ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

片門ダム

2024-05-10 08:00:00 | 福島県
2016年5月28日 片門ダム
2024年4月14日
 
片門ダムは左岸が福島県河沼郡会津坂下町片門、右岸が同町坂本の一級河川阿賀野川水系只見川にある東北電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
包蔵水力豊富な阿賀野川水系では大正以降電源開発が本格化しますが、その多くは首都圏への送電を目的としていました。
電気事業再編成令により1951年(昭和26年)に日本発送電が分割され新たに9電力会社が誕生しました。
その際、発電施設の継承や利権利権配分については『発生電力はどの地域に供給されるか?』という潮流主義に依り、首都圏への送電線網が過半の阿賀野川や只見川の発電施設は東京電力が継承するはずでした。
しかし東北電力会長に就任した白洲次郎はその政治的影響力を駆使してこれを覆し、発電量の約半分を首都圏に送電することを条件に阿賀野川流域の発電施設の継承及び新規水利権の獲得に成功しました。
おりしも朝鮮戦争特需による電力需要ひっ迫を受け、東北電力は設立初年より只見川に4基のダム式発電所の建設を進め、着工翌年の1953年(昭和28年)に柳津ダムとともに完成したのが片門ダムです。
ダムの完成により片門発電所で最大3万8000キロワット(のちに5万7000キロワットに増強)のダム式発電が開始されました。
阿賀野川および只見川は東北電力管内の包蔵水力の過半を占め、白洲の尽力がなければ戦後の東北の発展はなかったと言っても過言ではありません。

2023年(令和5年)に片門ダム・発電所を含めた東北電力および電源開発の発電施設は、豪雪地帯の水資源と地形を巧みに利用したダム・電源開発等の河川史や地域資産として高く評価され、『只見川ダム施設群』として土木学会選奨土木遺産に選定されました。
 
片門ダムには2016年(平成28年)5月に初訪、2024年(令和6年)4月に再訪しました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。

まずはダムの下流へ
ダムの下流を磐越自動車道が跨ぎアーチ橋越しのダムの眺めはなかなかにフォトジェニック。
橋の橋脚の色は異なりますが、埼玉県の玉淀ダムとよく似た構図。
(2024年4月14日)  

洪水吐はローラーゲート5門。
(2024年4月14日)

右岸高台からダムを見下ろします。
右岸(手前側)に取水ゲートが6門、奥に洪水吐ゲートが5門
取水ゲートの下流側に片門発電所があります。
(2016年5月28日)

右岸の高台にある白洲次郎の石碑
この時期に建設された片門、柳津、上田、本名各ダムに白洲の碑が設置されています。
碑には
『この発電所の完成は 地元の人々の理解ある 協力と東北電力従業員
不抜の努力なくしては 不可能であった その感激と感謝の 記録にこれを書く
                                白洲次郎』
と記されています。
(2024年4月14日)


こちらは2023年(令和5年)土木学会選奨土木遺産のプレート。
(2024年4月14日)


ゲート上流側にはレール移動式の除塵設備。
(2024年4月14日)

 
取水ゲートは6門
奥の1A~2Bゲートは昭和28年(1953年)日立造船製
手前の3Aと3Bゲートは昭和44年(1969年)石川島播磨重工業製
完成当初の片門発電所は1号機、2号機体制で最大出力3万8000キロワットでしたが昭和44年に3号機が増設され最大出力は5万7000キロワットに増強されました。
これが取水ゲートの製造時期とメーカーが異なる理由です。
(2024年4月14日)

 
右の2Bゲートは日立造船
左の3Aは石川島播磨
16年の年月でゲートの形状も随分変わりました。
(2024年4月14日)

発電所に掲示された発電所横断面図。
(2016年5月28日)

水利使用標識。
(2024年4月14日)

 
減勢工に並ぶバッフルブロック
左岸側が窪んでおり通常はこちらのゲートを開放するんでしょう。
(2016年5月28日)

天端から
正面には磐越自動車道のアーチ橋
高速からだと眺めがよさそうですが、実は橋梁には高い塀があり視界を妨げられます。
(2024年4月14日)

 
貯水池は総貯水容量1617万2000立米
でも堆砂が進み有効貯水容量は449万7000立米。
基本、取水ができればいい発電ダムあるある。
(2024年4月14日)


天端は車両通行可能ですが、道幅が1.5メートルなので軽自動車か二輪じゃないと通れません。
頭上には予備ゲート運搬用のクレーン。
(2024年4月14日)

左岸ダムサイトのクレーン終点に積まれた予備ゲート
奥に繋留された作業船は只見川の東北電力共通。。
(2024年4月14日)


左岸から。
(2024年4月14日)

同時並行で建設された柳津ダムと同じく様コンクリート製のピアの中に鉄骨トラスが隠れています。
一方完成が1年遅れの上田ダム本名ダムはピアは鉄骨トラス製。
(2024年4月14日)


片門発電所を真横から
2011年(平成23年)の新潟・福島豪雨の際にはあわや発電機水没の危機だったそうです。
(2016年5月28日)


(追記)
片門ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
0485 片門ダム(0416)
左岸 福島県河沼郡会津坂下町片門
右岸          同町坂本
阿賀野川水系只見川
29メートル
194.8メートル
16172千㎥/4497千㎥
東北電力(株)
1953年
◎治水協定が締結されたダム


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