昨年12月、大学入試センターは、2025(令和7)年度入試の課題とされていた「情報」の出題方法に加え、「情報」を得点調整の対象科目とすることを公表しました。報道によると、これを受けて国立大学協会は、一般選抜の受験者全員に「情報」の受験を義務づけ、基本となる受験パターンを6教科8科目とする方針を固めたとされています。高校の進学指導上での悩みの種がまた1つ増えたことになりますが、本当に悩ましいのは現在の高校1年生です。仮に既卒生として2025年度入試で難関国立大学受験に再チャレンジする場合、現役時とは異なり「情報」の受験が必須となってしまうからです。
ポイントは旧課程問題の出題と新旧科目間での得点調整
昨年、12月17日に大学入試センターが公表した「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テストに関する『「情報」の出題方法』及び『得点調整の対象教科・科目』について」のポイントは次の2点となります。
1つは、新課程科目「情報Ⅰ」とは別に、現行課程で学んだ受験生に対応した「旧情報」科目も出題することです。2022年度4月から新高2生(現高1生)以上となる学年の生徒にとっては現行課程の「情報」科目なのですが、ここでは2025年度入試における対応をテーマとしていること、2022年4月から高校に入学する新高1生を対象とした新課程科目に対しては旧課程科目となることから「旧情報」と記すことにします。
この「旧情報」には「社会と情報」という科目と「情報の科学」という科目があり、どちらを履修するかは高校によって異なりますが、約8割の高校が「社会と情報」を履修しています。そこで大学入学共通テストの出題にあたっては、どちらの科目を履修していても受験生に不利益が生じたいよう、両科目の共通部分に対応した必答問題とそれぞれの科目に対応した選択問題を出題することとしています<図>。さらにこの「旧情報」の試作問題を作成・公表して、さらに配点も公表するという念の入れようです。
もう1つのポイントは、新課程生対象の「情報Ⅰ」と旧課程生対象の「旧情報」の両科目間で平均点に一定の差が生じた場合には、得点調整を行うとしたことです。新旧科目間で平均点差が大きく開いた場合、不公平感が生じて混乱する可能性もありますので妥当な措置と言えます。実は、1997年に行われた大学入試センター試験では、旧課程生対象の「数学Ⅱ」と新課程生対象の「数学Ⅱ・B」で20点以上の平均点差が開いてしまい、受験界は大混乱しました。通常は既卒生の平均点が現役生を上回るのが常ですが、この時は既卒生の平均点の方が20点以上低いという従来にはない結果でした。問題の難易度に明らかな差があったのですが、この時は得点調整が行われませんでした。既卒生でも新課程科目を選択することができたのですが、多くの既卒生は旧課程科目を受験しており、救済もされず、悲劇としか言いようのない状況でした。今回はこの点については改善されています。
国立大学の一般選抜は「情報」必須で6教科8科目がスタンダードに
大学入試センターの発表により、課題となっていた旧課程生への対応が決まったことで、国立大学協会が、国立大学の一般選抜では原則として「情報」を必受験科目とし、6教科8科目を基本パターンとすることを決めたと報道されました。正式な決定は1月末の国立大学協会総会でなされるとされています。もちろん国立大学協会も「情報」科目への取り組みは高校間で差が大きいことも理解していますが、それは国立大学協会が対応する問題ではなく、文部科学省や各教育委員会が対応すべき問題だとして、今回の決定に至ったようです。
確かにそれは正論ですが、高校で進学指導を行う現場では、悩みの種がまた1つ増えたと言うのが実感だと思います。多くの高校では「情報Ⅰ」は、高校1年生で履修するのが一般的です。英語、国語、数学などのように学年が進行しても、学習内容に関連がある場合は、高校1年生の時に履修した科目であっても、知識や思考はつながっています。ただ、「情報Ⅰ」の場合はそうではありません。履修してから、しばらくのブランクを置いて、高校3年生になってもう一度、試験のための勉強を始めるのは新たな負担と言わざるを得ません。
これが旧課程生となれば、現役生よりもさらに1年以上のブランクが開いているため、さらにその負担は重くなります。仮に各大学が「旧情報」の配点を低く抑えたとしても、必受験科目としての重みがなくなる訳ではありません。
「情報」必受験を嫌い、2025年度入試を受験する既卒生は減少する?
かつて新課程入試は旧課程で学習した受験生には有利になるとされた時期もありました。学習指導要領が改訂される度に学習する内容が減っていたためです。これは学習内容の削減ではなく、“精選”と言われていました。しかし、2000年代初頭の「学力低下論争」以降は、必ずしも旧課程生が有利だとは言えない状況になってきています。
また、受験生の立場で考えても、自身が高校時代に学習した科目とは異なる科目の受験対策をしなければならないことや、同じ科目名でも内容が変わっているケースもあり、それだけでも大きな負担です。今回は、さらに「旧情報」必受験が加わりますので、2025年度入試に再チャレンジするのを嫌って、現役(2024年度入試)の時に志望を下げてでも大学に入ってしまおうと考える生徒が多くなることも予想されます。
ただ、全ての受験生が国立大学を志望する訳ではありません。難関私大を目指して再チャレンジする受験生もいます。しかし、大学入学共通テストを必受験とする入試方式をメインとする難関私立大学は増えています。そのため、今後の難関私立大学の「旧情報」への対応が注目されるところです。
それに加えて、予定では2022年の秋冬頃とされている「情報」科目の試作問題の公表は注目度大です。「旧情報」も試作問題が公表される予定ですので、プログラミングを扱わない「社会と情報」の選択問題の内容によっては、既卒生が有利となる可能性もあります。得点調整が実施される予定になっていますが、平均点差が20点以上にならず10数点の差に収まり、得点調整が行われなければ既卒生は、そこでのアドバンテージを保ったまま2次試験に臨むことが可能です。逆に試作問題が新課程「情報Ⅰ」寄りの出題内容だった場合、2025年度入試では既卒生が本当にいなくなってしまうかも知れません。
ポイントは旧課程問題の出題と新旧科目間での得点調整
昨年、12月17日に大学入試センターが公表した「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テストに関する『「情報」の出題方法』及び『得点調整の対象教科・科目』について」のポイントは次の2点となります。
1つは、新課程科目「情報Ⅰ」とは別に、現行課程で学んだ受験生に対応した「旧情報」科目も出題することです。2022年度4月から新高2生(現高1生)以上となる学年の生徒にとっては現行課程の「情報」科目なのですが、ここでは2025年度入試における対応をテーマとしていること、2022年4月から高校に入学する新高1生を対象とした新課程科目に対しては旧課程科目となることから「旧情報」と記すことにします。
この「旧情報」には「社会と情報」という科目と「情報の科学」という科目があり、どちらを履修するかは高校によって異なりますが、約8割の高校が「社会と情報」を履修しています。そこで大学入学共通テストの出題にあたっては、どちらの科目を履修していても受験生に不利益が生じたいよう、両科目の共通部分に対応した必答問題とそれぞれの科目に対応した選択問題を出題することとしています<図>。さらにこの「旧情報」の試作問題を作成・公表して、さらに配点も公表するという念の入れようです。
もう1つのポイントは、新課程生対象の「情報Ⅰ」と旧課程生対象の「旧情報」の両科目間で平均点に一定の差が生じた場合には、得点調整を行うとしたことです。新旧科目間で平均点差が大きく開いた場合、不公平感が生じて混乱する可能性もありますので妥当な措置と言えます。実は、1997年に行われた大学入試センター試験では、旧課程生対象の「数学Ⅱ」と新課程生対象の「数学Ⅱ・B」で20点以上の平均点差が開いてしまい、受験界は大混乱しました。通常は既卒生の平均点が現役生を上回るのが常ですが、この時は既卒生の平均点の方が20点以上低いという従来にはない結果でした。問題の難易度に明らかな差があったのですが、この時は得点調整が行われませんでした。既卒生でも新課程科目を選択することができたのですが、多くの既卒生は旧課程科目を受験しており、救済もされず、悲劇としか言いようのない状況でした。今回はこの点については改善されています。
国立大学の一般選抜は「情報」必須で6教科8科目がスタンダードに
大学入試センターの発表により、課題となっていた旧課程生への対応が決まったことで、国立大学協会が、国立大学の一般選抜では原則として「情報」を必受験科目とし、6教科8科目を基本パターンとすることを決めたと報道されました。正式な決定は1月末の国立大学協会総会でなされるとされています。もちろん国立大学協会も「情報」科目への取り組みは高校間で差が大きいことも理解していますが、それは国立大学協会が対応する問題ではなく、文部科学省や各教育委員会が対応すべき問題だとして、今回の決定に至ったようです。
確かにそれは正論ですが、高校で進学指導を行う現場では、悩みの種がまた1つ増えたと言うのが実感だと思います。多くの高校では「情報Ⅰ」は、高校1年生で履修するのが一般的です。英語、国語、数学などのように学年が進行しても、学習内容に関連がある場合は、高校1年生の時に履修した科目であっても、知識や思考はつながっています。ただ、「情報Ⅰ」の場合はそうではありません。履修してから、しばらくのブランクを置いて、高校3年生になってもう一度、試験のための勉強を始めるのは新たな負担と言わざるを得ません。
これが旧課程生となれば、現役生よりもさらに1年以上のブランクが開いているため、さらにその負担は重くなります。仮に各大学が「旧情報」の配点を低く抑えたとしても、必受験科目としての重みがなくなる訳ではありません。
「情報」必受験を嫌い、2025年度入試を受験する既卒生は減少する?
かつて新課程入試は旧課程で学習した受験生には有利になるとされた時期もありました。学習指導要領が改訂される度に学習する内容が減っていたためです。これは学習内容の削減ではなく、“精選”と言われていました。しかし、2000年代初頭の「学力低下論争」以降は、必ずしも旧課程生が有利だとは言えない状況になってきています。
また、受験生の立場で考えても、自身が高校時代に学習した科目とは異なる科目の受験対策をしなければならないことや、同じ科目名でも内容が変わっているケースもあり、それだけでも大きな負担です。今回は、さらに「旧情報」必受験が加わりますので、2025年度入試に再チャレンジするのを嫌って、現役(2024年度入試)の時に志望を下げてでも大学に入ってしまおうと考える生徒が多くなることも予想されます。
ただ、全ての受験生が国立大学を志望する訳ではありません。難関私大を目指して再チャレンジする受験生もいます。しかし、大学入学共通テストを必受験とする入試方式をメインとする難関私立大学は増えています。そのため、今後の難関私立大学の「旧情報」への対応が注目されるところです。
それに加えて、予定では2022年の秋冬頃とされている「情報」科目の試作問題の公表は注目度大です。「旧情報」も試作問題が公表される予定ですので、プログラミングを扱わない「社会と情報」の選択問題の内容によっては、既卒生が有利となる可能性もあります。得点調整が実施される予定になっていますが、平均点差が20点以上にならず10数点の差に収まり、得点調整が行われなければ既卒生は、そこでのアドバンテージを保ったまま2次試験に臨むことが可能です。逆に試作問題が新課程「情報Ⅰ」寄りの出題内容だった場合、2025年度入試では既卒生が本当にいなくなってしまうかも知れません。