妻と2人で今年4月1日、軽井沢にアンティークガラス器を中心に扱うショップをオープンする運びになった。店の名前は「軽井沢ヌーヴォー」とした。ガラス器といっても種々あるが、今準備しているものは、軽井沢が別荘地としてスタートした、今から130年前の1888年頃から1950年くらいまでのものをひとつのテーマとしている。
軽井沢が別荘地としてスタートしたのは、宣教師のショー師が別荘を建てた1888年とされている。その別荘は現在旧軽井沢銀座通りを碓氷峠・見晴台方面に行った旧中山道沿いに復元されていて見ることができ、現地建物の内部には次のように記されている。
「明治十九年(1886年)英国聖公会宣教師A.C.ショー師(カナダ人;筆者注)は宣教途中、軽井沢に立ち寄り、当地の気候に故郷を偲び明治二十一年(1888年)大塚山に避暑用の別荘を建てた。人々はこれを『ショーハウス』と呼んだ。これが軽井沢別荘第1号である。
ショー師は毎夏をこの別荘で過ごし村人達に文化的な生活や習慣を指導しながら、この地を『屋根のない病院』として内外の人に広く紹介して来軽を勧めた。現在までに別荘や寮の数は一万件を越えるに至った。
昭和六十一年(1986年)保険休養地”軽井沢100”を記念して地元有志の方々を中心に『ショーハウス復元委員会』を組織して、軽井沢開発の父とも仰ぐショー師の功績を称え、浄財を募り『ショーハウス』をここに復元しました。平成八年(1996年)同委員会から軽井沢町に寄贈を受け、軽井沢町教育委員会が維持管理しています。
平成八年四月一日
軽井沢町教育委員会 」
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旧中山道沿いにある「避暑地軽井沢発祥の地」の表示と「軽井沢ショー記念礼拝堂」(2017.4.24 撮影)
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ショー師〔Alexander Croft Shaw; 1846-1902〕胸像(2017.4.24 撮影)
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軽井沢ショー記念礼拝堂の後方にある、復元されたショーハウス(2017.4.24 撮影)
ショー師が伝えたという、文化的生活とはどのようなものであったのか、その中には食事の際に使用する各種ガラス器なども含まれていたのではないかと想像している。
100年ほど前のガラス器を見ると、このころのものには、成形後の表面にカットやエングレーヴィング法(英語、フランス語ではグラヴィール)で繊細な加工が施されているものが結構含まれている。
カット技法によるグラス類は、日本では「切り子」と呼ばれているが、この技法はガラス器の表面を各種のグラインダーで削り、幾何学的な模様を作る方法である。
カットパターンには、平面、線、凹面の3種があり、これらの大きさの異なるものを組み合わせることで、複雑なパターンを創りだしている。
小さな銅製のグラインダーを用いて、これに研磨砂に油を混ぜたものを塗りながら削っていくカット技法がエングレーヴィング法で、驚くほど細密な加工が可能になる。
こうしたカットによる加飾加工はグラスのボウル(カップ)部分だけでなくフット(足)やステム(グラスを持つための脚部)にも及んでいる。いくつか例を見ていただく。
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ボウル部分にカット加工を施したグラス-1
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ボウル部分にカット加工を施したグラス-2
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ボウルとフットにカット加工を施したグラス
この3種のグラスのカットは、グラインダーや砥石で研削したままの状態で、削った部分が不透明になっているため、写真では白く写っている。
カットされた部分をさらに細かい砥石で削り、最後はフェルト盤で磨くなどして透明になるまで加工したものもある。この工程は近年、フッ酸/硫酸の混酸で表面を溶かして仕上げる「酸磨き」が行われることもあるが、加工部分が透明になることで印象の異なるものに仕上がっている。
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カット後の表面を磨いたグラス-1
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カット後の表面を磨いたグラス-2
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カット後の表面を磨いたグラス-3
ワイングラスやシャンパングラスのほか、コンポート(足つきの皿)にもこうしたカット加工が施されたものがある。
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カット後の表面を磨いたコンポート-1
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カット後の表面を磨いたコンポート-2
中には、未研磨のすりガラス状態と表面を磨いた部分とを混在させ、それぞれの特徴を活かしているものもある。
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未研磨のすりガラス状態と表面を磨いた部分とを混在させているグラス
非常に繊細な表現をすることができるエングレーヴィング法では、ボヘミアガラスの特徴的なモチーフである鹿を描いたものやその他動物、人物、建物、紋章などを描いたものも多く見られる。
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ボヘミアガラスの特徴的なモチーフ・鹿がエングレーヴィング法で彫られたグラス
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ボヘミアガラスの特徴的なモチーフ・鹿がエングレーヴィング法で彫られたゴブレット
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ボヘミアガラスの特徴的なモチーフ・鹿がエングレーヴィング法で彫られた皿
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動物がエングレーヴィング法で彫られたショットグラス
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動物がエングレーヴィング法で彫られたショットグラスとデキャンターのセット
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微細な紋様がエングレーヴィング法で彫られたカップ&ソーサー
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微細な紋様がエングレーヴィング法で彫られたポット
この時代のガラスのもうひとつの特徴に、1830年に発明され、1940年頃まで生産されていたウランガラス(ドイツ語、英語ではワセリンガラス)というものがある。ガラス組成にウランを微量(0.1%程度)添加したものである。ウランを添加する目的は、ガラスに緑や黄などの色をつけることであったが、紫外線ランプのなかった当時、窓際などに置くと太陽光線中の紫外線を受けて緑色に発光するため、この発光色が加わり、一種不思議な印象を与えることから珍重されたという。
製品としては問題がないものの、ガラス製造現場での放射線被爆の危険があり、製造は中断されていたが、最近一部チェコ共和国やアメリカなどで復活したと言われており、日本でもウランの産地として知られる人形峠で、日本産ウランを使用したウランガラスが開発されたという。
このウランガラスにカット加工や酸によるエッチング加工が施されたものも見られる。技術的な面白さからこうしたものも少し集めている。
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ボウル部がウランガラスにエッチング加工が施されたワイングラス(左:通常光下、右:紫外光下で撮影)
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ボウル部がウランガラスにエングレーヴィング加工が施されたワイングラス(左:通常光下、右:紫外光下で撮影)
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フット部がウランガラス製のワイングラス(上:通常光下、下:紫外光下で撮影)
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ウランガラス製のデキャンタとリキュールグラスのセット(右下:通常光下、左上:紫外光下で撮影)
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ウランガラスを一部に使用したジャムディッシュ(左:通常光下、右:紫外光下で撮影)
以下、次回に続く。
軽井沢が別荘地としてスタートしたのは、宣教師のショー師が別荘を建てた1888年とされている。その別荘は現在旧軽井沢銀座通りを碓氷峠・見晴台方面に行った旧中山道沿いに復元されていて見ることができ、現地建物の内部には次のように記されている。
「明治十九年(1886年)英国聖公会宣教師A.C.ショー師(カナダ人;筆者注)は宣教途中、軽井沢に立ち寄り、当地の気候に故郷を偲び明治二十一年(1888年)大塚山に避暑用の別荘を建てた。人々はこれを『ショーハウス』と呼んだ。これが軽井沢別荘第1号である。
ショー師は毎夏をこの別荘で過ごし村人達に文化的な生活や習慣を指導しながら、この地を『屋根のない病院』として内外の人に広く紹介して来軽を勧めた。現在までに別荘や寮の数は一万件を越えるに至った。
昭和六十一年(1986年)保険休養地”軽井沢100”を記念して地元有志の方々を中心に『ショーハウス復元委員会』を組織して、軽井沢開発の父とも仰ぐショー師の功績を称え、浄財を募り『ショーハウス』をここに復元しました。平成八年(1996年)同委員会から軽井沢町に寄贈を受け、軽井沢町教育委員会が維持管理しています。
平成八年四月一日
軽井沢町教育委員会 」
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旧中山道沿いにある「避暑地軽井沢発祥の地」の表示と「軽井沢ショー記念礼拝堂」(2017.4.24 撮影)
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ショー師〔Alexander Croft Shaw; 1846-1902〕胸像(2017.4.24 撮影)
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軽井沢ショー記念礼拝堂の後方にある、復元されたショーハウス(2017.4.24 撮影)
ショー師が伝えたという、文化的生活とはどのようなものであったのか、その中には食事の際に使用する各種ガラス器なども含まれていたのではないかと想像している。
100年ほど前のガラス器を見ると、このころのものには、成形後の表面にカットやエングレーヴィング法(英語、フランス語ではグラヴィール)で繊細な加工が施されているものが結構含まれている。
カット技法によるグラス類は、日本では「切り子」と呼ばれているが、この技法はガラス器の表面を各種のグラインダーで削り、幾何学的な模様を作る方法である。
カットパターンには、平面、線、凹面の3種があり、これらの大きさの異なるものを組み合わせることで、複雑なパターンを創りだしている。
小さな銅製のグラインダーを用いて、これに研磨砂に油を混ぜたものを塗りながら削っていくカット技法がエングレーヴィング法で、驚くほど細密な加工が可能になる。
こうしたカットによる加飾加工はグラスのボウル(カップ)部分だけでなくフット(足)やステム(グラスを持つための脚部)にも及んでいる。いくつか例を見ていただく。
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ボウル部分にカット加工を施したグラス-1
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ボウル部分にカット加工を施したグラス-2
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ボウルとフットにカット加工を施したグラス
この3種のグラスのカットは、グラインダーや砥石で研削したままの状態で、削った部分が不透明になっているため、写真では白く写っている。
カットされた部分をさらに細かい砥石で削り、最後はフェルト盤で磨くなどして透明になるまで加工したものもある。この工程は近年、フッ酸/硫酸の混酸で表面を溶かして仕上げる「酸磨き」が行われることもあるが、加工部分が透明になることで印象の異なるものに仕上がっている。
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カット後の表面を磨いたグラス-1
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カット後の表面を磨いたグラス-2
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カット後の表面を磨いたグラス-3
ワイングラスやシャンパングラスのほか、コンポート(足つきの皿)にもこうしたカット加工が施されたものがある。
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カット後の表面を磨いたコンポート-1
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カット後の表面を磨いたコンポート-2
中には、未研磨のすりガラス状態と表面を磨いた部分とを混在させ、それぞれの特徴を活かしているものもある。
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未研磨のすりガラス状態と表面を磨いた部分とを混在させているグラス
非常に繊細な表現をすることができるエングレーヴィング法では、ボヘミアガラスの特徴的なモチーフである鹿を描いたものやその他動物、人物、建物、紋章などを描いたものも多く見られる。
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ボヘミアガラスの特徴的なモチーフ・鹿がエングレーヴィング法で彫られたグラス
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ボヘミアガラスの特徴的なモチーフ・鹿がエングレーヴィング法で彫られたゴブレット
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ボヘミアガラスの特徴的なモチーフ・鹿がエングレーヴィング法で彫られた皿
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動物がエングレーヴィング法で彫られたショットグラス
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動物がエングレーヴィング法で彫られたショットグラスとデキャンターのセット
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微細な紋様がエングレーヴィング法で彫られたカップ&ソーサー
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微細な紋様がエングレーヴィング法で彫られたポット
この時代のガラスのもうひとつの特徴に、1830年に発明され、1940年頃まで生産されていたウランガラス(ドイツ語、英語ではワセリンガラス)というものがある。ガラス組成にウランを微量(0.1%程度)添加したものである。ウランを添加する目的は、ガラスに緑や黄などの色をつけることであったが、紫外線ランプのなかった当時、窓際などに置くと太陽光線中の紫外線を受けて緑色に発光するため、この発光色が加わり、一種不思議な印象を与えることから珍重されたという。
製品としては問題がないものの、ガラス製造現場での放射線被爆の危険があり、製造は中断されていたが、最近一部チェコ共和国やアメリカなどで復活したと言われており、日本でもウランの産地として知られる人形峠で、日本産ウランを使用したウランガラスが開発されたという。
このウランガラスにカット加工や酸によるエッチング加工が施されたものも見られる。技術的な面白さからこうしたものも少し集めている。
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ボウル部がウランガラスにエッチング加工が施されたワイングラス(左:通常光下、右:紫外光下で撮影)
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ボウル部がウランガラスにエングレーヴィング加工が施されたワイングラス(左:通常光下、右:紫外光下で撮影)
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フット部がウランガラス製のワイングラス(上:通常光下、下:紫外光下で撮影)
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ウランガラス製のデキャンタとリキュールグラスのセット(右下:通常光下、左上:紫外光下で撮影)
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ウランガラスを一部に使用したジャムディッシュ(左:通常光下、右:紫外光下で撮影)
以下、次回に続く。
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