2023年3月27日(月)
#495 STEELY DAN「TWO AGAINST NATURE」(BMG/Giant BVCG-21003)
米国のロック・バンド、スティーリー・ダンの8枚目のスタジオ・アルバム。2000年リリース。ドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーによるプロデュース。
80年リリースの「ガウチョ」以来、20年ぶりにレコーディングされて大いに話題となった一枚。全米6位のヒットとなり、グラミー賞でも4部門で受賞と高い評価を得ている。
80年代はドラッグ中毒の治療のためしばらく音楽界から遠ざかっていたベッカーが、再びフェイゲンと合流したのは93年。
フェイゲンの2枚目のソロ・アルバム「カマキリアド」を録音するにあたり、プロデュースをベッカーに依頼したことが端緒となって、スティーリー・ダンとしての活動が再開した。
まずは同年にライブ・ツアーを行い、96年にも再びツアーを行う。そして2000年、いよいよこのアルバムを制作することになる。
オープニングの「ガスライティング・アビー」はフェイゲンとベッカーの共作(以下同様)。
軽快なビートで、聴き覚えのあるいつものスティーリー・サウンドが始まる。フェイゲンのクールなボーカルに、女声コーラスが絡んでいく。
パーソネルはボーカル、キーボードのフェイゲン、ギターのベッカーのほか、ベースのトム・バーニー、ドラムスのリッキー・ローソン、そしてトランペットのマイケル・レオンハート、テナーのクリス・ポッターをはじめとするホーン・セクションだ。
後半のポッターのテナー・ソロは、ズージャそのもの。
フェイゲンのジャズ趣味がそのまんま出ている演出だなと、聴くこちらも思わず笑いがこぼれてしまう。
「ホワット・ア・シェイム・アバウト・ミー」はマーサ&ヴァンデラスの64年のヒット「ダンシング・イン・ザ・ストリート」の冒頭のメロディを引用したと思われるナンバー。
でも、複雑なコード・チェンジを繰り返すおかげで、曲全体の雰囲気はまるで別物だけどね。
歌詞ももちろん、スティーリー・ダン流の皮肉に満ちたもの。明るいだけのポップスにはなりようがない。
バックのドラムスはマイケル・ホワイト、ベースとギターはベッカー。
ベッカーのギター・ソロがファンキーでなかなかシブいのである、この曲は。
アルバムタイトル曲の「トゥー・アゲインスト・ネイチャー」は、セカンド・ライン風のアクセントの強いビートのナンバー。
パーカッションも2名加わって、実に賑やかなサウンドだ。
この曲もやはり、ジャズィな混み入ったコード進行を取り入れていて、単なるR&Bチューンとはひと味もふた味も違った、スティーリー・ダンならではのスタイルになっている。
ドラムスはキース・カーロック、ベースとギターはベッカー、ギターにもうひとりジョン・ヘリントン、ヴィブラフォンにスティーヴ・シャピロ。
ベッカーのギター・ソロ、それに続くサックス・ソロがこの曲のもつ熱狂的なムードを高めている。
「ジェイニー・ランナウェイ」はミディアム・テンポのエイト・ビート・ナンバー。
ドラムスはルロイ・クラウデン、ベースとギターはベッカー。
二度にわたるアルトのソロはポッター。アルトを吹かせてもなかなかイケます、この魔法使いは。
表向きはフツーのR&Bナンバーに見せかけても、細部はやはり、彼ら独自の音で満ちている。
ちょっと皮肉っぽいノスタルジックな歌詞。ひねったコード遣い。それにハマると、確実にクセになってしまう。
まるでドラッグのように、聴き手を依存症にさせる音楽なのだ。
「オールモスト・ゴシック」は、メロディが美しい、静かなムードのジャズィ・ナンバー。
ドラムスはクラウデン、ベースはベッカー、ギターはヒュー・マクラッケン、アコギはヘリントン。
ミュートした小粋なトランペット・ソロはレオンハートによるもの。彼はいくつかの曲でホーン・アレンジも担当しており、時にはエレクトリック・ピアノも弾いている。
謎めいた気まぐれな女に翻弄されるさまを書いた歌詞が、いかにもスティーリー・ダンらしい。
「ジャック・オブ・スピード」は、ホーン・サウンドを効かせたファンキーなナンバー。
ドラムスはホワイト、ベースとギターはベッカー、パーカッションにベーシストのウィル・リーも加わっている。
この曲のベッカーのギター・ソロもいい。淡々とした展開なのだが、一音一音に感情がしっかりと込められている。
「カズン・デュプリー」は、速めのテンポのロック・ナンバー。
ドラムスはクラウデン、ベースとギターはベッカー、リズムギターはヘリントン。
軽快なビートに乗せて繰り広げられるのは、フェイゲン流の世界一クールなロックンロール。
けっして熱くはならない、でも聴き手を不思議とウキウキとさせるサウンドだ。
いとこ同士の恋愛(?)を歌ったその歌詞内容もちょっと変態っぽく、なかなかユーモラスなので、ぜひじかに聴いて確認してみてほしい。
「ネガティヴ・ガール」は、コード進行の凝ったファンク・ナンバー。
ドラムスはヴィニー・カリウタ、ベースはバーニー、ギターはディーン・パークスとボール・ジャクソン・ジュニア、ヴァイブはデイヴ・シェンク。
「引きこもりのメンヘラ」という最近では珍しくないタイプの女性を、20年以上も前にテーマにした歌詞が面白い。こういうテーマで曲を書ける作家はなかなかいないよな。
繊細にして緻密な構成は、さすがスティーリー・ダンである。
ラストの「ウエスト・オブ・ハリウッド」はアップ・テンポのビート・ナンバー。
ドラムスはサニー・エモリー、ベースはバーニー、ギターはベッカーとヘリントン。
フェイゲンはオルガンを弾きながら、虚飾の都ハリウッドに棲む人々の意味深なストーリーを、ソフトなタッチで歌う。
再び披露される、ポッターの長いテナー・ソロ。
これがコード・チェンジの連続で、実にスリリングだ。まるで映画のサスペンス・シーンに流れる音楽のよう。
ポップ・チューンの体裁を取っていても、完全にジャズだなと感じさせる一曲だ。
以上9曲、どれが特に印象的な曲というわけではないが、すべてがトップ・バンド、スティーリー・ダンとして十分なクオリティを満たしている。
ボーカル、コーラス、ソロ・プレイ、リズム、ホーンアレンジ、どれをとっても一流の出来ばえ。
シングル・ヒットを出すような曲がなくても、この出来ならば買うというリスナーが多いだろう。
流行というよりは、不易というスタイル。
それでも十分勝負ができる彼らこそ、本物中のホンモノなのであろう。
<独断評価>★★★★
米国のロック・バンド、スティーリー・ダンの8枚目のスタジオ・アルバム。2000年リリース。ドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーによるプロデュース。
80年リリースの「ガウチョ」以来、20年ぶりにレコーディングされて大いに話題となった一枚。全米6位のヒットとなり、グラミー賞でも4部門で受賞と高い評価を得ている。
80年代はドラッグ中毒の治療のためしばらく音楽界から遠ざかっていたベッカーが、再びフェイゲンと合流したのは93年。
フェイゲンの2枚目のソロ・アルバム「カマキリアド」を録音するにあたり、プロデュースをベッカーに依頼したことが端緒となって、スティーリー・ダンとしての活動が再開した。
まずは同年にライブ・ツアーを行い、96年にも再びツアーを行う。そして2000年、いよいよこのアルバムを制作することになる。
オープニングの「ガスライティング・アビー」はフェイゲンとベッカーの共作(以下同様)。
軽快なビートで、聴き覚えのあるいつものスティーリー・サウンドが始まる。フェイゲンのクールなボーカルに、女声コーラスが絡んでいく。
パーソネルはボーカル、キーボードのフェイゲン、ギターのベッカーのほか、ベースのトム・バーニー、ドラムスのリッキー・ローソン、そしてトランペットのマイケル・レオンハート、テナーのクリス・ポッターをはじめとするホーン・セクションだ。
後半のポッターのテナー・ソロは、ズージャそのもの。
フェイゲンのジャズ趣味がそのまんま出ている演出だなと、聴くこちらも思わず笑いがこぼれてしまう。
「ホワット・ア・シェイム・アバウト・ミー」はマーサ&ヴァンデラスの64年のヒット「ダンシング・イン・ザ・ストリート」の冒頭のメロディを引用したと思われるナンバー。
でも、複雑なコード・チェンジを繰り返すおかげで、曲全体の雰囲気はまるで別物だけどね。
歌詞ももちろん、スティーリー・ダン流の皮肉に満ちたもの。明るいだけのポップスにはなりようがない。
バックのドラムスはマイケル・ホワイト、ベースとギターはベッカー。
ベッカーのギター・ソロがファンキーでなかなかシブいのである、この曲は。
アルバムタイトル曲の「トゥー・アゲインスト・ネイチャー」は、セカンド・ライン風のアクセントの強いビートのナンバー。
パーカッションも2名加わって、実に賑やかなサウンドだ。
この曲もやはり、ジャズィな混み入ったコード進行を取り入れていて、単なるR&Bチューンとはひと味もふた味も違った、スティーリー・ダンならではのスタイルになっている。
ドラムスはキース・カーロック、ベースとギターはベッカー、ギターにもうひとりジョン・ヘリントン、ヴィブラフォンにスティーヴ・シャピロ。
ベッカーのギター・ソロ、それに続くサックス・ソロがこの曲のもつ熱狂的なムードを高めている。
「ジェイニー・ランナウェイ」はミディアム・テンポのエイト・ビート・ナンバー。
ドラムスはルロイ・クラウデン、ベースとギターはベッカー。
二度にわたるアルトのソロはポッター。アルトを吹かせてもなかなかイケます、この魔法使いは。
表向きはフツーのR&Bナンバーに見せかけても、細部はやはり、彼ら独自の音で満ちている。
ちょっと皮肉っぽいノスタルジックな歌詞。ひねったコード遣い。それにハマると、確実にクセになってしまう。
まるでドラッグのように、聴き手を依存症にさせる音楽なのだ。
「オールモスト・ゴシック」は、メロディが美しい、静かなムードのジャズィ・ナンバー。
ドラムスはクラウデン、ベースはベッカー、ギターはヒュー・マクラッケン、アコギはヘリントン。
ミュートした小粋なトランペット・ソロはレオンハートによるもの。彼はいくつかの曲でホーン・アレンジも担当しており、時にはエレクトリック・ピアノも弾いている。
謎めいた気まぐれな女に翻弄されるさまを書いた歌詞が、いかにもスティーリー・ダンらしい。
「ジャック・オブ・スピード」は、ホーン・サウンドを効かせたファンキーなナンバー。
ドラムスはホワイト、ベースとギターはベッカー、パーカッションにベーシストのウィル・リーも加わっている。
この曲のベッカーのギター・ソロもいい。淡々とした展開なのだが、一音一音に感情がしっかりと込められている。
「カズン・デュプリー」は、速めのテンポのロック・ナンバー。
ドラムスはクラウデン、ベースとギターはベッカー、リズムギターはヘリントン。
軽快なビートに乗せて繰り広げられるのは、フェイゲン流の世界一クールなロックンロール。
けっして熱くはならない、でも聴き手を不思議とウキウキとさせるサウンドだ。
いとこ同士の恋愛(?)を歌ったその歌詞内容もちょっと変態っぽく、なかなかユーモラスなので、ぜひじかに聴いて確認してみてほしい。
「ネガティヴ・ガール」は、コード進行の凝ったファンク・ナンバー。
ドラムスはヴィニー・カリウタ、ベースはバーニー、ギターはディーン・パークスとボール・ジャクソン・ジュニア、ヴァイブはデイヴ・シェンク。
「引きこもりのメンヘラ」という最近では珍しくないタイプの女性を、20年以上も前にテーマにした歌詞が面白い。こういうテーマで曲を書ける作家はなかなかいないよな。
繊細にして緻密な構成は、さすがスティーリー・ダンである。
ラストの「ウエスト・オブ・ハリウッド」はアップ・テンポのビート・ナンバー。
ドラムスはサニー・エモリー、ベースはバーニー、ギターはベッカーとヘリントン。
フェイゲンはオルガンを弾きながら、虚飾の都ハリウッドに棲む人々の意味深なストーリーを、ソフトなタッチで歌う。
再び披露される、ポッターの長いテナー・ソロ。
これがコード・チェンジの連続で、実にスリリングだ。まるで映画のサスペンス・シーンに流れる音楽のよう。
ポップ・チューンの体裁を取っていても、完全にジャズだなと感じさせる一曲だ。
以上9曲、どれが特に印象的な曲というわけではないが、すべてがトップ・バンド、スティーリー・ダンとして十分なクオリティを満たしている。
ボーカル、コーラス、ソロ・プレイ、リズム、ホーンアレンジ、どれをとっても一流の出来ばえ。
シングル・ヒットを出すような曲がなくても、この出来ならば買うというリスナーが多いだろう。
流行というよりは、不易というスタイル。
それでも十分勝負ができる彼らこそ、本物中のホンモノなのであろう。
<独断評価>★★★★