NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#122 ジューダス・プリースト「ステンド・クラス」(EPIC/SONY ESCA 5212 )

2022-03-16 05:01:00 | Weblog

2002年10月13日(日)



ジューダス・プリースト「ステンド・クラス」(EPIC/SONY ESCA 5212 )

(1)EXCITER (2)WHITE HEAT, RED HOT (3)BETTER BY YOU, BETTER THAN ME (4)STAINED CLASS (5)INVADER (6)SAINTS IN HELL (7)SAVAGE (8)BEYOND THE REALM OF DEATH (9)HEROES END

"メタル・ゴッド"ことジューダス・プリースト、四枚目のアルバム。78年リリース。

70年ころ結成、74年にインディーズ・レーベルのGULLよりアルバム「Rocka Rolla」にてデビューした彼ら、3作目よりメジャーのCBSと契約、トップ・バンドへの仲間入りを果たした。

これは、そんな彼らの、「至高のヘヴィ・メタル・バンド」としての評価を決定づけた、快心の一作だ。

まずは、シングル・ヒットともなった(1)から。

性急なレス・ビンクスのドラム・ソロから、いきなり"疾走"が始まる。ハイ・スピード、ハイ・テンションなジューダス・プリースト・ワールドがのっけから全開だ。

ロブ・ハルフォードの金切り声ヴォーカルが耳に突き刺さり、イアン・ヒルのベースが唸りを上げ、K・K・ダウニングとグレン・ティプトンの双頭ギタリストが挑発的なフレーズを繰り出す。

ふたりが奏でる絶妙なハーモニーは、ギター・シンフォニーのごとし。

そして、圧巻なのはやはり、人間の限界を超え、まさに「神」の領域に迫った、ハルフォードの超絶高音シャウト。

完璧な演奏テクニック、緻密に計算され、構築されたメロディ、そしてアレンジ。もう、文句のつけようがない。

歌詞は、「エキサイター」なる異教の救世主を待ち望む、世紀末思想とゆーか、最後の審判待望論みたいなもの。(テキトーな解説でゴメン。)

例によって、おなじみの「背徳」「背教」そして「暴虐」といったバンド・イメージを、愚直なまでに貫き通しているのもほほえましい。

全力疾走のナンバー、(1)に続く(2)は、ミドル・ファスト・テンポのナンバー。

これまた、「世紀末救世主伝説」(北斗の拳かい!?)みたいな歌詞がけっこう笑えますが。本人たちはいたってマジに演っておりますんで、そこんとこヨロシク。

筆者の私見では、およそハード・ロック/ヘヴィ・メタルの流れとして、リズム重視型のZEP派と、メロディ重視型のパープル派のふたつがあると思っとるのですが、彼らのサウンドは、どちらかといえば後者に属するものだといえそう。

前作の「SIN AFTER SIN(背信の門)」ではロジャー・グローヴァーをプロデューサーに迎えたくらいなので、納得いただけると思うが、彼らの音は常にメロディの美しさ、わかりやすさを重要視していて、それがヘヴィ・メタ・マニアに限らず、さまざまなタイプのリスナーより広く支持を集めた理由でもあると思う。

この(2)も、超高音で歌われるサビのメロディがなんとも印象的。途中までは「ン?パープルのパクりっぽくない?」と思わせるが、そこで見事にジューダスらしいオリジナリティを獲得している。

(3)もシングル・カットされたミディアム・テンポのナンバー。

愁いを感じさせるマイナーのメロディがいい感じ。

歌詞は(1)、(2)にくらべると、もうちょい象徴的でわかりづらい。筆者の愚考では、殉教者(イエス?)の視点から書かれた、民を哀れむ歌か? よくわからん。

ま、そんなところは余りこだわらず、きめ細かいサウンドを楽しむだけでもええと思いますが。

タイトル・チューンの(4)は、ZEPの「アキレス最後の戦い」に代表される、典型的へヴィ・メタルといえそうなビート・パターンの曲。

ツイン・ギターならではの厚みのあるサウンドが実にカッコよろしい。

歌詞は、人間の「堕落」について語ったもの。やたら大仰な表現は、読みようによっちゃギャグっぽく感じられるかも知れませんが、茶化さずに彼らの世界に没頭してみませう。

LPではA面最後にあたる(5)は、タイトル通り、異星からの侵略者、そしてそれに立ち向かわんとする人々がテーマ。

歌詞内容はいかにも紋切り型ではあるが、その曲構成は実に新鮮でスリルに満ちたものだ。

左右へ自由に飛び回るギター・プレイ(たぶんティプトン)もなかなかグー。

後半トップの(6)は、ハルフォードのキンキン声がフル稼働のナンバー。重心の低いミディアム・ビートに乗って、吼えまくる。

同じシャウターでも、先輩格のイアン・ギランはいかにも「重たい」パンチを繰り出すタイプなのに比べ、ハルフォードはより「鋭く、突き刺す」ようなパンチで勝負してくる。

(7)は、物質文明を武器とする「現代人」こそ野蛮人にほかならないと喝破する、ミディアム・ファスト・ナンバー。

耳をつんざくばかりの咆哮が、まさにわれらのうちなる「野性」を呼び起こす。これぞ、アタマでなく生身のカラダを直撃する音楽の野獣、ヘヴィ・メタルの醍醐味だろう。

静かなアコギのイントロから始まり、一転、激しいシャウトの嵐を浴びせるのは、マイナー調の(8)。

メロディアスさと、超ハードな演奏が見事に合体、完璧な様式美を打立てている。

このトラック、泣きのギターも素晴らしいので、ギタリストなら要チェックでっせ。

さて、ラストの(9)であるが、実はこれがちょっといわくつきのナンバー。

CX系テレビ番組の「アンビリーバボー」でも紹介されたエピソードなのだが、この曲、サブリミナルな「仕掛け」があったらしい。

ときは1985年12月、米国ネバダ州リノでの事件。18才と20才のふたりの青年が、この曲をいたく気に入って繰り返し聴いているうちに、突然、口々に「DO IT!(やっちまえ)」と叫んで家を飛び出し、近くの教会に飛び込んで、銃で自殺をこころみたというのだ。

ふたりのうち、ひとりは即死、残るひとりも一命は取りとめたものの、三年後に死亡。

生き残った方のひとりの証言から、彼らが自殺に駆り立てられたのは、この「ヒーローズ・エンド」の中に、逆回転で録音された「DO IT!(やっちまえ)」と いうサブリミナル・メッセージがあったためとされ、バンドとレコード会社を相手取っての訴訟にまで発展した。

もちろん、因果関係を立証することなど不可能で、ジューダス側は無罪となった。

が、いかにも彼らなら、意図的にそういうメッセージを入れそうだな、という感じはするね。

というのは、この曲の救いのないペシミスティックな歌詞、アルバム中でもずばぬけて暗い曲調は、いかにも聴き手に自殺をけしかけているようだからある。

さらにいえば、ジャケット写真も気になる。いかにも、「ピストル自殺」を暗示するかのようなヴィジュアルではなかろうか。

というわけで、筆者もこの曲だけは繰り返して聴くのを避けておるのよ。ある日突然、衝動的に自殺しちゃったら、ヤだもんね(笑)。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#121 マディ・ウォーターズ「HARD AGAIN」(BLUE SKY ZK 34449)

2022-03-15 05:01:00 | Weblog

2002年10月6日(日)



マディ・ウォーターズ「HARD AGAIN」(BLUE SKY ZK 34449)

(1)MANNISH BOY (2)BUS DRIVER (3)I WANT TO BE LOVED (4)JEALOUS HEARTED MAN (5)I CAN'T BE SATISFIED (6)THE BLUES HAD A BABY AND THEY NAMED IT ROCK AND ROLL(#2) (7)DEEP DOWN IN FLORIDA (8)CROSSEYED CAT (9)LITTLE GIRL

マディ・ウォーターズ、77年の作品。ブルースカイ・レーベル移籍後、初めてのアルバムだ。

以前取り上げたことのあるアルバム「アイム・レディ」同様、マディを師と慕うジョニー・ウィンターの全面バックアップにより制作されている。

そのタイトルの由来については、過去に何人ものひとがコメントしているので、繰り返す野暮は避けることにするが、とにかく老いてなお「お盛ん」なマディ(当時62才で40才近く年下の女性と結婚していた)ならではのタイトルだと思う。

まずは(1)。マディ・ファンなら先刻ご承知だろうが、チェス在籍時の68年に発表された怪作(?)「ELECTRIC MUD」に収められていたナンバーの再演。マディ自身の作品。

当時流行のサイケデリック・ロック・サウンドを大胆に取り入れたことで、従来からのブルース・ファン連中には賛否両論の評価だったアルバムだ。その中でもこの「マニッシュ・ボーイ」は代表的な曲といえる。

「フーチー・クーチー・マン」のヴァリエーションともいうべき、このナンバー、再録でも前回同様、バンドのメンバーのかけ声、歓声を入れたりして、スタジオライヴ風の臨場感あふれる録音になっている。

ジョニー・ウィンターと同じく、マディに大きく影響を受けたローリング・ストーンズも、「LOVE YOU LIVE」でカヴァーしているので、興味のある方は再度聴いてみては。

続く(2)も、マディのオリジナル。ウィンターのギターをフィーチャーした、ミディアム・テンポのブルース・ナンバー。

マディ自身の(ワンパタ)スライドも途中で登場、これもなかなか味わいがあるが、ウィンターも変にテクに走らず、目立ち過ぎず、マディの歌を最大限生かすような、オツなスライド、そして指弾きプレイを聴かせてくれる。

8分近くの長尺のセッション、後半ではマディの旧友、ジェイムズ・コットンのハープ、同じくパイントップ・パーキンスのピアノ・ソロも少し聴かれて、いずれもさりげない「名人芸」を感じさせてくれる。

バックを支える、チャールズ・キャルミーズのベース、ウィリー・ビッグアイ・スミスのドラムスが弾き出す、ドシドシ、ドカドカといったふうの、重く粘っこいビートも○。

あくまでも泥臭く、いなたく、でもブルースのもっともコアな魅力を伝えるリズム隊だ。

コットンのハープ・ソロから始まる(3)は、ウィリー・ディクスンの作品。チェス時代に録音したが、アルバム未収録で、94年リリースの「ONE MORE MILE」で初めて収録されたというナンバーの再録。

歯切れのいいミディアム・ファスト・テンポで、「I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU」にも通ずるところのある、威勢のいいナンバー。

これまたストーンズがシングル盤でカヴァーしている。アルバムでは「SINGLE COLLECTION : THE LONDON YEARS」に収められているので、お持ちのかたはチェックをどうぞ。

(4)は、このアルバムで初披露のオリジナル。コットンの激しいブロウを前面に押し出したブルース。

ミディアム・テンポで力強いビートをきざむリズム・セクションもまたカッコいい。

(5)はもちろん、チェスでの初アルバム「ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ」にも入っていることで、知らぬ者はないマディの十八番。

ここでは意表をついて、ダウンホームなアレンジで再録。ウィンターがスライドでリゾネイターを弾き、バックのボブ・マーゴリンもまたアコギを弾く、実にいなたい仕上がり。筆者的にはけっこう「好み」だ。

(6)はマディとブラウニー・マギーとの共作とクレジットされている作品。

内容は、「ロックンロールの生みの親はブルース(つまりこのワシ)じゃい!」と高らかに宣言するもの。「アイム・レディ」ふうの曲調で、なかなか勇ましい。

カヴァーとしては、ドクター・フィールグッドが同じく77年のアルバム「BE SEEING YOU」にてやっている。

再び自身のオリジナル、(7)は、粘っこいスロー・ビートで迫るナンバー。今回が初収録。

コットンのオーヴァードライヴのかかったパッショネイトなプレイは、こういう曲ではまさに本領を発揮する。

(8)も、初披露のオリジナル。ひたすらパワフル、ともすればうるさいくらいのミディアム・テンポのリズムに乗せて繰り広げられる、ホットなセッション光景をそのまま収録した、そんな感じだ。

ここで一番がんばっているのは、前曲同様、コットンのハープ。マディのくどいまでの精力的なヴォーカルに、しっかりと張り合っている。

その息遣いまで伝わってきそうな熱いブロウには、圧倒されそう。負けじと、パイントップら他のミュージシャンもプレイに熱が入る。

ラストの(9)は、ボ・ディドリーのそれとは同名異曲の、マディ自身のオリジナル。

ミディアム・テンポのブルース。初収録のようだ。

ここではコットンのハープに加えて、ウィンターもなかなかソリッドでイカしたギター・ソロを聴かせてくれる。

以上、全部を通して聴くと、いささか「一本調子」の印象はいなめないものの、バンドが一体となってひとつのサウンドを目指しているという鮮明なイメージがそこにはある。

泥臭くも熱い、まさに「ブルース」そのもののサウンド。

洗練とはおよそ無縁の世界だが、心をたかぶらせる何かを感じ取れる一枚。

この道一筋、四十年。オヤジどものブルース魂に触れてみてくれ!

<独断評価>★★★


音盤日誌「一日一枚」#120 リトル・フィート「DIXIE CHICKEN」(WARNOR BROS. 2686-2)

2022-03-14 05:00:00 | Weblog

2002年9月29日(日)



リトル・フィート「DIXIE CHICKEN」(WARNOR BROS. 2686-2)

(1)DIXIE CHICKEN (2)TWO TRAINS (3)ROLL UM EASY (4)ON YOUR WAY DOWN (5)KISS IT OFF (6)FOOL YOURSELF (7)WALKIN ALL NIGHT (8)FAT MAN IN THE BATHTUB (9)JULIETTE (10)LAFAYETTE RAILROAD

リトル・フィートのサード・アルバム。73年リリース。

フランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションにいたギタリスト、ローウェル・ジョージを中心に、69年アメリカ西海岸で結成されたのがリトル・フィート。

結成当初はセッション・バンド的な性格が強かったが、この3作目あたりでグループとしての個性を獲得し、広く人気を集めるようになった。

まずはタイトル・チューン、オリジナルの(1)。ノスタルジックなイメージのアルバム・ジャケット同様、ディキシーランド・ジャズの血を引くオールド・タイミーなメロディに、当時最新のファンキーなビートをかけ合わせて、リトル・フィートならではのサウンドを確立した、記念碑的な一曲だ。

揺れるような陽気なリズムは、もちろんニューオーリンズのセカンドライン・ファンクからの影響が大。とりわけ、ミーターズのジガブーのドラミングが、彼らに強力なインスピレーションを与えたようだ。

セカンド・アルバムまでの、いかにも「白人バンド」っぽい生硬なリズムから脱皮、ひとまわりスケールの大きい音楽性を身に付けたといえる。

曲作りにも、微妙な変化があらわれている。ストレートなロックから、粘りとコシのあるファンク、R&B的な曲調へと重心が移ってきているのだ。

続く(2)は、(1)同様、ファンキーなリズムがごキゲンなオリジナル。バックの女声コーラスが、ローウェルのドラ声をうま引き立てている。以前のアルバムには見られなかったアレンジだ。ボニー・ブラムレット、ボニー・レイットといった、豪華な布陣にも注目したい。

(3)もオリジナル。(1)が「動」の典型とすれば、これは対照的に「静」そのもののナンバーだ。

アコギのサウンド、そしてコーラスをしたがえて、ローウェルは穏やかで味わいの深い歌唱を聴かせてくれる。

(4)は、ニューオーリンズを代表する名プロデューサー、アラン・トゥーサンの作品。

ビル・ペインの「いかにもN.O.」なピアノ・イントロにいざなわれて展開するのは、スローでダル、粘っこくてアンニュイなR&Bサウンド。

これまたフィートとしては、新機軸といえそう。新加入のコンガ奏者、サム・クレイトンがバンドの音に厚みを与えている。

一方、ローウェルのシャープなスライド・ギター・プレイにも、いっそう磨きがかかってきた。

(5)は、再びオリジナル。アコギとシンセをフィーチャーした、スローなサウンドにのせてうたわれる、ローウェルの歌は、メロディも歌いぶりもかなり「陰」で「鬱」なイメージ。

「フィート=ディキシー・チキン=めちゃ明るい」という理解をしている一般リスナーには「えっ!?」という感じの、意外な世界といえそう。

でも、実はこれこそが「素(す)」のローウェル・ジョージなのであって、「ディキシー・チキン」的ローウェルは「演出」なのかも知れない。

(6)はどちらかといえば、リトル・フィートの従来の路線上にある音。80年代、リトル・フィート再結成の際にはメンバーとなったシンガー、フレッド・タケットの作品。

スティール・ギターの使いかたといい、コーラスの入れ方といい、典型的ウェスト・コースト・サウンドという感じだ。

もし、こういうタイプの曲ばかりで占められていたら、このアルバムは「よくある及第点のアルバム」のひとつに片付けられ、時の流れの中に埋没してしまったに違いない。

(7)は、ビル・ペインとポール・バレーアー(このアルバムより加入)の作品。ニューオーリンズ風味の濃い、R&Bナンバー。

ギターが奏でるリフ、そしてノリノリのビートが実にカッコいい。やはり、このへんの新機軸こそが、フィートをフィートたらしめたと思うのだが、いかがであろうか。

(8)は、(1)とならぶ本盤の白眉。ファンキーでファニーなフィート・サウンドの真骨頂。

もちろん、ローウェルのオリジナル。彼の歌、スライド・ギターが縦横に活躍、バック・コーラス、ビルのピアノ、そしてリズム隊が叩きだす、怒濤のセカンドライン。すべてがカンペキなんである。

お祭り騒ぎのような(8)が終わると、対照的なラヴソング、(9)が始まる。フルートをフィーチャーした、メロウで官能的なサウンド。泣きのギターも、なかなかよろしい。

ラストは、ローウェルとビルの共作のインスト・ナンバー。少しダルな感じのレゲエ風ビートにのせて、再びローウェルのスライド・ギターをフィーチャー。

白人スライド・ギタリストといえば、もちろんデュアン・オールマンがその最高峰にあることは間違いないが、ローウェル・ジョージは彼とはまた違った個性、方法論で、同じく第一人者の座を獲得した。

情念のかたまりのようなオールマンのプレイとは対照的な、あくまでも澄み切ったそのトーンは、バンド全体のアンサンブルと見事に調和、非のうちどころのない音世界を構築している。

その後グループは79年に解散、ローウェルはその直後に若過ぎる死をむかえるが、彼らの傑出したオリジナリティと演奏力を超えるバンドはそう出ていない。

かのクワタ氏にも、計り知れない影響を与えた一枚。いまだに色褪せぬサウンドに、再注目してみよう。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#119 カクタス「RESTRICTIONS」(REPERTOIRE RR 4131-WZ)

2022-03-13 05:05:00 | Weblog

2002年9月22日(日)




カクタス「RESTRICTIONS」(REPERTOIRE RR 4131-WZ)

(1)RESTRICTIONS (2)TOKEN CHOKIN' (3)GUILTLESS GLIDER (4)EVIL (5)ALASKA (6)SWEET SIXTEEN (7)BAG DRAG (8)MEAN NIGHT IN CLEVELAND

「伊勢物語」の出だしふうに書くなら「むかし、さぼてん座なる音曲の一座ありけり」とでもなるだろうか。今を去ること三十余年前、アメリカにカクタス(さぼてんの意)という名のバンドがあった。

結成は69年。元ヴァニラ・ファッジのティム・ボガート(b)とカーマイン・アピス(ds)は、ジェフ・ベックとともにBBAを結成する予定だったが、ベックが交通事故に遭ったため結成を断念、元ミッチー・ライダー&デトロイト・ホイールズのジム・マッカーティ(g、ヤードバーズのdsとは別人)、ラスティ・デイ(vo)とともに作ったのが、このカクタスというわけだ。

当アルバムは、彼らの三作目。71年リリース。彼ら自身でも一番気に入っている作品だという。

まずはタイトル・チューンの(1)から。のっけから、へヴィー&ハードなギター・リフ、重心の低い粘っこいビート、そしてパワフルなシャウトが飛び出す。

そう、カクタスは生粋のハードロック・バンドなんである。

当時といえば、英国からZEPが68年末デビューするや、本国のみならず米国でも人気沸騰、ビートルズからZEPへと明らかにロックの潮流が変わってきた、そういう時期であった。

カクタスも、同じハードロック路線で、編成が同じだったこともあり、「米国版ZEP」ともいうべき扱いを受けていたように思う。

しかし、今聴いてみると、同じハードロックでありながら、微妙に違うのである。ブリティッシュ・ハードロックとは一線を画したサムシングがある。それは何か。

(2)を聴いてみると、それがよくわかる。スライド・ギターをフィーチャーしてブルース風味を加えてはいるが、メロディ・ラインといい、コーラスのつけかたといい、全体に脳天気なカントリー・フレーバーが横溢している。

これはつまり、かたや国営放送でしか音楽情報を得ることの出来ない英国と、何十何百もラジオ局があって、スイッチをひねればC&Wがすぐ流れてくる米国の、音楽環境の違いによるものといってもいいだろう。

「カントリー的なるもの」を排除して、米国のロックは成立しないのである。

英国のトラッドと、米国のカントリー、この違いが両国のハードロックにも微妙に反映しているといえそうだ。

(3)も、バリバリのハードロック。決して明るい曲調ではないにもかかわらず、ブリティッシュのような「湿り気」のない暗さとでもいおうか、どこか突き抜けたものを感じる。

(4)は、一瞬誰の曲じゃ!?と思うかも知れないが、まぎれもなくハウリン・ウルフのナンバー。

カクタスの「陰の主役」ともいうべき最強のリズム・セクション、ボガート&アピスが暴れまくる一曲だ。

オーソドックスなブルースとしての原曲を、完膚なきまでに破壊(笑)、まったく別のハード・ロック・ナンバーに仕立て上げたのはスゴいというほかない。

クリームの「トップ・オブ・ザ・ワールド」、JBGの「迷信嫌い」、ZEPの「レモン・ソング」をしのぐ、最強のカバー・ヴァージョンかもしれん(笑)。

(5)は、うってかわって肩の力を抜いた、軽妙なシャッフル。ハープをフィーチャーして、カントリー・ブルースっぽく仕上げている。

ただ、ちょっと不満が残るのが、ラスティ・デイのヴォーカル。彼はいわゆる「シャウター」のタイプで、格別ヘタではないが、「華がない」歌い手だなと思ってしまう。

聴き手に強い印象を残すことが出来ない、凡庸な歌いぶりだ。これがカクタスが、いまイチ成功しなかった理由のひとつのような気がする。

(6)はさらにブルース濃度を高めたナンバー。オリジナルだが、明らかに「ローリン&タンブリン」を下敷きにしている。

演奏はしっかりしているので、そこそこ聴けるのだが、ラスティの歌はどうもしっくりと来ない。彼はどうもブルース・フィーリングの感じられる歌い手ではない。

(7)はへヴィー・メタルの先駆ともいうべきサウンド。ラスティはワン・パターンなシャウトに終始しているが、むしろこちらの方が、彼には向いているような気がする。

ラストの(8)は、アコギの演奏にハープがからむ、インスト・ブルース。

ジョニー・ウィンターにもこの手のアンプラグドな演奏があるが、ジム・マッカーティもなかなかダウンホームないい味を出している。

カントリー同様、ブルースもまたアメリカ人にとっては、「心のふるさと」なのであろーな。

以上、全編通して聴くと、まぎれもないアメリカン・バンドなんだなあと感じてしまう。

その後バンドはメンバー・チェンジをするが、結局長続きせず、72年には解散してしまっている。

リズムのふたりはご存じのようにBBAを結成するわけだが、BBAサウンドの原点といえるのが、この一枚だと思う。

格別の名盤、傑作というわけではないが、カクタス4人の個性がもっともストレートなかたちで表われ、音楽的にも充実したこのアルバム、ぜひ一度聴いてみてほしい。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#118 ジョニー・ウィンター「CARTURED LIVE!」(BLUE SKY ZK 33944)

2022-03-12 05:02:00 | Weblog

2002年9月16日(月)



ジョニー・ウィンター「CARTURED LIVE!」(BLUE SKY ZK 33944)

(1)BONY MORONIE (2)ROLL WITH ME (3)ROCK & ROLL PEOPLE (4)IT'S ALL OVER NOW (5)HIGHWAY 61 REVISITED (6)SWEET PAPA JOHN

えっと、今回からちょっとフォーマットを変えてみたいと思いますんで、ヨロシク(また元に戻すかも知れないですけどね)。

最近、知人のりっきーさんこと土屋さんが入手されたFIREBIRDが大変話題になっておりますが、FBといえばジョニー・ウィンター、ジョニー・ウィンターといえばFB。この二者は切ってもきれない関係にありますな。

以前、「ジョニー・ウィンター・アンド」のライヴ盤を取上げましたが、今日のもそれにまさるとも劣らぬ一枚でありんす。76年リリース。

まずはジャケ写を見ておくれやす。ミニハムバッカーからレギュラー・ハムに交換したアイボリーのFBを抱えて、恍惚の表情で弾きまくるウィンター。

もうこれだけで"ググッ"ときちゃいますな。

まずはロックン・ロール・スタンダードの(1)。もち、ラリー・ウィリアムズの大ヒットざんす。

とにかく威勢がよい演奏。息もつかせぬ速弾きの連続。ワンパターンなんて言われようが知ったこっちゃない!といわんばかりのパワー・プレイでありますな。

続くはウィンターの盟友、リック・デリンジャーの作品、(2)。これまた速いテンポで押しまくる、痛快なナンバー。

ここでのウィンターのドライヴ感あふれるギター・プレイ、はっきり言って、カッコよすぎます。FBのエッジの立った音が、サイコー!

LPでのA面最後を飾るのは、(3)。かの、ジョン・レノンの作品であります。

でも、ジョンの「メンローヴ・アヴェニュー」での演奏より、こちらのほうが断然いい!と正直思ってしまうんであります。いけません?

やはり、ウィンターって、R&Rに不可欠な、がなるようなシャウトが決まる数少ないシンガーだと思いますのよ~ん。

さて、後半は、ボビー・ウーマック作のロックンロール・ナンバー、(4)。こちらもイカしてます。

歌のほうもいいし、ギター・プレイもモチごきげん。イントロのソロなんかシビれまっせ。

続く(5)は、もちろんボブ・ディラン作の名曲。ウィンターはこれを大幅にテンポ・アップして演奏。

なんと、10分以上にわたって狂熱のライヴを繰り広げるんだから、たまらないっす。

全編、これでもかぁぁ!!の粘着スライド・プレイの連続。いやー、しつこいのなんの(笑)。とにかく、全部で何コーラスあるんだろ。数えてみると、スゴいことになりそう。

ラストの(6)はウィンターのオリジナル。たぶん原典はどこかにあるんだろうけど。本盤唯一のスロー・ブルース。

ここでのギンギラのスライド・プレイもスゴい!のひとこと。もうひとりのギタリスト、フロイド・ラッドフォードとの「カラミ」も、ハンパぢゃないネチっこさ。さすが、肉ばっか食っている人種は違うわ(笑)。

コンサート会場であるスタジアムの、何万人という観衆を向こうにまわして一歩もひかない堂々の演奏ぶり。

○○○ロック、×××ロックという風にロックがカテゴライズされるのが当たり前になった70年代に、そういったカテゴリーぬきの、「これぞロック!」といえるサウンドを聴かせる数少ないロッカーであった、ジョニー・ウィンター。

今聴いても、体中の血が騒ぐ、熱い熱~いライヴであります。必聴!!

<独断評価>★★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#117 ロイ・ブキャナン「LIVE STOCK」(Polydor 831 414-2)

2022-03-11 05:10:00 | Weblog

2002年9月7日(土)



ロイ・ブキャナン「LIVE STOCK」(Polydor 831 414-2)

(1)REELIN' AND ROCKIN' (2)HOT CHA (3)FURTHER ON UP THE ROAD (4)ROY'S BLUZ (5)CAN I CHANGE MY MIND (6)I'M A RAM (7)I'M EVIL

ロイ・ブキャナン、75年リリースのライヴ盤。

まずは、ジャケ写がなんともいえずいい。アメリカの片田舎ならどこにでもありそうな、古びた構えの店(看板から察するに肉屋か?)。

ここでライヴが行われたかと思いきや、さにあらず。実際はニューヨークのタウン・ホールにて収録。そう、かのビル・エヴァンスもコンサートを行った場所だ。

時は74年11月27日、メンバーはブキャナンのほか、ビリー・プライス(vo)、ジョン・ハリスン(b)、バード・フォスター(ds)、マルコム・ルーケンス(kb)の5人。

まずは、ロイ・ミルトン&ヒズ・オーケストラのロックン・ロール・ナンバー、(1)から。チャック・ベリーやジョニー・ウィンターらで有名なR&R曲とは同名異曲なれど、こちらもノリのよさでは負けていない。

快調なテンポで、名刺がわりの演奏をキメる5人。やけにスムースなプライスのヴォーカルといい、前のめりのリズムといい、そのグルーヴの基本はやはり、C&Wだな。メンバー全員が白人だから、当然といえば当然だが。

続く(2)は、ウィリー・ウッズ作、ジュニア・ウォーカーのヒットで知られるインスト・ナンバー。こちらも、ポップ色の濃い、明るいノリの演奏。

ブキャナンのギターも、あくまでも陽性で歯切れのいいプレイだ。正直言って、さしたる個性の輝きは感じられないが。

(3)は、一転してブルースシンガー、ボビー・ブルー・ブランドのナンバー。プライスのヴォーカルは依然としてブルースっぽくないが、ブキャナンのギターはアタックの強いブルーズィなフレーズを紡ぎ出し、ようやく異彩を放ちはじめる。

予定調和を無視した、鋭角的でスピーディなプレイが、耳を直撃する。そうこなくっちゃ。

8分以上と長尺のオリジナル・ブルース、(4)では、ブキャナン自らヴォーカルもとる。

ボソボソとした下手ウマ系の歌のあと、いよいよお待ちかねのブキャナンのソロが始まる。

スローなビートにのせて、愛器テレキャスターが泣き、喚(わめ)き、うめき、唸る。

ときには天へと高く駆け上り、ときには地の底へと深く落ちてゆく、そんなプレイが延々と展開される。

エフェクトもほとんど使わず、ただただ彼の指使いによってのみ紡ぎ出された、音のカレイドスコープ。見事としかいいようがない。

さて、(5)はデスペンザ=ウルフォークのコンビの作品。タイロン・デイヴィスのヒットで知られる、ソウル・ナンバー。ファンキーなリズムが耳に心地よい。

ブキャナンもここでは、うってかわってトロピカルなムードの強い、流麗なソロ&コードワークを聴かせる。

白黒、カントリー、ロック、ブルース、ソウルと、さまざまなレパートリーが絶妙にブレンドされたライヴが続く。

続く(6)は、アル・グリーンのナンバー。黒いソウル・ビートを白人ブキャナンなりの解釈でとらえ、鮮やかなロックに料理してみせている。

ラストの(7)もまた、ブキャナン自身のオリジナル・ブルース。

6分18秒という限られた時間の中で、己れの心の「暗部」を、歌そしてそのギター・プレイでとことん表現してみせた、渾身の一曲。

そのかきむしるようなトーン、聴く者のはらわたを抉(えぐ)るようなプレイに、「ブルース」の真髄を感じないヤツはいるまい。

たった35分余りのライヴの中に、「明」と「暗」、「静」そして「動」、彼のギタリストとしての魂がすべて凝縮されている。

ギターを弾くということ、ギターで表現するということの「意味」を知りたければ、この1枚を聴くべし。

答えは、彼の「音」の中にある。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#116 レッド・ツェッぺリン「フィジカル・グラフィティ」(ワーナー・パイオニア 32P2-2739/40)

2022-03-10 05:01:00 | Weblog

2002年8月31日(土)



レッド・ツェッぺリン「フィジカル・グラフィティ」(ワーナー・パイオニア 32P2-2739/40)

Disc 1(1)CUSTARD PIE (2)THE ROVER (3)IN MY TIME OF DYING (4)HOUSES OF THE HOLY (5)TRAMPLED UNDER FOOT (6)KASHMIR Disc 2(1)INTHE LIGHT (2)BRON-Y-AUR (3)DOWN BY THE SEASIDE (4)TEN YEARS GONE (5)NIGHT FLIGHT (6)THE WANTON SONG (7)BOOGIE WITH STU (8)BLACK COUNTRY WOMAN (9)SICK AGAIN

レッド・ツェッぺリン、6枚目のアルバム。1975年リリース。

彼ら自身のレーベル、「SWAN SONG」からの初のアルバムであると同時に、初の2枚組アルバムでもある。

まずは、ペイジ=プラントのオリジナル、1-(1)。これぞZEP!といいたくなるような、キャッチーなギターリフで始まる、ファンキーな一曲。

オリジナルとはいえ、彼らのご多分にもれず、古いブルースからの「パクり」はふんだんに見られる。

タイトルは「CUSTARD PIE BLUES」、「I WANT SOME OF YOUR CUSTARD PIE」あたりから。もちろん、性的な暗喩を含んでいる。

歌詞はそれらの他に、「SHAKE'EM ON DOWN」、「DROP DOWN MAMA」あたりからも頂戴したフシあり。

まさに、ブルース通な彼ららしい、やりたい放題、し放題。でも、カッコいい音だから、許す(笑)。

毎度おなじみ、プラントのハープ・プレイもキマっている。

1-(2)は、本来前作「聖なる館」に入るはずだった曲がおクラ入りになっていたもの。ペイジ=プラントの作品。

これまた、ZEPのギターリフのカッコよさを前面に押し出したナンバー。ペイジはほんに「リフ名人」である。

哀感あふれるメロディラインも、かの「天国への階段」を思わす出来ばえで、グー。

1-(3)はブルース濃度の高い一作。もともとは「JESUS GONNA MAKE UP MY DYING BED」として知られるトラディショナルだが、ZEP流に四人でアレンジ、ペイジのスライドギターをフィーチャーしている。

ボンゾのパワー・ドラミングが約11分にわたって炸裂する、ヘビー級ブルース。いやー、おなか一杯。

1-(4)は、これまた前アルバムのアウトテイク。曲名が示すように、もともとタイトル・チューンとして入る予定だったようだ。

彼らお得意の、ワンコード調ロックン・ロール。ペイジ=プラントの作品。

前曲の詞・サウンドの「重さ」から一転、妙に陽気なお祭り騒ぎ状態。これもまたええもんです。

続く1-(5)はファンキー&ダンサブルなチューン。ペイジ=プラント=ジョーンズの作。日本ではシングルカットされたから、記憶に残っているかたも多いだろう。

ジョーンジーのクラヴィネットが、スティーヴィ・ワンダー風なグルーヴを弾き出す、イカした一曲だ。

1枚目におけるハイライトは、なんといっても、1-(6)だろう。ペイジ=プラント=ボーナムの作。ペイジの東洋音楽趣味がふんだんに盛り込まれた、エキゾチックなメロディが耳を刺激する。

ZEPとしては異例の、管・弦ともにセッション・ミュージシャンを加えた、大所帯レコーディングを敢行。

ペイジによって緻密にアレンジされた「音曼荼羅」が約8分半、繰り広げられる。

ギターソロにたよらず、もっぱらオーケストレーションで構築された世界。ZEP=ハードロック・バンドとして把握しているひとたちには、若干奇異に感じられるかもしれないが、幅広い音楽性を持つZEPの、ほんの一側面に過ぎないのだ、これは。

さて、2枚目へ行こう。2-(1)は、かすかなシンセ音から始まり、ゆるやかなヴォーカルが流れ、ミディアム・テンポへと盛り上がって行くナンバー。ペイジ=プラント=ジョーンズの作品。

ハードでもアコースティックでもない、彼らの「第三の顔」的ナンバー。どこかファースト・アルバムの「時が来たりて」やセカンドの「サンキュー」を連想させる、余裕あふれる前向きな雰囲気の歌詞、そしてサウンドである。

このトラックでの「聴きもの」はやはり、入念に多重録音されたペイジのギター・プレイであろう。

2-(2)は、タイトルを見るとおわかりになるだろうが、サード・アルバムのB面とつながりの深い一曲。「BRON-Y-AUR STOMP(スノウドニアの小屋)」同様、70年、ブロン・イ・アーという地に滞在した際に、ペイジが書いた、インスト・ナンバー。

一台のアコースティック・ギターで演奏されたとはとても思えないくらい、ゆたかで深い響きを持ったサウンドだ。

2-(3)も前の曲同様、サード・アルバムでおクラ入りだったナンバー。ペイジ=プラントの作品。ゆったりとしたフォーク・ロック調のビートがなんとも心地よい。

途中、平和な雰囲気が一転、緊迫感あふれるサウンドへと変化(へんげ)し、さらには再びのどかな曲調へと戻る。このへんのアレンジも実にカッコよい。

2-(4)もまた荘厳にして華麗なギター・アレンジが光る一曲。ペイジ=プラントの作品。

ミディアム・ビートにのせて、ギター・オーケストラとでもいうべきペイジの多重録音プレイが堪能できる。ペイジはライヴではいまイチなことが多いプレイヤーだが、スタジオ録音ではよく練れた、すばらしい演奏を聴かせてくれる。

「ロック=アレンジなり」、そういう意識革命を、彼はわれわれに初めてもたらしたと言えそうだ。

2-(5)は、ギター&オルガン・サウンドがどことなくFaces風のナンバー。ペイジ=プラント=ジョーンズの作品。

シンプルな8ビートに乗せて、プラントのセクシーなシャウトが全開。

ZEPにしてはえらくストレートでオーセンティックな曲調だが、もちろん、ソツなくまとまっている。

2-(6)はアップ・テンポの変拍子ふうビート、ボンゾ大活躍のナンバー。ペイジ=プラントの作品。

へヴィーメタル系の多くのバンドに、絶大なる影響を与えたに違いない一曲。とにかく、ノリのよさは本アルバム随一。

ただ期待に反し、あえてヘヴィメタ調ゴリゴリ・ギターを弾かず、ヘナチョコ風ソロが展開する。これは、ペイジの洒落っ気のあらわれか!?

2-(7)はステューことイアン・ステュアートをゲスト・ピアニストに迎えての一曲。「ラ・バンバ」のヒットで知られる早世のロッカー、リッチー・ヴァレンスの「オー・マイ・ヘッド」を下敷きに、五人がアレンジを加えている。

シンプルなブギウギのリズムが実にごきげん。ジャム・セッションをそのまま収録したようなイキのよさがある。

2-(8)は、一転、ディープなカントリー・ブルースの世界へわれわれをいざなう一曲。ペイジ=プラントの作品。

これも以前(72年ころ)にレコーディングされ、おクラ入りになっていたテイクらしい。

歌詞からうかがうに、まるでロバート・ジョンスンが生きていた30年代の、デルタ・ブルースの世界そのままという感じ。

情は深いが、嫉妬心、独占欲もまた一段と強い女との痴話喧嘩、そんなイメージ。(筆者の貧弱な英語力での判断なので、違っていたらゴメンナサイ。)

アコースティック・ギターのサウンドをベースに、マンドリン、ドラムスなども加えて、力強いサウンドに仕上げている。プラントのハープも、いい味をかもし出している。

ラストの2-(9)は、ふたたび正調ZEP流ハードロックに戻って、しめくくり。ペイジ=プラントの作品。

スライドギターを絡めた、重心の低い、粘っこいビート。暴れまくるボンゾのドラムスが実にいい。

これこそ、ZEPにしか出せないグルーヴ。彼抜きでは絶対ZEPは成立しなかったことが、よくわかる。

以上、16曲。ZEPが持てるすべてが投入された、究極の2枚組。全米チャートで6週連続トップだったのも、当然だと思う。

ZEPのアルバムとして「最高傑作」であるかどうかは、いささか異論もあるだろうが、一番の「力作」であることは間違いないだろう。

ま、好き嫌いはあるだろうが、ロックにたずさわっている人間なら、一度はチェックしなくちゃ。そのくらい、ロック史上、無視できない一枚だと思う。

<独断評価>★★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#115 スティーリー・ダン「AJA」(MCAビクター MVCM-18520)

2022-03-09 05:03:00 | Weblog

2002年8月24日(土)



スティーリー・ダン「AJA」(MCAビクター MVCM-18520)

(1)BLACK COW (2)AJA (3)DEACON BLUES (4)PEG (5)HOME AT LAST (6)I GOT THE NEWS (7)JOSIE

スティーリー・ダン、6枚目のアルバム。1977年リリース。

筆者はこれを大学在学中によく聴いたものだが、今回CDで購入し聴き直してみて、改めてさまざまな感慨にふけることになった。

まず、発表されて四半世紀が経ったにもかかわらず、まったくサウンドが「古く」感じられないということだ。

この「サウンド」という言葉は、単に演奏内容、アレンジ(編曲)といった意味だけでなく、「録音技術」的な意味、「音場」というような意味も含むと考えていただきたい。

そういう「総合的」な意味でも、この77年のサウンドはまったく「過去」のかけらも感じさせない。これは驚嘆すべきことだろう。

このアルバムの内容については、ネットを含めて実にさまざまなメディアで、幾度となく紹介されてきたので、皆さんご存じであろうが、まず、レコーディングに参加したメンツがスゴい。

スティーリー・ダンのふたりを核に、リズムはチャック・レイニー(b)、ポール・ハンフリー、スティーヴ・ガッド、バーナード・パーディ、リック・マロッタ、ジム・ケルトナー(ds)ほか。

ギターはラリー・カールトン、デニー・ディアス(元スティーリー・ダン)、リー・リトナー、スティーヴ・カーン、ジェイ・グレイドンほか。キーボードはジョー・サンプル、ヴィクター・フェルドマン、ポール・グリフィンほか。

そして極めつけは、ホーン・セクション。すべてのホーン・アレンジをまかされたトム・スコットを筆頭に、ウェイン・ショーター、ジム・ホーン、ビル・パーキンス、プラス・ジョンスン、チャック・フィンドレーら、ジャズ/フュージョン界での名うてのプレイヤーぞろいなのである。

こういった綺羅星のごとき名手・達人たちを、スティーリー・ダンのふたりは、それこそ自分の手足のごとく使って、この恐るべきアルバムを完成させたのだ。

たとえば、のっけの(1)から、「ファンク」な音で聴く者をいきなりノックアウトする。

レイニーのベース、カールトンのギター、スコットのテナー、いずれも達人ならではの技だが、それらに「食われる」ことなく、フェイゲンの力強いヴォーカルや女声コーラスがしっかりと曲を「仕切って」おり、本盤を決してジャズやフュージョン・アルバムにはしていない。あくまでも「歌」中心の「ポピュラー・ミュージック」のスタンスなのだ。

もっとも、この「ポピュラー・ミュージック」、その歌詞世界は、かなりひねくれた代物ではあるのだが。

タイトル・チューン、(2)はスティーヴ・ガッドの見事なプレイに支えられた一曲。

特に聴きものは間奏での、彼とウェイン・ショーターの、壮絶なバトルだろう。

だがやはり、メインはあくまでもスティーリー・ダンの生み出した「曲」そのものだと思う。

フェイゲンの独特の翳りのある歌声にマッチした、ひねりのある旋律とシュールな歌詞、これこそがスティーリー・ダン・ミュージックなのだ。

(3)では、当時フュージョン・ギター界の人気を二分していたカールトン、リトナーが共演。

安っぽいPRをするなら「夢の競演」ということになるのだが、もちろん彼らのプレイも、スティーリー・ダン・ワールドの構築のために使われている1コンポーネントに過ぎない。

この曲はどちらかといえばオーソドックスな8ビートで、バックにはジャズィなセンスが横溢している。

もちろん歌の中身は例によって、退廃的な生活を送るジャズマンに自らをなぞらえた、屈折した青年の心情をうたったものだが、あくまでもバックは正統派の音、これがいいのだ。ピート・クリストリーブのテナー・ソロも、実によく「歌って」いる。

ほぼ同時期に発表された、ラリー・カールトンのアルバムに収められていた「ルーム335」に曲想がよく似ているのは(4)。でも、インストの前者とは違って、こちらは彼らなりの洒落た料理がなされており、有名モデルになった別れた恋人へ送るラブソングへと仕上がっている。

ま、当時はこれを女子大生あたりが「オッシャレー」と言って好んで聴いておったワケ(笑)。

たしかに、ジェイ・グレイドンのソロも、(その速弾きといい、絶妙なハズし技といい)むちゃカッコよかったもんな~。

しかし、彼らは単にハイセンスでシティ感覚あふれる音楽を作る集団ではないのであり、歌詞を聞こうとしない(あるいは出来ない)わが国のリスナーには、その本質は理解できていなかったはずだ。

これは別にスティーリー・ダンによらず、わが国の洋楽受容のおおかたの実態なんですけどね。

実際、この高精度サウンドのおかげで、彼のレコードは「サウンドチェック用」として、いわゆるオーディオ・マニアに愛好されていたフシもある。やれやれ、という感じだが。

(5)は、レゲエ風スロー・シャッフルでの一曲。

「安らぎの家」を得たかのように見えた主人公は、結局何処へかと去っていく。「自分の運」をもう一度試すために。

相変わらずわかったようなわからないような、人を食った歌詞が彼ららしい。

彼らは、聴き手の理解を助けるようなフォローを決してせずに、考えたままに歌詞を書いていってしまうタイプのクリエイターなのだ。たぶん。

ここでのカールトンの、シブめの、どこか「独り言」を思わせるソロもなかなか味があってよい。

続く(6)は、性的な暗喩に満ちた歌詞が印象的な、ファンキーなビートのナンバー。フェルドマンのピアノのノリがいい。

ギターはベッカーとカールトン。ペナペナ系のソロがなかなか「気分」である。

ラストの(7)はジョージーという気風のいいイカした女のことを歌ったナンバー。こちらもまた、レイニーが弾き出すファンクなリズムが心地よい。

ジャズ好きなフェイゲンのアレンジが、なんともグー。こういう、不協和音系の音使いのカッコよさにおいて、スティーリー・ダンをしのぐロック・バンドはいないだろう。

以上、彼らの音楽の最終的到達点ともいえる、非のうちどころのない「完璧」な音作りが堪能できる一枚。

まったく「古さ」を感じない音だということは、裏返していえば、「この四半世紀、ポピュラー・ミュージックは、まったく進歩していない」という証拠にもなるかも知れない(笑)。

再聴、再々聴に耐えうる、まれなる一枚。やはり、ふたりの才能は、ただものではないね。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#114 V.A.「BLUE GUITAR」(東芝EMI/BLUENOTE TOCJ-5725)

2022-03-08 05:22:00 | Weblog

2002年8月17日(土)



V.A.「BLUE GUITAR」(東芝EMI/BLUENOTE TOCJ-5725)

(1)JAMMIN' IN FOUR(CHARLIE CHRISTIAN) (2)JIMMY'S BLUES(JIMMY SHIRLEY) (3)TINY'S BOOGIE WOOGIE(TINY GRIMES) (4)STROLLIN' WITH BONES(T-BONE WALKER) (5)LOVER(TAL FARLOW) (6)BOO BOO BE DOOP(SAL SALVADOR) (7)SEVEN COMES ELEVEN(JIM HALL) (8)CHEETAH(KENNY BURRELL) (9)WES' TUNE(WES MONTGOMERY) (10)NIGHT AND DAY(JOE PASS) (11)COME SUNRISE(GRANT GREEN) (12)THE SHADOW OF YOUR SMILE(EARL CLUGH) (13)JACK RABBIT(BIRELI LAGRENE) (14)CORAL(AL DI MEOLA) (15)FLOWER POWER(JOHN SCOFIELD) (16)90 MINUTE CIGARETTE(JOHN HART) (17)JUMPIN' JACK(STANLEY JORDAN)

まずはタイトルに注目。「ブルース・ギター」かと思いきや、一字違いの「ブルー・ギター」なんである。なんでこんなタイトルがついたかというと、「ブルーノート・レーベル」のギタリストの演奏をコンパイルしたから、ということである。(ただし、一部、T-ボーンなど他のレーベルの音源を買い取っているものもある。)

時代的には1941年のチャーリー・クリスチャンから、85年のスタンリー・ジョーダンまでをカバーしている。

(1)はモダン・ジャズ・ギターの開祖とよばれるチャーリー・クリスチャンの演奏。曲はチェレスタを弾いているミード・ルクス・ルイスの作品。エドモンド・ホールのクラリネットをフィーチャーした、典型的なスイング・ジャズ・コンボだが、彼のギターだけはモダンな香りがぷんぷんとしている。

(2)は、日本ではほとんど注目されることのない、ジミー・シャーリーの演奏。彼自身のオリジナル。45年の録音。

これがなかなかの拾いもの。ベース一本をバックに弾かれる彼のソロ・フレーズはジャズというよりはブルースのフィーリングが強く、ブルース畑のひとにも結構「使えそう」なリックが満載である。音色にも艶があって、筆者好みだ。

(3)はアップテンポのブギウギのリズムに乗って弾かれる、タイニー・グライムスのギター演奏。46年の録音。スイング・ジャズでありながら、ブルース色も結構強い。アタックの強い、ベルを鳴らすような高音中心のプレイ。これまたブルース・ファンにもおススメ。

かの「モダン・ブルース・ギターの父」、T-ボーン・ウォーカーも収録。50年、インペリアルにて録音の(4)がそれだ。彼のオリジナル。

彼はクリスチャンの影響を強く受けているだけあって、ブルース、R&Bのカテゴリーながら、かなりジャズっぽいフレーズを繰り出す。かと思うと、後に「ロックン・ロール」とよばれる音楽を思わせるフレーズも出てきて、一筋縄ではいかない。

とにかく、彼のプレイはメリハリがバッチリきいていて、カッコいいの一言。

50年代に入ると、クリスチャンの影響を受けたモダンジャズ・ギタリストたちが続々とデビューする。54年に録音された、ロジャーズ&ハート作のスタンダード(5)を演奏する、タル・ファーロウもそのひとりだ。

白人の彼は、洗練されたフレーズ、たくみなコードワーク、独特の低音弦の使い方などで、一躍時代の寵児となった。そのスピーディなプレイは今聴いても舌を巻いてしまう。

(6)はファーロウ同様、クリスチャン派の白人ギタリスト、サル・サルヴァドールの演奏。ビル・ホールマンの作品、54年の録音。

スインギーなリズムに乗せて、エディ・コスタのヴァイブとともに、速いパッセージを弾きまくる彼のギターは、「陽性」そのもの。

もうひとり、クリスチャン派の白人ギタリストが登場。日本でも人気の高い、ジム・ホールである。彼はクリスチャン&ベニー・グッドマンのナンバー(7)を、モダンな和声感覚で料理して演奏。57年の録音。。

50年代は、黒人ギタリストにもすぐれたプレイヤーが多数登場する。ケニー・バレルもそのひとりだ。

彼は自身のオリジナル、(8)を演奏。56年の録音。一聴してわかる、彼の落ち着いたギターの音色は、筆者もオキニである。

いわゆる「派手さ」はないのだが、一音一音丁寧に弾いていく感じが実にいい。またそのフレージングには、黒人ならではのブルース感覚が濃厚に感じられる。白人ギタリストたちと、ひと味違うゆえんである。

同じく黒人のギタリスト、ウェス・モンゴメリーは、オリジナルのブルース調のナンバー、(9)で登場。58年の録音。

のちにはジャズというカテゴリーを踏み越えて、イージー・リスニングの世界でもヒットを飛ばした彼だが、当時はピュア・ジャズなプレイヤーだったことがこれを聴くとよくわかる。

トレードマークのオクターヴ奏法も、この頃ではほとんど用いていない。だが、そのしっかりとしたリズム感覚、アドリブのセンスは、すでにトップ・プレイヤーのそれであった。

コール・ポーターの名曲、(10)を演奏するのはジョー・パス。64年の録音。

もっとも歌心のあるギタリストのひとりといえる彼は、クリスチャンからの影響はもちろん強く受けているものの、それにとどまらず、ジャンゴ・ラインハルトに代表されるヨーロッパのジャズも消化して、ユニークな音世界を作り上げている。

その縦横無尽の演奏力は、のちにギター一本だけで作り上げた傑作、「ヴァーチュオーゾ」シリーズへと結実することになる。

(11)はもっともファンキーなジャズ・ギタリスト、グラント・グリーンのオリジナル。61年の録音。

彼はブルースや二グロ・スピリチュアルの感覚あふれる、独自の音世界を持つギタリストである。名手ケニー・ドリューがピアノで参加、見事なバッキングをつけている。

(12)は、もっぱらアコースティック・ギターを弾く、アール・クルー77年の録音。おなじみボサノヴァのスタンダードである。

クルーの場合、いったんジャズ的なイディオムを離れて、非ジャズファンにもわかりやすく、聴きやすいサウンドを再構築している。スゥイートでロマンチック、メロディアスなソロは、女性にもうけがよかった。

88年録音、ハービー・ハンコックの作品(13)で、超絶的な技を聞かせる若手ギタリスト、ビレリー・ラグレーンが登場。

といっても、われわれには余りおなじみの名前でないかも知れない。

彼はジャンゴ・ラインハルトのようにジプシーの血を引いており、そのサウンドも、ジプシーの血を十分感じさせるような、情熱的でアグレッシヴなものだ。

燃えさかる炎のようなギター・ソロを聴いてみてほしい。

おだやかなアコースティック・サウンドの(14)は、技巧バリバリのフュージョン・ギタリストとして有名なアル・ディメオラの演奏。キース・ジャレットの作品、84年の録音。

ここではあえてテクニックの押し売りは控えて、リリカルなナンバーをソフトに弾きあげている。

続く(15)は、ジョン・スコフィールドのオリジナル。彼もディ・メオラ同様、70年代に登場したフュージョン系ギタリストのひとりだ。89年の録音。

ブルース的な音とは対極にある、およそ「力み」のない、そよ風のようなギター。いかにも時代の流れを反映したようなサウンド、そしてタイトルである。

筆者個人としては、こういうメリハリに欠けた、「タレ流し」的なプレイはあまり好みではないんだが。

80年代に登場した新鋭ジャズ・ギタリストのひとりにジョン・ハートがいるが、彼はオリジナル(16)で登場。88年の録音。

ハートは、クリスチャン→ホールといった、伝統的モダンジャズ・ギターの流れの上にあるタイプのプレイヤー。そのトーンも、フレージングも、ホールの正統的後継者といった感じだ。

ラストに登場するのは、同じく80年代デビューのスタンリー・ジョーダン。(17)は自身の作品。85年のライヴ録音。

彼はジャズ・ギターにタッピング奏法(両手で弦を弾く、ひとり二重奏)を始めて持ち込んだ、超絶技巧派。

ただ、その奏法のスゴさばかりがクローズアップされて、彼のサウンド自体については余り語られなかったのも事実。

現在ではいささか影が薄いジョーダンだが、この音が発表された85年当時は、相当な衝撃をもって迎えられたものだ。

音楽としての成熟度は?印だが、そのテクニック&パワーをじっくりチェックしてみるべし。

一枚を通して聴くと、ギターって本~当に奥が深いと思う。

これまでさまざまなスタイルが生み出されてきたものの、古いものが必ずしもダサくないし、新しいスタイルが必ずしもイカしているとは限らない。そういうことがよくわかる。

ジャズ・ファンのみならず、ブルース・ファンのかた、ブルース・ギタリストを目指されるあなたにも、ぜひ聴いていただきたいコンピ盤である。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#113 クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル「EARTHQUAKE - LIVE AT BUDOKAN 1972」(KILLING FLOOR KF 99036)

2022-03-07 05:21:00 | Weblog

2002年8月10日(土)



クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル「EARTHQUAKE - LIVE AT BUDOKAN 1972」(KILLING FLOOR KF 99036)

https://youtu.be/W0q5KCUCWSU (Youtubeで聴けます)

(1)INTRODUCTION (2)BORN ON THE BAYOU (3)GREEN RIVER ~ SUSIE Q (4)IT CAME OUT OF THE SKY (5)DOOR TO DOOR (6)TRAVELIN' BAND (7)FOURTUNATE SON (8)COMMOTION (9)LODI (10)BAD MOON RISING (11)PROUD MARY (12)UP AROUND THE BEND (13)HEY TONIGHT (14)SWEET HITCH HIKER (15)KEEP ON CHOOGLIN'

いやー懐かしい。CCR、30年前のライヴを収めたプライベート盤なのだが、なにが懐かしいといったって、この演奏を筆者自身、ナマで聴いていたのだから。

時は1972年2月29日、場所は日本武道館。CCR初の日本公演である。

アルバム・タイトルの由来は、その公演の直前、震度4の中震が起き、武道館をも揺らしたことから来ている。そしてもちろん、CCRの三人も、地震に負けじと(?)迫力あるサウンドで武道館を大きく揺るがした、そういうわけだ、

(1)では懐かしのDJ、今はなき糸居五郎さんがMCで登場、地震の報告をしている。あの日の光景が目に浮かぶようだ。

音源はもちろんライン録りではなく、観客席でのテレコ録りのようだ。それにしては、まあまあ聴ける音質。

オープニングは、定番の(2)から始まる。まさに彼らの南部志向を象徴するような名曲。

オリジナル・メンバーのトム・フォガティが脱退してまもない頃で、残りの三人がそのままトリオとして活動を続け、今回の日本公演もそのメンバー構成。

続いて(3)は、69年のヒット「グリーン・リバー」、そして68年のデビュー曲にしてデイル・ホーキンスのカバー「スージーQ」のメドレーを。いずれも白人離れした黒いフィーリングに満ちあふれたナンバーだ。

今考えてみると、「グリーン~」のようにメロディよりリズム先行型の、えらくシブい曲をA面にもってくるというのは、実に画期的なことだったと思う。

(4)は69年末に発表した4枚目のアルバム、「WILLY AND THE POOR BOYS」からのナンバー。アップテンポで陽性のノリが実にカッコいい。

(5)は72年発表のアルバム「マルディ・グラ」に収録、ベースのステュ・クックが始めてリードヴォーカルをとった、ミディアム・テンポのナンバー。

ジョン・フォガティの黒いヴォーカル・スタイルとはかなり違った、軽妙な歌いぶり。CCRとしては異色の作品だ。

(6)はいかにもCCRらしい、威勢のいいロックン・ロール・ナンバー。70年の大ヒットだ。

続く(7)は69年のヒット曲「ダウン・オン・ザ・コーナー」のB面。ジョンの力強いシャウト、そしてハードなビートが印象的なナンバー。もちろん当時の彼らの常として、両面でヒットしている。

(8)は同じく69年リリース、「グリーン・リバー」のB面。アップテンポでグイグイと飛ばす、ロカビリー・テイストの一曲。ジョンの「ブラック・ビューティ」が奏でる、泣きのソロがなかなかよい。

B面ものでもう一曲。続く(10)のB面にあたる(9)を。曲調はガラリと変わって、ゆったりしたテンポのカントリー・ソング。

ブラックな面とは別に、こういういなたい、白人好みのフレーバーも加わることで、CCRのサウンドは奥行き、深みをそなえているといえそうだ。

(10)は69年にヒット。CCRの陽気さ、そしてメロディアスさを代表するようなナンバー。

(11)は説明不要、CCRといえばこれ!という代表曲。多くのひとにカバーされているが、やはりご本家の味わいには格別のものがある。明るさ、楽しさにおいて、他の追随をゆるさない。

オリジナルとはアレンジを少し変えて、スローなテンポからスタートしたのは(12)。もちろん、あのおなじみの高音のギター・フレーズが始まって、軽快にテンポ・チェンジ。タイトなグルーヴは、やはりナンバーワン・バンドならではのものだ。

ヒット曲テンコ盛りの攻勢に、会場も大いにのりまくる。

(13)は70年リリースのアルバム「ペンデュラム」から。アップテンポで飛ばす。極めつけのロックン・ロール。

ステージもいよいよ終盤。「グゥイーーーン」という、おなじみのグリッサンド・ギターではじまったのは、やはりアップテンポのロックンロール、(14)。

観客も全員手拍子、そして足を踏み鳴らして、エキサイト。先刻の地震をはるかに上まわるパワーで、武道館はROCKし、そしてROLLした。

ラストは、これまたコンサートの定番メニューだったという、(15)。(2)同様、名盤バイヨウ・カントリー」の中核をなす、、もろにディープ・サウスなナンバー。

これをジョンは13分以上にわたって、ハープ、そしてギターソロを聴かせてくれるので、CCRの「南部」な音が、とことん楽しめる。。

以上、シングル曲中心の構成のため、約60分と短めだが、ロックのエッセンスがすべて詰まったステージ。

「あの日」、現場にいたひとには感涙ものだが、そうでないひとにも、70年代ロックのいちばん「おいしい」ところを味わってもらえるであろう一枚。

正規盤のライヴ二枚とともに、ぜひチェックしてみて欲しい。

<独断評価>★★★


音盤日誌「一日一枚」#112 クリーム「LIVE CREAM VOLUME II」(Polydor POCP-2267)

2022-03-06 05:14:00 | Weblog

2002年8月5日(月)



クリーム「LIVE CREAM VOLUME II」(Polydor POCP-2267)

(1)DESERTED CITIES OF THE HEART (2)WHITE ROOM (3)POLITICIAN (4)TALES OF BRAVE ULYSSES (5)SUNSHINE OF YOUR LOVE (6)HIDEAWAY

クリーム、ダメ押しの一枚。これは72年にリリースされた、「LIVE CREAM」の続編。

(1)~(3)はオークランド・コロシアムでのライヴ。「GOODBYE」には収録されなかった解散ツアーでの録音である。

「WHEELS~」に収録されていた(1)のライヴ版は4分半程度といささか短めだが、クラプトンのソロがストレートでスピード感にあふれ、なかなかカッコよろしい。コンパクトにまとまっているので、コピーにはいいかも。

(2)はクリームの大ヒットのひとつ。オリジナルの「WHEELS~」版にくらべると、生演奏ゆえのラフさが相当目立ち、録音状態も必ずしもよくない。

まあ、それでも、クラプトンのワウ・ペダルを駆使した迫力あふれるソロは、ギタリストなら一聴に値いするだろう。

(3)は、「GOODBYE」でもライヴが聴かれた一曲。聴きくらべてみると、テンションの高さ、リズムの切れ、ギターの音色といった点で、「GOODBYE」版のほうに軍配が上がりそうだ。

(4)~(6)は68年3月、ウィンターランドにての録音。後半はいわば「WHEELS~」のアウトテイク集である。当然、あのサイケペイントSGを弾いている。

(4)は循環コードで(2)に曲調が似た、セカンドアルバム所収の一曲。というかこの曲をプロトタイプとして(4)が生まれたんだから、似ているのは(2)のほうか。

ここでもワウ・プレイが全開。このクラプトンのサウンドが、ジミ・へンのそれと並んで一躍ワウ・ペダルの存在を世界に知らしめたのだといえる。

(5)も、(2)と並ぶ彼らの代表的ヒット。セカンドアルバム所収。こちらのほうが(2)よりもライヴ向きといえ、シンプルかつハードな演奏が実にいい。

スタジオ版のアレンジをさらにエクステンドして、後半には延々とギター・ソロが続くのもクラプトン・ファンにはうれしいところだ。

(6)はりリース当初は「ステッピン・アウト」(メンフィス・スリムでおなじみ)とクレジットされていたのだが、のちにフレディ・キング作の(6)に改められたという、いわくつきのナンバー。フレディを師と慕い、印税が彼のもとへいくようにしたいという、弟子・クラプトンの気持ちのあらわれのようだ。(ええ話やな~)

この曲は本盤のハイライト。13分半以上にもおよぶ長編で、フレーズが尽きるということを知らないクラプトンの才能に、圧倒されない奴はそういないはず。

とにかくギターで出せる音階はすべて出してみました、という感のある「音の洪水」。「クロスロード」とはまたひと味違った、彼の幅広い世界がじっくり味わえる。

さて、三作にわたって、ライヴものを中心にクリームを聴いてみた。

で、総評なのだが、たしかに彼らのテクやパワーはスゴい。一曲を10分、15分も延々と演奏して、しかもネタ切れにならないところもスゴい。

しかし、あくまでも「スゴい」で終わってしまいがちなのが、彼らの限界であったかも知れない。

何度も繰り返して聴いていくと、若干食傷気味になる、そういうトゥー・マッチなところが、彼らのサウンド(特にライヴ)にはある。

モダンジャズのインプロヴィゼイションは、繰り返し聴いてもまずあきるということがないのに比べ、彼らのインプロヴィゼイションは(特にレコード・CDで聴くと)何度も聴くのはしんどい。

スゴい演奏イコール必ずしも素晴らしい音楽とはならない、これが音楽の難しく、奥の深いところだ。

クラプトンが後にアメリカン・ロックに目覚め、大きくサウンドを変化させていったのも、無理からぬものがあると思う。

到達点ではなく、経過点としてのクリーム。この二年間を経ることで、クラプトンはかつてのようにブルース一辺倒ではなく、幅広い音楽性を求め、羽ばたくことになったのだと思う。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#111 クリーム「LIVE CREAM」(Polydor 531816)

2022-03-05 05:04:00 | Weblog

2002年8月4日(日)



クリーム「LIVE CREAM」(Polydor 531816)

(1)N.S.U. (2)SLEEPY TIME TIME (3)LAWDY MAMA (4)SWEET WINE (5)ROLLIN' AND TUMBLIN'

今日もクリームでいきます。これは解散後、70年にリリースされたライヴ盤。

68年3月のウィンターランドおよびフィルモアでの録音、つまり「WHEELS~」のアウトテイク集ともいえる。

(1)は「FRESH CREAM」からの、アップテンポのヘヴィーなナンバー。スタジオ・テイクより大幅に長い、10分にわたる熱演。

中間部にはクラプトンの長いソロをはさみ、これでもかといった感じの演奏が執拗に繰り広げられる。

また、ブルースのリード・ヴォーカルに加えて、クラプトンがパワフルなコーラスで活躍しているのも聴きどころ。

(2)もまた「FRESH~」からの一曲。曲調は一転、スロー・ブルースに変わる。

ときには物憂げな、そしてときには激情をほとばしらせるかのようなギター・ソロが、クラプトンの確かな実力を感じさせる一編。

やはり、曲がブルースになると、とたんに彼のギターは生き生きとしてくるように感じる。

(3)は唯一のスタジオ録音。イントロを聴いて「ン? どこかで聴いたことがある」と思うはず。

そう、セカンド・アルバム収録の「ストレンジ・ブルー」のバッキング・トラックをそのまま使って、別の歌詞(トラディショナル・ブルース)で歌い直し、ギター・ソロも新たに録ったのである。演奏もアレンジも、わりと凡庸で、特筆すべき点はない。

続く(4)はふたたびライヴ。約15分と、本盤中最大の長尺もの。

延々とワン・コードに乗せたギター・ソロが続くのは、かの名演「スプーンフル」とほぼ同じ構成。

よくまあこれだけフレーズの貯えがあるものだというくらい、長丁場をあきさせないクラプトンの腕前。やはり、天才である。

もちろん、それをサポートする、ブルース、ベイカーの強力なリズム隊もスゴいのだが。

途中からはブルースもベース・ソロを披露、そのゴリゴリ、ブリブリの音は、好みの問題もあって評価が分かれるところだろうが、「リード・ベース」という異名をとっただけのことはある超絶テクニックだ。

最後は三者入り乱れて音の洪水状態。ものすごい迫力だ。そして大団円。

いやー、おなかイッパイです(笑)。

ラストの(5)は、これまた「FRESH~」からのナンバーで、マディ・ウォーターズのカバー。ベースレスで、ブルースがハーモニカを吹きまくる。

これが実に達者な演奏。クラプトンのギター・ソロにも、決してヒケをとらない、内容の濃さである。

以上、緩急とりまぜたレパートリーで、彼らの究極のテクニックを堪能することが出来る一枚。楽器を演奏されるかたなら、一度はチェックしてみてほしい。ノックアウト間違いなしです。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#110 クリーム「GOODBYE」(Polydor 531815)

2022-03-04 05:18:00 | Weblog

2002年8月3日(土)



「GOODBYE」(Polydor 531815)

(1)I'M SO GLAD (2)POLITICIAN (3)SITTIN' ON TOP OF THEWORLD (4)BADGE (5)DOING THAT SCRAPYARD THUNG (6)WHAT A BRINGDOWN

今日の一枚はクリームの、解散記念アルバム。

彼らは68年10月、全米解散ツアーを行い、その短い2年ほどの活動にピリオドを打つのだが、この一枚にその解散ツアーのライヴ録音と、スタジオ録音の両方をおさめている。

(1)から(3)はロサンゼルスのフォーラムでのライヴ、(4)から(6)がスタジオ録音となる。

「FRESH CREAM」にも収録されていた(1)は、スキップ・ジェイムズの原曲を大胆にアレンジ、アップテンポのハードロックへと生まれ変わらせたものだが、この生演奏も実に鬼気迫るものがある。三人が持てるテクニックを最大限に出してぶつかり合うガチンコ勝負。まさに「戦争(BATTLE)」である。

ややラフな印象も否めない(1)に続いては、ミディアムテンポの(2)。「WHEELS OF FIRE」にも収録されていた、へヴィーな一曲である。こちらのほうが、クラプトンのソロもじっくり腰を据えた感じで、出来はいい。

(3)は同じく「WHEELS~」から、ハウリン・ウルフのカバー曲を。思い切りねばっこいブルースの歌とベースを聴くことが出来る。聴いた後は、いささか胃にもたれそう(笑)。

(4)からはガラリと趣きが変わる。(4)はその後もクラプトンの重要なステージ・レパートリーとなったバラード。

契約の関係からか、「ランジェロ・ミステリオーゾ」なる変名でリズム・ギターを弾いているのは、今は亡きジョージ・ハリスン。

曲も彼とクラプトンの共作。これが実に美しいメロディで、本盤のベスト・トラックではないかと思う。

とりわけ、ブレイク後の、レスリー・スピーカーを通したハリスンのアルペジオがたとえようもなく、良い。

クラプトンも、クリームでははじめてきちんとした単独リード・ヴォーカルをとっており、その出来もいい。

しかし続く(5)には「ン?」と頭をひねらざるをえない。ブルース=ブラウン・コンビによる作品だが、メロディ・ラインはッやたらハネるようなクセの強いものだし、いかにもアルバムを完成させるために、やっつけ仕事で書いたような印象あり。

おまけに、クラプトンはろくにソロをとっていない。

(6)はベイカーの作品。トラフィックやブラインド・フェイスにも通ずるものがある、R&B風サウンド。

ちょっと前衛的な曲を書くことの多いベイカーの作品にしては、「まとも」な構成のナンバーといえそう。

以上、ライヴとスタジオのサウンドにはかなりギャップがあるものの、なかなか充実した内容の一枚。

とりわけLAでの、「WHEELS~」のライヴにも迫る大熱演ぶりは、一聴に値いするだろう。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#109 エッタ・ジェイムズ「ETTA JAMES ROCKS THE HOUSE」(MCA/Chess CHD-9184)

2022-03-03 05:51:00 | Weblog

2002年6月30日(日)



エッタ・ジェイムズ「ETTA JAMES ROCKS THE HOUSE」(MCA/Chess CHD-9184)

1.SOMETHING'S GOT A HOLD ON ME

2.BABY WHAT YOU WANT ME TO DO

3.WHAT'D I SAY

4.MONEY(THAT'S WHAT I WANT)

5.SEVEN DAY A FOOL

6.SWEET LITTLE ANGEL

7.OOH POO PAH DOO

8.WOKE UP THIS MORNING

9.AIN'T THAT LOVIN7 YOU BABY

10.ALL I COULD DO IS CRY

11.I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU

エッタ・ジェイムズのライブ盤、1963年リリース。

38年生まれ、当時25才だったエッタは、ブルースのみならず、R&B、ジャズ、ポップスなどなんでもござれのオールラウンド・シンガー。

イタリア系白人と黒人のハイブリッドという、独特の容姿、そしてパンチのきいたヴォーカルで、人気を集めていた。

このライブはC&Wの聖地、ナッシュヴィルのライブハウス「ニュー・エラ・クラブ」に63年9月に出演したときの録音。当然、土地柄で、観客は白人・黒人が入りまじっている。

(1)は彼女自身も曲作りに参加したオリジナル。エッタが開口一番、「ウォーーッ!」と唸るや、場内はもう騒然。エキサイティングなショーの始まりだ。彼女のラフなシャウトが実にカッコいい。

乗りのいい、ビートの利いたナンバーが続く。(2)はおなじみ、ジミー・リードの代表作。原曲のほんわかしたムードとは対照的に、エッタはへヴィなリズムに乗せて、ハードな歌いぶりを見せる。

まるで野獣のごとく吼え、唸りまくる。彼女の、いってみれば「べらんめえ調」の歌に、場内の男どもは圧倒されっぱなし。

続く(3)は、もちろん、レイ・チャールズの大ヒットのカバー。ここでの「コール&レスポンス」のすさまじさは、ご本家をもしのぐものがある。3曲目にして場内ははや、沸騰状態。

(4)は、ジェイニー・ブラッドフォード=ベリー・ゴーディ・ジュニアという、モータウン系ライターが書き、バレット・ストロングが歌ったナンバー。というより、ビートルズのカバー・ヴァージョンで余りにも有名な、あの曲だ。

このエグい歌詞のナンバーを、何のてらいもなく、ド迫力で歌いこなすエッタ。

このストレートさ、ヴァイタリティが、やっぱり彼女の最大の魅力なのではないかなぁ。

(5)は、ビリー・デイヴィス=ベリー・ゴーディ・ジュニアのペンによる、彼女自身の持ち歌。

「一週間、ずっとあんたに首ったけ」というこれまたストレートな内容の、ダンサブルなR&Bナンバー。途中、ホーンライクなアドリブ・スキャットを聴かせるのだが、これが実にいかしている。

自らのヴォーカルを、ひとつの楽器として使いこなしているのだ。

曲調は一転、ギターのデイヴィッド・ウォーカーが、フェンダー・ジャズマスターのソリッドな音でスローブルースを奏で始める。

そう、B・B・キングであまりに有名な(6)である。一般にBBの作品と思われているが、オリジナルはロバート・ナイトホーク。

ここでのギターソロが、トーンといい、フレーズといい、実にいい。そしてもちろん、エッタのタメをきかせたディープな歌も。

(7)はニューオーリンズ出身のシンガー、ジェシー・ヒルの作品。エッタのほかには、アイク&ティナ・ターナーのカバーが有名だが、明らかに、彼らはエッタの影響からこのナンバーを選んだように思われる。

それくらい、ここでのエッタの歌いぶりは、ひたすらファンキーでエキサイティングなのである。

(8)は御大B・B・キングのオリジナル。ここでは、ミディアムそしてアップテンポと、テンポ・チェンジがしきりに行われている。

エッタの粘っこいヴォーカル・テクニックもあいまって、ブルースというよりは、ソウル・ナンバーに生まれかわっているのが、興味深い。

(9)はふたたび、ジミー・リードのナンバー。ステディなビートに乗せて、力強くシャウトを決めてくれるエッタ。

(10)は、デイヴィス=ゴーディほかによる、彼女自身のヒット曲。60年代、チェスに移籍しての初ヒットでもある。

失恋した女性の心を歌った、ワルツ・テンポの典型的ロッカ・バラード。これをエッタはときにはしっとりと、ときにはエモーショナルに歌いあげてくれる。本ステージでは異色の一曲。

最後はやっぱり、ノリノリのナンバーでしめくくり。(11)は説明不要、ウィリー・ディクスン作曲、マディ・ウォーターズが歌って世の多くの女性を興奮させた、あの一曲だ。

この刺激的な歌詞、はじけんばかりの歌いっぷりに、場内の男性ファンは全員、悩殺状態(笑)。

ここまでストレートに、観客を挑発できた女性シンガーなど、前代未聞だったに違いない。

とにかく、全編、パワフル、エネルギッシュ。歌ものライブの名盤、数々あれど、この一枚は出色の出来。

パフォーマーとオーディエンスが、ここまでホットに絡み合ったケースは、そう見当たらない。

この一枚が、アイク&ティナ、ジャニス・ジョプリン、スティーヴ・マリオットといったアーティストたちに与えた影響力には、はかり知れないものがある。

真実のソウル、この一枚を聴いて触れてみて欲しい。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#108 ハンブル・パイ「AS SAFE AS YESTERDAY IS」(Repertorie REP 4237-WY)

2022-03-02 05:08:00 | Weblog

2002年6月23日(日)



ハンブル・パイ「AS SAFE AS YESTERDAY IS」(Repertorie REP 4237-WY)

1.DESPERATION

2.STICK SHIFT

3.BUTTER MILK BOY

4.GROWING CLOSER

5.AS SAFE AS YESTERDAY

6.BANG!

7.ALABAMA '69

8.I'LL GO ALONE

9.A NIFTY LITTLE NUMBER LIKE YOU

10.WHAT YOU WILL

11.NATURAL BORN BOOGIE

12.WRIST JOBB

ハンブル・パイ、記念すべきデビュー・アルバム。69年リリース。

以前取上げたスモール・フェイセズの「Ogden's Nut Gone Flake」(2001.4.21分)の項も合わせて読んでいただきたいが、69年3月にスモール・フェイセズをひとり脱退したスティーヴ・マリオットは、その後、理想のサウンドを追求するべく、新バンドのメンバー探しに腐心する。

そうやって、同年に結成されたのがハンブル・パイである。

平均年齢20才(若い!)、平均身長5フィート7インチとわりと小柄なメンバーの多いこのグループ、でもあなどれない実力派ぞろいの「スーパー・グループ」でもあった。

ギター、ヴォーカルのスティーヴ・マリオットは、もちろん一世を風靡したモッズ・バンド、スモール・フェイセズのリーダー格だった男。小兵ながら、そのソウルフルな歌いぶりはロック界随一との定評あり。

同じくギターとヴォーカルのピーター・フランプトンは、ザ・ハードというポップロック・バンドで活躍、その甘いマスクで少女たちの人気を一身に集めていたが、ジャズをベースにしたギターの腕前もなかなかのものだった。

ベースとヴォーカルのグレッグ・リドリーは、グループ一長身で男っぽいタイプ。彼は以前、スプーキー・トゥースというなかなか小味なハードロック・バンドに在籍していた。

ドラムスのジェリー・シャーリーは加入当時、まだ17才。パイ以前はリトル・ウーマン、アポストリック・インターヴェンションといったマイナー・バンドにいたのを引き抜かれたかたちだ。

この4人が生み出すサウンド、みな若いだけあって、実にパワフルでフレッシュだ。

ステッペン・ウルフのリーダー、ジョン・ケイ作曲の(1)は、オルガンをフューチャーしたR&B風の重たいリズムが、だいぶスモール・フェイセズっぽいサウンド。

だが、曲が進むにつれて次第にパイ独自のカラーも出てくるようになる。

曲の大半はマリオットのペンによるもの。フランプトンも共作も含めて3曲を提供している。

(2)はフランプトン作で、リード・ヴォーカルも彼が担当。サイケデリック・ロック風の、なかなか新鮮な音だ。

ハードロック調の(3)は、マリオット作。のちに「いかにもハンブル・パイっぽい」とよばれることになる、ベースとドラムスのインタープレイ、そしてふたつのギターの絡み合いといった要素が、すでに随所に見られる。

これらは、スモール・フェイセズではほとんど見受けられなかった、ハードロック特有の要素である。

スモール・フェイセズにおいてはイアンのキーボードがバンドの「カナメ」であったが、それがパイではグレッグのベースに移ったといえそうだ。

この曲はおもしろいことに、イントロが、当時ヒットしていたステッペン・ウルフの「ワイルドで行こう」にクリソツなのである。(1)の選曲から考えても、偶然の一致ではなさそう。

また、ピーターが、彼がリスペクトするというスティーヴ・スティルス的なプレイを見せているのも興味深い。

このほかにもパイは、いくつかの曲で、他の有名なロックバンドのパクりというか、パロディをやっている。

(8)は、二部形式の構成。前半はアコースティック・サウンドによるインスト・ナンバー。作曲したフランプトンが、なんと、シタールに挑戦しているのが聴きモノ。なかなか器用に弾きこなしている。

で、問題なのは、その後半。もうイントロからして、ZEPの「コミュニケーション・ブレイクダウン」(笑)。ちょっとテンポが違うだけ。

前年末デビュー、いきなりスターダムに躍り出たZEPのことは、彼らも相当意識していたのであろう。

いってみれば、当面の最大のライヴァルだもんな(笑)。

そして、ボーナス・トラックの(11)。これまた当時ヒットしていたビートルズの「ゲット・バック」に酷似。

とくに、ビリー・プレストンふうエレクトリック・ピアノの演奏がまんま(笑)。

まあ、パクりというよりは、シャレ心の現われといえますが。マリオットの作品。

さて、曲の順に戻ると、(4)はなぜかスモール・フェイセズのイアン・マクラガンの曲を取上げている。アコギを弾いてフォーク風に仕上げており、初期パイに強い「アコースティック指向」をしめす一曲。

アルバム・タイトルにもなっている(ISの有無の違いはあるが)(5)は、マリオット・フランプトンの共作。

フランプトンがヴォーカルを取り、マリオットがコーラスでバックアップ。アコースティックとエレクトリックが融合した、壮大な広がりのあるサウンドだ。メロディも、ブルース、R&Bだけでなく、カントリーやブリティッシュ・トラッドの要素が加わり、より幅が出てきた。

(6)はマリオット作。ロックン・ロール調、とはいえ、ストーンズあたりのとはひと味違う。リズム・セクションがもっと前面に出ている感じなのだ。

(7)も同じくマリオット作。彼のハープをバックに、グレッグがヴォーカルをとる。マリオットのアメリカ指向がモロに出た、いなたいナンバー。

(9)はいかにもハンブル・パイらしい、テンションの高い、アップテンポのハードロック・ナンバー。ブレイクのあと、後半は自由なインプロヴィゼーションが延々と続く構成。マリオットの作品。

(10)はゆったりしたテンポの、バラード調ロック。作者のマリオットが、抑えめのセンシティヴな歌声を聴かせてくれる。

ラストの(12)は(11)同様、ボーナス・トラック。ここでもオルガンがフィーチャーされているが、もはやスモール・フェイセズ色は感じられない。女声コーラスも加え、ハンブル・パイ独自のソウルフルな世界がすでに形成されているのがよくわかる。

フランプトン脱退後のパイを予感させるような、かなりブルーズィで「黒い」サウンドである。

一枚を聴いていくと、マリオットとフランプトンという、かなり違った個性がうまくブレンドされ、さらにはグレッグという「隠し味」も加わって、これまでにない新しい音を生み出しているのがよくわかる。

ハードロックとアコースティック・サウンドが、一枚でフルに楽しめます。おすすめです。

<独断評価>★★★☆