ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

追立ダム

2021-11-29 20:00:00 | 徳島県
2021年11月20日 追立ダム
 
追立(おったち)ダムは左岸が徳島県那賀郡那賀町木頭名、右岸が同町坂州の那賀川水系坂州木頭川にある重力式コンクリート製砂防兼発電用取水ダムです。
1950年(昭和25年)に徳島県の那賀川総合開発事業が着手されますが、長安口ダムおよび日野谷発電所の建設用電源確保のために1952年(昭和27年)に建設されたのが追立ダムと坂州発電所です。 
追立ダムで取水された水は約1.7キロの導水路で坂州発電所(最大出力2400キロワット⇒現在は2500キロワット)に送られ、水路式発電を行っています。
さらに長安口ダム改造事業において、2028年(令和10年)の竣工をめどに追立ダム貯水池を掘削することで当ダムに新たな堆砂容量を設定するとともに、長安口ダム湖への土砂流入を抑止する方針となっています。
 
追立ダムの堤高は29.5メートルと15メートルをクリアしていますが、砂防法によって建設されたダムのため河川法のダムとは認められていません。
本来砂防ダムは見学対象には入れませんが、当ダムは長安口再生事業における堆砂対策の根幹を担うことから足を延ばしてみました。 
 
国道193号線追立橋からダムと正対できます。
 
非常に険しい峡谷を閉め切った砂防ダム。
折から紅葉の真っ盛り。
 
主堤部は全面溢流式
右岸(向かって左手)に排砂ゲートがあります。
溢流した水がダム中央部に集まるよう両袖から導流用の段差がついています。
 
排砂ゲートから河川維持放流が行われています。
 
坂州発電所
青い水圧鉄管が鮮やか。
放流口は写真左手のスロープになります。
 
河川法上のダムではなくあくまでも砂防ダムとなりますが、できれば参考掲載でダム便覧に載せてあげたい、そんな追立ダムです。
 
追立ダム
左岸 徳島県那賀郡那賀町木頭名
右岸        同町坂州
那賀川水系坂州木頭川
29.5メートル
79.5メートル
ーーーー千㎥/ーーーー千㎥
徳島県企業局
1952年

大美谷ダム

2021-11-29 12:00:00 | 徳島県
2021年11月20日 大美谷ダム
 
大美谷(おおみだに)ダムは徳島県那賀郡那賀町木頭名の那賀川水系大美谷川にある四国電力(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
1951年(昭和26年)の電気事業再編により誕生した四国電力(株)は戦後の電力不足を補うために積極的な電源開発を進めます。
徳島県を貫流する那賀川では中下流域は県企業局が那賀川総合開発事業に参画して日野谷発電所や川口発電所を建設する一方、上流域では四国電力による電源開発が進められ1960年(昭和35年)に竣工したのが大美谷ダムです。
大美谷ダムは取水ダム兼発電調整池で坂州木頭川と沢谷川の水を併せて広野発電所に導水し、最大3万6500キロワットのダム水路式発電を行います。
 
那賀町木頭広瀬で国道193号線から大美谷川沿いの町道を約3.5キロ東進すると大美谷ダムに到着します。
四国に3基しかないアーチダムの一つで、堤高31.5メートル、堤頂長86メートルの小ぶりなアーチです。
 
超広角で
左岸に放流ゲートがありますが、堤体外ゲートということで非越流型堤体となります。
 
広野発電所の案内板。
音声解説ボタンがあります。
通常この手のボタンは押しても反応しないところが多いんですがここはきちんと音声解説が流れます。
 
四国電力で散見される朱筆の銘版。
 
天端は立ち入り禁止。
左手の白い建屋は管理事務所ですが職員の常駐はありません。
 
左岸に放流ゲートと広野発電所への取水口があります。
 
 
慰霊碑。
 
右岸に坂州木頭川と沢谷川からの導水路流入口があります。
流域面積101.3平方キロのうち直接流域はわずか7.3平方キロ、間接流域が94平方キロを占め集水の9割以上は河道外です。
 
上流から
導水路流入口からの水勢が強く湖面が波打っています。
 
放流ゲートと取水口 
放流ゲートにはローラーゲート1門が備わっています。 
 
大美谷川からの集水は全体の1割にも満たず、実情は発電調整池です。
 
(追記)
大美谷ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
2125 大美谷ダム(1746)
徳島県那賀郡那賀町木頭名 
那賀川水系大美谷川 
 
 
31.5メートル 
86メートル 
6451千㎥/309千㎥ 
四国電力(株) 
1960年 
◎治水協定が締結されたダム 


長安口ダム(再)

2021-11-29 02:00:00 | 徳島県
2021年11月20日 長安口ダム(再) 
 
長安口ダム(再)は左岸が徳島県那賀郡那賀町長安、右岸が同町大戸の一級河川那賀川本流にある国交省四国地方整備局が管理する重力式コンクリートダムです。
1955年(昭和30年)に建設省(現国交省)の補助を受けた徳島県の事業により竣工、那賀川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水(既得灌漑用水)への補給、徳島県企業局日野谷発電所での最大6万2000キロワットのダム水路式発電を目的とした補助多目的ダムとして運用が始まりました。
さらに1968年(昭和43年)には当ダム湖を下部調整池、同年完成した四国電力小見野々ダム(元)を上部池とした陰平発電所で最大4万6650キロワットの混合揚水式発電が稼働しました。
一般水力発電は徳島県企業局、混合揚水発電は四国電力(株)と異なる事業者での発電を行っており、このようなダムは当ダムのほか福島県の大川ダム、栃木県の深山ダムの計3例しかありません。

一方で那賀川上流の森林荒廃等により計画を超える堆砂が進行し、容量不足や濁水などダム運用の根幹にかかわる諸問題が顕在化します。
そこで国交省四国地方整備局は2007年(平成19年)に同ダムを国交省直轄管理に移管して『長安口ダム改造事業』に着手します。
改造事業は
①ダム右岸部へのゲート2門増設による洪水処理能力強化
➁発電用取水口への選択取水設備の新設による濁水問題の対処と利水能力強化
➂貯水池内の堆砂除去および貯水池への土砂流入の抑制
の3点を柱としています。
このうち①と②については2020年(令和2年)に完了し予備放流水位の引き下げが可能になるとともに、選択取水設備が新設されました。
⓷については支流坂州木頭川にある追立ダムの活用とベルトコンベアによる排砂作業を軸に2028年(令和10年)竣工をめどに事業が進められています。
 
下流の川口ダムから那賀川沿いの国道195号線を約15キロ西に走ると長安口ダム(元)に到着します。
下流には鉄骨トラス製の長安吊橋が架かりここからダムと正対できます。


広角で。


クレストには新旧合わせて8門のローラーゲートが並びます。
左岸(向かって右手)6門のローラーゲートが既存ゲート、右岸(向かって右手)の2門が新ゲートです
新ゲート増設に合わせて導流壁や減勢工が新調され、黒ずんだ旧堤体と真っ白な新調コンクリートの対比がアンバランスでまるでおもちゃのダムのように見えてしまいます。
減勢工では土砂排出作業中。

 
ダム下の仮排水路開口部
昭和20年代の長安ダム(元)建設時のものです。

 
今度はアングルを変え国道195号線から見てみます。


新ゲートをズームアップ
旧ゲートの高さが14.7メートルに対し、新ゲートは20.52メートルと19.64メートルとその大きさが際立ちます。
長安口ダムは予備放流によって洪水調節容量を確保しています。
新ゲート完成により予備放流水位を低下させ新たに100万立米の洪水調節容量が確保されました。


ダム手前左岸から
新ゲートの導流部は減勢のため大きなカスケードになっています。


ダムサイトの水利使用標識
こちらは県企業局日野谷発電所のものです。


銅板の概要と諸元。

残念ながら訪問時は電気関係の作業のため天端に立ち入りできませんでした。

 
予備ゲート運搬用のガントリーのレール。

 
予備ゲートはガントリーの下に横向きに格納。

 
天端に立ち入れなかったため貯水池の撮影ができませんでしたのでこの写真を添えることにします。
総貯水容量は5427万8000立米ですが、堆砂の進行が進み有効貯水容量は3680万立米にとどまります。

 
ちょっとわかりづらいですが、ゲート左手白い建屋から斜めに伸びるのが発電用取水口で、水中部分に選択取水設備が新設されました。
これにより那賀川下流の利水需要に合わせた選択取水が可能になるほか、濁水対策として清水の選択取水が可能となりました。
同様の取水設備は濁水が問題化している宮崎の一ツ瀬ダムでも採用されています。
取水設備手前にはインクラインと艇庫があります。

 
長安ダム本体の改造はほぼ作業を終えていますが、一番の堆砂対策についてはまだ道半ば。
また那賀川全体で見ても、国交省は2018年(平成30年)に那賀川水系河川整備計画を変更して、既存の四国電力小見野々ダム(元)を下流に移設し、新たに洪水調節機能を付加して多目的ダム化する『小見野々ダム再生事業』が採択されました。
 
(追記)
長安口ダム(元)には洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
2122 長安口ダム(元)(1745)
左岸 徳島県那賀郡那賀町長安 
右岸        同町大戸
那賀川水系那賀川
FNP
85.5メートル
200メートル
54278千㎥/43497千㎥
国交省四国地方整備局
1955年 長安口ダム(元)竣工
◎治水協定が締結されたダム
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3314 長安口ダム(再)
左岸 徳島県那賀郡那賀町長安
右岸        同町大戸
那賀川水系那賀川
FNP
85.5メートル
200.7メートル
54278千㎥/36800千㎥
国交省四国地方整備局
2028年 長安口ダム(再)竣工予定