近年、減少傾向にあった国公立大医学部(医学科)の志願者数は、2021年入試で下げ止まった。コロナ禍で過酷な状況に置かれた医師を目の当たりにしていることから、当初は志願者が減少すると見られていた。しかし、不透明な経済状況が続く中、安定した職業である医師を選択する受験生が増加。さらに「人の役に立ちたい」と考える医学部志望の受験生にとっては、コロナ禍がやりがいを再認識する機会になったようだ。
では、人気が上向きの国公立大医学部に強い学校はどこなのか。数年にわたって安定的に高い医学部合格実績を残している学校を見るため、5年間合計の合格者数でランキングした。
■地方や近畿・中部の学校が上位に
医学部合格者数のランキングは、東京大学や京都大学の医学部(理Ⅲ)を除く理系学部と同レベルの大学が多い最難関の入試ながら、東京大や京都大の合格者ランキングと異なる点が特徴だ。
2021年入試で東京大合格者数ランキングトップの開成は、当ランキングでは8位、同じく京都大ランキングトップの北野は42位となっている。ランキングの上位には、医学部を持つ大学が多い近畿や中部に所在する学校に加え、ラ・サール(4位)や久留米大学附設(5位)、愛光(6位)など、優秀な生徒の受け皿となる企業や仕事が少ない地方の学校が多い。
もう一つの特徴は、私立の中高一貫校が上位を占めていること。医学部を除く難関国立大は、大学入学共通テストの多少の失敗を、2次試験で挽回することができる。しかし、医学部は、共通テストと2次試験両方で高得点が求められるため、隙のない学力が求められる。その学力養成のために6年間一貫教育が優位なことをランキングが示している。
ランキングのトップは、14年連続で単年度の国公立大医学部合格者ランキングで1位を続ける東海。5年間合計では2位の灘を156人上回る556人の合格者を輩出している。医学部進学に特化した教育を行っていないが、高い合格実績に期待する優秀な医学部志望者が数多く入学することが合格実績につながっている。
2021年に合格者が最も多かったのは名古屋大学で、同大の合格者数ランキングトップとなる30人が合格。その他、名古屋市立大学12人、岐阜大学12人など、中部地区の大学を中心に合格者を輩出している。
ただ、近年、合格者数が減少傾向にあり、2017年と比較すると28人の減となっている。この間、旧七帝大(北海道大学、東北大学、東京大、名古屋大、京都大、大阪大学、九州大学)に東京工業大学、一橋大学、神戸大学を加えた難関国立10大学(医学部を含む)は8人増に留まっており、難関大の医学部以外の学部にシフトしたわけでもなさそうだ。
愛知県内の他校の合格実績を2017年と比較すると、南山(18位)が6人増、旭丘(20位)が18人増、滝(25位)が5人増となっている。東海の医学部合格者が減少する要因として、近隣の学校に医学部志望の優秀な生徒が分散している可能性がありそうだ。
2位の灘も2017年と比較すると33人減。この間、医学部を含む東京大と京都大の合計の合格者数は変わらず、医学部から他学部にシフトした影響も考えにくい。2021年の合格状況を見ると、トップが定位置だった東京大・理Ⅲの合格者は12人で、14人の筑波大学附属駒場(50位)にトップの座を譲った。
それでも、2021年の医学部合格者50人中、東京大と京都大を合わせて26人と半数以上を占める、超トップ校であることに変わりはない。合格者の落ち込みが大きいのは2020年から2021年にかけて。合格者の減少が2021年だけの現象なのか、それとも今後も続くのか注目したい。
■女子校の台頭目立つ
3位の洛南と4位のラ・サールは安定的に合格者を輩出している。一方、久留米大学附設は増加傾向にあり、2017年から12人増となっている。2021年の大学別の合格実績を見ると、九州大学が26人で次位のラ・サール(12人)に倍以上の差をつけてトップ、長崎大学(14人)、佐賀大学(9人)、山口大学(8人)など、九州と中国地方の大学を中心に多くの合格者を輩出している。
合格者が増えた一因は、2013年に中学を男子校から共学化し、医学部志向が強い優秀な女子が入学してきたこと。2021年の合格者数ランキングはトップの東海と3人差の2位で、1位をうかがう状況となっている。
高いステータスがあり、経済状況に就職環境が左右されにくい。さらに女性が生涯働き続けることが容易なことから、医師は優秀な女子受験生に人気が高い職業。女子校の状況を見ると、桜蔭(15位)が17年より13人増、豊島岡女子学園(24位)が同じく10人増と合格者を増やしている。ちなみに、両校とも、同時期に難関国立10大学(医学部を含む)の合格者数も増加。進学校としての実力を伸ばしている。
2017年との比較で合格者の伸びが最も大きいのは、13位の西大和学園で30人増。同時期に東京大と京都大の合計数も64人増えている。特に東京大の伸びが著しく、2021年の合格者数は76人で63人の京都大を逆転している。近年、東京大や京都大、国公立大医学部に進学する生徒の増加が顕著なため、その背中を見ている在校生が「自分もできる」とモチベーションが上がり、難関大合格者が増加する好循環にあるという。
中高一貫校が優位な中で健闘している公立校は11位の熊本で、2017年比14人増となっている。同時期に合格者が増えている、12位の札幌南(5人増)、18位の仙台第二(8人増)、前出の旭丘、21位の新潟(4人増)なども含め、上位の公立校は、地元大学の医学部に多くの合格者を輩出し、総合格者数を伸ばしている。中高一貫校に比べると不利な就学期間の短さを、伝統に裏付けられた医学部入試のノウハウと医師志望の生徒の多さがカバーしている点が、合格実績が高い公立校の共通項だ。
合格者の増減はあるが、表中のいずれの学校も最難関の国公立大医学部にコンスタントに合格者を輩出する進学校だ。「国公立大医学部合格者数 ランキングTOP200校」で、それぞれの学校の実力を確認してほしい。
東洋経済Onlineより