2023年1月30日(月)
#439 THE JAZZTET「MEET THE JAZZTET」(Fresh Sound FSR1652)
ジャズ・トランペッター、アート・ファーマーと、サックス・プレイヤー、ベニー・ゴルスンの双頭バンド、それがザ・ジャズテットだ。
ジャズテットは59年結成。本盤がデビュー・アルバムとなる。60年リリース。ケイ・ノートンによるプロデュース。
かつて本欄でアート・ファーマーのアルバム「モダン・アート」を紹介したことがあるが、ジャズテットの結成は58年リリースのそのアルバムがきっかけとなっている。
そちらは二管でピアノはビル・エヴァンス、ドラムスはデイヴ・ベイリーだったが、ジャズテットのメンバーはファーマー、ゴルスンの他に、トロンボーンのカーティス・フラー、ピアノのマッコイ・タイナー、ベースのアディスン・ファーマー(アートの双子の弟)、ドラムスのレックス・ハンフリーズの6人編成。三管体制である。
オープニングは「Serenata」。リロイ・アンダースン、ミッチェル・パリッシュの作品。
アンダースンは「シンコペーテッド クロック」「スレイライド」などの作曲、パリッシュは「スターダスト」「アラバマに星落ちて」などの作詞で有名である。
華やかなムードのテーマ演奏から一転、アップ・テンポで激しくスウィングするナンバー。
ソロはゴルスン、そしてファーマー。再びテーマに戻って、終了。3分半と短かめながら、濃い内容の一曲だ。
「It Ain’t Necessarily So」はガーシュウィン兄弟の作品。オペラ「ポーギーとベス」中の一曲で、多くのミュージシャン、シンガーによりカバーされている。
ファーマー、次いでゴルスンによりブルーズィなテーマが始まり、フラー、ファーマー、タイナーとソロが引き継がれていく。
ファーマーによるテーマに戻り、フェイドアウトで曲は終わる。
ここでは各プレイヤーのソロだけでなく、ホーン・アンサンブルにも注目したい。レギュラー・バンドならではの一糸乱れぬハーモニーもまた、ジャズテットの魅力だ。
続く「Avalon」は稀代のシンガー、アル・ジョルスンによりヒットした20年の曲。
タイナーの速いソロで始まり、フラー、ファーマー、ゴルスンへとソロが続く。典型的なビバップ・スタイルだ。テーマを合奏して終了。
デビューして日の浅いタイナーが、すでに後年を思わせる、緊迫感あふれるソロを披露しているので、そこも聴きどころだ。
同年、彼はジョン・コルトレーンのバンドにも参加することになる。
スタンダードが3曲続いたところで、オリジナル・ナンバーへ。「I Remember Clifford」である。
これはベニー・ゴルスンの作品。ジャズテットの他のオリジナルも、多くは彼の作曲である。ホーン・アレンジも彼が手がけている。
56年に亡くなった天才トランペッター、クリフォード・ブラウンを偲んで作られたバラード。哀感に満ちた美しいメロディで、その後ジャズ・スタンダードとなっている。
ファーマーがブラウニーばりの情感あふれるソロを聴かせて、聴くもの全てを魅了してくれる。
この一曲を聴くだけのために、このアルバムを入手しても惜しくはないだろう。
「Blues March」は「モダン・アート」の所収曲の再演。マーチの勇ましいリズムでブルースを演奏するという、珍しい曲想のナンバー。
テーマ演奏、ファーマー、ハンフリーズ、そしてフラーのソロが続き、テーマに戻って終わる。
この曲でも、整然としたホーン・アンサンブルが光っている。
「It’s All Right with Me」はコール・ポーターの作品。ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、クリス・コナー、ペギー・リー、エラ・フィッツジェラルドら多くのジャズ・シンガーの歌によって知られているが、演奏でのカバーも多い。ソニー・ロリンズ、エロール・ガーナー、ハリー・ジェイムズなどが有名どころだ。
このスタンダードを彼らはごく速いテンポでプレイしていく。フラーの吹くテーマ、そしてアドリブ・ソロで構成されており、トロンボーンを前面に押し出した一曲となっている。
フラーの柔らかなトーン、縦横なフレージングもまた、ジャズテットのウリのひとつだな。
「Park Avenue Petite」はピアノ演奏から始まるスロー・バラード。
ホーン・アンサンブル主体の演奏で、しっとりとした時間を生み出してくれる。ゴルスンのアレンジがなんともいいんだな、これが。
アドリブに頼り過ぎることなく、きちんと練ったサウンドを構築して行くのが、ジャズテットのポリシーなのだろう。
「Mox Nix」は、再び「モダン・アート」内のナンバーの再演だ。本盤では唯一の、ファーマーの作品。
勢い激しいピアノのイントロから始まり、テーマ演奏、ファーマー、ゴルスン、フラー、タイナーとソロが続き、最後に息も詰まるようなテーマ演奏で終了。
本盤中、最高にスリリングな一曲。
「Easy Living」はラルフ・レインジャー、レオ・ロビンの作品。ゆったりとしたバラード。
レインジャーは30〜40年代のミュージカル作曲家、ロビンは「サンクス・フォー・ザ・メモリー」「紳士は金髪がお好き」などの作詞で知られる。
ここでは、全編にわたり吹きまくるゴルスンが主役だ。
大先輩コールマン・ホーキンスをほうふつとさせるプレイが、なんとも粋である。
ラストの「Killer Joe」は冒頭と末尾に紹介のアナウンスが付くという、珍しい一曲。スローなスウィング・ナンバー。
後に作曲者ゴルスンが何度も再演したほか、レイ・ブラウン、クインシー・ジョーンズをはじめとするジャズメンによってカバーされ、ジャズ・スタンダードとなった佳曲である。
テーマはファーマーがミュート・トランペットで演奏、ゴルスンがソロを引き継ぐ。そしてフラー、タイナーへと続き、テーマで終わる。
そのドライヴ感は、圧倒的のひと言である。
ジャズテットのこのアルバムは、前の時代のジャズをきちんと継承しながらも、60年代の新しいジャズをも模索した、スモール・バンド・ジャズの佳作と言える。
急ごしらえのジャム・セッション的なバンドではなく、レギュラー・メンバーで、時間をかけてじっくりと設計した音楽を生み出す。こういう姿勢が、この一枚に伺える。
アート・ファーマー、ベニー・ゴルスンの、演奏・作曲両面にわたる稀有な才能を味わってみよう。
<独断評価>★★★★
ジャズ・トランペッター、アート・ファーマーと、サックス・プレイヤー、ベニー・ゴルスンの双頭バンド、それがザ・ジャズテットだ。
ジャズテットは59年結成。本盤がデビュー・アルバムとなる。60年リリース。ケイ・ノートンによるプロデュース。
かつて本欄でアート・ファーマーのアルバム「モダン・アート」を紹介したことがあるが、ジャズテットの結成は58年リリースのそのアルバムがきっかけとなっている。
そちらは二管でピアノはビル・エヴァンス、ドラムスはデイヴ・ベイリーだったが、ジャズテットのメンバーはファーマー、ゴルスンの他に、トロンボーンのカーティス・フラー、ピアノのマッコイ・タイナー、ベースのアディスン・ファーマー(アートの双子の弟)、ドラムスのレックス・ハンフリーズの6人編成。三管体制である。
オープニングは「Serenata」。リロイ・アンダースン、ミッチェル・パリッシュの作品。
アンダースンは「シンコペーテッド クロック」「スレイライド」などの作曲、パリッシュは「スターダスト」「アラバマに星落ちて」などの作詞で有名である。
華やかなムードのテーマ演奏から一転、アップ・テンポで激しくスウィングするナンバー。
ソロはゴルスン、そしてファーマー。再びテーマに戻って、終了。3分半と短かめながら、濃い内容の一曲だ。
「It Ain’t Necessarily So」はガーシュウィン兄弟の作品。オペラ「ポーギーとベス」中の一曲で、多くのミュージシャン、シンガーによりカバーされている。
ファーマー、次いでゴルスンによりブルーズィなテーマが始まり、フラー、ファーマー、タイナーとソロが引き継がれていく。
ファーマーによるテーマに戻り、フェイドアウトで曲は終わる。
ここでは各プレイヤーのソロだけでなく、ホーン・アンサンブルにも注目したい。レギュラー・バンドならではの一糸乱れぬハーモニーもまた、ジャズテットの魅力だ。
続く「Avalon」は稀代のシンガー、アル・ジョルスンによりヒットした20年の曲。
タイナーの速いソロで始まり、フラー、ファーマー、ゴルスンへとソロが続く。典型的なビバップ・スタイルだ。テーマを合奏して終了。
デビューして日の浅いタイナーが、すでに後年を思わせる、緊迫感あふれるソロを披露しているので、そこも聴きどころだ。
同年、彼はジョン・コルトレーンのバンドにも参加することになる。
スタンダードが3曲続いたところで、オリジナル・ナンバーへ。「I Remember Clifford」である。
これはベニー・ゴルスンの作品。ジャズテットの他のオリジナルも、多くは彼の作曲である。ホーン・アレンジも彼が手がけている。
56年に亡くなった天才トランペッター、クリフォード・ブラウンを偲んで作られたバラード。哀感に満ちた美しいメロディで、その後ジャズ・スタンダードとなっている。
ファーマーがブラウニーばりの情感あふれるソロを聴かせて、聴くもの全てを魅了してくれる。
この一曲を聴くだけのために、このアルバムを入手しても惜しくはないだろう。
「Blues March」は「モダン・アート」の所収曲の再演。マーチの勇ましいリズムでブルースを演奏するという、珍しい曲想のナンバー。
テーマ演奏、ファーマー、ハンフリーズ、そしてフラーのソロが続き、テーマに戻って終わる。
この曲でも、整然としたホーン・アンサンブルが光っている。
「It’s All Right with Me」はコール・ポーターの作品。ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、クリス・コナー、ペギー・リー、エラ・フィッツジェラルドら多くのジャズ・シンガーの歌によって知られているが、演奏でのカバーも多い。ソニー・ロリンズ、エロール・ガーナー、ハリー・ジェイムズなどが有名どころだ。
このスタンダードを彼らはごく速いテンポでプレイしていく。フラーの吹くテーマ、そしてアドリブ・ソロで構成されており、トロンボーンを前面に押し出した一曲となっている。
フラーの柔らかなトーン、縦横なフレージングもまた、ジャズテットのウリのひとつだな。
「Park Avenue Petite」はピアノ演奏から始まるスロー・バラード。
ホーン・アンサンブル主体の演奏で、しっとりとした時間を生み出してくれる。ゴルスンのアレンジがなんともいいんだな、これが。
アドリブに頼り過ぎることなく、きちんと練ったサウンドを構築して行くのが、ジャズテットのポリシーなのだろう。
「Mox Nix」は、再び「モダン・アート」内のナンバーの再演だ。本盤では唯一の、ファーマーの作品。
勢い激しいピアノのイントロから始まり、テーマ演奏、ファーマー、ゴルスン、フラー、タイナーとソロが続き、最後に息も詰まるようなテーマ演奏で終了。
本盤中、最高にスリリングな一曲。
「Easy Living」はラルフ・レインジャー、レオ・ロビンの作品。ゆったりとしたバラード。
レインジャーは30〜40年代のミュージカル作曲家、ロビンは「サンクス・フォー・ザ・メモリー」「紳士は金髪がお好き」などの作詞で知られる。
ここでは、全編にわたり吹きまくるゴルスンが主役だ。
大先輩コールマン・ホーキンスをほうふつとさせるプレイが、なんとも粋である。
ラストの「Killer Joe」は冒頭と末尾に紹介のアナウンスが付くという、珍しい一曲。スローなスウィング・ナンバー。
後に作曲者ゴルスンが何度も再演したほか、レイ・ブラウン、クインシー・ジョーンズをはじめとするジャズメンによってカバーされ、ジャズ・スタンダードとなった佳曲である。
テーマはファーマーがミュート・トランペットで演奏、ゴルスンがソロを引き継ぐ。そしてフラー、タイナーへと続き、テーマで終わる。
そのドライヴ感は、圧倒的のひと言である。
ジャズテットのこのアルバムは、前の時代のジャズをきちんと継承しながらも、60年代の新しいジャズをも模索した、スモール・バンド・ジャズの佳作と言える。
急ごしらえのジャム・セッション的なバンドではなく、レギュラー・メンバーで、時間をかけてじっくりと設計した音楽を生み出す。こういう姿勢が、この一枚に伺える。
アート・ファーマー、ベニー・ゴルスンの、演奏・作曲両面にわたる稀有な才能を味わってみよう。
<独断評価>★★★★