わからんちんの演劇事始に出てくる高橋君は照明担当になる予定です.
これは、高橋君がお父さんに教わる照明の話の下書きです。
1.基礎の基礎
1.1電気の種類
電気には直流と交流、それと静電気があります.直流は車のバッテリーや電池のようにプラスとマイナスがはっきりしています.交流はプラスとマイナスが交互に繰り返されています.静電気はものとものとがこすり合わされる時に発生します.冬にドアを開ける時バチッとくるあれです.
舞台照明で使うのはこのうち交流といわれている電気です.
1.2交流の種類
家庭のコンセントには普通100Vの電気が流れています.ただ、これは平均して100Vという意味で、瞬間的には140Vくらいまで流れます.コンセントによっては200Vの電気がきていることがあります.エアコンのコンセントの一部がこれです.
交流は単相と3相というわけ方もします.単相というのは家庭用の電気です.3相というのは工場などでモーターを使う時に使う電気です.普通はこの区分を知っている必要はありませんが喫茶店を借りてお芝居をやる時や発電機を使って野外劇をやる時には、これを知っていないととんでもない事故を招きます.業務用のエアコンや井戸ポンプは3相交流を使っていることが多いからです.これには200Vの電気が流れています.この電気を調光機に流すとすごい音を立てて調光機のファンがまわり、スイッチを入れると次々に電球がとびます.(これをやってとばした知り合いを二人知っています.自分では学校が手配した業者がこれをやってくれて、目の前で電球がとびました.)ちなみにとぶというのは電球が切れることです.
単相の交流もコンセントでは線が2本しかありませんが、そのもとのブレーカーでは線が3本あります.これを単相3線といいます.端と端で電圧を測ると200V、端と真中の線の間では100Vの電気が流れているのが分かります.これはブレーカーから自分で調光機まで線を引く人にとってはぜひ覚えてもらいたい電気の基礎です.
1.3ワット数と明るさ
ワット数が大きいほうが照明が明るいことは、直感的に理解できると思いますが、これは同じ灯体(電球とか蛍光灯のこと)で比較した場合の話です.同じワット数なら、白熱電球よりはハロゲンや蛍光灯のほうが明るい照明です.ただ、蛍光灯は特殊な調光機でないと調光出来ません.つまり特別な使い方をしない限り舞台照明には向いていないということです.
最近の照明機材は小さい電力で明るいハロゲン電球を使っていることが多くなっています.
さて、基礎の基礎が分かれば次は実践です.
2.ホールを使う場合
ホールを使う時のグレードは3段階に分かれます.
①照明の配置や仕込みはすべてホールの人にお任せで、調光卓にも触らない.照明の変化は指示をしてホールの人にやってもらう.
②仕込み図を書いたり調光卓は触るが仕込みはほとんどホール任せ.
③ホールの人は見ているだけで、全部自分でやる.
普通のホールではアマチュアには①か②までしかやらせてくれません.③は一応プロでないとだめだという建前になっています.でも、小さいホールでは③まで自分たちでやることになります.簡単な話から説明します.
2.1全てお任せで指示を出すだけの時のうまい照明の作り方.
2.1.1下準備
まずどういう照明にしたいのかを考えます.これはどこでもやっていることでしょう.でもうまくいかないことがままあるのは、なぜでしょう.それは、簡単なコツを知らないからです.まずずらずらっと書きます.それから説明します.
①脚本に書いてあることを全部やろうとしない.
②暗転を少なくする.出来れば暗転を入れない.
③セットを作らない時は出来るだけ、ホリゾントを使わない.
④見せ場をはっきり決める.
⑤ピンスポットを使うことを考えない.
①~⑤を一言でいうと最初はなるべく単純な照明プランを作るということです.では①から説明します.
①脚本に書いてあることを全部やろうとしない.
ほんの一例ですが、雨と書いてあるからエフェクトマシンを使って雨の照明を作ったとします.一瞬、観客はワーッとなります.「きれい」とも言います.でも、そのシーンでは、雨がなぜ必要なのでしょう.演劇では多くの場合「雨」は「孤独」や「恐怖」を代弁しています.視覚でこうした効果が出せれば良いのですが、今まで見た舞台ではセリフの力をマイナスにする形でしか働いていないことが多いのです.
②暗転を少なくする.出来れば暗転を入れない.
ホールには非常口があります.この緑色の照明は案外明るくて、暗転になっても舞台の上の人間がうろうろしているのは丸見えです.かといって、防災上の制約でこの非常口の明かりを消してもらうことができないことがほとんどなので、暗転は効果を生まないことが多いのです.
もうひとつには、暗転の長さです.暗転は観客の意識を中断する時間です.ましてや、暗い中での転換には時間がかかります.「暗転3秒」とよく言われますが、3分かかっている劇団を見たことがあります.最初から演出上の処理で暗転を少なくすると、芝居がスマートに見えます.
③セットを作らない時は出来るだけ、ホリゾントを使わない.
「セットを作れないから、セットを作りたくないからホリゾントなのに」という声が聞こえてきそうですが、実はセットがない時はホリゾントというのは効果が半減します.それはフロントスポットライト(観客席の上の右や左についているライト)やシーリングライト(客席の天井についているライト)の光が舞台の床に反射してホリゾントに映るからです.これを避けるには、ステージスポット(舞台の袖のライト)の数を山のように使うという手がありますが、面倒なのと回路を取っていないことが多いため日本では申し訳程度のステージスポットしか使いません.
ただ、なにがなんでも使うなとは言いません.使っても思ったほどの効果は得られないことを承知の上効果的に使って欲しいのです.
④見せ場をはっきり決める.
そんなの分かってるといわれそうですが、これって意外にプロでも(セミプロ?)分かっていないことです.某劇団(セミプロが参加していました)の手伝いをした時、最初から最後まで意表をつく照明をやってくださいと言われましたが、これって感覚が麻痺するから結局ただの照明と変わらないってことになります.
舞台照明は変わったことをやってすごいのではなく、当たり前のことをさりげなくやるからすごいのです.でも、照明の立場をアピールするためには、1ヶ所ぐらいは見せ場を作りましょう.
いままでやって、すごいといわれた照明は単純な照明ばかりです.列車が通過する照明を表現するために、スポットの前でダンボールを交互に振る、夕日のシーンで窓の外からスポットを落とす.こんな単純な照明も、演出のねらいと一致するとエフェクトを使ったものよりも高い評価を受けます.
⑤ピンスポットを使うことを考えない.
ピンスポットがアークからキセノン、ハロゲンになって手軽に使えるようになりました.でも、使い方を知っている人はほとんどいません.
もともとピンスポットは不自然な照明です.なぜなら、色温度が違うからです.(いきなり難しい話になりました)つまり、他の照明の基本的な色と比較すると青っぽい照明なのです.こういう不自然な要素が加わると、照明全体が不安定になります.不自然なことが許されるシーンで使うと本当は効果的です.今まで観たピンスポットの一番効果的な使い方は東京演劇アンサンブルという劇団の上演した「奇跡の人」でヘレンの手が言葉を求めている時に手だけにスポットがあたっているというシーンです.
フォーロースポットとして役者の顔を見せたい時はディザーでエッジを消して、A3ぐらいのプラステートを入れてみるのも手です.その時には基本的にはバストから上をフォローするようにします.(この行だけ専門的になってしまいました.ピンスポットはシャッターとディザーから構成されています.シャッターは円を大きくしたり小さくします.ディザーはピンスポットの光のふちをはっきりさせたりぼやかしたりします.プラステートには色をつけるためのものと色温度を変換するためのものとがあります.後者は本来テレビカメラ用ですが、演劇にも使われるようになりました.A3はオレンジがかったフイルターです)
最終的には演出とよく打ち合わせをしてください.けんかしてもいいでしょう.照明と演出がけんかをしている劇団をたくさん知っています.商売で引き受けているのでなければ、真剣にやっているのならけんかするのが当たり前ですから.演出は自分のイメージだけで勝手なことを言います.これに負けてはいけません.立場が違うということは重要なことです.(でも、相手の言うことが納得がいくならあっさりゆずりましょうね)
2.1.2 打ち合わせ
ホールの人間と打ち合わせる時に仕込み図を持っていけばいいのでしょうが、何校かの共同公演では仕込み図の通りに吊りこむのは無理があります.図まではいらないはずなので、きちんとアピールしましょう.
説明の順番はこんな感じです.
①大道具の位置と人間が動く範囲をはっきりという.
②どういう地明かりが欲しいのかを説明する.
③特殊な照明の説明をする.
④きっかけを説明する.
これを打ち合わせの口調でやるとこうなります.
「今回の芝居は、舞台のここからここまでを使います.ここは家の中で、ここから先は家の外です.場面としては昼間のシーンがほとんどですが、夜のシーンは雨が降っている設定です.地明かりは2シーン組んでいただければ結構です.独白のシーンが3回あってできればそれぞれにサス(舞台の真上からの照明)を下さい.場面の切り替えは、この脚本に地明かりの指定とサスの指定を書いてあります.きっかけは(以下略)」という具合です.
この時にどう明かりをつけて欲しいのか、どう消して欲しいのかを説明します.これについては次に詳しく説明します.
2.1.3本番中の指示の出し方
照明の点け方消し方はS.I.(スィッチイン=急いで点ける)、S.O.(スィッチアウト=急いで消す)F.I.(フェードイン=ゆっくり点ける)、F.O.(フェードアウト=ゆっくり消す)の4つしかありません.
急いで点けるのはぱっと点けてくれという意味ですから、まああまり問題はないのですが、(消すのも同じ)、ゆっくり点けたり消したりするのはセンスの見せ所です.手振り身振りを入れて指示を出しましょう.それから、サスだけを残してゆっくり消すのも効果的です.こういう時には、音楽のムードに合わせてとか役者のこの動きに合わせてとか、打ち合わせの時には、分かっているだけの情報をホール担当者に出します.当日変更がある場合は早めに指示を出すこと.そして、自分が舞台に立っているかのように、役者が喋りやすいように指示を出します.
時々、インカムで指示を出してくる演出や先生がいますが無視しましょう.(もっと明るくしろなどという指示はもってのほかです)
失敗した時は照明担当の責任です.責任の所在は明確に.気にすることはありません.照明の指示の間違いで舞台の上で死ぬのは芝居だけです.だからこそ、次の日に腰が立たなくなるほど神経を集中して指示を出してください
2.2 自分たちだけでホールを使うときのうまい照明の作り方
(吊りこみなど高度なことをしないとき)
2.2.1下準備
基本は指示を出すだけのときと同じですが、すこし程度を上げていきます.
照明の仕込み図を書いてみましょう.業者さんを頼んでやってもらうときでも、本当にホールの人に仕込み図を渡す時にも一応書いてみます.業者によっては、「素人がなにやっているんだ」という顔をするかもしれませんが、照明の面白さのほとんどはこの仕込み図を書いているときに「ああもしよう、こうもしよう」と制約と戦いながら想像する作業だからです.親切な人はこの時いろいろ教えてくれます.
仕込み図を書くときに必要なのは次の項目です.
①機材の種類と照明のあたる方向。
②その機材に使うプラステートの色。
③ホールのバトンの位置とコンセント位置。
①機材の種類と照明のあたる方向。
照明の灯体の種類はかなりありますが、基本はレンズのある照明とレンズのない照明に分かれます.最近はレンズはないけれど反射鏡を使うものもあります。
■レンズのない照明器具
ボーダー、ホリゾント、フラットライトなどがこれに当たります.レンズのない照明は明るいのですが、光が拡散してしまうので、まんべんなく明るくする照明に使います。
■レンズのある照明器具
スポットライト、エリスポットなどです.パーライトなどもこれに含めていいかと思います.ただ、パーライトを光を絞ることが出来ません.自動車の照明を缶につけたようなものです。
ホームページを見ると、こういうライトが載っています.詳しくは
演劇照明講座
http://www1.linkclub.or.jp/~chara/Lighting.html
ネコでもわかる照明の部屋
http://go.fc2.com/lighting/
むしろ問題は照明のあたる方向です.なぜ、この方向からあてたいのか、なににあてたいのかを考えます.図が入らないと説明が難しいので、細かい説明が出来ないのが残念です.
気をつけてもらいたいのは影の処理です.照明をあてれば必ず影が出来ます.この影をどう処理するか、さらに効果的に使うにはどうしたらいいかを考えるとより繊細な照明が出来ます.
ここからは少し専門的になりますが、個人的には現在の演劇の照明のあて方は、あまり好きではありません.むしろ踊りの照明のほうが面白い場合が多いのです.公演まで時間があるのでしたら、劇場に足を運んでよその(特に別のジャンルの)照明も研究してみてください。少し難しいですが、次のサイトは参考になるかもしれません.(でも、難しいかな。)
一挙公開! 青年団の照明の作り方
http://www.letre.co.jp/~iwaki/sndlt/sndlt-index.html
図入りで分かりやすいのは次のサイト.
基礎講座も充実しています.
ka-i-ka-n
http://homepage2.nifty.com/ka-i-ka-n/index.htm
仕込み図を書くときにはテンプレートを使うとカッコよく書けます.でも、自分では使ったことはありません.かっこいいだけで、中味に変わりはありませんからアマチュアでは必ずしも必要ありません.ただ、間違いは少なくなるかもしれません.テンプレートはここで売っています.
記号の使い方は、必ずしも統一されていません.「凡例」を必ずつける習慣を。(凡例の意味は辞書を引いてください.)
東京舞台照明
http://www.tokyobs.co.jp/
②その機材に使うプラステートの色
正確にはカラーフイルターというのかもしれません.種類は4種類ほどあります.うまく見せるコツは次の通りです.
◎感情に合わせて色をつけない.
怒りのシーンだからといっていきなりホリゾントを赤くする人がいます.こういう演技の障害になる照明はやめましょう.
◎薄い色の地明かりに濃い色のスポットを使わない.
これは言葉だけだと説明が難しいかもしれません.まわりが生明かりで明るい時に、人物を紫で抜いたり、色をかけたポチを入れないということです.
◎派手な色は少なめに使う.
赤からグリーンに変えるより、赤にグリーンの筋が入ったほうが目立つしセンスもいいという事です.
カラーフイルターには次のようなものがあります.
■プラステート(ポリカラー)
普通に使うものです。22(赤)64(青)というようにたくさん種類があります.
■コンバージョン
色温度を上げたり下げたりするためのものです.B1とかA3とかいうやつです。もともとはテレビのカメラ用に作られたものです.舞台をビデオカメラで撮ると黄色く撮れるので、それを補正するためのものでした。最近は、関係無しに舞台でもよく使います.
■エフェクト
PU16(紫)GR4(緑)というように色物です.これも映像用ですが、演劇ではたまにしか使いません.テレビ局の関係でバイトするとお下がりをもらえるので、首都圏では使う人は多いかもしれません。
私はサントリーのコマーシャルをやっていた監督の手伝いをした時にスタッフから結構もらったことがあります.
■私もよく知らないやつ
221とか224とかいうやつですが、使ったことはありません.そういう意味では特殊なフイルターです.
メーカーから、カタログをもらって、よく研究してください.ただ、ホールには全ての色があるわけではないので、特殊な色を使いたいときには自分たちで購入して、もって行ってください.カタログは次のメーカーに請求すればもらえるはずです.(有料だと思いますけど)
東京舞台照明
http://www.tokyobs.co.jp/
丸茂電気
http://www.marumo.co.jp/index.html
③ホールのバトンの位置とコンセント位置。
本来は最初にホールを下見に行って、図面などをもらってきます.使える照明機材の確認もこの時おこないます.そして、どこにどれだけ照明が吊れるのかを確認します.
図面にはコンセントが載っている場合と載っていない場合があります.また、ひとつのコンセントで何kwまで使えるかも確認しなくてはなりません.通常は3KWだと思いますが、2KWの時もあるはずです。
ポイントはひとつのバトンに吊れる照明には限界があるということです.
2.2打ち合わせ
照明プラン(どこでつけたり消したりするかの意味です)と仕込み図が出来あがると、ホールの人と打ち合わせを行います.装置図と一緒に持っていって、どこの誰にどの明かりをあてたいのかを説明しますが、ここまで出来ているとあまり説明を聞いてくれないかもしれません.
むしろ、「この灯体でここにいる誰だれにあてたいのだが、自分の考えたこのライトの種類とあて位置でいいだろうか」というように質問形式にすると、かえって問題点がはっきりすると思います.
回路以上に計画して吊れない場合や、書類には載っているのに実際にはホールにない機材などもここでチェックします.色合いについても、意見を聞きましょう.答えがない場合には、当日勝負になります.
最近の流行に、エリスポ(ITOを含む)で模様を出す効果があります。ネタ(アルミ板に模様をすかし彫したもの)をいれないと、模様が出来ませんので、ホールにネタがあるのかないのかも確認します。ネタがないときは業者さんから借りるか、買うか、作ることになります.
この時どこまでやらせてもらえるのかを、確認するのを忘れずに.やってもらえるのにこしたことはないなんて思わないこと.もしかしたら調光卓を触るチャンスは一生でこれが最後かもしれないからです.
2.3本番当日
今回は高度なこと、つまり照明を吊ったりあて位置を調整したりパッチをしたりCPUでシーンを記憶させるのはホールの人まかせ、という前提です.(今ごろこれを書き忘れていたのを思い出しました)というわけで、照明は前日にホールの人が仕込んでくれてあります.(という設定です)
装置の建てこみが終わったら、シーンごとの照明を点けてもらい自分が考えていたとおりの照明かどうか確認します.この時には、できれば客席中央で確認するほうが確実です.調光卓がマニュアルの時は、誰かに卓を操作してもらうか、演出か舞台監督に客席にいてもらいゲージを決めていきます。ゲージとは明るさのことです.フェーダーの脇に目盛があるので、こういうようです.ひととおり終わったら、あるいはやっている途中であたり位置が違っている場合にはホールの人に頼んで位置を直してもらいます。
あたりが決まったら、調光卓の説明を受けていじってみましょう.ただ、時間はほとんどありません.すぐにゲネプロが待っているはずですから.CPU卓(コンピューター卓ともいうらしい。私は使ったことは余りないので正式名称を知らない)は、スイッチを入れるだけで、あるいはレバーを上へやったりしたへやったりするだけでシーンが変わっていきます.
ホールのマニュアル卓はプリセットといって、フェーダーが2段から4段並んでおり、この段数だけ場が作れるようになっています.使っている段以外のフェーダーで次の場を作っては切り替えて行く形になるわけです.ゲージを記録しておかないと、次から次へと場を切り替えられないことになりますが、実は芝居では、そんなにややこしいことはほとんどなくほとんど同じように組んでおいて、わずかに変えるだけの場合や、いくつかのスポットを単独でいじるだけのことも多いので、深刻になることは全然ありません.
今まで聴いた話で一番多かったのは50分の芝居で200シーンの照明を組んだという話が最高です.こんな数になるとCPU卓でないとまず無理ですし、アマチュアではこんなに覚えられません.(おまけにプロがすごいのは、これだけ変化しても観客はほとんど気がつかない照明を作ることだ。)
後は習うより慣れろです.ゲネプロであたりのおかしい所が見つかったり、演出の変更が出たりすると、ここでまたあたり直しをします.
本番は、出たとこ勝負.照明室の位置によって、また照明係の視力によって明るさの感じ方が違うので、客席で見ていたときと違う感じがするはずです。ここまできたら、いったん決めたゲージはあまりいじらないほうが良いかもしれません.
時々、仕事を忘れて観客になってしまい、操作を忘れるタイプの人がいます。普通インカムで演出や舞台監督の怒りの声が飛んできますから、あわてずあせらず、「わざとだよ」ぐらいにうそぶいて、シーンを変えましょう.ここであせってもなにもなりません.反省は家に帰ってからゆっくりするものです.
さて、本番当日で一番大事なことはなんでしょうか.それは、後片付けをきちんとするということはないでしょうか.何校かの合同公演なら、人数が多すぎてかえって邪魔でしょうが、自分たちだけでホールを使ったときはコードを巻くことぐらいはやってみよう.軍手もしくは皮手袋を忘れずに.
これも、今回で最後です。
これは、これで一応完結しています。
3.教室での上演
スライドボリュームの溝きりに苦労した。
右の二つのつまみは手元灯り用の調光。
100Wまでの使用が可能.
3.1教室を暗くする
教室を使うときに照明担当者が最初に直面する課題は、教室をどうやって暗くするかということです.方法としては6つ挙げられます
①断念する
②夜やる
③暗幕を使う
④黒ラシャ紙を貼る
⑤ダンボールを貼る
⑥黒ビニールを貼る
①断念する
もっとも簡単で照明を使わないということですが、朗読劇やコントならいざ知らず、せめて照明ぐらい使いたいというのが人情でしょう。自分たちで照明なしでやったのは子供向けの、野外劇が一本あるだけです。これはこれで結構難しかったです.
②の夜やる。
現在の教育環境では実施不可能でしょう。40年ほど前には中学校の文化祭を夜中庭でやっているのを観に行った記憶があります.当時は土曜日も休みではなかったし、農家では日曜日も休みを取れなかったりしたからかもしれません.地域の交流ということを含めて、もう一度検討してもいいと思います.
③暗幕、あるいは遮光幕を使う、
設備があれば簡単ですが、もしなくて購入するとしたら、暗幕は高いし、廊下側にカーテンレールがない教室が多いでしょうから設置も大変です.
④黒ラシャ紙を使う.
これが一番確実です.ただ、高い、破れやすい、案外光を通すという欠点があります.あと、ダンボールの所でも触れますが、どうやって貼るのかなどが問題になります.
⑤ダンボールを使う
遮光性が高く、もらってくればタダ、という長所があります。ただ、重いので窓に貼る時にはガムテープなどを使わなくてはなりません.周辺の塗料がはがれたり、冊子に糊が残っても苦情が出ない環境なら、経済的です.もうひとつの欠点は厚みがあるので、窓ぎりぎりに貼ると窓の開閉が出来ません.仕込みやゲネから長時間使うとなると、換気設備のある所でないと辛い場合があります.
⑥黒のビニール
昔だったらごみ袋も使えましたが今黒のごみ袋を使っている自治体は珍しくなってしまいました.農業用のビニールマルチは値段も安く、2枚折りにするとかなり遮蔽度も高く、かつ軽いのでセロテープや両面テープでも簡単に固定できます。残念ながらこれも産業廃棄物の指定を受けているようなので、学校の花壇に使って自然風化を待てる環境でないと使えません.意外なところに環境問題は潜んでいるものです.
③~⑥のどの方法を選択するにしても、換気には注意してください.観ているうちに気持ちが悪くなったらせっかくの芝居が台無しですから.
3.2出入り口も暗くする
意外と忘れるのが出入り口です.誰かが出入りするたびに明るくなっては困ります.ここにはお金をかけて二重に暗幕を張ってください.係りをつけられるなら、ここに誘導係を置きます.
3.3照明機材
教室を使うと会場の電気は15A程度ですから、基本的にはスポットを使うのはあきらめたほうが賢明です.50Wや100W、250Wのスポットライトもありますが、普通はまず持っていません.それと、レンズのある灯体はないものと比較すると暗くなります.
既製品でおすすめはフラットライト(150~200W)ですから、6灯使っても12Aです。ただ、はやらないから今は作ってもいなければ売ってもいないかもしれません.ここ20年ほどは見たことがありません.ホームセンターで売っている奥外灯光機を使うというのも良いのですが、色はかけられません.
となると、自作するのも一案です.
自作するのでしたら、「しぐさんの工作室」(本当はSig's WorkRoomという英語のタイトルです)の中の
「照明わーくす」というページが参考になります.屋外灯光機の改良法まで書いてあります.
http://homepage3.nifty.com/shigsan/lights.htm
このサイトには、調光機の作り方も書いてありましたが、ちょっと使いにくいかもしれません.ついでですからそちらの自作のサイトも紹介します.
かなり年下の友人です、
http://www3.justnet.ne.jp/~ebisui/butai.htm
「劇団創造市場」
http://www.asahi-net.or.jp/~ep2t-kmt/sozo.htm
照明の説明のページは、なんか見たような文章も並んでいますが丁寧です.
今回、この原稿を書くためにいろいろ検索してみましたが自作記事でひっかかるのは「照明ワークス」のしぐさんを除いては知りあいばかりでした.技術立国日本はどうなるのだろうと考えさせられる結果です.
3.4調光卓の自作(付記)
少し専門的な説明を付け加えます。
その前に、調光卓は少ない回路でもその先に回路を切り分ける分電版があると2倍3倍に回路を使えます.最初に1台調光卓を作ったら、1台分電板を作るというのがいいペース配分です.
さて、今まで紹介してきたページの調光卓は、普通のコンセントから電気をとることを前提にして書かれています.でも、もう少しスポットをたくさん使いたいときにはブレーカーから直接電気を取ったり、発電機を使うこともあります.こういう時には、ブレーカーから調光機までを単相3線で配線しないと、位相のバランスが悪くなります。
そこで、単相3線に対応した調光機を作る時にはフェーダーの配置の設計に注意が必要です.つまり6回路だと左側の100Vが左からかぞえて1、3、5、右側の100Vが2、4、6のフェーダーになるように設計します.こうすることで隣り合った2つを地明かりなどで使うとバランスがとりやすくなります.既製品の調光機を使ってブレーカーから電気を引いたことのある人にはなんとなくわかってもらえると思います.
なお、ヒステリシスの軽減、フェーダー開始位置の問題、ノイズ対策(フイルターを入れる必要は必ずしもない)、マスターフェーダーの問題については説明が長くなるので省略します。
1回路は15A、T型のコンセントで出力している
背が高いのはファンの大きさに規制されている.
3.5うまい当て方
教室のもうひとつの欠点は天井が低いということです.あたりまえのことですが、頭の上にサスをつけられません.これで効果が限定されます.このため、脇からか前の上からあてることになります.前からあてるときには本当はなるべく高い位置からあてたいものです.投光角度が低いと光が目に入りますし、顔が光を受けてのっぺりします.(これをハレーションといいます)
脇からあてる時は、観客の目にライトが入らないような工夫が必要です.パンドア(照明用語でライトの前に使う覆いです)があればこれを使います.なければ、アルミフォイルを黒くスプレーしたものを、灯体に貼って目隠しをします.ラシャ紙を使う場合は、火事に注意を.灯体は一般に高熱を発します.貼るのもアルミテープがベストですが、そこまではしなくて良いでしょう.
灯体の数が少ない時は前からの明かりを多く、多い時は脇からを増やします.地明かりはレンズのあるライトを使わないほうが、狭い所では楽かもしれません.焦点距離の短いライトでも教室の狭さでは広がりきらないことがあるからです.最後の手段としてレンズをはずして使います.この手はエッジはきれいに出ませんが、簡単なポチを作りたい時にも使えます.レンズをはずした焦点距離の短いスポットライトに1cm~2cm程度の穴をあけたアルミフォイルをカラーフイルターと同じように差しこみます.あわせがないので、うまくいかないときもあります.試してください.ただし、効果はあまり期待しないように.
いざという時は、懐中電灯を使ってください.光が弱いので客席の一番前に座って使うのも方法です.ストロボも同じです.距離があると効果が出ません.ブラックライトを使うときは、専用の回線を持ってくるのがめんどくさければ教室の蛍光灯を取り替えます.これは客席側に短く切った黒布で目隠しを作って、客に直に光が行かないようにすると蛍光効果が大きく出ます.
3.6どうやって照明機材をつるすか
昔はヒートンを使っていましたが、教室の天井がコンクリートになった今、これは無理な話です.それに照明機材は重いので、缶で作ったような軽い機材以外は吊るのは危険です.というわけで、最近はほとんどの場合単管パイプを使うようになっているようです.単管パイプはホームセンターに行くと売っています。薄肉タイプが出たので値段は驚くほど安くなりました。
組み立て方にはコツがあります.基本はクランプの使い方です.クランプには直交と自在の2種類があります.よく見かけるのは自在だけで組もうとしている場合ですが、これは危険なだけでなく、形よく組めません.直角に交わる所には直交を。斜めに交わる所には自在を使います.それから、コーナーは単管を組み合わせて三角形を作るようにします.早い話が家の柱を組み立てるのと替わりありません.組み立てにはサイズ17のラチェットを使います.スパナでも出来ないことはありませんが、作業効率が悪いのと力を入れないとよく締まりません.
なお、単管を使うときでも本当は落下防止のためのワイヤーを使ってください.プロの舞台では、責任者が最後に落下防止器具がちゃんとかかっているかをチェックしてからバトンを飛ばします.これをやらないと「ガラスの仮面」の月影先生のようになってしまいます.
一番簡単なのはスタンドを使う方法ですが、天井ぎりぎりに取りつけることは出来ません.最近はホームセンターで、工事用のスタンド付照明器具の安いものを売っています.
前述の「照明ワークス」に使用例が載っていました.でも、本当はハイスタンドとトンボを買ってもらうのが一番お勧めです.
3.7配線のおまじない
「にんじん」の作者ルナールの「博物誌」には「へび」「ながすぎる」とありますが、照明のコードには蛇の呪いがかかっていますので、次のおまじないを必ずしてください.
①調光卓につなぐコードは太くて短いものをもちいて、コンセントにはずんぶと根元までしっかり差すこと。
②ドラムリールは締め付けの呪いが強いので、すべてほどいて楽にしてあげるべし.
③スピーカーコードと電気のコードは相性が悪いので、上から見ると$の記号のように、一方ををくねくねとのたうつようにさせること.
④中継の部分は互いに絡ませるように結んでから、コンセントをつなぐこと。
⑤怒りを買うので、机の脚などがコードを踏まぬよう2度見まわること。
⑥コンセントの元にはブレーカーがおわすので、最初にどのブレーカーかを確認しておくこと.
合理的な説明
①調光卓から全ての電気が分かれます.ここで細いコードを使うとコンセント部分やコードの途中で火を吹きます.なお、コンセントは15Aまでとなっていますが、12A程度に押さえたほうが本当は安全です.
②ドラムリールを使うときは、コードを全部ほどいてから使います.まいたままだとコイルになって許容電力よりもかなり低い所でも火をふきます.また、エネルギーが熱に変化されるので、電圧も下がります.
③お互いの干渉を避けるための手段です.必ずしも効果的とはいえませんが、チョークタイプのノイズフイルターが入っていなくてもこうした対応である程度ノイズは防げます.
④はずれないようにするためです.ビニールテープで巻く人もいますが、ばらしが大変です.
⑤10A以上流れると普通のビニールコードはかなり熱を持って柔らかくなります.この時踏むとショートします.ショートすると調光機は一発でその回路がいかれます.保護回路が入っていないと、ブレーカーまで飛ぶことになります.
⑥そのブレーカーが飛んだ時どこにあるのか分からないと会場の電気を回復できません。最初に探しておきましょう。
配線の注意点はコードはなるべくキャブタイヤかポリエチレンのものを使うということです.それとコンセントがいくら15Aつかえても、コードが12Aしか使えないものだとショートしたり燃えたりしますから用心が必要です.
規格については色々なページに載っていると思いますが、前にも紹介したこのページに詳しく載っています.コンセントも本当はT型を使いたいところですがこれは無理でしょうね.
ka-i-ka-n
http://homepage2.nifty.com/ka-i-ka-n/index.htm
3.8仕込んでからのおまじない
①点灯テストは普通のコンセントを使うべし.
②調光機を使う前は、微かに点けて3分の祈りをささげるのがよい.
③キセノン、ハロゲン電球は怒りを買うので素手で触るな.
合理的な説明
①吊りこみも配線も終わったら、点灯テストですがこれは調光機に直接差しこんではいけません.普通のコンセントで試してください.灯体がショートしているような時、調光回路に直結していると回路がとびます.今まで紹介した自作調光機はみんな直結型のようなので、テストは必ずコンセントに直接差してやってください.ショートしているとブレーカーがとびます.
②いったんテストが終わると、大丈夫だと安心しますし、回路の順番が変わったりすると大変だと思うから、普通は次の日からは調光機につないだ状態ですぐ点けようとします.でも、いきなり100%で使用すると電球は切れやすいので、点くか点かないか程度にフェーダーを上げて暖めてから使うと電球も調光機も長持ちします.なぜなら、電球が切れた瞬間にショートしたのと同じ状態になって、回路がとんだのを何回も見ているからです.さらにいうと30%程度の電流では電球は光りませんが、温まります.予備電球を用意しておくのがもちろん重要ですが、切れないようにするのも大事です.
③高熱を発する電球は手の油がつくとそこから膨れてきたりするそうで、昔ある照明屋さんから教えられました.まあ、そんなことがなくても熱かったりするので、フェーダーをいじる時以外は手袋をしたほうがいいでしょう.