2023年3月23日(木)
#491 MICHAEL JACKSON「THRILLER」(Epic/Sony 25・6P-199)
米国のシンガー、マイケル・ジャクソンのスタジオ・アルバム。82年リリース。クインシー・ジョーンズ、ジャクソン本人によるプロデュース。
このアルバムは7000万枚以上、世界で最も売れたアルバムとして知られている(米国内ではイーグルスのベスト盤に次いで2位)。
筆者はリリース時は社会人2年目だったが、当時注目され出したMTVにマイケル・ジャクソンのMVが毎日ガンガン流れており、その宣伝効果もあって日本でもこのアルバムが飛ぶように売れていたのを覚えている。
マイケルは79年にアルバム「オフ・ザ・ウォール」を、彼が前年出演した映画「ウィズ」の現場で知り合ったクインシー・ジョーンズをプロデューサーに迎えて制作、全米3位を獲得する。
アルバムは国内で800万枚を超えるロング・セラーとなり、大きな手応えを得たことで、マイケルは再びジョーンズにプロデュースを依頼したのだ。
オープニングは「スタート・サムシング」。マイケル自身の作品。躍動感に満ちた、アルバムトップにふさわしいビート・ナンバー。マイケル自身の作品。
シングル(アルバムで4枚目)にもカットされ、全米5位となっている。
彼のセクシーなハイトーンの魅力が、いかんなく発揮された一曲だ。特に終盤の多重録音コーラスの破壊力がハンパない。
「ベイビー・ビー・マイン」は英国のプロデューサー、ロッド・テンパートンの作品。
テンパートンは英米人混成のファンク・バンド、ヒートウェイブのキーボーディストを経て、コンポーザーとなったひと。
白人ながらブラック・ミュージックに精通しており、その高い作曲能力に、ジョーンズは厚い信頼をおいている。
ジョーンズがプロデュースするアーティストには、必ずといっていいほどテンパートンが楽曲を提供しているのが、その現れである。
この曲も、シンセ・ビートを効かせたファンク・サウンドが実にイカしている。マイケルの歌声もスムースで絶好調だ。
「ガール・イズ・マイン」はマイケル自身の作品。先行シングルとしてリリースされ、全米2位を獲得した。ゆったりとしたテンポのバラード・ナンバー。
この曲にはゲスト・ボーカルとしてポール・マッカートニーが登場している。当時マッカートニーは40歳。ウィングスとしての活動を休止、10年ぶりのソロ活動に戻っていた時期だ。
82年のアルバム「タッグ・オブ・ウォー」ではスティーヴィー・ワンダーと共演、シングル「エボニー・アンド・アイボリー」をヒットさせている。
そんな流れでのマイケルとの共演、白人大物スターと黒人若手スターのコラボは、もちろん大きな話題となった。
歌詞はマッカートニーとマイケルが、ひとりの女性をめぐって争奪戦をするというもの。
でも喧嘩腰って感じではなく、むしろユーモラスで、ふたりの和気あいあいとしたムードが伝わってくる。心なごむ一曲だ。
「スリラー」はテンパートンの作品。アルバムからは最後の、7枚目(!)のシングルとしてカットされ、全米4位となった。
この曲ほどMVが有名となったケースは、おそらくないだろう。14分近いホラームービー仕立てで、かけられた予算は通常の予算の10倍にあたる5万ドルという。
MVの監督はジョン・ランディス。彼のヒット映画「狼男アメリカン」を意識して、特殊メークで狼男やゾンビとなったマイケルが登場、世間を驚かせたのである。
またナレーションには往年のホラー俳優、ヴィンセント・プライスを起用、不気味な雰囲気をさらに高めることに成功している。
思い切った高予算のMV戦略をとって、アルバムの大幅セールスアップを果たしたのだ。まさに作戦勝ちであるな。
「今夜はビート・イット」はマイケル自身の作品。3枚目のシングルとしてカットされ、全米1位を獲得。
これはマイケルと白人ロック・ミュージシャンらの、全面的なコラボレーションが実現した最初のナンバーだ。
ギターにエディ・ヴァン・ヘイレン、スティーヴ・ルカサー、ポール・ジャクソン・ジュニアが参加。
タッピングに特徴のある激しいギター・ソロは、言うまでもなくエディによるものだ。
彼はノーギャラで参加したそうだが、この曲でソロを残したことで、従来にもまして幅広い層のリスナーにエディ・ヴァン・ヘイレンの名前を知らしめたのだから、損して得をとった、というところだろう。
ハード・ロックとブラック・コンテンポラリーが見事に融合したロック・ナンバーとして、今後も聴き継がれるに違いない一曲だ。
「ビリー・ジーン」はマイケル自身の作品。アルバムからは2枚目のシングル。全米1位。
ストーカーに狙われた女性を主人公にしているが、実はこれはマイケル自身もしくは兄のストーキング被害がモチーフになっているらしい。
ホール&オーツの「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」に曲調が似ているが、マイケル自身、その曲からヒントを受けているんだとか。
この曲もMVが作られており、手頃なサイズということもあってYoutubeでの再生数は13億回を超えている。スゴすぎる(笑)。
キャッチーなメロディ、タイトでダンサブルなビートを持つ本曲は、ヒットして当然って感じだ。
「ヒューマン・ネイチャー」はトトのキーボーディスト、スティーヴ・ポーカロ、作詞家ジョン・ベティスの作品。ベティスは多数のカーペンターズの作品のほか、マドンナ、ホイットニー・ヒューストンなどにも歌詞を提供している。
緩やかなバラード・ナンバー。この曲も5枚目のシングルとなっている。全米7位を獲得。
ポーカロ本人だけでなく、兄のジェフ、デイヴィッド・ペイチ、ルカサーらトトのメンバーもバックを固めている。
いつものエモーショナルな歌声とは違った、繊細で静かなマイケルの魅力をフィーチャーしたこの曲は、派手なナンバーが多い本盤では、異彩を放っている。
「P.Y.T.」はソウルシンガー、ジェイムズ・イングラムとジョーンズの作品。6枚目のシングルとしてカットされている。全米10位。
アップ・テンポのファンク・ナンバー。イングラムは当時はセッション・ボーカリストとして活動しており(あの「愛のコリーダ」のバックコーラスもつとめている)、ジョーンズに歌の実力を認められて83年にソロデビューする。
まだ無名時代のイングラムが書いた曲だが、ジョーンズのノリのいいアレンジも相まって、なかなかイケるのだ、これが。
マイケルのハイトーンのボーカル・スタイルともしっかりなじんだ佳曲。
当時は誰の作曲かを気にせずに聴いていた人がおそらく大半だろうが、今一度作曲者をきちんと意識して聴いてみるといいんじゃないかな。
ラストの「レディ・イン・マイ・ライフ」はテンパートンの作品。
メロウなラブバラード・ナンバー。しっとりとしたメロディ、奥行きを感じさせるアレンジで、マイケルの大人な面がよく表現された一曲だ。
シングルにはならなかったが、隠れた名曲として、いまも愛聴されていることだろう。
最終的に7枚ものヒット・シングルを生み出した本アルバムは、商品としてのレコードの頂点を極めただけでなく、ポップ・ミュージックという「芸術作品」としても最高のクオリティを保持していると思う。
マイケル・ジャクソンの天性の歌のセンス、彼自身を含む作曲家陣のすぐれたメロディ・センス、そしてクインシー・ジョーンズの、卓越したサウンド構築のセンス。
さらに加えるならば、マイケルのダンスの才能、MVでの華やかなパフォーマンスといった80年代ならではの付加価値も合体して、この「スリラー」はポップ史上屈指の傑作となった。
マイケルの通り名「キング・オブ・ポップ」の座はこの一枚で決定したといっていい。
そして40年の歳月を経た現在も、いまだに彼の王座はゆらいでいない。
そのくらい「スリラー」は、問答無用の名盤なのである。
<独断評価>★★★★★
米国のシンガー、マイケル・ジャクソンのスタジオ・アルバム。82年リリース。クインシー・ジョーンズ、ジャクソン本人によるプロデュース。
このアルバムは7000万枚以上、世界で最も売れたアルバムとして知られている(米国内ではイーグルスのベスト盤に次いで2位)。
筆者はリリース時は社会人2年目だったが、当時注目され出したMTVにマイケル・ジャクソンのMVが毎日ガンガン流れており、その宣伝効果もあって日本でもこのアルバムが飛ぶように売れていたのを覚えている。
マイケルは79年にアルバム「オフ・ザ・ウォール」を、彼が前年出演した映画「ウィズ」の現場で知り合ったクインシー・ジョーンズをプロデューサーに迎えて制作、全米3位を獲得する。
アルバムは国内で800万枚を超えるロング・セラーとなり、大きな手応えを得たことで、マイケルは再びジョーンズにプロデュースを依頼したのだ。
オープニングは「スタート・サムシング」。マイケル自身の作品。躍動感に満ちた、アルバムトップにふさわしいビート・ナンバー。マイケル自身の作品。
シングル(アルバムで4枚目)にもカットされ、全米5位となっている。
彼のセクシーなハイトーンの魅力が、いかんなく発揮された一曲だ。特に終盤の多重録音コーラスの破壊力がハンパない。
「ベイビー・ビー・マイン」は英国のプロデューサー、ロッド・テンパートンの作品。
テンパートンは英米人混成のファンク・バンド、ヒートウェイブのキーボーディストを経て、コンポーザーとなったひと。
白人ながらブラック・ミュージックに精通しており、その高い作曲能力に、ジョーンズは厚い信頼をおいている。
ジョーンズがプロデュースするアーティストには、必ずといっていいほどテンパートンが楽曲を提供しているのが、その現れである。
この曲も、シンセ・ビートを効かせたファンク・サウンドが実にイカしている。マイケルの歌声もスムースで絶好調だ。
「ガール・イズ・マイン」はマイケル自身の作品。先行シングルとしてリリースされ、全米2位を獲得した。ゆったりとしたテンポのバラード・ナンバー。
この曲にはゲスト・ボーカルとしてポール・マッカートニーが登場している。当時マッカートニーは40歳。ウィングスとしての活動を休止、10年ぶりのソロ活動に戻っていた時期だ。
82年のアルバム「タッグ・オブ・ウォー」ではスティーヴィー・ワンダーと共演、シングル「エボニー・アンド・アイボリー」をヒットさせている。
そんな流れでのマイケルとの共演、白人大物スターと黒人若手スターのコラボは、もちろん大きな話題となった。
歌詞はマッカートニーとマイケルが、ひとりの女性をめぐって争奪戦をするというもの。
でも喧嘩腰って感じではなく、むしろユーモラスで、ふたりの和気あいあいとしたムードが伝わってくる。心なごむ一曲だ。
「スリラー」はテンパートンの作品。アルバムからは最後の、7枚目(!)のシングルとしてカットされ、全米4位となった。
この曲ほどMVが有名となったケースは、おそらくないだろう。14分近いホラームービー仕立てで、かけられた予算は通常の予算の10倍にあたる5万ドルという。
MVの監督はジョン・ランディス。彼のヒット映画「狼男アメリカン」を意識して、特殊メークで狼男やゾンビとなったマイケルが登場、世間を驚かせたのである。
またナレーションには往年のホラー俳優、ヴィンセント・プライスを起用、不気味な雰囲気をさらに高めることに成功している。
思い切った高予算のMV戦略をとって、アルバムの大幅セールスアップを果たしたのだ。まさに作戦勝ちであるな。
「今夜はビート・イット」はマイケル自身の作品。3枚目のシングルとしてカットされ、全米1位を獲得。
これはマイケルと白人ロック・ミュージシャンらの、全面的なコラボレーションが実現した最初のナンバーだ。
ギターにエディ・ヴァン・ヘイレン、スティーヴ・ルカサー、ポール・ジャクソン・ジュニアが参加。
タッピングに特徴のある激しいギター・ソロは、言うまでもなくエディによるものだ。
彼はノーギャラで参加したそうだが、この曲でソロを残したことで、従来にもまして幅広い層のリスナーにエディ・ヴァン・ヘイレンの名前を知らしめたのだから、損して得をとった、というところだろう。
ハード・ロックとブラック・コンテンポラリーが見事に融合したロック・ナンバーとして、今後も聴き継がれるに違いない一曲だ。
「ビリー・ジーン」はマイケル自身の作品。アルバムからは2枚目のシングル。全米1位。
ストーカーに狙われた女性を主人公にしているが、実はこれはマイケル自身もしくは兄のストーキング被害がモチーフになっているらしい。
ホール&オーツの「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」に曲調が似ているが、マイケル自身、その曲からヒントを受けているんだとか。
この曲もMVが作られており、手頃なサイズということもあってYoutubeでの再生数は13億回を超えている。スゴすぎる(笑)。
キャッチーなメロディ、タイトでダンサブルなビートを持つ本曲は、ヒットして当然って感じだ。
「ヒューマン・ネイチャー」はトトのキーボーディスト、スティーヴ・ポーカロ、作詞家ジョン・ベティスの作品。ベティスは多数のカーペンターズの作品のほか、マドンナ、ホイットニー・ヒューストンなどにも歌詞を提供している。
緩やかなバラード・ナンバー。この曲も5枚目のシングルとなっている。全米7位を獲得。
ポーカロ本人だけでなく、兄のジェフ、デイヴィッド・ペイチ、ルカサーらトトのメンバーもバックを固めている。
いつものエモーショナルな歌声とは違った、繊細で静かなマイケルの魅力をフィーチャーしたこの曲は、派手なナンバーが多い本盤では、異彩を放っている。
「P.Y.T.」はソウルシンガー、ジェイムズ・イングラムとジョーンズの作品。6枚目のシングルとしてカットされている。全米10位。
アップ・テンポのファンク・ナンバー。イングラムは当時はセッション・ボーカリストとして活動しており(あの「愛のコリーダ」のバックコーラスもつとめている)、ジョーンズに歌の実力を認められて83年にソロデビューする。
まだ無名時代のイングラムが書いた曲だが、ジョーンズのノリのいいアレンジも相まって、なかなかイケるのだ、これが。
マイケルのハイトーンのボーカル・スタイルともしっかりなじんだ佳曲。
当時は誰の作曲かを気にせずに聴いていた人がおそらく大半だろうが、今一度作曲者をきちんと意識して聴いてみるといいんじゃないかな。
ラストの「レディ・イン・マイ・ライフ」はテンパートンの作品。
メロウなラブバラード・ナンバー。しっとりとしたメロディ、奥行きを感じさせるアレンジで、マイケルの大人な面がよく表現された一曲だ。
シングルにはならなかったが、隠れた名曲として、いまも愛聴されていることだろう。
最終的に7枚ものヒット・シングルを生み出した本アルバムは、商品としてのレコードの頂点を極めただけでなく、ポップ・ミュージックという「芸術作品」としても最高のクオリティを保持していると思う。
マイケル・ジャクソンの天性の歌のセンス、彼自身を含む作曲家陣のすぐれたメロディ・センス、そしてクインシー・ジョーンズの、卓越したサウンド構築のセンス。
さらに加えるならば、マイケルのダンスの才能、MVでの華やかなパフォーマンスといった80年代ならではの付加価値も合体して、この「スリラー」はポップ史上屈指の傑作となった。
マイケルの通り名「キング・オブ・ポップ」の座はこの一枚で決定したといっていい。
そして40年の歳月を経た現在も、いまだに彼の王座はゆらいでいない。
そのくらい「スリラー」は、問答無用の名盤なのである。
<独断評価>★★★★★