのいいアーティストしかお手本にしない、そういう目線の高さがサウンドに感じられる。
そしてリスナーも、その良さに気づいた事で、彼らは意外と早く(2年くらいで)表舞台に出ることが出来た。
リスナーの耳が、それまでの何十年間の音楽体験を経て、十二分に肥えていたからこそ、ドリカムはこれほどまでに成功したのであろう。
「SWEET SWEET SWEET」は、ハープ、ストリングス、ブラス・アレンジも加わったソウル・バラード。珍しく、男声ボーカルとの絡みもある。これはグループ・メンバーではなく、フランキーというシンガー。
極上のラブ・ソングのあとは、がぜん元気の出る「晴れたらいいね」で締めくくり。ご存知、TVドラマ「ひらり」の主題歌として、大ヒット(オリコン1位)したナンバーだ。
明るい曲調とはうらはらに、やたらと転調が多い複雑な構成の曲でもある。吉田美和、天然コンポーザーだけに、すげー曲を作るな。
そしてアレンジは、一聴瞭然のパート・バカラック・スタイル。ブラス・アレンジ、テンポ・チェンジなども完全にそのままだ。
思えば、バカラックは洗練された大人ポップスの本家みたいなものだから、スウィング・アウト・シスターに惹かれた彼らがそこにまで行きつくのも当然といえば、当然か。
ドリカムが持てる全てを発揮して作り出した、一大サウンド・ワールド。まるでディズニー・ランドのような、バラエティに満ちた音を楽しもう。
30年の歳月を、あっという間に巻き戻して、当時の自分に出会わせてくれるアルバムだ。
ドリカムは間違いなく、時の魔法使いだな。
<独断評価>★★★★
ポップ・グループ、ドリームズ・カム・トゥルーの5枚目のアルバム。92年リリース。彼ら自身とマイク・ピラによるプロデュース。ピラはデビュー・アルバム以来の英国人プロデューサーだ。
92年というと、なんともう30年以上も前のアルバムではないか!
時の経過の異常なまでの速さに、目まいすら覚える筆者であった。
リリース当時、あっという間に300万枚を売り上げ、本邦初のトリプル・ミリオンという大記録を打ち立てたのを昨日のことのように覚えている。
久しぶりに聴き返してみて、筆者は改めてグループのモンスターぶりを再認識した。
ラジオのジングル風の「The Swinging Star」で本盤は始まる。つまり、アルバム全体をさまざまな曲を流すラジオ番組に見たてた、洒落た構成なのだ。
「あの夏の花火」は、ボーカルの吉田美和が作詞、作曲はベースの中村正人とキーボードの西川隆宏の共作。デビュー以来曲作りには一切タッチしてこなかった西川が、初めて手がけた曲だ。
ドリカムにおいて、作詞はほぼ全て吉田、作曲は大半が中村だが、一部は吉田も手がけている。アレンジは全て中村の手によるもの。
極言してしまえば、ドリカムは吉田のボーカルと中村の作編曲、このふたつの才能によって成り立っている。残念ながら、西川はグループとしての体裁を整えるための要員に過ぎなかったってことだな。
結局、西川自身、10年余り在籍しても自分の居場所を見つけられなかったのだろう、2002年に脱退している。
そんな彼ではあったが、「あの夏の花火」は伸びやかなメロディ・ラインが美しい良曲だ。
西川はこれとあと2曲しか作曲にタッチしていないが、彼の残した「いい仕事」として記憶に留めておくべきだろう。
「DA DIDDLY DEET DEE」は作曲も吉田による、跳ねるエイト・ビートが特徴的なポップ・ナンバー。吉田のボーカルのハジけかたがハンパない。
ピアノとかギターなどの楽器に頼ることなく、こんなふうに自由自在に曲作りができる彼女ってスゴいなと思う。天然コンポーザーとでも呼ぼうか。
「SAYONARA(ExtendedVersion)」は、ラテン風味のディスコ・ビートのナンバー。中村は70年代のTV番組「ソウル・トレイン」をしっかりチェックしていたんだろうなと思ってしまう、見事なファンキー・アレンジだ。
「行きたいのはMOUNTAIN MOUNTAIN」は、ダジャレなタイトルが楽しい、スウィング・ジャズ・ナンバー。ここで聴かせる吉田のボーカルは、まさに「平成の美空ひばり」とでもいうべき強力なもの。卓越したリズム感において、吉田はひばりと互角といっていいだろう。
中村のブラス・アレンジには、一分の隙もない。見事だ。
「眼鏡越しの空」は、再び吉田作曲のナンバー。切ないラブ・ソングだ。ブラス・セクションの響きが大人っぽいポップスに仕上げている。
B面トップに相当するのが、「決戦は金曜日(Version of “THE DYNAMITES”)」。先行シングルとしてリリース、グループ初のミリオン・ヒットとなったナンバー。
これがもう、完全にアース・ウィンド&ファイアーのトリビュート。ちょっと似ている、どころじゃない。
名曲「Let’s Groove」のノリを見事に再現してみせている。100人が聴いたら、100人ともそう感じるであろう出来ばえ。
こうなると、ここまで寄せ切ったアレンジャーの手柄というほかない。中村正人、おそるべし。
「涙とたたかってる」は作曲が吉田と中村の共作。ブラック・コンテンポラリー系のアレンジで、落ち着いた雰囲気に仕上がったバラード。
「HIDE AND SEEK」はファンク・アレンジでラップも聴けるナンバー。いかにも中村好みのブラコン路線だ。
「太陽が見てる」は「決戦は〜」と両A面扱いでシングル化されたナンバー。アースやラムゼイ・ルイスを意識したような、ラテン・テイストなファンク。
ドリカムはもともと、スウィング・アウト・シスターのような洗練されたポップ・サウンドを目指して結成されたグループだ。
日本固有の湿度の高いポップスなどは、はなから視野に入れず、海外の一番センスのいいアーティストしかお手本にしない、そういう目線の高さがサウンドに感じられる。
そしてリスナーも、その良さに気づいた事で、彼らは意外と早く(2年くらいで)表舞台に出ることが出来た。
リスナーの耳が、それまでの何十年間の音楽体験を経て、十二分に肥えていたからこそ、ドリカムはこれほどまでに成功したのであろう。
「SWEET SWEET SWEET」は、ハープ、ストリングス、ブラス・アレンジも加わったソウル・バラード。珍しく、男声ボーカルとの絡みもある。これはグループ・メンバーではなく、フランキーというシンガー。
極上のラブ・ソングのあとは、がぜん元気の出る「晴れたらいいね」で締めくくり。ご存知、TVドラマ「ひらり」の主題歌として、大ヒット(オリコン1位)したナンバーだ。
明るい曲調とはうらはらに、やたらと転調が多い複雑な構成の曲でもある。吉田美和、天然コンポーザーだけに、すげー曲を作るな。
そしてアレンジは、一聴瞭然のパート・バカラック・スタイル。ブラス・アレンジ、テンポ・チェンジなども完全にそのままだ。
思えば、バカラックは洗練された大人ポップスの本家みたいなものだから、スウィング・アウト・シスターに惹かれた彼らがそこにまで行きつくのも当然といえば、当然か。
ドリカムが持てる全てを発揮して作り出した、一大サウンド・ワールド。まるでディズニー・ランドのような、バラエティに満ちた音を楽しもう。
30年の歳月を、あっという間に巻き戻して、当時の自分に出会わせてくれるアルバムだ。
ドリカムは間違いなく、時の魔法使いだな。
<独断評価>★★★★