ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

志津見ダム

2021-06-01 09:54:53 | 島根県
2021 年5月22日 志津見ダム 
 
志津見(しつみ)ダムは島根県飯石郡飯南町角井の斐伊川水系神戸川中流部にある重力式コンクリートダムです。
斐伊川は「ヤマタノオロチ」の起源とされるなど古くから暴れ川として知られ斐伊川の治水は当地を治める為政者にとっては永続的な課題となっていました。
建設省中国地方建設局(現国交省中国地方整備局)は斐伊川の尾原ダム、神戸川の志津見ダム、斐伊川から神戸川への斐伊川放流路、宍道湖・中海間の大橋川の流水疎通能力向上を四本柱とする『斐伊川・神戸川総合開発事業』を採択、2010年(平成22年)の尾原ダムに続いて2011年(平成23男)に竣工したのが志津見ダムです。
事業着手当時の神戸川は二級河川でしたが、斐伊川・神戸川一帯開発のため国交省中国地方整備局が直轄管理する特定多目的ダムとして建設され、神戸川の洪水調節、安定した河川流量の維持と既得取水権への用水補給、島根県への工業用水の供給、島根県企業局志津見発電所での最大出力1700キロワットのダム式水力発電を目的としています。
尾原ダム、志津見ダムに続き2013年(平成25年)の斐伊川放水路が完成により斐伊川流域の治水能力は大きく改善しました。
また2006年(平成18年)に斐伊川放水路が河川指定されたことで、神戸川は一級河川斐伊川水系に編入されました。
 
志津見ダム最大の特徴はクレストに全頂長自由越流頂方式を採用したことです。中小規模の発電用ダムなどで同方式を採用するケースはままありますが、堤高80メートルを超える大規模ダムでの採用は日本初です
同方式の採用で従来方式で必要だった天端橋梁などが省略されたことで建設費や維持管理費の削減が実現しました。
さらに取水設備においても連続サイフォン方式が採用され維持管理の省力化によりコスト削減が可能となっています。
 
志津見ダムは国道184号線沿いにありアプローチは簡単です。
出雲から国道を南下し、飯南町に入ると左手に志津見ダムが姿を現します。
全頂長自由越流頂方式の採用で、のっぺりとしてダムとしては『異形』とも言えるスタイル。
 
国道184号線が絶好の展望台です。
 
訪問前々日までのまとまった雨で、オリフィスから越流しています。
ちなみに非常用洪水吐である堤頂を超える越流は試験湛水時のみだそうです。
 
ダム下流のトンネル
建設時の仮排水路です。
 
ゲート部分をズームアップ
通常の三角のデフレクターの上に空気穴?用のスペードのようなデフレクターが並びます。
堤体から流下する水の帯は漏水ではなく、天端側溝の水抜き穴からのものです。
 
全頂長自由越流頂方式採用により堤頂部下流側は美しいRを描いています。
 
志津見ダムの全頂長自由越流頂方式一番の特徴は越流頂である天端が道路になっている点です。
下流側に側溝が設置され2枚上の写真の水抜き穴から排水される仕組みです。
普段は立ち入り禁止ですが、訪問時は地元大学の社会見学が実施されていました。
もちろん部外者であるワタクシは、指をくわえて眺めるのみ。
 
上流面。
 
上流から。
志津見湖と命名された貯水池は総貯水容量5060万立米ですが、神戸川に沿って細長く広がるためダム付近ではその大きさを実感できません。
 
上流面の姿も異質。
連続サイフォン取水方式採用のため、大規模ダムにもかかわらず取水設備も非常にコンパクトにまとまっています。
 
ダム湖上流にある艇庫とインクライン。
 
国交省中国地方整備局管理のダムでは新しい技術が積極的に導入されているように思いますが、当ダムでも全頂長自由越流頂方式や連続サイフォン方式の取水設備など志津見ダムならではの技術が多く見られます。
 
(追記)
志津見ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
1762 志津見ダム(1632)
島根県飯石郡雲南町角井
斐伊川水系神戸川
FNIP
81メートル
266メートル
50600千㎥/46600千㎥
国交省中国地方整備局
2011年
◎治水協定が締結されたダム


コメントを投稿