2023年1月24日(火)
#433 オリジナル・ラブ「Desire」(ポニーキャニオン PCCA-00986)
日本のバンド、オリジナル・ラブの6枚目のスタジオ・アルバム。96年リリース。田島貴男によるプロデュース。
オリジナル・ラブ(以下オリラブ)はシンガー田島貴男を中心とするバンドとして88年にスタート、95年後半以降は彼のソロ・プロジェクトとなっている。
ほぼ全ての曲の歌唱・作詞・作曲、そしてアレンジを田島が行う、文字通りのワンマン・バンドである。
商業的には93年のTVドラマ主題歌「接吻-kiss-」のヒットでブレイク、96年の同じく「プライマル」もヒット、人気を確かなものとした。
何回か休止期を挟んではいるものの、現在もしっかりと活動中であり、CDリリースも続いている。
本盤は、オリラブがソロ・プロジェクトになって2年目、レーベルも移籍して2年目に、先行シングル「プライマル」「Words of Love」をフィーチャーして発表されたアルバム。ワンマン・プロジェクトにふさわしい、田島の顔写真のみのジャケット。
リリース時の惹句がスゲーよ。「未知なる荒野へ一歩を踏み出した、革新的ニュー・アルバム」と来たもんだ。
でも聴いてみると、それもまんざらフカしじゃないって分かるはずだ。
元祖シブヤ系とか言われていた田島だが、今回はその手の小綺麗なオサレ・サウンドではなく、ワールド・ミュージックへのアプローチが随所に見られて、それまでのオリラブのイメージを見事に塗り替えているからだ。
オープニングの「Hum A Tune」はエキゾチックなシタール・ギターのソロから始まるロック。無国籍な音楽世界が、ここから広がっていく。
ジャズ、フォーク、エスニック。そういった諸音楽のエッセンスが、この一曲に溶け込んでいる。
バックは旧知のミュージシャンばかり。ピチカート・ファイヴでの盟友、中西康陽を始め、ドクター・キョン、バカボン鈴木、三浦晃嗣らだ。
「ブラック・コーヒー」は、陽気なサンバ・ナンバー。ホーン・セクションも3人加わり、ノリノリなサウンドで歌いまくる田島。気持ち良さげである。
「ガンボ・チャンプルー・ヌードル」はタイトルで分かるように、ニューオリンズ・サウンドと沖縄音楽のハイ・ブリッド。
かつて久保田麻琴と夕焼け楽団が得意としていた、チャンプルー(ごた混ぜ)ミュージックの再来だな。
キョンのピアノも水を得た魚のよう。三線をゲスト頼みでなく、田島本人が弾いているというのも、本気度が感じられて、マル。
「青空のむこうから」は、一見アコギをベースにした普通のフォークロック・ナンバーのように見えるが、キョンが弾くザディコ風のアコーディオン、中近東風のギター・メロディ、田島の多重録音コーラスなどが重なり合い、不思議な音世界を創出している。これぞ、ネオ・オリラブ・ワールド!
「Masked」は激しいロックンロール・ナンバー。ギター、ピアノ、そしてホーン。ストーンズにも通ずる、荒々しいスワンプ・ロック。
オリラブ=ポップ・バンドだと思っていた人たちは、耳を疑うかも。
でも、これもまた田島が好み、求める音楽なのだ。
「Words of Love」はシングル曲。いかにも世間ウケのする、ロマンチックなロック・バラード。ギター、ピアノ、コーラスの完璧なアレンジは、やはりオリラブならでは。
ポップ職人の手だれの逸品とは、まさにこれである。
「黒猫」はニューオリンズと中近東、ヨーロッパが一所に集結したような、絢爛たるサウンド。
パーカッション隊のリズムの奔流に、巻き込まれそうな一曲だ。
「日曜日のルンバ」はルンバといいつつも、レゲエっぽくもあるナンバー。
オリラブ流に洗練された、後乗りビートに乗って繰り広げられる、名手松田幸一のブルース・ハープがやけにカッコいい。
「プライマル」はシングル・バージョンとは異なるアルバム・ミックス。正統派のラブ・バラード。
中西のツボを押さえたピアノが、美しいメロディを引き立ててくれる。
ラストの「少年とスプーン」は、ギター・サウンドを前面に出したフォーク・ロック。多感な少年の日常をスケッチした佳曲。
田島本人の多重録音による爽やかなコーラスが、掛け値なく素晴らしい。
以上10曲。シングルは手堅いこれまでのバラード・スタイルを守りつつも、それ以外ではさまざまな冒険、挑戦をしている。それがすべて成功しているともいえないが、何事もチャレンジ、ということなのだろう。
これだけ幅広いサウンドに仕上げることが出来るのも、田島貴男のミュージシャンとしての底知れぬ実力あってこそだ。
歌唱力、作詞・作曲能力、楽器演奏能力、プロデュース能力。どれかひとつが欠けても、これだけのものは作り出せない。
ライブ・ステージの彼も、タッパがあってまことに「映える」田島。
天はいったい、いくつの物を彼に与えたのだろう。
嫉妬とか羨望とか、そういう卑小な感情など遥かに超えて、畏敬、崇拝の心を抱きたくなる偉才、それが田島貴男である。
<独断評価>★★★★
日本のバンド、オリジナル・ラブの6枚目のスタジオ・アルバム。96年リリース。田島貴男によるプロデュース。
オリジナル・ラブ(以下オリラブ)はシンガー田島貴男を中心とするバンドとして88年にスタート、95年後半以降は彼のソロ・プロジェクトとなっている。
ほぼ全ての曲の歌唱・作詞・作曲、そしてアレンジを田島が行う、文字通りのワンマン・バンドである。
商業的には93年のTVドラマ主題歌「接吻-kiss-」のヒットでブレイク、96年の同じく「プライマル」もヒット、人気を確かなものとした。
何回か休止期を挟んではいるものの、現在もしっかりと活動中であり、CDリリースも続いている。
本盤は、オリラブがソロ・プロジェクトになって2年目、レーベルも移籍して2年目に、先行シングル「プライマル」「Words of Love」をフィーチャーして発表されたアルバム。ワンマン・プロジェクトにふさわしい、田島の顔写真のみのジャケット。
リリース時の惹句がスゲーよ。「未知なる荒野へ一歩を踏み出した、革新的ニュー・アルバム」と来たもんだ。
でも聴いてみると、それもまんざらフカしじゃないって分かるはずだ。
元祖シブヤ系とか言われていた田島だが、今回はその手の小綺麗なオサレ・サウンドではなく、ワールド・ミュージックへのアプローチが随所に見られて、それまでのオリラブのイメージを見事に塗り替えているからだ。
オープニングの「Hum A Tune」はエキゾチックなシタール・ギターのソロから始まるロック。無国籍な音楽世界が、ここから広がっていく。
ジャズ、フォーク、エスニック。そういった諸音楽のエッセンスが、この一曲に溶け込んでいる。
バックは旧知のミュージシャンばかり。ピチカート・ファイヴでの盟友、中西康陽を始め、ドクター・キョン、バカボン鈴木、三浦晃嗣らだ。
「ブラック・コーヒー」は、陽気なサンバ・ナンバー。ホーン・セクションも3人加わり、ノリノリなサウンドで歌いまくる田島。気持ち良さげである。
「ガンボ・チャンプルー・ヌードル」はタイトルで分かるように、ニューオリンズ・サウンドと沖縄音楽のハイ・ブリッド。
かつて久保田麻琴と夕焼け楽団が得意としていた、チャンプルー(ごた混ぜ)ミュージックの再来だな。
キョンのピアノも水を得た魚のよう。三線をゲスト頼みでなく、田島本人が弾いているというのも、本気度が感じられて、マル。
「青空のむこうから」は、一見アコギをベースにした普通のフォークロック・ナンバーのように見えるが、キョンが弾くザディコ風のアコーディオン、中近東風のギター・メロディ、田島の多重録音コーラスなどが重なり合い、不思議な音世界を創出している。これぞ、ネオ・オリラブ・ワールド!
「Masked」は激しいロックンロール・ナンバー。ギター、ピアノ、そしてホーン。ストーンズにも通ずる、荒々しいスワンプ・ロック。
オリラブ=ポップ・バンドだと思っていた人たちは、耳を疑うかも。
でも、これもまた田島が好み、求める音楽なのだ。
「Words of Love」はシングル曲。いかにも世間ウケのする、ロマンチックなロック・バラード。ギター、ピアノ、コーラスの完璧なアレンジは、やはりオリラブならでは。
ポップ職人の手だれの逸品とは、まさにこれである。
「黒猫」はニューオリンズと中近東、ヨーロッパが一所に集結したような、絢爛たるサウンド。
パーカッション隊のリズムの奔流に、巻き込まれそうな一曲だ。
「日曜日のルンバ」はルンバといいつつも、レゲエっぽくもあるナンバー。
オリラブ流に洗練された、後乗りビートに乗って繰り広げられる、名手松田幸一のブルース・ハープがやけにカッコいい。
「プライマル」はシングル・バージョンとは異なるアルバム・ミックス。正統派のラブ・バラード。
中西のツボを押さえたピアノが、美しいメロディを引き立ててくれる。
ラストの「少年とスプーン」は、ギター・サウンドを前面に出したフォーク・ロック。多感な少年の日常をスケッチした佳曲。
田島本人の多重録音による爽やかなコーラスが、掛け値なく素晴らしい。
以上10曲。シングルは手堅いこれまでのバラード・スタイルを守りつつも、それ以外ではさまざまな冒険、挑戦をしている。それがすべて成功しているともいえないが、何事もチャレンジ、ということなのだろう。
これだけ幅広いサウンドに仕上げることが出来るのも、田島貴男のミュージシャンとしての底知れぬ実力あってこそだ。
歌唱力、作詞・作曲能力、楽器演奏能力、プロデュース能力。どれかひとつが欠けても、これだけのものは作り出せない。
ライブ・ステージの彼も、タッパがあってまことに「映える」田島。
天はいったい、いくつの物を彼に与えたのだろう。
嫉妬とか羨望とか、そういう卑小な感情など遥かに超えて、畏敬、崇拝の心を抱きたくなる偉才、それが田島貴男である。
<独断評価>★★★★