2023年3月28日(火)
#496 MR. BIG「MR. BIG」(Atlantic 7 81990-2)
米国のロック・バンド、ミスター・ビッグのデビュー・アルバム。89年リリース。ケヴィン・エルソンによるプロデュース。
ミスター・ビッグは88年結成の4人編成。ボーカル、ギター、ベース、ドラムスの、典型的なフォー・ピース・バンドである。
彼らはいくつかのプロバンドで活躍していたプレイヤーやソロのシンガーが集まったバンドなので、80年代のスーパー・グループとも言える。デビュー盤とは思えない、新人らしからぬ演奏レベルの高さも納得である。
セールス的には全米46位と、まずまずの好スタートであった。日本ではオリコン22位。
オープニングの「アディクテッド・トゥ・ザット・ラッシュ」は、メンバーのビリー・シーン、ポール・ギルバート、パット・トーピーの作品。
ギルバートのアクロバティックなギター・プレイから始まる、アップテンポのロック・ナンバー。のっけから飛ばしまくる4人。
ミスター・ビッグのウリは、なんといってもギルバートの超絶技巧ギターだろうな。
ハード・ロックは70年代後半、ヴァン・ヘイレンの登場によって、ギター・テクニックの大革命が起き、エディ(・ヴァン・ヘイレン)以前・以降とまで言われるようになった。
ヴァン・ヘイレン以降デビューするハード・ロック・バンドは、ハードルが一気に上がり、エディ並みのテクを当然のように求められることとなった。
ギルバートはそんな中でも、エディに匹敵する実力を持つギタリストとして注目されたひとりだ。
この曲一曲だけでも、そのスゴさは十分分かるだろう。全世界のギター・キッズは、ヴァン・ヘイレンのデビュー盤を初めて聴いた時以来のショックを受けていたはず。
オーケー、つかみは万全だ。
「ワインド・ミー・アップ」はボーカルのエリック・マーティン、ギルバート、トーピーの作品。
アップ・テンポからミディアム、さらにアップにテンポ・チェンジする構成が実にカッコいい、ロック・ナンバー。
ここでも暴れまくるギルバートのギターだが、これにがっぷり四つで組むのが、マーティンのボーカル。
もともとソロでプロ活動をしていたぐらいなので、その実力は証明済みだ。ハイトーンもシャウトも、自由自在。
ミスター・ビッグというスーパー・バンドに加入することで、その幅広いジャンルをカバーできるボーカルにさらに磨きがかかった。
そして、ミスター・ビッグのスゴいところは、こんな実力派のボーカリストを擁しながらも、他のメンバーもちゃんと歌えることなのだ。
バックのパワフルなコーラスは、マーティンの多重録音…なんてことは一切なくて、他のメンバーがしっかりと歌っている。
そして曲によっては、他のメンバー3人がソロ・パートを持つこともある。
演奏に限らずボーカル・パートにも、メンバー全員が参加する体制。
歌はボーカリストまかせ、そんなバンドがかつては多かったことを考えれば、ものすごい進歩だ。80年代、ハード・ロックはボーカル面でも大きく進化したのだ。
「マーシリス」はマーティン、ギルバート、トロピーの作品。
ハードなギター・リフが特徴的なミディアム・テンポのナンバー。彼らもおそらく強く意識したであろう先輩バンド、エアロスミスの影響がリフの組み立て方にあらわれている。
ソロ・ギターのはっちゃけ方も、ジョー・ペリーに通じるものがあるな。
70年代の先輩バンドのカッコいいところは、遠慮せずに巧みに取り入れる。それも80年代バンドのスタイルなのだろう。
「ハッド・イナフ」はベースのシーンの作品。スロー・テンポのメロウなバラード・ナンバー。
ここまでハードなナンバー3連発で来たので、息抜きというかチェンジアップの一曲。
シーンはどうしても立役者ギルバートの陰に隠れがちだが、そのベース・テクニックはギルバートに引けを取らず凄まじい。
スピード、音数で言えば、世界でも五指に入るベースの弾き手ではないだろうか。
しかし、ミュージシャンとしての実力は、そういう演奏面だけではない。作曲力、アレンジ力にも大きく現われてくる。
この曲はシーンのコンポーザーとしての力量を示す、好例だと思う。
静かに始まり、徐々に盛り上げていくメロディ・センスはなかなかのものだ。
「動」のみならず、こういう「静」のタイプの曲でも、ミスター・ビッグはその威力を発揮する。
のちの人気曲「トゥー・ビー・ウィズ・ユー」もその流れにあると言えるだろう。
「ブレイム・イット・オン・マイ・ユース」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。
再びハードなサウンドの、ミディアム・テンポのナンバー。ヘビーなギター・プレイと、パワフルなコーラスが見事にマッチしている。
「テイク・ア・ウォーク」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。
またもエアロ風味のハード・ロック・ナンバー。えげつないまでのシャウトも、どことなくタイラーっぽい。
都会人にも野性を呼び起こすような、ひたすら熱いサウンド。これぞメタル!
「ビッグ・ラヴ」はマーティンの作品。
ゆったりとしたテンポのロック・ナンバー。マーティンの表現力豊かな歌声を、全面にフィーチャーしている。
そのシャウトに名シンガー、ポール・ロジャースの面影を感じるのは、筆者だけであろうか。
「ハウ・キャン・ユー・ドゥ・ホワット・ユー・ドゥ」はマーティン、ジャーニーのキーボード、ジョナサン・ケインの作品。
アップ・テンポのロック・ナンバー。ギルバートが緩急自在のプレイで活躍する。
ジャーニーはハード・ロックとバラードを融合させて70〜80年代に大成功をおさめたバンドだが、ミスター・ビッグはその路線のサウンドを引き継いで、90年代に開花させたといえるだろう。
「エニシング・フォー・ユー」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。
のちに日本限定のシングル「ジャスト・テイク・マイ・ハート」(92年リリース)のカップリング曲となったバラード・ナンバー。
力強いマーティンのボーカル、ギター・アルペジオの美しい響きが印象的なラヴソング。
最愛のひとに歌えば、彼女のハートをわし掴みにすること間違いなしのナンバーだ。
個人的には、アルバムで一番気に入っております。
「ロックン・ロール・オーヴァー」はマーティンの作品。
彼の作曲センスが光る、ロックンロール・ナンバー。陰と陽、メジャーとマイナーの織り交ぜ方が実に上手い。
ギルバートの高速プレイも、絶好調である。
ラストの「30デイズ・イン・ザ・ホール」はアルバム唯一のライブ録音。
みなさんご存じの英国バンド、ハンブル・パイ72年のナンバー。スティーヴ・マリオットの作品。
この曲を、冒頭のアカペラ・コーラスから完全にカバーしているのには、驚く。
それも、マーティン以外のメンバーも大声を出して見事なハーモニーを決めているのだから、二度ビックリ。
彼らは演奏だけでなく、歌、コーラスにおいてもパーフェクションを目指すプロ集団なんだということが、よく分かる。
そのことを示すためもあって、通例デビューするバンドがまずやらないライブ収録を、わざわざしたのだろう。
すげープロ根性である。脱帽。
この曲はおそらくアンコールで演奏されたものだろうが、彼らはこれだけでなく、さまざまなロック・クラシックをアンコール・ナンバーとしている。
例えばチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」、ファッツ・ドミノの「エイント・ザット・ア・シェイム」、デイヴィッド・ボウイの「サフラジェット・シティ」、ストーンズの「ブラウン・シュガー」などなど。
先輩バンドへのリスペクトを、ストレートに表現するミスター・ビッグ、カッケー!
考えてみれば、ミスター・ビッグというバンド名も、彼らが強くリスペクトするバンド、フリーの曲から来ているもの。
多くの先輩バンドのエッセンスを取り入れる一方で、彼ら独自のセンスを加味して、ワンランク上のサウンドを目指すミスター・ビッグ。
生まれた時から、超ビッグ。そんな彼らの大物ぶりを、デビュー盤でチェックしてみよう。
<独断評価>★★★☆
米国のロック・バンド、ミスター・ビッグのデビュー・アルバム。89年リリース。ケヴィン・エルソンによるプロデュース。
ミスター・ビッグは88年結成の4人編成。ボーカル、ギター、ベース、ドラムスの、典型的なフォー・ピース・バンドである。
彼らはいくつかのプロバンドで活躍していたプレイヤーやソロのシンガーが集まったバンドなので、80年代のスーパー・グループとも言える。デビュー盤とは思えない、新人らしからぬ演奏レベルの高さも納得である。
セールス的には全米46位と、まずまずの好スタートであった。日本ではオリコン22位。
オープニングの「アディクテッド・トゥ・ザット・ラッシュ」は、メンバーのビリー・シーン、ポール・ギルバート、パット・トーピーの作品。
ギルバートのアクロバティックなギター・プレイから始まる、アップテンポのロック・ナンバー。のっけから飛ばしまくる4人。
ミスター・ビッグのウリは、なんといってもギルバートの超絶技巧ギターだろうな。
ハード・ロックは70年代後半、ヴァン・ヘイレンの登場によって、ギター・テクニックの大革命が起き、エディ(・ヴァン・ヘイレン)以前・以降とまで言われるようになった。
ヴァン・ヘイレン以降デビューするハード・ロック・バンドは、ハードルが一気に上がり、エディ並みのテクを当然のように求められることとなった。
ギルバートはそんな中でも、エディに匹敵する実力を持つギタリストとして注目されたひとりだ。
この曲一曲だけでも、そのスゴさは十分分かるだろう。全世界のギター・キッズは、ヴァン・ヘイレンのデビュー盤を初めて聴いた時以来のショックを受けていたはず。
オーケー、つかみは万全だ。
「ワインド・ミー・アップ」はボーカルのエリック・マーティン、ギルバート、トーピーの作品。
アップ・テンポからミディアム、さらにアップにテンポ・チェンジする構成が実にカッコいい、ロック・ナンバー。
ここでも暴れまくるギルバートのギターだが、これにがっぷり四つで組むのが、マーティンのボーカル。
もともとソロでプロ活動をしていたぐらいなので、その実力は証明済みだ。ハイトーンもシャウトも、自由自在。
ミスター・ビッグというスーパー・バンドに加入することで、その幅広いジャンルをカバーできるボーカルにさらに磨きがかかった。
そして、ミスター・ビッグのスゴいところは、こんな実力派のボーカリストを擁しながらも、他のメンバーもちゃんと歌えることなのだ。
バックのパワフルなコーラスは、マーティンの多重録音…なんてことは一切なくて、他のメンバーがしっかりと歌っている。
そして曲によっては、他のメンバー3人がソロ・パートを持つこともある。
演奏に限らずボーカル・パートにも、メンバー全員が参加する体制。
歌はボーカリストまかせ、そんなバンドがかつては多かったことを考えれば、ものすごい進歩だ。80年代、ハード・ロックはボーカル面でも大きく進化したのだ。
「マーシリス」はマーティン、ギルバート、トロピーの作品。
ハードなギター・リフが特徴的なミディアム・テンポのナンバー。彼らもおそらく強く意識したであろう先輩バンド、エアロスミスの影響がリフの組み立て方にあらわれている。
ソロ・ギターのはっちゃけ方も、ジョー・ペリーに通じるものがあるな。
70年代の先輩バンドのカッコいいところは、遠慮せずに巧みに取り入れる。それも80年代バンドのスタイルなのだろう。
「ハッド・イナフ」はベースのシーンの作品。スロー・テンポのメロウなバラード・ナンバー。
ここまでハードなナンバー3連発で来たので、息抜きというかチェンジアップの一曲。
シーンはどうしても立役者ギルバートの陰に隠れがちだが、そのベース・テクニックはギルバートに引けを取らず凄まじい。
スピード、音数で言えば、世界でも五指に入るベースの弾き手ではないだろうか。
しかし、ミュージシャンとしての実力は、そういう演奏面だけではない。作曲力、アレンジ力にも大きく現われてくる。
この曲はシーンのコンポーザーとしての力量を示す、好例だと思う。
静かに始まり、徐々に盛り上げていくメロディ・センスはなかなかのものだ。
「動」のみならず、こういう「静」のタイプの曲でも、ミスター・ビッグはその威力を発揮する。
のちの人気曲「トゥー・ビー・ウィズ・ユー」もその流れにあると言えるだろう。
「ブレイム・イット・オン・マイ・ユース」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。
再びハードなサウンドの、ミディアム・テンポのナンバー。ヘビーなギター・プレイと、パワフルなコーラスが見事にマッチしている。
「テイク・ア・ウォーク」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。
またもエアロ風味のハード・ロック・ナンバー。えげつないまでのシャウトも、どことなくタイラーっぽい。
都会人にも野性を呼び起こすような、ひたすら熱いサウンド。これぞメタル!
「ビッグ・ラヴ」はマーティンの作品。
ゆったりとしたテンポのロック・ナンバー。マーティンの表現力豊かな歌声を、全面にフィーチャーしている。
そのシャウトに名シンガー、ポール・ロジャースの面影を感じるのは、筆者だけであろうか。
「ハウ・キャン・ユー・ドゥ・ホワット・ユー・ドゥ」はマーティン、ジャーニーのキーボード、ジョナサン・ケインの作品。
アップ・テンポのロック・ナンバー。ギルバートが緩急自在のプレイで活躍する。
ジャーニーはハード・ロックとバラードを融合させて70〜80年代に大成功をおさめたバンドだが、ミスター・ビッグはその路線のサウンドを引き継いで、90年代に開花させたといえるだろう。
「エニシング・フォー・ユー」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。
のちに日本限定のシングル「ジャスト・テイク・マイ・ハート」(92年リリース)のカップリング曲となったバラード・ナンバー。
力強いマーティンのボーカル、ギター・アルペジオの美しい響きが印象的なラヴソング。
最愛のひとに歌えば、彼女のハートをわし掴みにすること間違いなしのナンバーだ。
個人的には、アルバムで一番気に入っております。
「ロックン・ロール・オーヴァー」はマーティンの作品。
彼の作曲センスが光る、ロックンロール・ナンバー。陰と陽、メジャーとマイナーの織り交ぜ方が実に上手い。
ギルバートの高速プレイも、絶好調である。
ラストの「30デイズ・イン・ザ・ホール」はアルバム唯一のライブ録音。
みなさんご存じの英国バンド、ハンブル・パイ72年のナンバー。スティーヴ・マリオットの作品。
この曲を、冒頭のアカペラ・コーラスから完全にカバーしているのには、驚く。
それも、マーティン以外のメンバーも大声を出して見事なハーモニーを決めているのだから、二度ビックリ。
彼らは演奏だけでなく、歌、コーラスにおいてもパーフェクションを目指すプロ集団なんだということが、よく分かる。
そのことを示すためもあって、通例デビューするバンドがまずやらないライブ収録を、わざわざしたのだろう。
すげープロ根性である。脱帽。
この曲はおそらくアンコールで演奏されたものだろうが、彼らはこれだけでなく、さまざまなロック・クラシックをアンコール・ナンバーとしている。
例えばチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」、ファッツ・ドミノの「エイント・ザット・ア・シェイム」、デイヴィッド・ボウイの「サフラジェット・シティ」、ストーンズの「ブラウン・シュガー」などなど。
先輩バンドへのリスペクトを、ストレートに表現するミスター・ビッグ、カッケー!
考えてみれば、ミスター・ビッグというバンド名も、彼らが強くリスペクトするバンド、フリーの曲から来ているもの。
多くの先輩バンドのエッセンスを取り入れる一方で、彼ら独自のセンスを加味して、ワンランク上のサウンドを目指すミスター・ビッグ。
生まれた時から、超ビッグ。そんな彼らの大物ぶりを、デビュー盤でチェックしてみよう。
<独断評価>★★★☆