NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#484 CHEAP TRICK「IN COLOR」(CBSソニー/Epic 25AP 728)

2023-03-16 05:00:00 | Weblog
2023年3月16日(木)


#484 CHEAP TRICK「IN COLOR」(CBSソニー/Epic 25AP 728)



米国のロック・バンド、チープ・トリックのセカンド・アルバム。77年リリース。トム・ワーマンによるプロデュース。

邦題「蒼ざめたハイウェイ」を持つこのアルバムは、本国に先駆けて日本でチープ・トリック(以下チープ)がブレイクするきっかけになった一枚だ。日本ではチャートの30位を記録している。全米73位。

リリース当時、筆者は大学一年。クラスメートとはロックの話をすることが多かったが、中でもチープは一番話題にのぼるバンドだったのを覚えている。

オープニングの「ハロー・ゼア」は1分40秒とごく短いロックンロール・ナンバー。

ジャック・ダグラスがプロデュースしたファースト・アルバム「チープ・トリック」では顕著だった、パンク・ロックっぽいラフな音作りが印象的だ。当時のコンサートでは、トップで演奏するのが通例の曲だ。

リード・ギターのリック・ニールセンの作品。チープの曲は、大半が彼の手によるものだ。

「ビッグ・アイズ」はギター・リフとコーラスを強調した、ハードでヘビーなロック・ナンバー。ニールセンの作品。

筆者が考えるに、チープの曲はおおよそ3つの要素に分かれると思う。

ひとつめは、ラフでパンクなサウンド。ふたつめは典型的なハード・ロック。そして、メロディアスでポップなスタイル。そして、曲によってその配分率も異なっている。

この「ビッグ・アイズ」のようにハード・ロックの影響が強い、重ための曲調は、実は彼ら自身が一番好んで演奏しているスタイルみたいだ。

このハードなサウンドをメイン・ディッシュにするか、それとも隠し味程度にしておくかどうかでアルバムの性格も大きく変わるし、売れ行きにも影響していく。

今回のプロデューサー、トム・ワーマンは後者を選んだと思われる。それにより、このアルバムは全体的に軽く、ポップな仕上がりとなって、日本のリスナーに強く支持され、チープの人気の基礎を築いたと言えるだろう。

「ダウンド」はニールセンの作品。粘っこい、ややスローなビートのロック・ナンバー。

ギターを強調した、ハードで深みのあるサウンドが印象的だ。そして、説得力のあるボーカルとコーラスが、ポップな味わいを添えている。

チープの人気は、女性ファンの場合はそのボーカル、ポップな曲とか、メンバーのキャラクターに対するものという感じがするが、男性ファンの場合はそのギター・サウンドへの支持が意外と大きい。

何十本ものギターを持ってご満悦な、永遠のギター小僧みたいなニールセンに、自分を重ね合わせるギターオタクも少なからずいたはずだ。

「甘い罠(I Want You to Want Me)」は、ノスタルジックでポップな曲調のナンバー。ニールセンの作品。シングル・カットされたものの、米国ではチャート・インしなかった。

日本ではスマッシュ・ヒットとなり、彼らの看板曲としてファンにも愛聴、愛唱された。コンサートでも必ずリフレイン部分はオーディエンスの合唱が入る。

のちにチープの初来日公演を収録した「チープ・トリックat武道館」(当初日本限定発売)が米国でも人気となり、そこからシングル・カットされたライブ・バージョンが全米7位の大ヒットとなったぐらいだから、もともとヒット性はある曲だったのだ。モータウン・ソウルにも通じるキャッチーな一曲。

「ユーアー・オール・トーク」はニールセン、ベースのトム・ピータースンの共作。

シンプルなリフを繰り返し、それにニールセンの攻撃的なギターが絡む。チープのハード&ヘビーな側面がフィーチャーされた一曲。

「オー・キャロライン」はニールセンの作品。

哀感の漂うメロディ、コーラス。リード・ボーカルのロビン・ザンダーの甘くもパワフルな声の魅力がよく表れたナンバー。

彼の力強いシャウトは、なんと言ってもチープの人気のみなもとだからね。

「今夜は帰さない」は「甘い罠」と並ぶ、本盤の人気曲。ニールセンの作品。

ギター・ハーモニクスによるチャイム音から始まる、スピーディなロックンロール。パワーにあふれたボーカルとコーラス、そしてギター・サウンド。これぞ、チープ・トリック!!

ライブでも、超人気だったのがうなずける。

「サザン・ガールズ」はニールセンとピータースンの共作。ミディアム・テンポのロック・ナンバー。

そのタイトル、歌詞、そしてコーラスのスタイルからして、間違いなく先輩バンド、ビーチ・ボーイズのパロディであり、またオマージュでもあるだろう。

ピアノ中心の前半から急転、テンポがあがってギター・サウンドに変化する中間部が面白い。こういう「細工(Trick)」を仕掛けてくるのが、いかにも彼ららしいではないか。

「カモン・カモン」はニールセンの作品。ポップなリフレインを持つビート・ナンバー。

ビートルズの強い影響を感じさせるメロディ、ハーモニー、そしてリズムだ。ツボをおさえたポップ職人のワザを感じさせる一曲。

こういうサウンドへの転換が、地味な売り上げだった前作から一転、アルバムセールスを高めた大きな要因だったのは間違いあるまい。

ラストの「ソー・グッド・トゥ・シー・ユー」はニールセンの作品。

エンディングにぴったりのナンバー。センチメンタルなメロディ・ライン、ザンダーの伸びやかなボーカル、泣かせるコーラス、歯切れのいいバック・サウンドと、すべて揃った一曲。シングルにしても問題ない出来ばえだ。

チープのメンバーらとしては、本作の音がやや軽いことを不満に感じていたようだが、その代償として彼らはメジャー・バンドとなるパスポートを獲得出来たのだ。そんな気がしてならない。

本国ではまだまだその存在を認知されていなかったが、後年の国内ブレイクも十分に予感させる、充実した内容だ。

チープ・トリックの数あるアルバムの中でも、彼らのポップ性を引き出したこのセカンドを、筆者は強く推したいと思う。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#483 WILSON PICKETT「HEY JUDE」(Atlantic 756780375)

2023-03-15 05:53:00 | Weblog
2023年3月15日(水)



#483 WILSON PICKETT「HEY JUDE」(Atlantic 756780375)

米国のソウル・シンガー、ウィルソン・ピケットの9枚目のスタジオ・アルバム。69年2月リリース。リック・ホール、トム・ダウドによるプロデュース。

ピケットは41年アラバマ州生まれ。「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」「ダンス天国」「ムスタング・サリー」といったヒット曲で知られるシンガーだが、単にソウル、R&Bといった黒人音楽だけでなく、白人ロックも積極的にカバーしたことで、われわれロック・ファンにとっても無視できない存在だった。 

アルバム「ヘイ・ジュード」は、まさにその代表例と言える。

オープニングの「セイブ・ミー」はジョージ・ジャクソン、ダン・グリーアの作品。ジャクソンは「ダウン・ホーム・ブルース」「ワン・バッド・アップル」などで知られるシンガーソングライターだ。

曲調は典型的なサザン・ソウル。ホーンセクション、女声コーラスを従えて、余裕綽々の歌を聴かせてくれる。

次の「ヘイ・ジュード」は、言うまでもなくレノン=マッカートニーの作品。実質的にはマッカートニーの作詞・曲である。68年8月にビートルズのシングルとしてリリース、全米・全英1位を獲得している。

この曲をいちはやくカバーしたのが、本盤のバージョン。68年11月にレコーディングを行ない、年末にシングル・リリース。全米で23位、R&Bチャートで13位というスマッシュ・ヒットとなった。

この曲での聴きものはなんといっても、バック・バンドのギタリスト、デュアン・オールマンのプレイだ。

彼のオールマン・ブラザーズ・バンドとしてのデビューは69年11月。その前はおもにマッスル・ショールズでスタジオ・ミュージシャンとして活動していた。

後半のシャープなギター・ソロが話題となり、これにいたく惹きつけられたエリック・クラプトンが、新バンド「デレク・アンド・ドミノス」のレコーディングにゲストとして呼んだ逸話は、大抵のロック・ファンなら知っているはず。

ここではオールマンの、後の表芸であるスライド・ギターではなく、通常の指弾きでのプレイ。ストラトキャスターによるソリッドな音色がグッと来ます。

そしてもちろん、ピケットのワイルドなシャウトがビートルズとはまた違った、この曲のソウルフルな魅力を引き出している。

「バック・イン・ユア・アームズ」は前出のジョージ・ジャクソン、ラリー・チェンバースほかの作品。

ゆったりとしたテンポのソウルバラード・ナンバー。亡きオーティス・レディングの流れを汲む、切ない歌いぶりが心に残る。

「トゥー・ホールド」はアイザック・ヘイズ、デイヴィッド・ポーターの作品。ヘビーでファンキーなダンス・ナンバー。

ここでのオールマンのオブリガート・プレイは、ホントにカッコいい。ソウル系のギタリストなら、絶対真似したくなるはず。

「ナイト・オウル」はドン・コヴェイの作品。コヴェイは「マーシー・マーシー」「シー・ソー」などで知られるソウル・シンガー。

「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」を想起させる、明るくノリのいいナンバー。ピケットの思い切りのいいシャウトが耳を揺さぶってくる。

「マイ・オウン・スタイル・オブ・ラヴィング」は再びジョージ・ジャクソンの作品。

スティーブ・クロッパー風のギター・リフで始まる、リズムも快調な、MG’Sトリビュート的ナンバー。ここでのオールマンの、ファンキーなギター・プレイもごきげんだ。

「ア・マン・アンド・ア・ハーフ」はジョージ・ジャクソン、ラリー・チェンバースほかの作品。先行リリースのシングル曲だが、全米42位とイマイチの成績。

リフがいかにもな、ダンサブルなサザン・ソウル・ナンバー。

ノリは悪くないが、いまひとつ印象に残るメロディに欠けている。「ヘイ・ジュード」に比べると訴求力が弱いのは、致し方ないかな。

「シット・ダウン・アンド・トーク・ディス・オーバー」はピケットとボビー・ウーマックの共作。

ウーマックはギタリストとしても知られるシンガー。曲作りにもすぐれ、歌、ギターも一流。まさに「ミュージシャンズ・ミュージシャン」的なひとり。

オルガンを生かしたファンキーなビートと、粘りのあるボーカルが楽しめる一曲。ダンス・チューンとして楽しめる。

「サーチ・ユア・ハート」は、ジョージ・ジャクソンの作品。上記シングル曲「ア・マン〜」のB面。

スローなバラード・ナンバー。ピケットの絞り出すような塩辛声が、恋の辛さを見事に表現している。

「ワイルドでいこう」は69年の映画「イージー・ライダー」の主題歌ともなった、カナダのロック・バンド、ステッペンウルフ68年5月リリースの大ヒット。全米2位。

キム・ワイルド、ローズ・タトゥー、ザ・カルトなどさまざまなアーティストにカバーされたが、もちろんピケットが一番乗りであった。

ピケットはこの曲をオリジナルのハード・ロック・スタイルからガラリと変え、自分の得意とする、ホーンをフィーチャーしたソウル・ナンバーに仕上げている。

ギターもマイケル・モナークからオールマンに置き換わることで、相当雰囲気が変化している。そのへんも聴きもの。

ラストの「ピープル・メイク・ザ・ワールド」は前出のウーマック作のバラード・ナンバー。

女声コーラスを従えて、思い入れたっぷりのシャウトを聴かせるピケット。思わず、聴き入ってしまう。

レコーディング・メンバーとしては、オールマン以外ではフレディ・キングのアルバムにも登場したベースのジェリー・ジェモット、ドラムスのロジャー・ホーキンス、ピアノのバリー・ベケット、オルガンのマーセル・トーマス、ホーンのジーン・ミラー、アーロン・ヴァーネルら、手だれの南部ミュージシャンで固められている。このあたりもポイントが高い。

アルバム自体もソウル・チャートで15位とまずまずの成績だったが、それよりもデュアン・オールマンという無名の才能あるギタリストをアメリカ中に、そしてエリック・クラプトンに紹介したという功績こそが、本盤の真の面目だろう。

アメリカン・ロック史に、少なくない影響を及ぼした一枚。何度でも聴き返したくなる。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#482 THE MODERN JAZZ QUARTET「CONCORDE」(東芝EMI/Prestige LPR-88006)

2023-03-14 05:28:00 | Weblog
2023年3月14日(火)



#482 THE MODERN JAZZ QUARTET「CONCORDE」(東芝EMI/Prestige LPR-88006)

米国のジャズ・グループ、モダン・ジャズ・カルテットのスタジオ・アルバム。55年リリース。アイラ・ギドラー、ボブ・ワインストックによるプロデュース。

モダン・ジャズ・カルテット(以下MJQ)はビブラフォン奏者のミルト・ジャクソン、ピアニストのジョン・ルイスを中心とする4人編成。結成当初の51年はミルト・ジャクソン・カルテットという名だったが、翌52年に改称した。

55年のアルバム「ジャンゴ」で注目を浴び、この「コンコルド」でグループの評価を決定づけた。

メンバーは上記のふたりの他に、ベースのパーシー・ヒース、そして初代ドラマー、ケニー・クラークに代わって間もないドラムスのコニー・ケイ。以後、4人のラインナップは不動となる。

オープニングはジャクソンのオリジナル、「ラルフズ・ニュー・ブルース」。

ゆったりとしたテンポでテーマを演奏するジャクソンとルイス。彼らと対話をするかのように、ヒースとケイが呼応して、曲は始まる。

ジャクソンのアドリブ・ソロがしばらく続いたのち、ルイスのソロへ。そして、テーマに戻って終了。

ジャクソンの淀みのないプレイに比べると、ルイスはいかにも淡々としたタッチで音数も少なく、ちょっと食いたりない印象があるな。

続いては、コール・ポーター作の「オール・オブ・ユー」。54年に書かれたミュージカル・ナンバー。

この美しいラヴ・バラードをスロー・テンポでじっくりと弾くジャクソン。後の3人は、抑えめのバッキングで彼を支える。

バイブの一音一音が、最高にいい響きだ。ジャクソンは間違いなく、この楽器史上のベスト・オブ・ベストなプレイヤーだろう。

「四月の想い出」はジーン・デ・ポール、パトリシア・ジョンストン、ドン・レイ、41年の作品。喜劇映画「凸凹カウボーイの巻」のために書かれている。

一転して、アップ・テンポのスウィング・ナンバーが始まる。

前2曲では出しにくかったエネルギーを一気に発散させるかのように、目にも止まらぬ速さで怒涛のソロを繰り出すジャクソン。

すると、ずっと地味な演奏をしていたルイスも、ジャクソンに触発されたかのように、バッキングにも勢いが出て来る。

そしてピアノ・ソロ。決して音数の多い派手なプレイではないが、ツボを押さえたスウィンギーな演奏を聴かせてくれる。

後半は、ふたりのインタープレイへ突入。これがなんとも圧巻だ。

ジャクソンが煽るようなプレイを仕掛けるのだが、ルイスをそれをそのまま受けて対抗するかたちではなく、自分自身のタイム感覚で返していく。

緩と急の応酬というべきか、いわゆるテクニック合戦とは違った、独特のノリがそこにはある。

ルイスは、例えばオスカー・ピーターソンのようなハイパー・テクニックが自分にはないことを踏まえた上で、自分に出来ることをやっているのだろう。

天性の技巧派のジャクソンに対するは、頭脳・知略派のルイスなのだ。

「ガーシュウィン・メドレー」はジョージ、アイラのガーシュウィン兄弟の作品3曲よりなるメドレー。

演奏順に「フォー・ユー、フォー・ミー、フォー・エヴァーモア」「ラヴ・ウォークト・イン(忍びよる恋)」「アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ(わが愛はここに)」である。

ジャズを単なる大衆音楽から、米国の誇るべき文化にまで高めた作曲家のひとりが、「ラプソディ・イン・ブルー」で知られるジョージ・ガーシュウィンだ。

MJQにおいてリーダー、プロデューサーの役割を果たしていたジョン・ルイスはビバップ・ムーブメントのさなかにプロ・ピアニストとしての活動をスタートした人ではあったが、一方で常にクラシック音楽を意識しており、その技法をジャズに活かそうとしていたユニークなミュージシャンだった。

彼が、古典音楽の深い素養を持つガーシュウィンに惹かれたのも、当然といえば当然か。

その楽曲を、MJQの面々はどのようにアレンジしていくのか。

「フォー・ユー〜」ではジャクソンのバイブがメロディを紡ぎ、ルイスがそれを支える。そして、時にはそのポジションが入れ替わる。

「忍びよる恋」も、そのスタイルが続く。最後の「わが愛はここに」では、メロディをルイスが先に弾く。そしてジャクソンの流麗なソロ。このうえなく甘美な演奏である。

3曲がひとつになって、生み出されたスロー・バラード。極上の静かな時間が、そこにはある。

ジャズ=喧騒、バイタリティの音楽というイメージで捉えられがちだが、そうとは限らないのだ。

一音、一音を噛み締めるように味わうジャズ、そういうジャズもあっていい。

「朝日のようにさわやかに」はオスカー・ハマースタイン二世、シグマンド・ロンバーグの作品。28年、歌劇「ニュー・ムーン」のために書かれた。

失恋をテーマにしたナンバー。明るいメロディと悲しげなメロディが交錯した、タンゴ調の曲だったが、ジャズのスタンダードとして度々リバイバルした。

MJQのバージョンは、彼らのようなクール・ジャズだけでなく、ハード・バップ、モード、フリージャズのミュージシャンにも影響を与えて、幅広くカバーされている。

カノン的対位法を用いて、ジャクソン、ルイスそれぞれ
がリードをとっていくことにより、メロディとそのコード・バッキングという従来のフォーマットとは異なるタイプのジャズが生み出されている。

今日では珍しくもなんともないスタイルだが、MJQの登場時は、えらく画期的なことだったに違いない。

ジャズというたえず変わり続けた音楽の、大きな転換点のひとつがMJQ。彼らの数ある演奏の中でも、最も完成度の高い一曲だと思う。必聴。

ラストの「コンコルド」はルイスのオリジナル。

ジャクソンのジャム・セッション的感覚から生まれたオープニング曲とは対照的に、クラシック的手法でかっちりと構築されたナンバー。

ここでは、ジャクソンの奔放な演奏でさえ、ルイスの設計した建築物のパーツのひとつのようである。

そのくらい、アレンジが緻密で、まったく隙というものがない。

アドリブで偶発的に出来たタイプの名演とは対照的な、100%完璧な計算の上に生まれた名盤。

どちらが好みかは人によるだろうけど、筆者としてはノリのよさで惹きつけるタイプのジャズに負けないくらい、MJQの音楽は好きだな。

<独断評価>★★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#481 RY COODER「INTO THE PURPLE VALLEY」(Reprise 2052-2)

2023-03-13 05:15:00 | Weblog
2023年3月13日(月)



#481 RY COODER「INTO THE PURPLE VALLEY」(Reprise 2052-2)

米国のミュージシャン、ライ・クーダーのセカンド・アルバム。72年リリース。ジム・ディッキンソン、レニー・ロワンカーによるプロデュース。

クーダーは47年ロサンゼルス生まれ。ギター、マンドリンなどを60年代半ばよりタジ・マハールとのバンドなどで活動、「べガーズ・バンケット」でのローリング・ストーンズとの共演で名を知られるようになった。70年、ファースト・ソロ・アルバムをリリース。

本盤(邦題「紫の峡谷」)は日本でも彼の存在がよく知られるきっかけとなった一枚。

オープニングの「キャン・ユー・キープ・オン・ムーヴィング」はシス・アグネス・カニンガムの作品。

カニンガムは白人女性フォーク・シンガー。クーダーはそのカバー、ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズのバージョン(59年)からこの曲を知ったらしい。

クーダーのスライド・ギターをフィーチャーした、明るい曲調のカントリー・ナンバー。でも歌詞はけっこうヘビーで、生活難を語っているんだけどね。

いずれにせよ、われわれ日本人リスナーにはほとんど知られていないマイナーなアーティストや曲なので、どう反応していいのかよくわからない、というのが正直な感想。

「ビリー・ザ・キッド」は伝説のヒーローを歌ったトラディショナル・ナンバーをクーダーがアレンジしたもの。

クーダーは自らのマンドリン、ギターだけのシンプルなサウンドに乗せて、素朴な歌声を聴かせてくれる。

ここまでおよそポピュラーとはいい難い曲が続いて「こりゃ最後まで聴くのはしんどいかな」と思っていたら、次の「マニー・ハニー」でようやく耳慣れたヒット曲が出てきてホッとする。

53年、クライド・マクファターがリード・ボーカル時代のザ・ドリフターズのヒット曲である。ジェシー・ストーンの作品。

ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」にも通じる、ニューオーリンズR&B風のアレンジがナイス。女声コーラスも加わり、ノリノリの一曲。

「トリニダードのF.D.R.」はフィッツ・マクリーン作のカリプソ・ナンバー。

アコースティック・ギターを奏でながら歌われる、陽気な一曲。マンドリンも、サウンドのいいアクセントになっている。

「ティアドロップス・ウィル・フォール」はジェリー・グラナハン、マリオン・スミスの作品。

グラナハンは白人男性シンガーで、ディッキー・ドゥーという芸名でロックンロールを歌っていた。

「ティアドロップス〜」は59年にヒットしているが、クーダー自身はソウル・シンガー、ウィルソン・ピケットのカバー・バージョンでこの曲を知ったとか。

ほのぼのとした雰囲気の、ポップ・チューン。クーダーの歌は、なんか心がなごみます。

「デノミ・ブルース」は黒人シンガー、ワシントン・フィリップス作のゴスペル・ナンバー。デノミネーションをテーマにした、社会派的な歌詞が面白い一曲。

プロデューサーのひとり、ジム・ディッキンソンの弾くチェレステが可愛らしいサウンド。ホーン・セクションの演奏もホンワカした雰囲気があって微笑ましい。

「オン・ア・マンデー」はフォーク・ブルース・シンガー、レッドベリーの作品。

エレクトリック・バンド・サウンドに絡む、リゾネーターのいなたい音色が印象的だ。古い曲を、見事にアップデートしてみせるクーダー。

「ヘイ・ポーター」はカントリー・シンガー、ジョニー・キャッシュの作品。

ブルース・フィーリングの強いメロディとサウンド。同じマンドリンでも、さまざまなニュアンスを表現できることが分かる一曲。

「天国からの夢」はバハマ出身のギタリスト/シンガー、ジョゼフ・スペンスの作品。

スペンスはクーダーが影響を受けたギタリストのひとりで、そういう国外ミュージシャンへの幅広い関心は、のちの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」へと続いていく。

フィンガー・ピッキングのギターによるインストゥルメンタル。澄んだ響きが、実に美しい。

「タックス・オン・ザ・ファーマー」はトラディショナル・ナンバー。

ディッキンソンのハーモニウム、ゲストのヴァン・ダイク・パークスのピアノの奏でるノスタルジックなサウンド。そして、クーダーの巧みなスライド・ギター。

まさに、名人芸である。

「自警団員」はフォーク・シンガー、ウディ・ガスリーの作品。オール・アコースティックなサウンド。

戦前ブルースの雰囲気がぷんぷんとする、ヘヴィーな音が個人的には好みであるな。

手だれの楽器演奏とは対照的に、ほのぼのとしたボーカルがいい感じなクーダー。

売れ線とはだいぶん違うけれど、生活に追われて癒しに飢えているアメリカ庶民の心情にはぴったりと寄り添うアーシーな音。

流行りものではなく、虚飾の一切ないピュアな音楽を、一生かけて追求していく。

そんなライ・クーダーの真摯な姿に共感を覚えるのは、筆者だけではあるまい。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#480 MEL TORME AND THE MARTY PAICH DEK-TETTE「IN CONCERT TOKYO」(Concord CCD-4382)

2023-03-12 06:15:00 | Weblog
2023年3月12日(日)



#480 MEL TORME AND THE MARTY PAICH DEK-TETTE「IN CONCERT TOKYO」(Concord CCD-4382)

米国のジャズ・シンガー、メル・トーメのライブ・アルバム。89年リリース。カール・ジェファースンによるプロデュース。東京・五反田簡易保険ホールにて88年12月録音。

トーメのバックをつとめるのは、マーティ・ペイチ指揮のデクテット(十重奏楽団)。ペイチはもちろん、トトのキーボーディスト、デイヴィッド・ペイチの父にあたるジャズ・ピアニスト、作編曲家である。

ステージはデクテットの「スイングしなけりゃ意味ないね」という有名なエリントン・ナンバーの演奏から始まる。

ゲイリー・フォスター(as)をはじめとする、実力派プレイヤーらの続々と展開されるソロで、オーディエンスの期待はいやがうえにも高まる。そして、ついにトーメの登場だ。

当時トーメは63歳。そのベルベットを思わせる歌声にもいよいよ円熟味が加わってきた年代でのライブだ。

「スウィート・ジョージア・ブラウン」はベン・バーニー、メイシオ・ピンカードほかによる25年の作品。

超スピーディなテンポで、スウィングしまくるナンバー。冒頭、ハリー・ウォーレン作「ルルズ・バック・イン・ダウン」の一節を巧みに滑り込ませて始まる。そしてそのまま本編の「スウィート・ジョージア・ブラウン」へ。

トーメの歌に続き、ジャック・シェルダン(tp)らプレイヤーのソロ、そして後半からずっと展開されるのが、トーメの達者なスキャット。

これがまぁ、圧倒的のひとことだ。

トーメは終生、自分がポピュラー・シンガーではなくジャズ・シンガーであることにこだわっていたが、そういう一徹さが、彼のスキャットに込められているように感じられる。

「ジャスト・イン・タイム」は恋の喜びを謳歌する、ゆったりとしたテンポのスウィング・ナンバー。ジュール・スタイン、ベティ・コムデンほかによる56年作のスタンダード。

ここでのトーメの歌いぶりは、小粋という形容が最もふさわしい。

「ホェン・ザ・サン・カムズ・アウト」はハロルド・アーレン、テッド・ケーラー、41年の作品。

静かで美しいバラード・ナンバー。これをトーメは伸びやかに歌いあげて、満場をしんみりとさせる。

「キャリオカ」は33年の映画「ダウン・トゥ・リオ」の主題歌。ヴィンセント・ユーマンス、ガス・カーンほかによる作品。

一転して、ブラジルの香りが横溢する、ダンサブルなナンバー。陽気なサンバのリズムに乗り、ほのかにセンチメンタルな気分をパーフェクトに歌って喝采を浴びるトーメ。

「モア・ザン・ユー・ノウ」は同じくユーマンス、ビリー・ローズほかによる29年の作品。

片想いをテーマにしたラブ・バラード。切ない想いを込めて、高らかに歌い上げるトーメに、自然と拍手が会場じゅうから湧き起こる。

「トゥー・クロース・トゥ・コムフォート」はジェリー・ボック、ジョージ・デイヴィッド・ワイズほかによる56年のミュージカル「ミスター・ワンダフル」中のナンバー。

トーメの卓越したボーカル・テクニックが、このユーモラスでスウィンギーな曲調を最大限に生かしている。

「ザ・シティ」はヒット曲「クライ・ミー・ア・リヴァー」の作曲で知られるアーサー・ハミルトンとジョー・ハーネルの作品。ピアノをフィーチャーしたバラード。

原曲に描かれた「街」とはニューヨークのことだろうか。あるいはハミルトンの故郷シアトル、それとも育ったハリウッドだろうか。

トーメは、東京の人たちのために、この歌を捧げる。その優しい歌声は、水を打ったように静かな聴衆の、すべての心を揺さぶったに違いない。

「ボサノヴァ・ポプリ」はボサノヴァの著名曲のメドレーだ。

トップの「ザ・ギフト」は元々「リカード・ボサノヴァ」のタイトルでジャルマ・フェヘイラとルイス・アントニオよって作られた曲。

ジャズ・シンガーにも人気が高く、かつてはライブハウスでよく歌われていたものだ。英語詞はボール・フランシス・ウェブスターによるもの。

続く「ワン・ノート・サンバ」はアントニオ・カルロス・ジョビンとニュートン・メンドーサの作品。英語詞はジョン・ヘンドリクスによるもの。

最後の悲しげなメロディを持つナンバーは「ハウ・インセンティブ」はジョビンとヴィニシウス・デ・モラエスの作品。英語詞はノーマン・ギンベルによるもの。

後半はフリー・スタイルでのスキャット。自由自在に3曲をミックスして楽しげに歌うトーメ。まさにジャズの醍醐味だ。

「君住む街角」はフレデリック・ロウとアラン・ジェイ・ラーナーの作品。56年のミュージカル「マイ・フェア・レディ」の挿入歌として知られる。

この明るい曲をアップ・テンポのスウィング・スタイルで歌うトーメ、プレイヤーのソロ、そして後半は「灯が見えた」のフレーズを引用するなどのスキャット。もう、圧巻である。

「コットン・テイル」は再びエリントン・ナンバーのインスト演奏。ここでトーメは、お得意のドラミングを披露するのである。

後半はケン・ペプロウスキーのクラリネットとコラボしたドラム・ソロ。ドラマーとしても、一流の腕前を持つことを見せつけてくれる。

「ザ・クリスマス・ソング」はトーメとロバート(ボブ)・ウェルズの45年の作品。クリスマス・ソングの定番のひとつ。

トーメはナット・キング・コールをはじめとする多数のシンガーにカバーされたこの曲により、作曲家としてもしっかりと名を残したのである。

自作のバラードを、語るように歌い始めるトーメ。

その美しいメロディを愛おしむようにたどり、最後はこの上ないロング・トーンで曲を締めくくる。

なんという、至福の時間。

歌い終わりトーメがステージを去った後は、再び「スイングしなけりゃ意味ないね」の演奏で、コンサートは終了する。拍手はいつまでも鳴り止まない。

トーメはこのアルバム発表の10年後、73歳でこの世を去っている。

晩年まですぐれたレコードを数多く残して、堂々たる音楽人生を送った達人、メル・トーメ。

彼のような一生を送れたら、悔いはないだろうね。

凡才の筆者も、この一枚を聴いて深い感動に浸ったのでありました。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#479 THE MANHATTAN TRANSFER「THE BEST OF」(ワーナー・パイオニア/Atlantic PXF-1019A)

2023-03-11 05:22:00 | Weblog
2023年3月11日(土)



#479 THE MANHATTAN TRANSFER「THE BEST OF THE MANHATTAN TRANSFER」(ワーナー・パイオニア/Atlantic PXF-1019A)

米国のコーラス・グループ、マンハッタン・トランスファーのベスト・アルバム。81年リリース。アーメット・アーティガン、ティム・ハウザー、スティーブ・バリ、ジェイ・グレイドンほかによるプロデュース。

マンハッタン・トランスファー(以下マントラ)は、男性シンガー、ティム・ハウザーを中心に結成された男女混成の4人組。71年に一度レコード・デビューしたものの売れずに解散。その後、異なったメンバーで再編成して75年に再デビュー、大ブレイクした。

そんな彼らの、75〜81年の代表曲12曲を収録した一枚。米国盤と海外盤では収録曲に若干の違いがある。

【個人的ベスト6:第6位】

「バードランド」

ジャズ・フュージョン・バンド「ウェザー・リポート」77年のシングル曲、アルバム「ヘヴィー・ウェザー」収録曲のカバー。キーボーディスト、ジョー・ザヴィヌルの作品。

マントラ79年のアルバム「エクステンションズ」のオープニング・ナンバーだ。歌詞は男性ジャズ・シンガー、ジョン・ヘンドリクスによるもの。

本来はインストゥルメンタル用のこの曲を、マントラ4人の圧倒的な歌唱力により、ボーカル・ナンバーとして見事に再構築している。

楽器の即興演奏のフレーズに歌詞を当てはめて歌うこの手法を「ヴォーカリーズ」と呼ぶが、マントラはその後85年の自分たちのアルバムのタイトルに、この言葉を使うことになる。

自由自在なボーカル・アレンジ、ことに女性シンガー、ジャニス・シーゲルの縦横の活躍ぶりはグラミー賞でも高く評価されたほどだ。

ノリの良さは、ピカイチの一曲。

【個人的ベスト6:第5位】

「トワイライト・ゾーン」

日本でも放映されておなじみのSFテレビドラマ「ミステリー・ゾーン(邦題)」のテーマ・ソング「トワイライト・ゾーン」(バーナード・ハーマン作曲)と、ギタリスト、ジェイ・グレイドンとマントラの男性シンガー、アラン・ポールの共作「トワイライト・トーン」が合体したナンバー。

グレイドンはバンド、エアプレイのギタリストとして有名だが、一方、いくつものアーティストのプロデューサーとしても名を馳せている。マントラのアルバムも2枚プロデュースし、いずれも大ヒットさせている。

これもアルバム「エクステンションズ」に収録の一曲。

それまではスイング・ジャズやドゥワップ、シャンソンなどのノスタルジックなサウンドを得意としてきたマントラに、はじめて未来的なポップ・サウンドを持ち込み、新たな世界を切り開いたことで、グレイドンは名プロデュースの評価を得ている。

この曲の聴きどころはマントラの巧みなコーラス、各メンバーのパワフルな歌唱に加えて、グレイドンの気合いに満ちたギター・ソロだろうな、やはり。

多重録音をフルに活用した息詰まるような熱演、マントラの歌と互角の活躍ぶりである。

【個人的ベスト6:第4位】

「グロリア」

アトランティックでのファースト・アルバムより、R&Bの作曲家レオン・ルネの作品。48年にミルズ・ブラザーズ、54年にキャデラックスがヒットさせたラブソング。

ドゥワップ・コーラスのスタンダードを20年ぶり、75年に甦らせたのがマントラだ。

ノスタルジックな香りが、ぷんぷんと漂う一曲。思い入れたっぷりの歌唱が、さすがマントラだ。

【個人的ベスト6:第3位】

「フォー・ブラザーズ」

78年のアルバム「ニューヨーク・エッセンス」収録のナンバー。ジャズ・サックス奏者のジミー・ジュフリー作のスイング・ジャズ・ナンバー。58年に発表されている。

このインスト演奏に当てはめて歌詞を書いたのは、またもジョン・ヘンドリクス。彼はヴォーカリーズのパイオニアと呼ばれている。

スピーディなリズムに乗り、超絶な早口で歌いまくり、洗練されたコーラスをキメるマントラの各メンバー。

それに負けじとサックスを吹くのは4人。作曲者のジュフリー、アル・コーン、リー・コニッツ、ルイ・デル・ガット。息の揃った演奏がナイス。

時代から取り残された感のあったスイング・ジャズを、最新のバージョンにアップデートしたのがマントラ。

これぞ温故知新ってことじゃないかと、筆者は思うのである。

【個人的ベスト6:第2位】

「オペレイター」

マントラのデビュー・シングル。全米22位のスマッシュ・ヒットとなった。

女性ゴスペル・シンガーのシスター・ウィノナ・カーの曲「オペレイター、オペレイター」を下敷きとして、作曲家のウィリアム・スピヴァリーが書き上げた作品。

ゴスペル感覚の横溢したアレンジ、シーゲルのソウルフルな熱唱が強く印象に残る一曲。

ジャズとゴスペル、白と黒、クールとホット、そういった二面性を併せ持つ彼らは、まずこのホットな曲で勝負したわけだが、みごとリスナーの気持ちを掴むことに成功した。

すべての人の心を揺り動かす、名曲だと思う。

【個人的ベスト6:第1位】

「タキシード・ジャンクション」

マントラといえば、この曲を絶対外す訳にはいかないだろう。アトランティックでのデビュー・アルバムに収録され、またシングルでもヒットした、彼らのテーマ・ソング的なナンバー。

ジャズ・ビッグバンドのリーダー、アースキン・ホーキンスほかによる39年の作品。さまざまなジャズ・シンガーにより歌われてきたが、76年にマントラがリバイバル・ヒットさせたことで再注目された一曲。

本盤は78年の初のライブ・アルバム「マンハッタン・トランスファー・ライヴ」からのバージョン。女性シンガー、ローレル・マッセー在籍最後の録音。

ラスト・ナンバーということもあって、盛り上がりかたがハンパない。メンバーの煽りにより、オーディエンスも大合唱だ。途中のサッチモ(ルイ・アームストロング)の物真似も楽しい。

この曲なくして、マントラのブレイクはなかった。そう言い切っていい。

マントラはその後もコンスタントに活動を続けている。グループ・リーダーのハウザーは2014年に72歳で亡くなったが、新メンバー、トリスト・カーレスを加えて存続しており、オリジナル・メンバーのふたりは70代になっている。

マンハッタン・トランスファーというグループは、何度もメンバーを入れ替えながらも、音楽への真摯な姿勢を変えずに、脈々と続いている。

まさに、アメリカン・ミュージックそのものといってよいパフォーマーたち。

高いスキルとエンターテイナー性を兼ね備えたこのグループは、これからもずっと聴き続けていかれることは間違いあるまい。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#478 ROXY MUSIC「ROXY MUSIC」(Reprise 9 26039-2)

2023-03-10 05:00:00 | Weblog
2023年3月10日(金)



#478 ROXY MUSIC「ROXY MUSIC」(Reprise 9 26039-2)

英国のロック・バンド、ロキシー・ミュージックのデビュー・アルバム。72年リリース。ピート・シンフィールドによるプロデュース。

ロキシー・ミュージック(以下ロキシー)はボーカルのブライアン・フェリーを中心に、71年に結成。

メジャー・デビューのきっかけは、フェリーがキング・クリムゾンの、グレッグ・レイクに代わる新ボーカリストのオーディションに応募したことだった。

新ボーカルはフェリーでなくボズ・バレル(後のバッド・カンパニーのメンバー)に決まったが、フェリーに特別な才能を感じたロバート・フリップとビート・シンフィールドが、所属のEGレーベルに彼を紹介したのである。

初期メンバーを入れ替えてレコード・デビューを果たしたロキシーのメンバーは、フェリーのほかギターのフィル・マンザネラ、ベースのグレアム・シンブソン、サックスのアンディ・マッケイ、シンセサイザーのブライアン・イーノ、ドラムスのボール・トンプソンの6人。

当初の曲は作詞・作曲ともにすべてフェリーが手がけて、アレンジは各メンバーが行なっている。

オープニングの「リ-メイク・リ-モデル」は、ジャム・セッション的なノリのビート・ナンバー。

各メンバーの即興演奏をベースにして、それにフェリーのシャウトが乗っかっていく。

ビートルズの某曲のリフが脈絡もなく飛び出したりして、思わず笑いを誘う。キング・クリムゾン風のホーンもちらっと聴こえる。

マンザネラのファズを効かせたノイジーなギターが、この曲の混沌としたイメージを作り上げている。

「レディトロン」はイーノによる深遠なシンセ・サウンドから始まるナンバー。循環コードを用いた、どこかしらクリームの「ホワイト・ルーム」っぽい曲調。

数回にわたるリズム・チェンジのセンス、ギターとサックスのハーモニーなどに、キング・クリムゾンの強い影響が見てとれる。

この曲を聴くと、ロキシー=プログレッシブ・ロック・バンドなんだなと感じざるを得ない。

あるいは、アート・ロックともいえる。

ポピュラー・ミュージックのフォーマットをギリギリふまえながらも、あえて分かりやすさを追求せず、芸術としての表現の方を優先しているのだ。

「イフ・ゼア・イズ・サムシング」はこちらも循環コードを用いたバラード・ナンバー。

冒頭を聴いただけでは、まるで米国バンドみたいなサウンド。ピアノをフィーチャーしていることもあり、ザ・バンドを想起した人もいるはず。ギター・ソロもロバートソンっぽい。

しかし、それも途中までだ。

後半からのフェリーのやや不安定で神経症的なボーカル、憂愁を帯びた独特のメロディ・ラインは明らかに米国のロックとは異質のものである。

そして、この曲でもシンセとギターの音色が、サウンドの質感の決め手となっている。

「ヴァージニア・プレイン」はアメリカ盤のみ収録の、短いナンバー。

表面的には明るくて陽気な、でも本質的にはカタルシスのまるきりない、ロキシーらしい空虚なロックンロール。

唐突な終わり方が、なんともアヴァンギャルド。

「2 H.B.」は、エレクトリック・ピアノをフィーチャーし、ホーンの多重録音を効果的に使ったロック・ナンバー。

同じフレーズの繰り返しが、強力なグルーヴを作り出して行く。ブリティッシュ・ロックならではの、陰影に富んだ音作りである。

「ボブ」は、メドレー形式のナンバー。

サックスをフィーチャーした重厚なサウンドの前半パートは、明らかにクリムゾンのジャズ・ロックを意識したスタイル。

中間部のサウンド・エフェクトっぽい展開は、やはりクリムゾンのお家芸だな。

そして後半は、同時期にブレイクした、デイヴィッド・ボウイのサウンドを彷彿とさせるスタイル。60年代のビートを発展させたサイケデリック・ロック。

最後はそのふたつが融合して、大団円を迎える。

プログレであると同時にグラム・ロックでもあるという、ロキシーの二面性がはっきりと判る一曲だ。

「チャンス・ミーティング」はピアノをフィーチャーしたバラード。

か細いフェリーの歌声の背後では、ギターやシンセ、サックスが咆哮するという、シュールなサウンド。

「ウッド・ユー・ビリーヴ?」は、ロックンロール・スタイルのナンバー。

冒頭部のフェリーの繊細な歌いぶりに、ジョン・レノンの強い影響が見られる。後に彼がレノンの「ジェラス・ガイ」をカバーしたことで判るように、レノンもまたフェリーの目標とするシンガーだったのだ。

マンザネラもここではチャック・ベリーに変身する。アルバム中では最もアメリカン・ポップ寄りの曲調で、聴きやすい。

「シー・ブリーズィズ」はマッケイのオーボエ演奏が印象的な、静謐なバラードとして始まる。で、そのままでは終わらないのがロキシー・クオリティ。

リズム隊が加わり、マンザネラのノイジーなギターが暴れまくる中間部。

そして再び、静かな展開に戻って終了。

静と動のコントラストによって、曲に奥行きと味わいが生まれていると思う。

ラストの「ビターズ・エンド」は、ドゥワップ・コーラスをフィーチャーした、ロッカ・バラード。

決して音を詰め込まず、楽器もオフ気味に録音することによって全体的にスカスカな感じに仕上げているのが、いかにもロキシー流だ。人を食った終わり方もいい。

必ずどこかキッチュな要素を残して、ただのウェルメイドなポピュラー・ミュージックとは、一線を画していく。

そういう独自のスタイルに、ブリティッシュ・バンドならではのこだわりを感じるね。

こんなクセの強いバンドのアルバムでも、チャート10位になってしまうんだから、英国リスナーの懐は広い。さすが、クリムゾンを熱く支持しただけあるな。

歌にしても演奏にしても、さほど上手いとはいえないだろうが、その発想のユニークさ、ハイブリッドなスタイルの創造において類例を見ないバンドが、このロキシー・ミュージック。

木に竹を継ぐような真似をして、しかもそれがただの奇妙な試みに終わらず、新しい魅力ある音楽になるなんてワザ、どんなバンドにでも出来ることではない。

後に「アヴァロン」で商業的には大成功を収めたロキシーであるが、そこで完成されたスタイルよりも、デビュー当時の混沌としたサウンドの方が百倍面白いな、筆者としては。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#477 氷室京介「FLOWERS for ALGERNON」(東芝EMI/East World CT 32-5300)

2023-03-09 05:05:00 | Weblog
2023年3月9日(木)



#477 氷室京介「FLOWERS for ALGERNON」(東芝EMI/East World CT 32-5300)

日本のロック・シンガー、氷室京介のファースト・ソロ・アルバム。88年リリース。吉田建、氷室京介、ヒロ鈴木によるプロデュース。米国・日本録音。

88年4月のボウイ解散後、さっそくソロ活動の準備に取りかかり、同7月にはファースト・シングル「ANGEL」をリリース。以後、30枚のシングル、12枚のオリジナル・アルバムを出している。

現在、氷室は62歳でロサンゼルス在住。ヒット・チャートを賑わすことはなくなったが、日本の代表的なロック・シンガーとしていまも根強い人気を誇っている。

そんな氷室が、一番アグレッシブに活動していた時期の一枚がこの「フラワーズ・フォー・アルジャーノン」だ。

オープニングの「ANGEL」は氷室の作詞・作曲。先行シングルとしてリリース、オリコン1位、同月間1位、年間8位という大ヒットとなり、ソロ活動としては最高のスタートを切るかたちになった。当時の氷室がいかに人気絶大だったかがよく分かる。

アップ・テンポのビート・ナンバーという、氷室のボウイ時代以来の黄金パターンな一曲。

この曲でバックをつとめるのは、ギターのチャーリー・セクストン、ベースの吉田建、キーボードの西平彰、ドラムスの村上ポンタ秀一。

セクストンは当時わずか20歳の米国のギタリスト。だが、17歳ですでにレコード・デビューしており、新進気鋭のシンガーでもあった。

そのギター・プレイは激しく、聴くもののテンションがガチで上がる出来ばえ。布袋寅泰に代わる、新たなタッグの相手としては申し分ない。

また吉田、村上のふたりは先日取り上げた泉谷しげるのバックで同時期に共演しており、彼らはのちにLOSERというレギュラーバンドに発展する。西平は吉田とは、沢田研二のバックバンド、エキゾティクス以来のバンドメイトだ。

この強力な布陣なら、どんな高度のサウンドでも演奏可能だろうな。

「ROXY」は氷室作詞、氷室と吉田の共作曲。

「恋はあせらず」のような懐かしいモータウン・サウンドを80年代風にアップ・グレードしたアレンジは、氷室と吉田によるもの(全作共通)。このふたりの共同作業によって、このアルバムの基本設計はなされたといえる。

ウキウキするようなビート、脳天気な歌詞がいかにもなポップ・チューン。

「LOVE & GAME」はアップ・テンポのナンバー。

ボウイ時代に作り、小泉今日子のアルバムに提供したナンバー。翳りのあるメロディ、ディストーション・ギターをフィーチャーした深みのあるサウンドが◎。

ギターは曲ごとにクレジットされていないので特定できないが、下山淳または佐橋佳幸。おそらく後者だろう。

佐橋はその後の氷室のアルバム制作にも深く関わることになる、重要なギタリストだ。

「DEAR ALGERNON」はアコースティック・ギターをフィーチャーしたフォーク・ロック。氷室の作詞・作曲。

ダニエル・キイスの小説「アルジャーノンに花束を」にインスパイアされた歌詞がなんとも切なく、特徴的なリフレインのメロディが、いつまでも耳に残る。掛け値なしの名曲である。

「SEX & CLASH & ROCK’N’ ROLL」はおバカになれる、テンションの高いロック・ナンバー。氷室、松井五郎の共作詞、氷室の作曲。

小気味良いリフレインがミソ。そして転調がカッコよく決まっている。「楽器としてのボーカル」を強く意識した者ならではの表現が、随所に見られる。

自分の歌に確たる自信を持っているシンガーでなくては、こういう歌は歌えない。ナルシスな氷室の面目躍如である。

「ALISON」は氷室、松井五郎の共作詞、氷室の作曲。

ゆっくりとしたテンポのバラード・ナンバー。センチメンタル・シティ・ロマンスのリーダー、告井延隆のスティール・ギター、本多俊之のソプラノ・サックスがメロウなサウンドを最大限に盛り上げている。

説得力あふれる歌いぶり。大人のシンガーとしての、氷室の実力を感じさせる一曲だ。

「SHADOW BOXER」は氷室、松井五郎の共作詞、氷室の作曲。擬似ライブ風の演出で始まる、ビート・ナンバー。

疾走するリズム、ギターリフなどにボウイ的なフォーマットがそこかしこに感じられる。これもやはり、彼にとっては不可欠なエレメントなのだ。ボウイ・ファンの期待に応えた一曲。

「TASTE OF MONEY」は氷室作詞、氷室と吉田の共作曲。蜜の味ならぬ、金の味というパロディ・タイトルを持つナンバー。

縦乗りのスピーディなビートに乗って、皮肉たっぷりで字余り気味の歌詞を器用に歌いこなす氷室。スキル高いぜ。

「STRANGER」は氷室の作詞・作曲。

スカ・ビートに乗り、歌いまくる氷室。シンセの刻むビート、スペーシーなギター・プレイが耳に心地いい。デジタルとアナログ、両方のいいところ取りなアレンジのナンバー。

「PUSSY CAT」は氷室の作詞・作曲。

パワー・ステーションみたいな、80年代当時の流行っぽいサウンド。新時代のブギってところか。

さすが、ポンタさんのドラムスの安定感は、ハンパないのう。

歌う氷室も、この演奏がバックならさぞ楽しかろう。

ラストの「独りファシズム」は泉谷しげる作詞、氷室作曲のロッカ・バラード。

作詞はなんとも異色の人選だが、おそらくは吉田、村上人脈ということで、話題作りもあって泉谷に依頼がいったのではなかろうか。

巻き舌気味でカッコをつけた歌唱スタイル。アナーキーでシュールな歌詞が、ナルシスト傾向が多分にある氷室に意外とハマっている。

泉谷本人がこういう歌詞を歌った場合とはまるで異なる個性が生まれていて、興味深い。

間奏のブルーズィなギター・ソロは下山だろうか。味わいが深い。そして、氷室も思い入れたっぷりに歌う。

本盤中、最も前衛的な歌詞にして、最もオーセンティックなサウンド。不思議な魅力に満ちた一曲だ。

以上、11曲。氷室の過去・現在・未来を、一編に注ぎ込んだアルバム。

流して聴くと、フツーのポップ・ロック・アルバムにしか思えないかもしれないが、よくよく聴き込むと、さまざまな企みが隠されていて、実に面白い。

若いリスナーだけでなく、ポップスを聴きまくって来た老練なリスナー諸氏にも、ぜひ注目していただきたい一枚だ。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#476 PINK「PINK」(Alfa Moon 32XM-5)

2023-03-08 05:14:00 | Weblog
2023年3月8日(水)



#476 PINK「PINK」(Alfa Moon 32XM-5)

日本のロック・バンド、PINKのデビュー・アルバム。85年リリース。福岡ユタカ、PINKによるプロデュース。

PINKはボーカルの福岡ユタカ、ベースの岡野ハジメ、キーボードのホッピー神山、ドラムスの矢壁アツノブ、パーカッションのスティーブ衛藤、ギターの渋谷ヒデヒロの6人により83年結成。89年の活動凍結に至るまでに、5枚のアルバムをリリースしている。

ビブラトーンズ、東京ブラボーといった、いくつもの既存バンドのメンバーが合流して出来たバンドであり、いってみればスーパー・グループだ。

そのサウンドも、多くの駆け出しのバンドとは一線を画した、超ハイレベルなものだった。

40年近く前、PINKを初めて聴いた時の筆者の感想は「何、これ?」「これ、本当に日本のロック・バンドなのか」、そして「新人バンドとは、到底思えない」だった。

それまでの日本のバンドといえば、リズムにおいて明らかに本場の英米バンドのそれに劣っていたが、彼らの登場によってその差は完全に埋まったのだと、筆者は感じた。

デビューして間もない彼らを聴いた桑田佳祐が衝撃を受けて、サザンオールスターズのために「開きっ放しのマッシュルーム」という曲を書いたというのも、納得できる。

「DANCE AWAY」は福岡と實川翔の共作詞、福岡の作曲。

PINKは3枚目のアルバムまで、大半の曲を彼が作詞・作曲しており、アレンジは各メンバーが行っている。

長くうねるようなメロディ・ラインの果てにたどりつくクライマックス。実にカッコいい。

福岡のメロディメーカーとしてのセンスは一級だと思う。そして、歌い手としても。

間奏のスピーディなギター・ソロは、おそらくゲストの布袋寅泰。これもなかなかの出来ばえだ。

「ILLUSION」は福岡の作詞・作曲。

この曲も、哀感を帯びたメロディ・ラインが実にいい。

福岡のシャウトを盛り立てるバックの、ドラマティックなアレンジも完璧な出来ばえだ。

「YOUNG GENIUS」は福岡、岡野、清水一登の共作詞、PINKの作曲。

筆者的には、このアルバムで一番気に入っているナンバーだ。ブギウギの強力なリズム、そして福岡の野太いボーカル。

日本のバンドとはとても思えないダイナミズムがそこにはある。バンドの「動」のサイドを象徴する一曲。

福岡の声質には、他のシンガーにたとえようのない独特のものを感じる。高音ではスティングに通じる雰囲気もあるが、野性動物のような猛々しさも兼ね備えていて、また一方では繊細な「ゆらぎ」もある。他では得難い才能だ。

「ZEAN ZEAN」は福岡の作詞・作曲。

前のめりに突っこむようなビートを持つ、ファンク・ロック・ナンバー。サンプリングも使った意欲作。

生音とデジタルが見事に融合したサウンド。PINKならではの音世界だ。

「SECRET LIFE」はSAGE UWEの作詞、福岡の作曲。

福岡のもうひとつの側面である、繊細なボーカル表現が光るナンバー。吉田美奈子、坪倉唯子の女声コーラス、横山英規のサックスがメロウな曲調をさらに高めでいる。

「SOUL FLIGHT」はSAGE UWEの作詞、福岡と沖山優司の共作曲。

こちらも、福岡の抑えめのボーカルが印象的なビート・ナンバー。静かな中にも、野性を秘めたサウンド。

「RAMON NIGHT」は福岡の作詞・作曲。

ボーカル、コーラスをメインにフィーチャーしたロックンロール。福岡の遠吠えにも似たワイルドな歌声が、耳にこびりついて離れない。

シンセサイザーのミステリアスな響きがボーカルに絡みついて、深い夜を演出している。

「人体星月夜II」はSAGE UWEの作詞、福岡の作曲。

幻想的な曲調のゆったりとしたテンポのバラード。福岡の優しいボーカルが、聴くものを別世界へと誘う。

PINKの「静」の魅力を代表するような作品である。

活動終了後のPINKの各メンバーの活躍ぶりは、いまさらここに書く必要もないだろうが、それぞれが常に高い水準の作品を世に出し続けている。

ことにラルクアンシエルのプロデューサーとしての岡野、ボウイ・吉川人脈を中心とした数多くのアーティストのアレンジャーとしての神山の活躍は、音楽通なら誰でも知っていると思う。

いってみれば、今日のジャパニーズ・ロックは彼らに負うところが大きい。

バンドとしてのブレイクには成功しなかったが、アーティストの音作りという根幹の作業において、彼らの先進的なセンスが果たした役割は高く評価できる。

そんな才能集団、PINKの出来すぎともいえるファースト・ワークを、いま一度チェックしてみよう。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#475 GARY MOORE「STILL GOT THE BLUES」( Virgin CDV 2612)

2023-03-07 05:02:00 | Weblog
2023年3月7日(火)



#475 GARY MOORE「STILL GOT THE BLUES」( Virgin CDV 2612)

英国のロック・ギタリスト、ゲイリー・ムーアのスタジオ・アルバム。90年リリース。ムーア本人、イアン・テイラーによるプロデュース。

ゲイリー・ムーアについて説明し始めると、キリがない。本欄ですでに取り上げたこともあるので、とりあえず1952年、北アイルランドのベルファスト生まれとだけ伝えておこう。

いくつかのバンドを経て、78年以降はソロ活動も開始、2011年に亡くなるまで多くの作品をリリース、膨大なライブをこなしたロックの巨人である。

このソロ・アルバムは、ムーアが彼の音楽的原点であるブルースに回帰するポイントとなった一枚だ。

オープニングの「ムーヴィング・オン」はムーアの作品。派手なスライド・ギターをフィーチャーしたアップ・テンポのナンバー。

気分がアガること間違い無しの、ロックンロールだ。

「オー・プリティ・ウーマン」はA・C・ウィリアムズ作のブルース・ナンバー。アルバート・キングの代表的ヒットとしてあまりにも有名である。

ここでムーアはなんと、キング本人と共演を果たしている。ソロはムーア、キング、そしてムーアの順で聴ける。

ムーアは愛器であるギブソン・レスポール、ピーター・グリーンから譲られた「グリーニー」を思い切り熱く弾き倒していて、キングのクールなプレイとは好対照である。必聴。

「ウォーキング・バイ・マイセルフ」は、ジミー・ロジャーズの作品。シカゴ・ブルース全盛期を代表するシャッフル・ナンバーだ。

ここでもムーアは、「シカゴ・スタイルなんて俺は知らんわ!」と言わんばかりに、グリーニーをディストーションバリバリで弾きまくっており、ギターだけはロック色全開である。ハープはサックス奏者のフランク・ミード。

メーターの振り切れ方がハンパなく、心地いい。

「スティル・ゴット・ザ・ブルーズ」はムーア作のバラード・ナンバー。哀感あふれる曲作りや、泣きまくりのギター・プレイに、先輩ギタリスト、カルロス・サンタナの影響が強いのは明らかだな。

ブルースというよりは、ブルーズィなバラードという印象であるが、ストリングスを導入したサウンドは、一般受けしそうだ。「パリの散歩道」へと繋がる一曲。

「テキサス・ストラット」もムーアの作品。アップテンポのブギ・ナンバー。

ジョニー・ウィンター、ジェイムズ・コットンなどを彷彿とさせる激しいサウンドだ。容赦なく暴れまくるギターがなんともカッコいい。

「トゥー・タイアード」はテキサス出身のブルースマン、ジョニー・ギター・ワトスンの初期のヒット・ナンバー。ワトスン、マックスウェル・デイヴィスほかの作品。

のっけから始まる、異様にテンションの高いギター・プレイは、ワトスンと同郷のアルバート・コリンズ。

後半では彼に負けじと、ムーアもテンションMAXなプレイで迎え撃つ。究極のギター・バトルな一曲。

ワトスンの脱力系ボーカル、ギターとはまた違った、ハイ・ボルテージな歌とギターが面白い。

「キング・オブ・ザ・ブルース」はムーアの作品。この曲は明らかにアルバート・キングのトリビュートとして書かれている。なにせ「悪い星の下に」の一節も登場するのだから。

ブルースの王といえば通常はB・B・キングのことを指すだろうが、ここではアルバートの方と考えるのが正解。

ムーアの渾身のチョーキングが聴きものの、一曲。

ムーアのアルバート・キングへの思い入れの強さが、2曲目同様、よく分かる。

「アズ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ」はドン・ロビー作のマイナー・ブルース・バラード。「いとしのレイラ」にも引用された、あのメロディで有名だ。

ゆったりとしたテンポで、しみじみと歌い、ギターを奏でるムーア。そのプレイはピーター・グリーンの往時を想起させるものがある。ゲスト、ニッキー・ホプキンスのピアノも素晴らしい。

「ミッドナイト・ブルース」はムーア作のスロー・ブルース・ナンバー。

この曲も、しみじみ系の曲調。ストリングスを導入し、メロウな雰囲気を出している。

ギターもいつもの全開バリバリのそれでなく、抑え気味のプレイなのが曲にマッチしている。

「ザット・カインド・オブ・ウーマン」は異色の選曲。というのは、これはジョージ・ハリスン提供の作品なのだ。ムーアの意外な交友関係がこれでわかる。

ブルース・タッチのロック・ナンバー。ハリスン本人もスライド・ギター、コーラス等でゲスト参加している。

ゴリゴリのブルースに挟まれて、一服の清涼剤の感がある一曲。のちにエリック・クラプトンもこの曲をカバーしている。

「オール・ユア・ラヴ」はオーティス・ラッシュ作のブルース・ナンバー。

ラッシュの代表曲であり、クラプトンをはじめ多くの白人ミュージシャンにもカバーされている名曲。

ムーアもまた、敬愛する先輩ピーター・グリーンの影響でラッシュを目標にしている。ここではロック色極めて強めのリズムアレンジ、ギターで、ムーア流「オール・ユア・ラヴ」を披露。

ラッシュ、クラプトンとはまた違った、個性を楽しめる。

ラストの「ストップ・メッシン・アラウンド」はそのグリーンとマネージャー、クリフォード・デイヴィスの作品。

フリートウッド・マックのセカンド・アルバム「ミスター・ワンダフル」収録のブルース・ナンバー。邦題は「モタモタするな」。

ここでムーアは愛器グリーニーを使って、音質、フレーズともに完璧なピーター・グリーン・サウンドを再現してみせている。

オリジナルの細かなニュアンスまで見事に表現していて、ムーアの類いまれなる才能を再認識できる。

のちにムーアは一枚まるごとグリーンに捧げたアルバム「ブルース・フォー・グリーニー」をリリースしているが、それに繋がる一曲だ。

全編、とにかくアルバート・キング、ピーター・グリーンをはじめとするフェイバリット・ブルースマンへの熱い想いがあふれ、滲み出ている一枚。

アルバム・ジャケット写真のギター少年のように、ムーアもまた先達ミュージシャンへの一途な憧れから、自分自身の音楽を作り上げてきたのだ。

初心を忘れることなく、ブルースへの愛を語るアルバム。コアなブルースの愛好者にはあまり評価されそうにないロック寄りなサウンドだが、ゲイリー・ムーアのブルース愛は、どんなブルース・マニアにも負けてはいないと思う。

その熱い想いを、どうか感じとってほしい。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#474 宮之上貴昭「スモーキン」(キング/Paddle Wheel KICJ 80)

2023-03-06 05:49:00 | Weblog
2023年3月6日(月)



#474 宮之上貴昭「スモーキン」(キング/Paddle Wheel KICJ 80)

日本のジャズ・ギタリスト、宮之上貴昭のライブ・アルバム。91年リリース。宮之上自身によるプロデュース。東京・国立「音楽の森」での録音。

宮之上貴昭は53年東京生まれ。いまや日本を代表するジャズ・ギタリストといっていいだろう。

リーダー・アルバムは78年以来、20枚以上を出しており、北村英治をはじめとする他のジャズ・ミュージシャンとの共演盤、ジャズ・シンガーのアルバム・プロデュースも数多く手がけており、本場米国のジャズメンとの共演経験も豊富である。

そんなベテラン宮之上の、30年以上前のライブ盤を久しぶりに引っ張り出してみた。

アルバムは宮之上のライブを聴きに行く、外国人老夫婦のドラマ仕立てで始まる。

ライブハウスのドアを開けると始まるのが「スモーキン」。

宮之上のオリジナル。アップ・テンポのフォービート・ナンバー。カルテットによる演奏。

「Smokin’」という英語、ハンブル・パイのアルバム名にも使われていたが「ご機嫌な」あるいは「セクシーな」という意味である。

宮之上の場合は、彼が至高のギタリストとしてリスペクトするウェス・モンゴメリーのライブ盤「Smokin’ at the Half Note」からとっているのは間違いない。

その言葉を自分のグループ名、オリジナル曲名、そしてアルバム・タイトルにもしているわけだから、どれだけウェスへの思い入れが深いかが分かるだろう。

実際、ギター・ソロではウェスの代名詞ともいえる、オクターブ奏法を全開で披露している。この再現度がまことに高い。

日本でこの難度の高い奏法を、彼以上にマスターしているギタリストは他にいないといえる。まさにヴァーチュオーゾ。

演奏メンバーは宮之上のほか、ピアノの今泉正明、ベースの松島憲昭、ドラムスの原大力、そしてゲスト・プレイヤーとしてテナー・サックスの岡まこと(淳)、ピアノの吉岡秀晃。いずれも実力派の巧者ぞろいである。

岡と吉岡は元はスモーキンのオリジナル・メンバーだったそうで、宮之上と息もぴったりの演奏を聴かせてくれる。

「今宵のあなた」はスタンダード・ナンバー。ジェローム・カーン、ドロシー・フィールズの作品。カルテットによる演奏。

ご本家のフレッド・アステアをはじめ、シナトラ、ベネット、クロスビーら大御所が愛唱したナンバー。

モダン・ジャズのスタイルでも演奏されることが多い。例えば、ソニー・ロリンズ、ジム・ホール、ジョー・パスなどなど。

このライブでは、まずはアップ・テンポで快調にギターとピアノでテーマ演奏。次いで宮之上のソロ。ここではまずシングル・トーンを駆使してから、オクターブ奏法に入る。

続くのは今泉のピアノ・ソロ。これがさすがの腕前。10本の指が、自在に鍵盤の上を飛び回る様子が目に浮かぶ。

後半はギターとピアノのインタープレイ。おたがい、技術の限りを尽くしてベストな演奏を聴かせる。息もつかせぬ展開だ。

「きりきりぶらうん」は再び、宮之上のオリジナル。テナーを加えたクインテットによる演奏。ピアノは吉岡。

タイトルの由来はというと、当時国分寺にあったライブ・ハウスの名前からとっている。残念ながら2004年に閉店しているが、宮之上はそこでも演奏することが多かったので、その印象的な店名をタイトルに使っている。

スインギーなテーマを、テナーの岡とともに演奏。続いては、宮之上のギター・ソロ。

そして岡のテナー・ソロ。骨太のトーンが実にいい。

ピアノ・ソロが続く。吉岡のプレイもナイスだ。スイングとはどういうものかを、身体で分かっている。

「遥かなる影」は、先日94歳で亡くなったコンポーザー、バート・バカラックとハル・デイヴィッドの作品。カーペンターズ、70年の大ヒット曲。カルテットによる演奏。

この至上のバラード・ナンバーを、優しいタッチで、歌い上げるように弾く宮之上。バックの、今泉の繊細なピアノもいい雰囲気だ。

「ブルー・アイランド」は宮之上のオリジナル。作曲にもウェスの濃い影響(特にリバーサイド期の)が見てとれるナンバー。クインテットによる演奏。ピアノは吉岡。

ただギターを上手く弾くだけではない、コンポーザー、アレンジャーとしての宮之上の実力を知ることができる一曲。

ソロはギター、テナー、ピアノと続くが、ここでの吉岡のピアノがまた素晴らしい。60年生まれで宮之上よりは下の世代だが、すでにトップ・クラスの実力を持っていた俊英だ。

後半の原のドラム・ソロと他楽器との長い掛け合いも、スリリング。

「ゴアより愛をこめて」も宮之上のオリジナル。カルテットによる演奏。

ゴアとはインドの地名のそれ。そこでの思い出を込めたミディアム・テンポのスイング・ナンバー。

軽く明るい雰囲気のテーマに続いては、宮之上のシングル・トーン中心のギター・ソロ。

そのあとは今泉がピアノ・ソロ。スインギーかつ洒落たフレーズで、耳を楽しませてくれる。

彼は吉岡よりさらに若い世代だが、ジャズ的なセンスは抜群。その後、トランペッター松島啓之のクインテットで現在もバリバリ活動しているのも納得である。

「チー・ママ」はファンキーでユーモラスなテーマで始まる楽しいナンバー。宮之上のオリジナル。クインテットによる演奏。

このチーママとは、宮之上の仕事で頼りにしている若い女性マネージャーのことを指すようだ。彼女への感謝の心を込めた一曲らしい。

ソロはギターに続いて、岡のテナー。堂々としたブローは貫禄を感じさせる。

後半の、ギターとテナーのリラックスした掛け合いが、聴きごたえ満点だ。

「ローリング・シップ」は、やはりファンキーな曲調のアップ・テンポのナンバー。宮之上のオリジナル。クインテットによる演奏。

まずは、宮之上のソロ。そして岡のソロ。いずれも緊迫感ある演奏が続く。

そして、今泉のソロ。ここでのホレス・シルヴァーばりのファンキーなプレイが鮮やかだ。才能を感じずにいられない。

「サンセット・ストリート」はバラード・ナンバー。宮之上のオリジナル。カルテットによる演奏。ピアノは吉岡。

ギターの哀感に満ちたメロディ、そして丁寧なオクターブ・プレイがなんとも心にしみるなぁ。

以上9曲。すべて生音、一発録りってのはスゴいの一言。

ジャズのライブだから、そんなの当たり前だろとおっしゃられるかもしれないが、「すべて同日の同ステージ」というところがスゴい。

つまり、特にベスト・テイクを選りすぐったのではなく、常にこれだけの水準の演奏が出来るということ。

これって、スゴくないですか?

まぁ、そのスゴさを意識出来るリスナーは、あまりいないのかもしれないな。

実は筆者はこのCDがリリースされたころ、青山のライブ・ハウスに宮之上貴昭を聴きに行ったことがあるが、そこで繰り広げられたライブは、このCDをさらに上回る感動をもたらしてくれた。言葉にはとうてい表しきれないほどの。

このようなギターをフィーチャーしたジャズを聴く機会は、きょうびなかなか無いと思う。

ジャズ自体がポピュラー音楽のメイン・ストリームからどんどん外れてしまったうえに、その中でもさらにマイナーな立ち位置にあるのが、ジャズ・ギターである。

とはいえ、現在でもジャズのライブハウスは、数少なくなったとはいえ、優れたミュージシャンたちの発表の場として続いている。

流行りものの音楽では到底出しえない、熟練の技を味わうことも、たまにはいいのではないだろうか。

レコード、CDもいいのだが、ジャズという音楽は生音を聴く楽しみに勝るものはない。そう思う。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#473 AEROSMITH「TOYS IN THE ATTIC」(Sony SRCS 9047)

2023-03-05 05:00:00 | Weblog
2023年3月5日(日)



#473 AEROSMITH「TOYS IN THE ATTIC」(Sony SRCS 9047)

米国のロック・バンド、エアロスミスのサード・アルバム。75年リリース。ジャック・ダグラスによるプロデュース。

日本盤のタイトルは「闇夜のへヴィ・ロック」。日本での人気爆発のきっかけとなった一枚だ。

エアロスミス(以下エアロ)を取り上げるのも、これで4枚目になる。

エアロは自分にとって最重要なバンドというわけではないのだが、たまにではあるがふと聴きたくなる、そういうポジションのバンドではある。

本盤も、そういう「たまに会って話をしたくなる古い友人」みたいな感じだ。

オープニングの「Toys in the Attic(邦題は闇夜のへヴィ・ロック、以下同様)」はアルバムタイトル・チューン。

邦題通りへヴィなサウンドのロック・ナンバー。スティーヴン・タイラー、ジョー・ペリーの作品。

それにしても、このアルバム・タイトルは凄いよな。原題通りに訳すと「屋根裏部屋の玩具達」だが、「そんなんじゃレコードが売れねえぜ!」とばかりの大胆な改変。

まさにレコード会社の宣伝担当者の知恵とセンスが、最大限に発揮された一例といえるだろう。

実際、このアルバム・タイトルが「屋根裏部屋の玩具達」だったら、日本であれほどブレイクしていたか、なんとも疑わしいね。ラジオで紹介する時、テンションダダ下がりだろ(笑)。

意訳、超訳も全然オッケーだった当時の洋楽プロモーション事情、面白すぎる。

「Uncle Salty(ソルティおじさん)」はタイラー、トム・ハミルトンの作品。邦題は直訳です(笑)。

どことなくエアロがアイドルとするバンド、ヤードバーズに通じる雰囲気のある、ブルース・ロック・ナンバーだ。

「Adam’s Apple(アダムのリンゴ)」はタイラーの作品。こちらも直訳邦題。

ちなみにAdam’s Appleとは喉ぼとけを意味する英語だが、曲は別に喉ぼとけのことを歌っているわけではなく、旧約聖書創世記のアダムとイブのエピソードをモチーフにした、男と女のお話である。当然か。

曲はハードなサウンドのロックンロール。ペリーとブラッド・ウィットフォードのツイン・リードが聴きものだ。

「Walk This Way(ウォーク・ディス・ウェイ)」はあまりにも有名なナンバー。タイラー、ペリーの作品。全米10位のシングル・ヒット。

75年当時、白人ロック・バンドはほとんどやっていなかった「ラップ」を大胆にフィーチャーした一曲。

のち86年にヒップホップ・グループのRun-D.M.C.がこの曲をカバーしたことで再び注目を浴び、オリジナルもリバイバル・ヒットした。

アルバムリリース当初の邦題がなんと「お説教」だったのは、知る人ぞ知る笑い話。

意訳にもほどがあるが、英語をそのままカタカナ化するよりはよっぽど分かりやすいって気もする。

一生記憶に残る、名タイトルであります。

LPのA面ラスト「Big Ten Inch Record(ビッグ10インチ・レコード)」はシャッフル・ビートが特徴的な、フレッド・ワイズマンテル作のジャズィなナンバー。

52年にR&Bシンガー、ブル・ムース・ジャクスンの歌でヒットした古ーい曲を何故取り上げたかはよくわからないが、こういう曲を好んで取り上げるあたり、ブリティッシュ・ロック好きなエアロも、なんだかんだいってアメリカ人なんだなぁと思う。

タイラーのハープ演奏が、実にハマっていてカッコいい。

「Sweet Emotion(スウィート・エモーション)」アルバムから最初にシングル・カットされて全米36位となり、エアロの米国でのブレイクのきっかけとなったナンバー。タイラー、ハミルトンの作品。

こちらにもアルバムリリース当初の邦題がある。「やりたい気持ち」だ。

こいつぁ、ちょっとヤバいよな。コンプラ的に、今は絶対無理でしょ(笑)。

でも、これ以上内容が分かりやすいタイトルなのも事実。へヴィなギター・リフの繰り返しが、クセになる一曲。

のちに、織田哲郎がこの曲を本歌取りして相川七瀬のために「スウィート・エモーション」という曲を書いている。日本のロックにも、この曲が与えた影響はハンパないのだ。

「No More No More(戻れない)」はタイラーのピアノをフィーチャーしたロックンロール・ナンバー。タイラー、ペリーの作品。

邦題がうまく曲のニュアンスを伝えている。

オーソドックスでストレートなロック・サウンドをやらせても、エアロは超一級なのがよく分かる一曲。

「Round And Round(虚空に切り離されて)」はスロー・テンポで、ひたすらへヴィなロック・ナンバー。タイラー、ウィットフォードの作品。

ブリティッシュ・ハード・ロックの影響が濃厚な、鬱っぽい一曲。邦題がスゴすぎる。

ラストの「You See Me Crying(僕を泣かせないで)」はタイラーとベーシスト、ダレン・ソロモンの作品。

再びタイラーのピアノ、そしてオーケストラをフィーチャーしたバラード・ナンバー。

「ドリーム・オン」に始まり、のちの「エンジェル」、映画「アーマゲドン」の主題歌「ミス・ア・シング」につながっていく、エアロ・バラードの典型といえる一曲。

ドラマティックな歌、そしてアレンジを楽しんでほしい。これもまた、エアロスミスなのだ。

ハード&へヴィなロック、ブルース、ラップ、ジャズ、バラードといった引き出しの多さは、エアロが単なるロック・バンドではなく、オール・アメリカン・ミュージックをカバーする、国民的ミュージシャンであることを示している。

70年の結成以来、今日に至るまでコンスタントな活動が続いているのも当然だな。

伝統と革新、このふたつをバランスをとって表現できるという意味で、彼らは最強かもしれない。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#472 JIMMY REED「THE NEW JIMMY REED ALBUM」(Charly SNAX630CD)

2023-03-04 05:00:00 | Weblog
2023年3月4日(土)



#472 JIMMY REED「THE NEW JIMMY REED ALBUM」(Charly SNAX630CD)

米国のブルースマン、ジミー・リードのオリジナル・アルバム。67年リリース。アル・スミスによるプロデュース。

ジミー・リードは25年、ミシシッピ州生まれ。40年頃、シカゴに移住。ジョン・ブリムのバック・ミュージシャンとなり、同じバンドでドラマーだったアルバート・キングの伝手で53年、ヴィージェイ・レーベルよりレコード・デビュー。

55年「You Don’t Have to Go」をR&Bチャートで5位とヒットさせ、脱力系の味のあるボーカルとハープで人気ブルースマンとなったリードは、以後10枚ものアルバムをヴィージェイよりリリースした。

今回取り上げるのは、66年にヴィージェイが倒産したことにより、翌年ABCパラマウント下のブルースウェイ・レーベルに移籍して初のアルバム。つまり心機一転、リスタートの一枚である。

「Big Boss Man」はリードの61年のヒットの再録音。シンガー兼プロデューサー、ルーサー・ディクスンと、当盤のプロデューサーでもあるアル・スミスの共作だ。

エルヴィス・プレスリーのカバーでも有名となったこの曲を、ギターのレフティ・ベイツ、ベースのジミー・グレシャム、ドラムスのアル・ダンカンをバックに演奏している。

オリジナル版ではギターにもうひとり、リー・ベイカー、バック・ボーカルにママ・リードことリードの妻メアリーが参加していたが、今回はなし。そのへん、いささか物足りないかな。

ツービートの軽快なリズムでギターを弾き、ハープを吹きながら歌うリード。典型的なリード・スタイルだ。

「I Wanna Know」は女性シンガー、ジョニー・メイ・スミスの作品。シングル・カットもされている。

彼女はシンガー、ジョニー・メイ・ダンスンとして活躍。リードのバック・ドラマーとして50〜60年代活動していたジミ・プライムタイム・スミスの母親にあたる。ジミとの共演が、この選曲につながったんだろうな。

ミディアム・テンポのシャッフルで、快調に歌う。リードのお得意とするタイプのひとつですなぁ。

ひとの作品とはいえ、節回しは完全にいつものリード節で、彼のオリジナルと言われてもまるで違和感がない。

間奏、そしてエンディングでは彼のハープ・ソロが楽しめる。
 
「Got Nowhere to Go」はリードとアル・スミスの共作。タイトルはリードの盟友、エディ・テイラーの曲「Bad Boy」の歌詞を連想させるね。他には「Rolling Stone」とか、根無草なイメージの歌詞が盛り込まれている。

ミディアム・スローのシャッフル。リードの代表的なヒット曲「Baby What You Want Me to Do」と同タイプの一曲。シングルともなっている。

ここでも間奏では、リードの手だれのハープ・ソロが聴ける。

ブルース・セッションで一度やってみたいナンバーといえる。

「Two Ways to Skin a Cat」はアル・スミスの作品。猫の皮を剥ぐとか今どきなら動物虐待と言われかねないヤバめのタイトルだが、もちろん、何らかの隠喩なのだろう。

速めのツービートで、テンションの高いボーカルを聴かせるリード。聴くものもノリノリになる一曲だ。

「Heartaches and Trouble」はリードのオリジナル。これもミディアム・スローのシャッフル。

新たに書かれたナンバーとはいえ、他の曲と同じようなパターンが繰り返されており、正直そろそろ飽きてくる。

CDで一枚を通して聴くのはちょっと辛いものがあるので、アナログLPを聴くときのように、A面部分だけを聴いて小休止。そしてB面部分を聴く。こういう聴き方を皆さまにもオススメしたい。

アナログA面相当分のラストは「Baby What You Want Me to Do」。これは60年の大ヒットの再録音だ。リードのオリジナル。

「リードといえばこの曲!」といえるくらいの、名刺がわりのナンバー。

オリジナル・レコーディングよりギターの数も少なく、バックボーカルもないので、音がスカスカなのがどうしても気になる。

どうせ再録音するのなら、別の楽器を加えるとか、もう少しアイデアが欲しかった。

それでも、この曲は良曲であることには変わりないけどね。メロディのキャッチーさは、彼のあまたの曲の中でもピカイチだからだ。

「Honey I’ll Make Two」はミディアム・テンポのシャッフル。これもジョニー・メイ・スミスの作品。

CDで続けて聴くと、歌詞こそ違うものの、ひとつ前の「Baby What You Want Me to Do」とほとんど同じ曲に聴こえてしまう。

本音をいうと、超ワンパターンなのは否めないなぁ。

「You Don’t Have to Go」はすでにふれたように、リードの最初のヒット・ナンバーの再録音。これもまた、リードの代表的なオリジナル作品である。

ハープソロによるイントロから始まり、ゆったりとしたテンポで歌われる佳曲。

別れようとする恋人を引き止める歌詞、そしてメロディがいいので、アレンジがワンパターンでも、これはまだ聴ける。

「Don’t Play Cheap」はアル・スミスの作品。

またしてもミディアム・スロー曲が続く。金太郎飴感、ハンパない(笑)。熱烈なリード・ファンでないと、これ以上聴き続けるのは無理かもしれない。

「Two Sides to Every Story」はこれもアル・スミスの作品。ミディアム・スローのシャッフル。

ここまでワンパターンが続くと、ダメ押しという感じです。曲の区別がつきません。

「I’m Just Trying to Cop a Plea」はリードの妻、メアリー・リー・リードの作品。

リードは45年に兵役が終わり、一時期ミシシッピに戻ったが、その時にメアリーと結婚している。

初期のリードのレコーディングでは、たいていメアリーがコーラスでバックアップしていたそうである。夫唱婦随のお手本ですな。

そんな妻メアリーが作った歌を収録することで、長年の内助の功に報いているということか。

タイトル中の「Cop a Plea」とは犯罪者が刑を軽くしてもらうために自白する、という意味のスラングだそうだ。背景にいろいろ社会問題というか、深い意味を含んでいそうな歌である。

リズムはやはり、ミディアム・スロー。ドラミングやギター・バッキングに工夫はあるものの、基本的なサウンドは変わらず。

ラストの「Two Heads Better Than One」はアル・スミスの作品。

スロー・シャッフルのブルース。テンポを少しだけ下げることでわずかな変化をつけているが、全体の印象に大きな違いはない。

以上、12曲。3曲は過去の代表曲の再録音。残る9曲のうち、プロデューサー提供の曲が4曲、他のひとの曲が3曲、リードの新たなオリジナル(共作含む)は2曲。

2曲、シングル・カットはされたものの、ほとんどヒットしていない。

「ニュー・ジミー・リード・アルバム」と名乗る以上、リード本人の新作をもっと入れて欲しかったな、本音を言うと。

そして、デビューして15年近く経つのに、曲調やアレンジが昔ながらのパターンのままで、まるきり新味に欠けるのも事実だ。

筆者はブルース、そしてジミー・リードの作品をこよなく愛する者であるが、それでもさすがに、この一枚を
通して聴くのはちょっとしんどかった。

リズムもアレンジも、2つ、3つぐらいのパターンしかなく、メロディもかなり定型化しているリードにおいては、10何曲もアルバムで聴かせるよりは、数は少なくても粒揃いの魅力的なシングル曲で勝負すべきなのだろう。

ジミー・リードの曲は、アルバムではなく必ずシングル単位で聴くべし。今回は、こういう結論に達したのであった。

<独断評価>★★★

音盤日誌「一日一枚」#471 THE ROLLING STONES「GOT LIVE IF YOU WANT IT!」(Plydor/London P25L 25038)

2023-03-03 05:52:00 | Weblog
2023年3月3日(金)




#471 THE ROLLING STONES「GOT LIVE IF YOU WANT IT!」(Plydor/London P25L 25038)

ザ・ローリング・ストーンズの初のライブ・アルバム。66年、米国のみのリリース。アンドリュー・オールダムによるプロデュース。英国内録音。

ストーンズは現在までに8枚のライブ盤を出しているが、これは一番最初にリリースされたもの。

しかし、ストーンズ自身は「あれは勝手にレコード会社が出したもの。オレたちは一切関与していない」ときっぱりとコメントしており、本当の意味でバンドの最初のライブ盤は、70年リリースの「ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト」だと考えた方がよさそうである。

それでもやはり、あのストーンズのライブ盤となれば、聴かないわけにはいかない。

彼らには悪いが、レビューしてみたいと思う。

黄色い歓声、そしてMCのアナウンスから始まるオープニング・ナンバーは「アンダー・マイ・サム」。ジャガー=リチャーズの作品。

この曲は知名度が高いわりに、英米では意外にもシングル化されていない。そのかわり、日本では独自にシングル・カットされている。66年のアルバム「アフターマス」収録曲。

この曲でのミックの激しいシャウトは、なかなか聴きごたえがあってマル。

「一人ぼっちの世界」は65年のヒット・シングル。ジャガー=リチャーズの作品。全英、全米で1位。

ビートの洪水、コール・アンド・レスポンスの嵐で、会場は早くも超興奮状態になる。ラフな音質ではあるが、そのあたりはしっかり伝わってくる。

「レディ・ジェーン」は「アフターマス」所収、米国でのシングル「マザーズ・リトル・ヘルパー」のB面。ジャガー=リチャーズの作品。

ライブでは、スタジオ録音版の雰囲気をうまく再現している。アコースティック・ギターの響きが美しい。

終わった時のオーディエンスの歓声が凄まじい。

ところで初期ストーンズは64年の「リトル・レッド・ルースター」までは完全にカバー中心のバンドだった。昨日取り上げたヤードバーズと似たような感じだったのだ。

その一例が次の「ノット・フェイド・アウェイ」。これは英国でのサード、米国でのファースト・シングル。64年リリース。バディ・ホリー、ノーマン・ペティ57年の作品。

ボ・ディドリー・ビートが特徴的なナンバー。ミックはこの曲で歌とハープを共にこなしている。

このハープがなかなか達者な腕前なのである。これだけ速いテンポの曲で歌いながら息も切らせずにハープを吹けるものだと思う。

ミックの、もうひとつの非凡な才能を感じる一曲だ。

「恋をしすぎた」はオーティス・レディング、ジェリー・バトラーの作品。65年5月録音。

当時人気絶頂のソウルシンガー、レディングのバラードのカバー。思い入れたっぷりに歌うミック。甘い声がいつものミックとは一味違っていて、面白い。

この曲、実はスタジオでの録音に女性ファンの歓声を被せただけの擬似ライブなのだそうだ。確かに、よく聴くと反応のしかたが不自然な気がする。

「フォーチュン・テラー」はナオミ・ネヴィルことアラン・トゥーサンの作品。63年8月録音。

R&Bシンガー、ベニー・スペルマンの62年のヒットのカバー。ザ・フーやホリーズによるカバーもあるくらい、英国でもよく知られていた。

この曲も、どうやら前の曲同様、擬似ライブとのこと。そう言われると、やはり、不自然なオーディエンスのレスポンスが気になる。フェイドアウトで終わるのも、もともとスタジオ録音だったせいか。

だいぶん前にスタジオ録音したトラックを引っ張り出して来て、ライブ録音時のデータと合わせたということのようだ。アルバム一枚分の尺を稼ぐために、お蔵入りのテープまで出してくるとは、いささか情けないね。

そしてさらに付け加えるなら、この2曲以外についても、実際はライブ録音後、ボーカル・トラックを録り直した曲が大半らしい、という残念な情報があるのだ。それが本当だとしたら、ガッカリだね。

録音技術がまだ未熟だった時代には、そんなことはフツーに行われていたみたいだが、ライブ盤と銘打つ以上はやって欲しくなかったなぁ。

後半トップの「ラスト・タイム」は65年の英米両方でチャート1位をとった大ヒット・シングル。これでストーンズの名前は世界級になったといえる記念すべき曲。ジャガー=リチャーズの作品。

冒頭に「サティスファクション」を出囃子のように配して始まる。演奏はパワーに満ち溢れ、ミックとキース(おそらく)のコーラスも見事に決まっている。トップ・バンドに躍り出たストーンズの自信が伝わってくるような、いいパフォーマンスだ。

「19回目の神経衰弱」は66年のシングル。全英、全米で1位。ジャガー=リチャーズの作品。

これも気合い十分な演奏だ。オリジナル・ナンバーが連続ヒットして、「これがオレたちの音だ」というものをしっかりと掴み取ったのだろう。破竹の勢いを、この一曲に感じる。

「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」は64年の米国でのシングル。ジェリー・ラゴヴォイ、ジミー・ノーマンの作品。女性シンガー、アーマ・トーマスの歌でヒット。

陽気で力強いR&Bナンバー。カバーとはいえ、この曲へのミックの熱い思いを感じ取れる快唱だ。

「アイム・オールライト」はナンカー・フェルジ65年の作品。

知ってる人は知っていると思うが、このナンカー・フェルジとは、ジャガー=リチャーズが他のストーンズのメンバーと共作した時に使われる名義なのだ。

この曲以外では「プレイ・ウィズ・ファイア」「ウェスト・コーストの宣伝屋」などがこの名義だ。

曲によって違うのかもしれないが、おそらくその多くはブライアン・ジョーンズが関わっているものと思われるね。

シンプルな繰り返しが印象的な、バディ・ホリーの影響が強いロックンロール。この曲でもファンの興奮が止まらない。

「マザー・イン・ザ・シャドウ」はは66年のシングル。オリジナル・アルバムには収録されていない。

ライブ・レコーディングしたのは66年10月。

ファズを効かせたサイケデリック・ギターのサウンドが、以前のストーンズのスタイルとは違って新鮮だ。

「サティスファクション」はストーンズの現在にまで至る、代表曲にしてライブの定番曲。全英、全米で1位。ジャガー=リチャーズの作品。

激しいビートに、オーディエンスもノリまくり。コンサートの締めにふさわしいナンバーだ。

以上12曲。「ストーンズのレコードならどんなものを出しても売れるだろう」というレコード会社のイージーな企画で本盤が作られたのは見え見えで、録音は低品質、擬似ライブ・録り直しやオーバーダビングも多分ありと、いかにもチープな作りではある。

こんなものを勝手に作られたストーンズが、気の毒でならない。

が、本盤が当時の貴重な記録であることも間違いない。

その頃の彼らの凄まじい人気(ことにミーハー女性からの)を知ることが出来る、いわばドキュメンタリー・フィルムのようなものと割り切れば、それはそれでけっこう楽しめると思うよ。

<独断評価>★★★

音盤日誌「一日一枚」#470 THE YARDBIRDS「FIVE LIVE YARDBIRDS」(Rhino R4 70189)

2023-03-02 05:22:00 | Weblog
2023年3月2日(木)



#470 THE YARDBIRDS「FIVE LIVE YARDBIRDS」(Rhino R4 70189)

英国のロック・バンド、ザ・ヤードバーズのデビュー・アルバム。64年リリース。ジョルジオ・ゴメルスキーによるプロデュース。ロンドン・マーキー・クラブでのライブ録音。

すべての伝説は、この一枚から始まった。ロック・ファンなら絶対聴かずに済ませるわけにいかない、そんなアルバムだろう。

MCによるメンバー紹介に続いて始まるのは「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」。キング・オブ・ロックンロール、チャック・ベリー56年のヒットのカバーである。

アレンジは、ほぼベリーのオリジナル通り。この曲での主役はボーカルのキース・レルフと、リード・ギターのエリック・クラプトン。

ソリッドで切れ味鋭いクラプトンのソロに、オーディエンスの注目が集まるのが、手に取るように分かる。

「アイ・ガット・ラヴ・イフ・ユー・ウォント・イット」はルイジアナ・ブルースマン、スリム・ハーポことジェイムズ・ムーアのナンバー。

この曲ではレルフのブルース・ハープが全面的にフィーチャーされる。ボーカルよりも、むしろハープが表芸なんじゃないかと思うくらい、彼らのハープはカッコいい。音色、音量ともに、本場のブルース・ハーピストにタメを張れる腕前だと思う。

「スモークスタック・ライトニン」はシカゴ・ブルースの巨人、ハウリン・ウルフのナンバー。

オリジナル・バージョンより少しテンポ・アップしていて、ブルースというよりはブルース・ロック。

レルフのハープに、シャープに絡むクラプトンのギター。迫力は満点、オーディエンスもヒート・アップしてくる。

「グッド・モーニング・リトル・スクールガール」は戦前活躍したブルースマン、サニーボーイ・ウィリアムスン一世のナンバー。

レルフの紹介により、リード・ボーカルを交代してベースのボール・サミュエル=スミスとクラプトンが歌う。

ふたりの歌は上手いっていうのではないが、ちょっとトッポい感じで初々しい。

オリジナルのようにはブルースっぽくない、アップ・テンポ。オーディエンスがのりやすいようにということだろう、いかにもビート・バンドらしいアレンジだ。

「リスペクタブル」はR&Bバンド、アイズリー・ブラザーズのナンバー。彼らの59年のデビュー・アルバムより。ちょっとシブめの選曲だな。

フレーズの繰り返しの多い、リズミックなナンバー。オーディエンスもビートに合わせて身体を揺らしている、そんなシーンが目に浮かぶ。

その強烈なグルーヴにおされて、次第にオーディエンスはトランスに突入していく。

ブレイクを挟んで、後半のステージが始まる。

「ファィヴ・ロング・イヤーズ」はシカゴ・ブルースマン、エディ・ボイドのナンバー。オリジナルはスローなピアノ・ブルースだ。

ヤードバーズはこの曲をギター・バンド・スタイルのアレンジで、クラプトンの泣きのギターをフィーチャーして演奏する。

のちのクラプトン版「ファィヴ・ロング・イヤーズ」でもおなじみの、ラストに「She had the nerve」のフレーズを繰り返すパターンが既にここでも使われていて、思わずクスリとしてしまった。

「プリティ・ガール」はボ・ディドリーこと、エラス・マクダニエルのナンバー。

陽気なアップ・テンポのロックンロール。マラカスで場を盛り上げるレルフ、そしてコーラスでそれに応える他のメンバー。いい感じにエキサイトするマーキー・クラブ。

「ルイーズ」はキング・オブ・ブギ、ジョン・リー・フッカーのナンバー。アップ・テンポのシャッフル。

レルフのボーカルに、派手にオブリガードを入れるクラプトン。そして、怒涛のソロが展開される。

やはり、クラプトンはピュアなブルース・ナンバーとなると、気合いの入れ方が段違いだ。

本盤では一番ブルース・バンドっぽいサウンドで、筆者も気に入っている。

「アイム・ア・マン」は再び、ボ・ディドリーのカバー。彼の代名詞ともいえるジャングル・ビートのナンバー。

これはジミー・ペイジが率いる、第4期のヤードバーズに至るまで延々と引き継がれた、超定番のレパートリーだ。

ここでの主役は、ボーカルとハープで全編にわたり、八面六臂の活躍を見せるレルフ。

本盤ではわりとコンパクトなサイズだが、のちのライブでは10分近くの長尺になることもしばしばで、ステージのハイライトとなる一曲だった。

ラストは、またもボ・ディドリーのカバー。「ヒア・ティス」である。超アップ・テンポでグイグイ飛ばすビート・ナンバー。

これでもかとコール・アンド・レスポンスを執拗に繰り返すバンド・メンバー。そしてギターで煽りまくるクラプトン。

思わずオーディエンスも、興奮のるつぼに叩きこまれる。そして、MCが絶叫するうちに、ステージが終わる。

実際のステージではこれに1、2曲加わった程度で、当時のライブをほぼ忠実に再現した一枚である。

すべてがひとのカバー曲で、勝負出来るだけのオリジナル・レパートリーをほとんど持っていなかった、駆け出しの頃のヤードバーズ。

オリジナル・ナンバーはようやく次のアルバム「フォー・ユア・ラヴ」から登場する。

演奏にはまだまだ荒削りなところも多く、ツッコミどころも多いが、それでもイキの良さはビンビンと伝わってくる。

オーバー・ダビング一切なし、すべて一発録りという、いさぎのよさを筆者としては高く評価したい。

世界の多くの若者をこの一枚でロックの世界に引きずり込んだ「ファイヴ・ライヴ」。

60年近く経とうが、これを聴くたびに筆者も血が熱くたぎります。

<独断評価>★★★★