2023年1月9日(月)
#418 ELVIS COSTELLO「THIS YEAR’S MODEL」(Columbia CK 35331)
英国のシンガー、エルヴィス・コステロのセカンド・アルバム。78年リリース。ニック・ロウによるプロデュース。
コステロは筆者が大学に入った77年のレコードデビューだから、世に出てもう45年以上も経っている。実に早えーもんだ。
この2枚目のアルバムが日本でも話題になったことで、洋楽リスナーにもその奇妙な芸名が認知されるようになったのを、つい昨日のことのように覚えている。
コステロは54年、リヴァプール生まれ。ジャズ・ミュージシャンだった父の影響を受けて音楽に興味を持ち、バンド活動を始めた。もちろん、地元の最大のヒーロー、ビートルズ(とりわけジョン・レノン)も彼の憧れの対象だった。
77年、パブロックの旗手ニック・ロウに認められたコステロは、彼のプロデュースでシングル「Less Than Zero」をリリースしてデビュー。同年にはファースト・アルバムも出した(全英14位)。
そしてこの「THIS YEAR’S MODEL」で全英4位、全米30位となり、人気に拍車がかかった。
オープニングの「No Action」からラストの「Radio Radio」に至るまでの11曲(米国版)はおおむね、3分弱から長くても4分以内の短い曲ばかり。
ロックの楽曲の長尺化が進んでいた70年代においては、それは明らかな逆行現象だったが、それがむしろ大曲にうんざりしかけていたリスナーには、新鮮に感じられたのだろう。
当時はパブロックというジャンルに一応は区分けされたコステロの音楽だが、実際にはさまざまな要素を含んでいる。
それは彼が芸名として使ったエルヴィスだったり、ビートルズだったり、ビーチボーイズだったり、さらにはバディ・ホリーだったり。さらにはフィル・スペクターあたりも含まれる。
要するに、コステロが聴いてきた過去のロックやポップのエッセンスがすべて散りばめられていると言っていい。
もちろん、それはそれとすぐ分かるかたちで模倣されているわけではなく、あくまでも隠し味として使われているわけだが。
「No Action」は、コーラスワークが印象的なナンバー。コステロといえば、そのちょっと鼻にかかったようなクセのある歌声が強烈すぎて、そればかり話題になりがちだが、コーラスも実にパワフルなのだ。
それは他の曲についても言える。次の「This Year’s Girl」とかラストの「Radio Radio」とかがそうだ。ある意味、さわやかささえ感じる。
ポップ・ミュージックはソロボーカルのアーティストと、コーラス中心のアーティストが交互に覇権を取る、みたいな歴史を繰り返してきた。例えば、エルヴィス→ビートルズ→レッド・ツェッペリンのように。
その伝で言えば、コステロはソロボーカル型のアーティストなのだが、そこにとどまらずコーラスの方にも力を入れているところが、従来にはあまりないパターンだと言えそうだ。ソロとコーラスの二段重ね、この「コテコテ感」が好きな人にはたまらないのだ。
「Little Triggers」はバラード・ナンバー。デビュー・アルバム中の「Alison」に代表されるように、コステロはバラードもけっこう数多く書いていて、その人気は高い。彼の独特な声で歌われる甘いラブソングも、けっこうわるくない。
「Hand In Hand」「Lip Service」のようなメロディアスで軽快な曲もコステロに多い。ポップ職人的なセンスが感じられるナンバーだ。
ポップ職人と言えばその代表格、トッド・ラングレンあたりに通じるものもある。ユートピアが「Face The Music」で初期ビートルズをトリビュートしているが、それと聴き比べてみると面白いだろう。バックのサウンドはかなり違うが、メロディ・センスはわりと近いように思う。
コステロは常に「ジ・アトラクションズ」というバンドと音作りをともに行っているが、このバンドの最大の特徴はオルガンの音だな。
MG’Sのような厚みのあるオルガン・サウンドではなく、むしろ60年代のガレージ・バンド、あるいは日本のグループ・サウンズのようなチープな音。これが独特の味をかもしだしている。「The Beat」「Pump It Up」「You Belong To Me」「Living In Paradise」といったビート・ナンバーで、その好例を聴くことが出来る。
アトラクションズの(意外に)高い演奏力は「Lipstick Vogue」で最も発揮される。ベースを前面にフィーチャーしたパワフルな演奏は、単に過去のバンドのフォーマットをなぞるだけではない、ニューウェーブを模索するバンドの「意気込み」を感じさせる。
コステロは、そのルックスで分かるように、バディ・ホリーに始まったメガネロッカーの系譜に位置づけられるひとりだろう。ハンク・マーヴィン、ジョン・レノン、エルトン・ジョン、そしてコステロだ。
彼らの多くに共通するのは、ロック・スターというよりも一般ピープル的なスタンスで音楽を追求する姿勢ではないだろうか。
コステロも20歳と若くして結婚、デビュー時には既に子供もいた。ロック・スターを目指していたら、そいつはご法度だろうが、何よりも生活者としての自分を大切にして、日々の暮らしの中から歌の題材を得ていく、そういうライフスタイルを彼の作品に感じとることが出来る。
商業主義的音楽とは一定の距離を取り、その中に埋没しないコステロの姿勢には、好感を持つ筆者である。
ロックが巨大産業化した70年代後半に、パブロックやパンクといった「揺り戻し」が自然発生的に起こっていったが、コステロはまさにその立役者のひとりとなった。
社会風刺的な歌詞、アクの強い歌声、ガレージっぼいサウンド、でもメロディは王道そのものという、不思議な個性を合わせ持つ新時代のヒーロー。
新たなリヴァプール・サウンドの誕生を告げる一枚である。
<独断評価>★★★★
英国のシンガー、エルヴィス・コステロのセカンド・アルバム。78年リリース。ニック・ロウによるプロデュース。
コステロは筆者が大学に入った77年のレコードデビューだから、世に出てもう45年以上も経っている。実に早えーもんだ。
この2枚目のアルバムが日本でも話題になったことで、洋楽リスナーにもその奇妙な芸名が認知されるようになったのを、つい昨日のことのように覚えている。
コステロは54年、リヴァプール生まれ。ジャズ・ミュージシャンだった父の影響を受けて音楽に興味を持ち、バンド活動を始めた。もちろん、地元の最大のヒーロー、ビートルズ(とりわけジョン・レノン)も彼の憧れの対象だった。
77年、パブロックの旗手ニック・ロウに認められたコステロは、彼のプロデュースでシングル「Less Than Zero」をリリースしてデビュー。同年にはファースト・アルバムも出した(全英14位)。
そしてこの「THIS YEAR’S MODEL」で全英4位、全米30位となり、人気に拍車がかかった。
オープニングの「No Action」からラストの「Radio Radio」に至るまでの11曲(米国版)はおおむね、3分弱から長くても4分以内の短い曲ばかり。
ロックの楽曲の長尺化が進んでいた70年代においては、それは明らかな逆行現象だったが、それがむしろ大曲にうんざりしかけていたリスナーには、新鮮に感じられたのだろう。
当時はパブロックというジャンルに一応は区分けされたコステロの音楽だが、実際にはさまざまな要素を含んでいる。
それは彼が芸名として使ったエルヴィスだったり、ビートルズだったり、ビーチボーイズだったり、さらにはバディ・ホリーだったり。さらにはフィル・スペクターあたりも含まれる。
要するに、コステロが聴いてきた過去のロックやポップのエッセンスがすべて散りばめられていると言っていい。
もちろん、それはそれとすぐ分かるかたちで模倣されているわけではなく、あくまでも隠し味として使われているわけだが。
「No Action」は、コーラスワークが印象的なナンバー。コステロといえば、そのちょっと鼻にかかったようなクセのある歌声が強烈すぎて、そればかり話題になりがちだが、コーラスも実にパワフルなのだ。
それは他の曲についても言える。次の「This Year’s Girl」とかラストの「Radio Radio」とかがそうだ。ある意味、さわやかささえ感じる。
ポップ・ミュージックはソロボーカルのアーティストと、コーラス中心のアーティストが交互に覇権を取る、みたいな歴史を繰り返してきた。例えば、エルヴィス→ビートルズ→レッド・ツェッペリンのように。
その伝で言えば、コステロはソロボーカル型のアーティストなのだが、そこにとどまらずコーラスの方にも力を入れているところが、従来にはあまりないパターンだと言えそうだ。ソロとコーラスの二段重ね、この「コテコテ感」が好きな人にはたまらないのだ。
「Little Triggers」はバラード・ナンバー。デビュー・アルバム中の「Alison」に代表されるように、コステロはバラードもけっこう数多く書いていて、その人気は高い。彼の独特な声で歌われる甘いラブソングも、けっこうわるくない。
「Hand In Hand」「Lip Service」のようなメロディアスで軽快な曲もコステロに多い。ポップ職人的なセンスが感じられるナンバーだ。
ポップ職人と言えばその代表格、トッド・ラングレンあたりに通じるものもある。ユートピアが「Face The Music」で初期ビートルズをトリビュートしているが、それと聴き比べてみると面白いだろう。バックのサウンドはかなり違うが、メロディ・センスはわりと近いように思う。
コステロは常に「ジ・アトラクションズ」というバンドと音作りをともに行っているが、このバンドの最大の特徴はオルガンの音だな。
MG’Sのような厚みのあるオルガン・サウンドではなく、むしろ60年代のガレージ・バンド、あるいは日本のグループ・サウンズのようなチープな音。これが独特の味をかもしだしている。「The Beat」「Pump It Up」「You Belong To Me」「Living In Paradise」といったビート・ナンバーで、その好例を聴くことが出来る。
アトラクションズの(意外に)高い演奏力は「Lipstick Vogue」で最も発揮される。ベースを前面にフィーチャーしたパワフルな演奏は、単に過去のバンドのフォーマットをなぞるだけではない、ニューウェーブを模索するバンドの「意気込み」を感じさせる。
コステロは、そのルックスで分かるように、バディ・ホリーに始まったメガネロッカーの系譜に位置づけられるひとりだろう。ハンク・マーヴィン、ジョン・レノン、エルトン・ジョン、そしてコステロだ。
彼らの多くに共通するのは、ロック・スターというよりも一般ピープル的なスタンスで音楽を追求する姿勢ではないだろうか。
コステロも20歳と若くして結婚、デビュー時には既に子供もいた。ロック・スターを目指していたら、そいつはご法度だろうが、何よりも生活者としての自分を大切にして、日々の暮らしの中から歌の題材を得ていく、そういうライフスタイルを彼の作品に感じとることが出来る。
商業主義的音楽とは一定の距離を取り、その中に埋没しないコステロの姿勢には、好感を持つ筆者である。
ロックが巨大産業化した70年代後半に、パブロックやパンクといった「揺り戻し」が自然発生的に起こっていったが、コステロはまさにその立役者のひとりとなった。
社会風刺的な歌詞、アクの強い歌声、ガレージっぼいサウンド、でもメロディは王道そのものという、不思議な個性を合わせ持つ新時代のヒーロー。
新たなリヴァプール・サウンドの誕生を告げる一枚である。
<独断評価>★★★★