2023年3月17日(金)
#485 CHRIS CONNOR「CHRIS」(東芝EMI/Bethlehem TOCJ-9017)
米国の女性ジャズ・シンガー、クリス・コナーのスタジオ・アルバム。56年リリース。53〜55年録音。
クリス・コナーの名前を知っているリスナーは、今では極めて少ないであろうが、彼女が全盛期の60年代あたりは、日本にもけっこうファンがいたものだ。ジャズを志す若い女性シンガーにも、彼女のスタイルを真似するひとが少なからずいた。
そんなコナーは27年カンザスシティ生まれ。大学生時代に自分の歌が喝采を受けたことがきっかけで、シンガーを志すようになる。
ニューヨークに移住、バンドリーダー、クロード・ソーンヒルに認められ、49年に彼のレコードでコーラスとしてデビュー。以後、彼の楽団でレコードを出す。
スタン・ケントン楽団にかつて所属していたシンガー、ジューン・クリスティがコナーの歌を聴き、後任シンガーとしてケントンに強く推薦したことで、コナーの入団が決定する。
そこでヒット曲も出したが、ツアーが苦手なコナーは早々にケントン楽団を辞して、ソロに転向する。
折り良くベツレヘム・レーベルと契約、数枚のアルバムをリリースするが、その最終作がこの「クリス」である。
オープニングの「オール・アバウト・ロニー」はバラード・ナンバー。ジョー・グリーンの作品。バックはエリス・ラーキンス(p)・トリオ。
グリーンはソーンヒル楽団のロード・マネージャーを務めていた人で、コナーがプロになるきっかけを提供した、いわば恩人のひとりである。本曲はスタン・ケントン時代の53年にも録音している。
低めのハスキーな声でしっとりと歌うコナー。心が休まる一曲だ。
「マイザーズ・セレナーデ」は「ギミー・ギミー・ギミー・ギミー」という別タイトルでも知られるナンバー。
フレッド・パトリック、クロード・リース、マーヴィン・フィッシャー、ジャック・ヴァルの作品。バックは本曲から3曲連続でサイ・オリヴァー楽団。
ユーモラスな歌詞を、ビッグ・バンドをバックに歌うコナー。その大仰なサウンドにも決して引けを取らない、堂々たる歌いぶりである。
「エヴリシング・アイ・ラヴ」はコール・ポーターの作品。
ゆったりとしたテンポのスウィング・ナンバー。ゴージャス感の高いホーン・アレンジは、さすがサイ・オリヴァー楽団だ。
そのバッキングで悠々と歌うコナー。20代半ばにして、すでに姐御感があるな。
「インディアン・サマー」はアル・デュビン、ヴィクター・ハーバートの作品。
前半のインストに続いて登場するコナーは、まるで男性シンガーのように低い声で、一瞬「チェット・ベーカーか?」と思ってしまうほど(笑)。姐さん、カッケー。
「アイ・ヒア・ミュージック」はフランク・レッサー、バートン・レーンの作品。軽快なテンポのスウィング・ナンバー。バックはエリス・ラーキンス・トリオ。
ここでのコナーは、ほどよくリラックスした雰囲気で、自然なフェイクを聴かせてくれる。
「カム・バック・トゥ・ソレント」は「帰れソレントへ」の邦題でもよく知られるカンツォーネ。デ・クルティス兄弟の作品。バックのエリス・ラーキンスによるアレンジ。
小気味よく、スウィングするコナー。元はイタリア産の曲とは思えないくらい、ジャズ・ソングっぽく生まれ変わっている。
「アウト・オブ・ジス・ワールド」はジョニー・マーサー、ハロルド・アーレンの作品。バックはこれと次の曲はヴィニー・バーク(b)・クィンテット。
クラリネットの響きがノスタルジックなサウンドに乗せて、軽快に歌うコナー。
名バラード「虹の彼方」で知られる作曲家アーレンの、もうひとつの側面、動的なメロディの魅力が楽しめるナンバーだ。
「ラッシュ・ライフ」はエリントン楽団のビリー・ストレイホーンの作品。
静かなムードのバラード。ギター、フルートをフィーチャーしたバッキングが雰囲気を出している。
コナーの歌唱も、まったりとしていてナイス。
「フロム・ジス・モーメント・オン」はコール・ポーターの作品。バックはこの曲からラストまでラルフ・シャロン(p)・グループ。
アップ・テンポのスウィング・ナンバー。シャロンの達者なピアノはもとより、ジョー・ピューマのギターによるバッキングがいい感じだ。
こんな上手い演奏がバックなら、さぞ歌って楽しかろう。実際、コナー姐御もご機嫌な感じで歌いまくっている。
「ア・グッド・マン・イズ・ア・セルダム・シング」はチャールズ・ディフォレストの作品。ディフォレストは24年生まれのコンポーザー/シンガー。
ハービー・マンのフルート、シャロンのピアノのアンサンブルが美しいスロー・ナンバー。ジョージ・シアリングの流れを汲む、クール・ジャズの見本のような演奏だ。
コナーの抑えめのボーカル表現も、文句なしに素晴らしい。
「ドント・ウェイト・アップ・フォー・ミー」は同じくディフォレストの作品。
緩やかなバラード・ナンバー。憂いを含んだメロディを優しく歌いあげていくコナー。
しみじみとした情感が伝わる一曲だ。
ラストの「イン・アザー・ワーズ」はいうまでもなく「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」として知られるナンバー。バート・ハワード54年の作品。
意外と古いこのナンバーを、コナーはごく初期にカバーしている。これがなかなかモダンで洒落た仕上がり。
55年頃に録音されたとは思えないくらいだ。今聴いても、まったく古びた感じがしないのだ。
スローで始まり、スウィングに切り替わり、さらにアップに変わるなど自由自在なアレンジで、聴くものを退屈させない。
そして、コナーのほどよいハスキー・ボイスは、ロマンティックなこの曲に最高に合っていると思う。数ある「「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の中でも一、二を争う名唱だと言える。
以上12曲。クリス・コナーのクールで小粋な歌がたっぷり楽しめる一枚だ。
70年近く経とうが、本当にすぐれた歌声はちゃんと残っていくもの。
「クリス」はまさに、その証明のようなアルバムだと思う。一度は聴いてみて欲しい。
<独断評価>★★★★
米国の女性ジャズ・シンガー、クリス・コナーのスタジオ・アルバム。56年リリース。53〜55年録音。
クリス・コナーの名前を知っているリスナーは、今では極めて少ないであろうが、彼女が全盛期の60年代あたりは、日本にもけっこうファンがいたものだ。ジャズを志す若い女性シンガーにも、彼女のスタイルを真似するひとが少なからずいた。
そんなコナーは27年カンザスシティ生まれ。大学生時代に自分の歌が喝采を受けたことがきっかけで、シンガーを志すようになる。
ニューヨークに移住、バンドリーダー、クロード・ソーンヒルに認められ、49年に彼のレコードでコーラスとしてデビュー。以後、彼の楽団でレコードを出す。
スタン・ケントン楽団にかつて所属していたシンガー、ジューン・クリスティがコナーの歌を聴き、後任シンガーとしてケントンに強く推薦したことで、コナーの入団が決定する。
そこでヒット曲も出したが、ツアーが苦手なコナーは早々にケントン楽団を辞して、ソロに転向する。
折り良くベツレヘム・レーベルと契約、数枚のアルバムをリリースするが、その最終作がこの「クリス」である。
オープニングの「オール・アバウト・ロニー」はバラード・ナンバー。ジョー・グリーンの作品。バックはエリス・ラーキンス(p)・トリオ。
グリーンはソーンヒル楽団のロード・マネージャーを務めていた人で、コナーがプロになるきっかけを提供した、いわば恩人のひとりである。本曲はスタン・ケントン時代の53年にも録音している。
低めのハスキーな声でしっとりと歌うコナー。心が休まる一曲だ。
「マイザーズ・セレナーデ」は「ギミー・ギミー・ギミー・ギミー」という別タイトルでも知られるナンバー。
フレッド・パトリック、クロード・リース、マーヴィン・フィッシャー、ジャック・ヴァルの作品。バックは本曲から3曲連続でサイ・オリヴァー楽団。
ユーモラスな歌詞を、ビッグ・バンドをバックに歌うコナー。その大仰なサウンドにも決して引けを取らない、堂々たる歌いぶりである。
「エヴリシング・アイ・ラヴ」はコール・ポーターの作品。
ゆったりとしたテンポのスウィング・ナンバー。ゴージャス感の高いホーン・アレンジは、さすがサイ・オリヴァー楽団だ。
そのバッキングで悠々と歌うコナー。20代半ばにして、すでに姐御感があるな。
「インディアン・サマー」はアル・デュビン、ヴィクター・ハーバートの作品。
前半のインストに続いて登場するコナーは、まるで男性シンガーのように低い声で、一瞬「チェット・ベーカーか?」と思ってしまうほど(笑)。姐さん、カッケー。
「アイ・ヒア・ミュージック」はフランク・レッサー、バートン・レーンの作品。軽快なテンポのスウィング・ナンバー。バックはエリス・ラーキンス・トリオ。
ここでのコナーは、ほどよくリラックスした雰囲気で、自然なフェイクを聴かせてくれる。
「カム・バック・トゥ・ソレント」は「帰れソレントへ」の邦題でもよく知られるカンツォーネ。デ・クルティス兄弟の作品。バックのエリス・ラーキンスによるアレンジ。
小気味よく、スウィングするコナー。元はイタリア産の曲とは思えないくらい、ジャズ・ソングっぽく生まれ変わっている。
「アウト・オブ・ジス・ワールド」はジョニー・マーサー、ハロルド・アーレンの作品。バックはこれと次の曲はヴィニー・バーク(b)・クィンテット。
クラリネットの響きがノスタルジックなサウンドに乗せて、軽快に歌うコナー。
名バラード「虹の彼方」で知られる作曲家アーレンの、もうひとつの側面、動的なメロディの魅力が楽しめるナンバーだ。
「ラッシュ・ライフ」はエリントン楽団のビリー・ストレイホーンの作品。
静かなムードのバラード。ギター、フルートをフィーチャーしたバッキングが雰囲気を出している。
コナーの歌唱も、まったりとしていてナイス。
「フロム・ジス・モーメント・オン」はコール・ポーターの作品。バックはこの曲からラストまでラルフ・シャロン(p)・グループ。
アップ・テンポのスウィング・ナンバー。シャロンの達者なピアノはもとより、ジョー・ピューマのギターによるバッキングがいい感じだ。
こんな上手い演奏がバックなら、さぞ歌って楽しかろう。実際、コナー姐御もご機嫌な感じで歌いまくっている。
「ア・グッド・マン・イズ・ア・セルダム・シング」はチャールズ・ディフォレストの作品。ディフォレストは24年生まれのコンポーザー/シンガー。
ハービー・マンのフルート、シャロンのピアノのアンサンブルが美しいスロー・ナンバー。ジョージ・シアリングの流れを汲む、クール・ジャズの見本のような演奏だ。
コナーの抑えめのボーカル表現も、文句なしに素晴らしい。
「ドント・ウェイト・アップ・フォー・ミー」は同じくディフォレストの作品。
緩やかなバラード・ナンバー。憂いを含んだメロディを優しく歌いあげていくコナー。
しみじみとした情感が伝わる一曲だ。
ラストの「イン・アザー・ワーズ」はいうまでもなく「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」として知られるナンバー。バート・ハワード54年の作品。
意外と古いこのナンバーを、コナーはごく初期にカバーしている。これがなかなかモダンで洒落た仕上がり。
55年頃に録音されたとは思えないくらいだ。今聴いても、まったく古びた感じがしないのだ。
スローで始まり、スウィングに切り替わり、さらにアップに変わるなど自由自在なアレンジで、聴くものを退屈させない。
そして、コナーのほどよいハスキー・ボイスは、ロマンティックなこの曲に最高に合っていると思う。数ある「「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の中でも一、二を争う名唱だと言える。
以上12曲。クリス・コナーのクールで小粋な歌がたっぷり楽しめる一枚だ。
70年近く経とうが、本当にすぐれた歌声はちゃんと残っていくもの。
「クリス」はまさに、その証明のようなアルバムだと思う。一度は聴いてみて欲しい。
<独断評価>★★★★