2023年3月7日(火)
#475 GARY MOORE「STILL GOT THE BLUES」( Virgin CDV 2612)
英国のロック・ギタリスト、ゲイリー・ムーアのスタジオ・アルバム。90年リリース。ムーア本人、イアン・テイラーによるプロデュース。
ゲイリー・ムーアについて説明し始めると、キリがない。本欄ですでに取り上げたこともあるので、とりあえず1952年、北アイルランドのベルファスト生まれとだけ伝えておこう。
いくつかのバンドを経て、78年以降はソロ活動も開始、2011年に亡くなるまで多くの作品をリリース、膨大なライブをこなしたロックの巨人である。
このソロ・アルバムは、ムーアが彼の音楽的原点であるブルースに回帰するポイントとなった一枚だ。
オープニングの「ムーヴィング・オン」はムーアの作品。派手なスライド・ギターをフィーチャーしたアップ・テンポのナンバー。
気分がアガること間違い無しの、ロックンロールだ。
「オー・プリティ・ウーマン」はA・C・ウィリアムズ作のブルース・ナンバー。アルバート・キングの代表的ヒットとしてあまりにも有名である。
ここでムーアはなんと、キング本人と共演を果たしている。ソロはムーア、キング、そしてムーアの順で聴ける。
ムーアは愛器であるギブソン・レスポール、ピーター・グリーンから譲られた「グリーニー」を思い切り熱く弾き倒していて、キングのクールなプレイとは好対照である。必聴。
「ウォーキング・バイ・マイセルフ」は、ジミー・ロジャーズの作品。シカゴ・ブルース全盛期を代表するシャッフル・ナンバーだ。
ここでもムーアは、「シカゴ・スタイルなんて俺は知らんわ!」と言わんばかりに、グリーニーをディストーションバリバリで弾きまくっており、ギターだけはロック色全開である。ハープはサックス奏者のフランク・ミード。
メーターの振り切れ方がハンパなく、心地いい。
「スティル・ゴット・ザ・ブルーズ」はムーア作のバラード・ナンバー。哀感あふれる曲作りや、泣きまくりのギター・プレイに、先輩ギタリスト、カルロス・サンタナの影響が強いのは明らかだな。
ブルースというよりは、ブルーズィなバラードという印象であるが、ストリングスを導入したサウンドは、一般受けしそうだ。「パリの散歩道」へと繋がる一曲。
「テキサス・ストラット」もムーアの作品。アップテンポのブギ・ナンバー。
ジョニー・ウィンター、ジェイムズ・コットンなどを彷彿とさせる激しいサウンドだ。容赦なく暴れまくるギターがなんともカッコいい。
「トゥー・タイアード」はテキサス出身のブルースマン、ジョニー・ギター・ワトスンの初期のヒット・ナンバー。ワトスン、マックスウェル・デイヴィスほかの作品。
のっけから始まる、異様にテンションの高いギター・プレイは、ワトスンと同郷のアルバート・コリンズ。
後半では彼に負けじと、ムーアもテンションMAXなプレイで迎え撃つ。究極のギター・バトルな一曲。
ワトスンの脱力系ボーカル、ギターとはまた違った、ハイ・ボルテージな歌とギターが面白い。
「キング・オブ・ザ・ブルース」はムーアの作品。この曲は明らかにアルバート・キングのトリビュートとして書かれている。なにせ「悪い星の下に」の一節も登場するのだから。
ブルースの王といえば通常はB・B・キングのことを指すだろうが、ここではアルバートの方と考えるのが正解。
ムーアの渾身のチョーキングが聴きものの、一曲。
ムーアのアルバート・キングへの思い入れの強さが、2曲目同様、よく分かる。
「アズ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ」はドン・ロビー作のマイナー・ブルース・バラード。「いとしのレイラ」にも引用された、あのメロディで有名だ。
ゆったりとしたテンポで、しみじみと歌い、ギターを奏でるムーア。そのプレイはピーター・グリーンの往時を想起させるものがある。ゲスト、ニッキー・ホプキンスのピアノも素晴らしい。
「ミッドナイト・ブルース」はムーア作のスロー・ブルース・ナンバー。
この曲も、しみじみ系の曲調。ストリングスを導入し、メロウな雰囲気を出している。
ギターもいつもの全開バリバリのそれでなく、抑え気味のプレイなのが曲にマッチしている。
「ザット・カインド・オブ・ウーマン」は異色の選曲。というのは、これはジョージ・ハリスン提供の作品なのだ。ムーアの意外な交友関係がこれでわかる。
ブルース・タッチのロック・ナンバー。ハリスン本人もスライド・ギター、コーラス等でゲスト参加している。
ゴリゴリのブルースに挟まれて、一服の清涼剤の感がある一曲。のちにエリック・クラプトンもこの曲をカバーしている。
「オール・ユア・ラヴ」はオーティス・ラッシュ作のブルース・ナンバー。
ラッシュの代表曲であり、クラプトンをはじめ多くの白人ミュージシャンにもカバーされている名曲。
ムーアもまた、敬愛する先輩ピーター・グリーンの影響でラッシュを目標にしている。ここではロック色極めて強めのリズムアレンジ、ギターで、ムーア流「オール・ユア・ラヴ」を披露。
ラッシュ、クラプトンとはまた違った、個性を楽しめる。
ラストの「ストップ・メッシン・アラウンド」はそのグリーンとマネージャー、クリフォード・デイヴィスの作品。
フリートウッド・マックのセカンド・アルバム「ミスター・ワンダフル」収録のブルース・ナンバー。邦題は「モタモタするな」。
ここでムーアは愛器グリーニーを使って、音質、フレーズともに完璧なピーター・グリーン・サウンドを再現してみせている。
オリジナルの細かなニュアンスまで見事に表現していて、ムーアの類いまれなる才能を再認識できる。
のちにムーアは一枚まるごとグリーンに捧げたアルバム「ブルース・フォー・グリーニー」をリリースしているが、それに繋がる一曲だ。
全編、とにかくアルバート・キング、ピーター・グリーンをはじめとするフェイバリット・ブルースマンへの熱い想いがあふれ、滲み出ている一枚。
アルバム・ジャケット写真のギター少年のように、ムーアもまた先達ミュージシャンへの一途な憧れから、自分自身の音楽を作り上げてきたのだ。
初心を忘れることなく、ブルースへの愛を語るアルバム。コアなブルースの愛好者にはあまり評価されそうにないロック寄りなサウンドだが、ゲイリー・ムーアのブルース愛は、どんなブルース・マニアにも負けてはいないと思う。
その熱い想いを、どうか感じとってほしい。
<独断評価>★★★★
英国のロック・ギタリスト、ゲイリー・ムーアのスタジオ・アルバム。90年リリース。ムーア本人、イアン・テイラーによるプロデュース。
ゲイリー・ムーアについて説明し始めると、キリがない。本欄ですでに取り上げたこともあるので、とりあえず1952年、北アイルランドのベルファスト生まれとだけ伝えておこう。
いくつかのバンドを経て、78年以降はソロ活動も開始、2011年に亡くなるまで多くの作品をリリース、膨大なライブをこなしたロックの巨人である。
このソロ・アルバムは、ムーアが彼の音楽的原点であるブルースに回帰するポイントとなった一枚だ。
オープニングの「ムーヴィング・オン」はムーアの作品。派手なスライド・ギターをフィーチャーしたアップ・テンポのナンバー。
気分がアガること間違い無しの、ロックンロールだ。
「オー・プリティ・ウーマン」はA・C・ウィリアムズ作のブルース・ナンバー。アルバート・キングの代表的ヒットとしてあまりにも有名である。
ここでムーアはなんと、キング本人と共演を果たしている。ソロはムーア、キング、そしてムーアの順で聴ける。
ムーアは愛器であるギブソン・レスポール、ピーター・グリーンから譲られた「グリーニー」を思い切り熱く弾き倒していて、キングのクールなプレイとは好対照である。必聴。
「ウォーキング・バイ・マイセルフ」は、ジミー・ロジャーズの作品。シカゴ・ブルース全盛期を代表するシャッフル・ナンバーだ。
ここでもムーアは、「シカゴ・スタイルなんて俺は知らんわ!」と言わんばかりに、グリーニーをディストーションバリバリで弾きまくっており、ギターだけはロック色全開である。ハープはサックス奏者のフランク・ミード。
メーターの振り切れ方がハンパなく、心地いい。
「スティル・ゴット・ザ・ブルーズ」はムーア作のバラード・ナンバー。哀感あふれる曲作りや、泣きまくりのギター・プレイに、先輩ギタリスト、カルロス・サンタナの影響が強いのは明らかだな。
ブルースというよりは、ブルーズィなバラードという印象であるが、ストリングスを導入したサウンドは、一般受けしそうだ。「パリの散歩道」へと繋がる一曲。
「テキサス・ストラット」もムーアの作品。アップテンポのブギ・ナンバー。
ジョニー・ウィンター、ジェイムズ・コットンなどを彷彿とさせる激しいサウンドだ。容赦なく暴れまくるギターがなんともカッコいい。
「トゥー・タイアード」はテキサス出身のブルースマン、ジョニー・ギター・ワトスンの初期のヒット・ナンバー。ワトスン、マックスウェル・デイヴィスほかの作品。
のっけから始まる、異様にテンションの高いギター・プレイは、ワトスンと同郷のアルバート・コリンズ。
後半では彼に負けじと、ムーアもテンションMAXなプレイで迎え撃つ。究極のギター・バトルな一曲。
ワトスンの脱力系ボーカル、ギターとはまた違った、ハイ・ボルテージな歌とギターが面白い。
「キング・オブ・ザ・ブルース」はムーアの作品。この曲は明らかにアルバート・キングのトリビュートとして書かれている。なにせ「悪い星の下に」の一節も登場するのだから。
ブルースの王といえば通常はB・B・キングのことを指すだろうが、ここではアルバートの方と考えるのが正解。
ムーアの渾身のチョーキングが聴きものの、一曲。
ムーアのアルバート・キングへの思い入れの強さが、2曲目同様、よく分かる。
「アズ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ」はドン・ロビー作のマイナー・ブルース・バラード。「いとしのレイラ」にも引用された、あのメロディで有名だ。
ゆったりとしたテンポで、しみじみと歌い、ギターを奏でるムーア。そのプレイはピーター・グリーンの往時を想起させるものがある。ゲスト、ニッキー・ホプキンスのピアノも素晴らしい。
「ミッドナイト・ブルース」はムーア作のスロー・ブルース・ナンバー。
この曲も、しみじみ系の曲調。ストリングスを導入し、メロウな雰囲気を出している。
ギターもいつもの全開バリバリのそれでなく、抑え気味のプレイなのが曲にマッチしている。
「ザット・カインド・オブ・ウーマン」は異色の選曲。というのは、これはジョージ・ハリスン提供の作品なのだ。ムーアの意外な交友関係がこれでわかる。
ブルース・タッチのロック・ナンバー。ハリスン本人もスライド・ギター、コーラス等でゲスト参加している。
ゴリゴリのブルースに挟まれて、一服の清涼剤の感がある一曲。のちにエリック・クラプトンもこの曲をカバーしている。
「オール・ユア・ラヴ」はオーティス・ラッシュ作のブルース・ナンバー。
ラッシュの代表曲であり、クラプトンをはじめ多くの白人ミュージシャンにもカバーされている名曲。
ムーアもまた、敬愛する先輩ピーター・グリーンの影響でラッシュを目標にしている。ここではロック色極めて強めのリズムアレンジ、ギターで、ムーア流「オール・ユア・ラヴ」を披露。
ラッシュ、クラプトンとはまた違った、個性を楽しめる。
ラストの「ストップ・メッシン・アラウンド」はそのグリーンとマネージャー、クリフォード・デイヴィスの作品。
フリートウッド・マックのセカンド・アルバム「ミスター・ワンダフル」収録のブルース・ナンバー。邦題は「モタモタするな」。
ここでムーアは愛器グリーニーを使って、音質、フレーズともに完璧なピーター・グリーン・サウンドを再現してみせている。
オリジナルの細かなニュアンスまで見事に表現していて、ムーアの類いまれなる才能を再認識できる。
のちにムーアは一枚まるごとグリーンに捧げたアルバム「ブルース・フォー・グリーニー」をリリースしているが、それに繋がる一曲だ。
全編、とにかくアルバート・キング、ピーター・グリーンをはじめとするフェイバリット・ブルースマンへの熱い想いがあふれ、滲み出ている一枚。
アルバム・ジャケット写真のギター少年のように、ムーアもまた先達ミュージシャンへの一途な憧れから、自分自身の音楽を作り上げてきたのだ。
初心を忘れることなく、ブルースへの愛を語るアルバム。コアなブルースの愛好者にはあまり評価されそうにないロック寄りなサウンドだが、ゲイリー・ムーアのブルース愛は、どんなブルース・マニアにも負けてはいないと思う。
その熱い想いを、どうか感じとってほしい。
<独断評価>★★★★