演劇書き込み寺

「貧乏な地方劇団のための演劇講座」とか「高橋くんの照明覚書」など、過去に書いたものと雑記を載せてます。

貧乏な地方劇団のための演劇講座 第4章 演出の補足

2012年04月15日 17時30分19秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

自分が大昔に書いた「演出」の方法論を読んでいて、演出術についてもう少し書いたほうがいいかなと思ったので補足してみる。
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基礎練習を応用することを考える。

ここでいう、基礎練習とはスローモーションやストップモーション、滑舌、ストレッチングなどのことだ。

スローモーションやストップモーションをうまく使うと、言葉で説明するよりも心理がうまく表現できることがある。
人が驚いたときは、「驚いた!」とは言わない。凍り付いて(ストップモーション)、体の動きがゆっくりと解凍して(スローモーション)、最後に興奮して早口になる(滑舌)。
逆に言うと、なぜこのような基礎練習をしているのかを意識しながら参加しているタイプが演出に向いているともいえる。

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音楽を先行させる

曲のイメージから、演出を決めていくやり方だ。一時期すごくはやって、うるさくて仕方がなかった。日本のテレビドラマも昔はイメージフイルムの羅列か、と思わせるドラマがあったものだ。
テレビドラマでいえばこのシーンになるとこの曲が流れて、というような使い方だが、注意がある。

曲を聞かせてはいけない。曲は盛り上げるためのものなので、聞かせてしまうと芝居が弱くなる。
曲をまるまる一曲聞かせてから、さあ台詞というあほらしい演出のドラマをここ数年何本見させられたことか。

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説明できないことは説明しなくていい

登場人物の背景や心理などを、演出家はある程度押さえておく必要はあるのだが、全部を把握できているわけではない。
むしろ、最初から説明する必要はないかもしれない。
無責任なといわれるかもしれないが、やっていくうちに分かることだってあるのだから。
いや、練習を進めるうちに分かることのほうが多いのかもしれない。
無理に説明して「昨日と違うことを言っている」といわれるよりは、自分の中に全体像が見えてきてから、じっくりと説明するのも手だと思う。

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貧乏な地方劇団のための演劇講座 第5章 演技

2012年04月15日 17時29分45秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

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 演技についてかかれた本は山ほど出ている。演劇の本イコール演技の本と言ってもいいほどだ。実は演技というのはこれで良いという物が存在しないので、一つの本に書かれているのは、その本の作者が考える演技でしかない。脚本が違えば演技も全部違ってこなければならない時もある。

 

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05-01
演技するということ

 

 アマチュア劇団で演技をするということは、日常の自分と違う人間になろうとすることだと思う。日常生活で蓄積されたストレスを発散できることが必要となる。創造の喜びとか、スタッフワークの楽しさを知るのはその先のことであって、とりあえずは祭りに参加することと同じだといってしまっても良い。

 楽しまなければ損である。

 演技を楽しむにはいくつかの方法がある。

○相手役とのアンサンブルを楽しむ。

○思い切ったメイクを楽しむ。

○まったく違う人間になって楽しむ。

○大きな声を出して楽しむ。

 こうやって並べてみると、女性がストレスを発散させる方法と似ている。男性は日常的にこういうストレス発散をしていないので、役者をやっても最初はぎこちない。内面にある女性的な部分を開放してやるのが芝居をするということなのかもしれない。

 

05-02
演技者の心得

 

 演技者はある程度のエゴを持っていないとおもしろくならないが、わがままであっていいというものではない。アマチュア劇団では次の点に注意したい。

○相手役の台詞を大切にする。

○スタッフを兼ねていることも多いので、スタッフワークもしっかりやる。

○練習にはなるべく多く参加する。都合で休むときにはあらかじめ連絡を入れる。

○チケットをたくさん売る。

 最後のチケットをたくさん売るというのは、観客が少ないと舞台が盛り上がらないため、なるべくたくさんチケットを売って客を集める必要がある。自分の客がたくさんきているといいかげんな演技もできないので、演技は向上する。この心得はスタッフにも当てはまることだが、スタッフよりも役者の方が舞台に出てじかに肌で感じられることなので、演技者の心得として挙げておいた。

 

05-03
舞台の上で

 

 本番の舞台はほとんどが役者の物である。もうそこは、演出も手をだせない。舞台に立った役者がその場その場のほとんどの責任を負っているのである。

 ライトを浴びて舞台に立つとき、全身がかーっと熱くなる。緊張と興奮でヒザが震えてくる。ライトの向こう側に客がぼんやりと見える。最初の台詞は空回りしてなかなか口から出てこない。相手役の口が目の前で動いているが、声は聞こえてこない。早く自分の台詞を言い終わって退場したい。

 これが私の舞台の上の姿だ。

 空気の流れが変わった。相手の台詞は初めてきくように私の心に響いてくる。会場にいる観客一人一人の呼吸が私の体に感じられる。私の台詞の一粒一粒が、私の口を離れて観客に飛んでいくのが見える。舞台で私は生きている。

 こんな思いをしたことが一回だけある。大学時代のことだった。その後、何度も舞台に立っているが、こんな感覚は二度とは味わえなかった。演出をしていても、こういう状態を役者が味わえるようにするにはどうしたらいいのかを、考えていた時期があった。結局のところ、そういう状態は作為的に求めても求まるものではない、という結論に達して、演出も役者が舞台を楽しめるように自由にさせる演出へと変わっていった。

 しかし、今でも自分がなぜ演劇にかかわっているのかと考えるとき、あの一瞬が忘れられないから、というのを答にしてもいいかな、と思ったりもする。

 会場の空気が変わった。時間はやけにゆっくりとし、照明は体にやさしく、相手役の台詞は心地よく体に響いてくる。そして...

 


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追記:(2011.4.23)
基礎練習や演技についてはキャラメルボックスの演出家である「成井豊のワークショップ」が参考書としてお勧めだ。とはいうものの、この本がアマチュアに向いているとは必ずしも思えない。また、キャラメルボックスの役者の演技を見ていると、プロとしてもどうなんだろうと思うこともあるが、分かりやすくよく書けている。
完全に初心者なら、かめおかゆみこの「演劇やろうよ!」は中学生とその指導者を念頭にしているがよく書けている。

演技については伊藤四郎さんが、「役者は舞台の上で何度も同じ台詞をやっているから飽きるけど、お客さんはそうじゃない。初めて観に来るんだから」と、自分の演技に飽きてあまりいじってはいけないというような意味のことをおっしゃっていた。
さらに、「役に入っているときは、相手がこういう台詞を言ったら、こう言う、というもんじゃなくて、その役の中では相手の台詞は初めて聞くわけだから、初めて聞いた感情で答えなくちゃいけない」とも。
考えれば、当たり前のことだが、意味は深い。

 


貧乏な地方劇団のための演劇講座 第6章 大道具・小道具

2012年04月15日 17時29分07秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

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 大道具(カッコ良い言葉で言うのなら、舞台美術)をうまく作るのに必要な条件は、一に情熱、二にセンス、三に広い場所であろう。残念ながら、[月虹舎]では、一もなく二もなく三もないので、過去舞台装置らしき物でうまく出来たものは、野沢達也の作った踏み切りだけである。

 また、舞台装置は作ったものを保管しておく空間も必要であり、近年の住宅事情の悪さを考えると、舞台装置を作ることはほとんど絶望的といってもいいだろう。

 しかし、舞台装置はないよりもあったほうが舞台の見栄えはよくなる。小道具もまたしかりである。大道具も、小道具も苦手な分野なのでさらっといきたい。

 

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06-01
良い舞台装置を作るには

 

 センスがよくて、情熱的でからだのよく動く人間を見つけることが第一である。最低、枠だけは自分たちで作って、仕上げを美術をやっている人間にやってもらうと、出来栄えがよくなることが多い。

 自分自身の体験では高校時代は同級生の井戸良弘に、大学時代は箕浦孝に装置は任せて自分で手を下したことはほとんどない。大枠だけは作るのに参加するが、細かいところはこういう情熱を持っていてセンスのある人間に任せたほうが絶対にいいものが出来る。特に箕浦の場合は釘を二本打つか三本打つかで下級生と喧嘩になり、剪断強度からモーメントまであらゆる専門知識で口論をかわし、果てはトンカチが空中を飛びかったという男である。こういう人間が作る階段などは思わず家へ持って帰って飾っておこうかと思うくらい出来がいい。

 


図6-1 階段の違い

 

 同じように家の壁を作ってもただ単にパネルを並べるのではなく、パネルの下部に帯を付けることで部屋のイメージを作る。

図 6-2 壁の違い


 実際の壁もたぶんこうなっているのだろう。

 しかしながら、大道具を作る情熱とセンスを持った人間が見つからなかったとしたら、残念ながら自分で作るか、大道具をあきらめるしかない。あきらめるのは最後の手段である。(我々はしょっ中あきらめていたが)では、どうすれば大道具をうまく作ることが出来るのだろう。

○本物を使う

 電話ボックスや、自動販売機、踏み切りなどなら本物を持ってきてしまう、という手がある。最近の[月虹舎]はよくこの手を使う。

○[劇づくりハンドブック]を買う

 何事も参考書が必要である。

○良い大工道具を買いそろえる。

 大工道具だけはいいものを使いたい。きれない鋸ではまがった大道具になってしまう。

○素材を検討する。

 大道具といえば、角材にベニヤという概念にとらわれないで新しい素材を検討してみる。素材のもつおもしろさだけで勝負しようという考え方である。今まで観た中では、山海塾の戸板に何百枚ものマグロの尻尾を打ち付けた生臭い舞台装置が一番変わっていて印象に強い。

○スライドプロジェクタを利用する。

 小さな原画を拡大してパネルに映し出し、大体のイメージを決めるやり方。少々お金がかかるが、写実的な背景や複雑な背景などには効果的。

(1)原画を写真に取る。カラーと白黒だとなおベター


(2)必要な大きさに拡大してみる。この時舞台のイメージもつかみやすいのであわなければここで没にする。

(3)白黒のスライドでデッサンを取る。その後カラースライドを映して色を決めていく。

図6-3 スライドを使った背景の描き方。

 

 高校の時に、井戸良弘がアンリ-ルソーの[ライオンの食事]という作品を拡大して[カチカチ山](原作:太宰治)の装置を作るのにこの方法を使っていた。欠点は、スライドを使うので金が掛かること。また、こんな面倒なことをして装置を作らなくても、最初からスライドを投影してしまえば楽でいいなどという乱暴な意見もあり、実際に使うことなどはあまりないだろう。

 以上、五つほどあげてみたが、他にもぼかしをうまく使うだの、いろいろなテクニックはあるに違いない。違いないが、あまり作ったことがないので知らないことが多いのだ、申し訳ない。

 

06-02
小道具

 

 小道具はなるべく本物に近いものを使うことにしている。大きい舞台ならともかく小さな舞台ではちゃちな小道具を使うとリアリテイがなくなる。ただ、あまりぴかぴかしたものは照明を受けると安っぽくなるので注意した方がいい。

 ちゃちだとわかっていても、安物のピストルを使うのは音が大きいためだ。音を出す必要のないときは実物大のピストルを使うことにしている。重量感があって舞台ばえもするが、値段が高いことと、音が小さいのが悲しい。

 舞台で食べるものは消え物といって、実際に食べる場合と、パントマイムで表現するのと二種類ある。[月虹舎]では食事シーンはきっちり食べる用にしている。最初から汚らしさをねらっているケースが多いからであるが、[グッバイガール]の場合は珍しく消え物を使わなかった。これは芝居全体が観客に見えない少女を見えるようにする構造となっているため、抽象的な表現でないと芝居が生きてこないと判断したからである。
 ホールのような大きな舞台では、せっかく消え物を使っても、後の客にはそれが見えないことがある。このような場合は消え物を使う意味がほとんどなくなってしまうので無理して使う必要はない。

 手に持って使う小道具は、もち道具という。ピストルなどはその良い例だ。特にもち道具は事前に衣装とあわせてみるとか、演技の練習中に使ってみるなど本番同様の扱いが必要といえる。衣装を着てみるとあわない道具が出てくる。令状を縛ってあるリボンをケーキ用のひらひらリボンにして失敗したこともある。

 なるべく本物に近い物がいいといっても、別に本物でなくてもいいものがいっぱいある。なるべく、事前にそろえて、練習の時から使ってみること、家から持ってきたり、拾ってすむものなら、借りたり拾ったりしてすます。(粗大ゴミの日に近所を歩いてください)景気がよくなると信じられないものが落ちている。特に新築のマンションの周辺が狙い目である。[月虹舎]の舞台で長年使っていた革のトランクや、ジュラルミンのトランクは拾ってきたもの。特に、アンティークな物は恥を捨てて拾おう。拾っておいてなんといっても便利なものはトランク類である。小道具として使わないときは衣装を入れておけば良い。茶箱もあると便利。昔はキャスターを付けて移動しやすくしていた。

 本物のピストル、本物の刀などが落ちていたとしても、拾わないこと。そばに死体も捨てられている可能性がある。

 

06-03
特殊効果

 

 灰皿からいきなり火花が吹き出す、座っている椅子の回りが自然に燃えだす、こういう特殊な小道具はほとんどを電気仕掛けにしている。

図6-4 灰皿から花火

 

 こういう仕掛けは仕掛けだけいくら凝ってもほとんど意味がない。脚本と深い関わりがあるからであり、次のようなト書の時にこういう仕掛けを使うのはアホである。

"ふっと気が付くと火がついていた"

 こういうふっと気が付いたり、はっとしたぐらいでは効果にならない。せっかく派手にやるのだ。意図的に使わなくては意味がない。

"奇跡を見せてやる"

"奇跡ですって"

"そうさ、ほら(と手をかかげると、火のついたマッチが手のなかにある。)"

"何よ、たったそれだけのことなの(笑い)"

"えいっ"(男がマッチを投げると、灰皿がいきなり火を吹き出す)

 というふうに、二段階ぐらいステップをふんでくれると効果的である。"奇跡"という台詞で客の注意を引き、マッチで客の視線を集める。次に投げることでいきなり灰皿から火花が吹き出す。客の注意を一度マッチに集めてから、灰皿に移すことで効果は倍増するわけだ。

 小道具を使った特殊効果はほかにも色々考えられるが、いずれも脚本と密接な関係にあり、その部分だけが浮き上がることのないようにするべきだろう。

 こういう特殊効果は客に強い印象を残すので、うまい手を考えて、何本かに一本ぐらいは使ってみてほしい。こういうチャレンジをする劇団が少ないのは淋しい。

 


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貧乏な地方劇団のための演劇講座 第7章 衣装・メイク

2012年04月15日 17時28分37秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

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 衣裳は男も女も毎日着ている。女性で化粧をしたことがないというのは珍しいだろう。ただほんの少し舞台と日常ではわけが違う。

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07-01
衣裳

 センスと技術のある衣裳スタッフが劇団内にいればこれほど強い味方はいない。別に衣裳を作る必要はない。組合せのセンスの問題なのだ。衣裳を作れれば更にそれにこしたことはない。

 衣裳スタッフが気をつけなければいけないのは靴だ。どうしても、服までで予算が終わってしまうことが多い。服なら少しぐらいのサイズの違いでもきられるし、他人の物でもあまり気にならないが、靴だけは下着と同じで、他人の履いたものは気分が悪いせいだろう、どうしても個人用の物をあつらえなくてはならなくなる。

 服がいくらすばらしくても靴を手抜きするとすべてがおじゃんになる。逆に服は少しぐらい安っぽくても、主役の役者の靴ぐらいはいいものを使いたい。

 過去に一番靴に金をかけたのは、三月劇場時代に使ったハイヒール。これは衣裳というよりも、小道具だったのだが、浅草の靴メーカーの試作品の靴を分けてもらった。10年ぐらい前で、半値に負けてもらって一万円だった記憶がある。

 特殊な衣裳は自作しなければならない。時代物の衣裳は借りてもいいが高いので、作った方がいいのかもしれない。古着屋かバザーで和服や古いコートを買ってきてばらして作ると安くあがる。こういうときは縫えないことはわかっていても男性も手伝うこと。衣裳担当者の苦労がわかるだろう。

 黒いドレスには、艶のある暗幕が意外といい素材になる。[蒼ざめた街]では、市毛恵美子が、赤いドレスの下に黒のドレスを着て、図7-1のように前後からひっぱると一瞬のうちに早変わりが出来るようにした。

図7.1 衣裳の早変わり


 歌を歌っている最中のドレスの早変わりは大好評だった。こういう遊びもたまには必要だと思う。

 衣裳の担当者は、イメージデッサンが出来た段階で照明の人間と打ち合せをしておくこと。青の衣裳に赤の照明を当てられたりしたら、せっかくの色が台無しになってしまって大変だ。

07-02
メーキャップ

 一時ノーメイクで芝居をしたことがあったが、結果は散々だった。舞台へあがってから恥ずかしくてしょうがないのだ。メイクには、それをすることで心が落ち着く効果ある。

 メイクは一般的にはドーランを使うが、最近はスティックタイプのドーランや、フェイスケーキタイプの水化粧も多く使われている。

 メイクの基本的な順番は次の通りだ。

○クレンジングクリームを塗って、それをティッシュペーパーで拭き取り顔の地肌を整える。肌のつやの良い若い女性はやる必要がない。

○基礎になる色のドーランを塗る。

○スーパーホワイトなどのパウダーを叩く。

○シャドー部分を塗る。

○パウダーで整える。

○目や口を描く。

○ライトにあててみる。

 ここで大切なのは、パウダーを忘れないことだ。パウダーを忘れると、顔が均一にならないし、ぎらぎらして見える。照明とあわせてみるのは、照明の色によってはメイクの感じが随分と違って見えるからだ。

 メイクの本は随分と出ているからそれらの本を参考にしてもらいたい。またいくつかの劇団が集まれば、三善というメイク用品のメーカーの人間を招いてメイキャップ講習会を開くことも出来る。ドーランはほとんど三善の製品なので、ドーランの裏に書いてある住所に連絡してみれば、講習会の開き方を教えてくれるはずだ。

 
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追記:(2011.04.25)
最近の舞台は衣装とか小道具に力を入れていないような気がする。
メイクは三善がかなり撤退しているので
チャコットあたりで買うか、100均で手に入れたほうが安いのかもしれない。
いずれにしても、時間があれば本番の照明とおなじ照明で
確認するのが望ましい。


貧乏な地方劇団のための演劇講座 第8章 音響

2012年04月15日 17時28分08秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

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 この20年間で一番手軽になったのが音響だろう。カセットテープレコーダーがない家を探すのが難しいくらいだ。それぐらい安くなっているのだ。20年前のテープレコーダーでステレオといえば、5万円以上したし、音質は現在の一万円のラジカセの音にもはるかに及ばなかった。レコードも高かったし、ダブルカセットなどという便利な物もなかったうえ、レンタルレコードなどという物ももちろんなく、正直言って、芝居をやるときにおいそれと音楽を使うことは出来なかった。ところが音響器材が安くなって、あっという間に芝居は音楽だらけになってしまった。

 その音楽である。[月虹舎]では、かなり初期から劇中の音楽は自作している。劇中歌はほとんどが自作といっても良い。これは著作権の問題もあるが、芝居にあった曲がなかなか見つからないことが多いためである。

追記(2011.4.27)
この文章を書いてから20年がたち、機材がいちばん変化しているのが音響かもしれない。MP3プレイヤーは1000円ぐらいからあるし、ミキサーも1万円以下で購入できる。300Wという大音響PAが数万円だったりして、機材は確実に安くなっているが、音響の本質にはなんの変化もないというのが、正直な感想だ。
文章は古いかもしれないが、言いたいことは伝わるのではないか。

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MIDIシーケンサーではこんなのも参考になるかもしれません。
でも、以前にいくつか試しましたが、なかなかうまく使いこなせませんでした。

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08-01
曲の作り方

 簡単に劇中歌の作り方を説明する。作詞はとりあえずおいておくとして、作曲には大きく分けて次の二つのやり方がある。

○譜面を書く

○楽器を使って伴奏しながら自分でうたう。

○楽器もなにもなく、自分で歌い後で譜面に起こしてもらう。

 私は譜面を読めないので、まん中の方法を取っている。楽器もギター以外は不自由なので、ギターを使っている。[山本孝和演劇事務所]の山本孝和はギターと自動伴奏付きのキーボードを使っている。

 こうやって作った曲をバンドで演奏してもらって録音すれば、あっという間に劇中歌が出来上がる、はずである。やってみるとわかるが、あれ、どこかできいたことのある曲だな、と思うような曲になってしまうことが多い。それでも何度もやっていると、だんだんと自分らしいメロデイが出来てくる。こうして苦労して作った曲も劇団員に、"あら、どっかできいたことがあるみたい"とか"歌いづらい"とか言われると、思わず"自分で作ってみろ"といいたくなる。結局劇団員にボイコットされるケースもままある。(曲付きで台本を渡して全曲不採用ということもあった)

 自分で歌って作るときはこまめにテープに取り、前の部分を消さないようにする。なぜなら、どんなメロディだったのか自分でもすぐに忘れてしまうからである。"簡単にというので説明の手を抜いたな"という人がいるかもしれないが、作曲なんてこんなものであろう。たとえば、C(ハ長調)では、CFGAmDmEm(E7)が基本コードであり、たいていの曲はこれらのコードから離れることはない。一見複雑に見えても、それは音から音へ移るための音が入っているだけのことであって、基本メロディにはあまり影響しない。どうせプロが作ったようにはうまく出来るわけではないのだ。気楽に作った方がいい。何曲か作っているうちに才能のある人はどんどんうまくなっていくだろうし、才能がなくたって、劇中歌の場合ならそこそこの出来でも聞くには耐えられるものなのだ。

08-02
ミキサー

 作った曲を録音するにも、当日の舞台にもミキサーがあったほうが便利だ。6chのミキサーがあれば同時に三つのステレオ音が流せる。曲を録音することも考えるのなら、ミキシングテープレコダーと言う便利な物もある。ABCD4つのトラックに録音した音をあっちにやったりこっちにやったりして、音の重ねあわせが出来るもの。値段も年々値下がりして、今では五~六万もあれば、購入できる。簡単な4chミキサーもついているので、ミキサーの代用にもなる。

 もちろんミキサー無しでも音響は出来る。昔はミキサーなんて使わなかった。安いミキサーでも10万円以上したし、性能も悪くて、ノイズが多かった。

 一台あるととても便利なのでいくつかの劇団で資金を出しあって買うのも手だと思う。

08-03
テープとCD

 テープレコーダーとCDとを比べてみると、CDの方が頭出しには便利。ただし、既製の曲でしか使えない。

 プロの音響屋さんは頭出しの都合上テープレコーダーはほとんどオープンリールの物を使っているが、アマチュアならカセットで十分だと思う。ただし、テープは良いものを、使う曲の本数分だけ用意すること。テープのトラブルで芝居がずっこけたことが2~3回ある。テープは46分以下の長さの物を使うこと。それ以上の長さだと、テープの巻き込みやのびを生じやすい。テープ代をけちるとろくな事がないので、五本セットとか、十本セットで信用できるメーカーの良い商品の特価品を買うといい。特売品でもいいが間違っても、韓国製や台湾製の十本六百八十円などというテープに手をださないこと。

 テープは使用前に空回ししておくこと。バージンテープで使うと録音ミスを起こすことがある。録音するときには、頭出しをした状態にしておいてポーズ解除で録音するようにすること。

図8-1 テープの使用法

 

 こうしておくと、再生の時も同じところまで指で巻いておけば一発頭出しが可能になる。

08-04
サンプリング

 短い音を出してやるとき、サンプリングマシンがあると便利。テープレコーダーだとめんどくさい操作もキーを押すだけで、各音階のその音が出てくる(例:刃と刃の打ちあう音)。最近のキーボードやシンセサイザーにはこの機能がついているのも多いので、短い音を出す必要があればキーボードを持っている人間に聞いてみるといいだろう。

 

08-05
リバーブ/ディレイその他

 リバーブとは音の広がりをだすための装置。ディレイは音を遅らせる装置(一種のサンプリングマシン)。他にエコーチェンバー、ディストーションなど名前を覚えられないくらい種類がある。カラオケでエコーと読んでいるのは実はリバーブのこと。これにもアナログデジタルとあり、デジタルはディレィの変形だとかややこしいのだが、省略して代表的な使い方だけ説明する。

 音を録音するときにリバーブをかけると音に広がりが出る。コンピューターミュージックのピアノの音などは適量のリバーブをかけてやると生ピアノそっくりの音になる。

 音や音楽を録音するときはこういう器材の使用も考慮したい。[月虹舎]では、[どぶ板を踏み抜いた天使]の中で使った[オクラホマミキサー]というフォークダンスの曲に途中からリバーブをかけて不気味な感じを出している。

08-06
コンピューターミュージック

 コンピューターの普及に伴い、コンピューターを使う人も増えている。[月虹舎]では1987年上演の[嵐を呼ぶ男]で使った曲はほとんどコンピューターに演奏させている。[ワークスユニット]というバンドに曲作りをしてもらったのだが、これが案外作るのに手間暇がかかる作業だったので、びっくりしてしまった。コンピューターもソフトも当時よりも格段に良くなっているわけで、音符の入力方法もキーボードも使えるようになっているなど改善されているので、暇な人はぜひ一度試してほしい。この原稿を書いた後、[ミュージ郎]というソフトを使って2曲作ってみたが、やはりかなり時間がかかった。
 試行錯誤も多いので時間がかかるのはしょうがないのかもしれない。ワープロと同じで作りながら完成品が出来てくるのはメリットだろう。

08-07
スピーカー

 スピーカーは本当は四台欲しい。ステージ手前と、奥からの分だ。[まるで映画のように]の何本かの舞台を演劇学校の先生という人が観にきていて、出る音によって前と後にスピーカーを使い分けた方がいいといわれたことがある。

 少し大きい会場では片チャネル100Wぐらいの出力が欲しい。あまり小さなスピーカーで大音量をだそうとすると、スピーカーを傷つけることがある。

 また会場が大きいときには役者用のモニタースピーカー(跳ね返りという)も必要となる。

08-08
うまい音響をやるためには

 音響の世界の技術の進歩が早すぎて実は私も最近の器材については知らないものが多い。幸い、音楽が好き、音楽が趣味、バンドやってますという人はどの街にもごろごろしているので、こういう人に教えてもらうのが一番手っ取りばやい。話をしているうちに、劇団に引きずり込んでしまえばしめたものである。音響は黙っていても良くなっていく。何しろ録音一つにしてもグラフイックイコライザーがあるとないとでは大違いの世界だから。おまけに使い慣れるまで、少々手間が掛かる。好きな人を利用しない手はない。


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貧乏な地方劇団のための演劇講座 第9章 照明

2012年04月15日 17時27分45秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

もう少し突っ込んだ話を書き始めました。
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 舞台照明は重要なことだと分かっていながらなかなか手を出しにくいスタッフ作業だといえる。会場に電源があればまだいいが、15Aの電源しかなかったり、必要な器材の手配もなかなか難しいかもしれない。ホールによっては素人が手を出したりすることを嫌がるところもあり、劇団員であっても照明器材に手を触れたことがないという人は多いだろう。
 それでもこの20年ぐらいの間に照明の技術には著しい進歩があり、すぐれた入門書も多く出版されている。牛丸光夫著[やさしい舞台照明入門](彩光社)はよく書けてている本で、基本的な舞台照明のことはこの本を読んでもらったほうが分かりやすいだろう。 またこの章では、ホールの照明についてはあまり触れないことにする。ホール照明については[やさしい舞台照明入門]や[初歩の舞台照明の手引き](中部舞台テレビ照明家協会発行)などを参考にしてほしい。
 照明を難しくしている理由の一つに照明の用語がある。サスペンションやシーリング、タワーやバルコニーライトとやたらに横文字が並ぶので取りつきにくいのだろう。ここではなるべくそういう言葉を使わないつもりだが、無意識のうちに出てきてしまうかもしれない。

追記(2011.4.29)
照明も機材の進歩が著しく、機材はどんどん安くなり、調光機の手作りなど無意味になってしまった。ただ、なぜ、こういう機材が必要なのかを理解しなければ、結局はいい照明にはならない。ストロボも完成品を買ったほうが安い時代になってしまった。
でも、面白くないのはなぜなんだろう?

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09-01
照明プランを立てる
 細かいことを言っていても始まらないので、照明プランの立て方からいきなり入る。プランの立て方を説明しながら器材の使用方法等について順番に説明を加えていく。
 テキストは[第3章 脚本]にも登場した[カサブランカ]、会場は初めて使う歌声喫茶[タンポポ]である。この会場の電力は15Aで、家庭電力としても小さいほうだろう。15Aというのは通常ならば小型のスポットライト三台分の電力であり(500W×3=15A×100V)この二つの芝居はとてもそんな単純な照明では不可能となる。実際にこの会場に持ち込んだのは、以下のような器材である。



調光機 2.0kW×6回路 1台
1.5kW×6回路 1台
1.0kW 2台
ボーダーライト 60W 6灯/3回路
T1型スポットライト 300W 2灯
シールドビームライト 50W 5灯
パラボラライト 100W 2灯
ランプピンスポット 300W 1灯
ストロボ - 1台



 各ライトには場面ごとに違う役割りをもたせたかったので、各ライト一つに1回路ずつをあてることにした。リストに挙げた照明を全部点けたとしても、1.6kW強である。たったこれだけの電力でOKなのは、会場が客席を含めて15m×4m程度と小さいうえに100Wや50Wの店舗のショーウインドゥ用ライトをたまたまもらうことが出来たことによる。この100Wや50Wのライトがなかったらこの企画そのものを考えなかったかもしれない。
 図9-1に企画全体の照明配置図を示す。地明かりは60Wボーダーライトを使っている。[カサブランカ]ではこの照明のうち半分ぐらいを[グッバイガール]ではこのほとんどの照明を使用している。



図9-1 基本照明配置図


 [カサブランカ]の場面設定は二つ(男が女を待っているレストラン、二人が歩く街のなか)しかない。図9-2に照明配置図を示す。

(a)男が女を待っているレストラン
(b)二人が歩く街の中
(a)のレストランは比較的明るくなるように、(b)の街の中は夜のシーンなのでブルー系の色をかけている。番号が同じようなので混乱するかもしれないが

(a)のシーンで使用するライトは
②③④⑥⑦

(b)のシーンでは次のようになる
①③④⑤⑧

(b)シーンでは男の長ゼリフの時に⑧のライトが強調される。



図9-2 [カサブランカ]照明配置図

 

 シーンの切り換えは比較的早いフェードアウト(暗転)でつなぐ。
とこういうふうに文章で書いてもほとんどよく分からないので、一般的には表9-1のようなQシート(きっかけ一覧表)を作成する。Qシートを作ってみるとこの短い芝居で、これだけ簡単な照明器材でも11も照明のきっかけが必要だということが分かる。もっとも、会場が大きくなったからといって、実際のきっかけの数は変わりはしないのだが。
表9-1 カサブランカQシート


 舞台照明を何回かやったことがあれば、配置図(仕込み図とも言う)とQシートと台本、それと線番表(もしくは差し込み表、今回の場合はQシートの①から⑧までの部分にどのフェーダーにどのライトが入るのか記入してある)があればかなりの線まで実際の舞台のイメージがつかめるのだが、慣れないうちは何が何だかさっぱり分からないに違いない。
 これらの二本の舞台はビデオテープが残っている。実際の舞台の照明は少し違っているのだが、ビデオを観ながら読んでもらうと分かりやすいかもしれない。
 さて、この照明の欠点について考えてみることにする。

○前明かりだけで横からの照明がない。同様に後ろからの照明もない。


図9-3[グッバイガール]照明基本図



図9-4 ライトの位置と影の現われ方との関係


 △図のように、照明というものは一方からだけ当ててしまうと、人物や装置がのっぺりとして平面的に見えてしまうという問題が起きる。これを避けるため、横からのライト(ステージスポット、略してSS)や、上からのスポット(サスペンションスポットライト、略してSus)を使うことによって立体感を出す必要がある。この会場は天井が低かったので役者の上にスポットをつるわけにもいかず、幅がないのでステージスポットを使うこともままならなかった。

○いずれにしても1.3kWの照明では暗い。
 全体でスポット2台分にしかならない照明では暗すぎる。

○特殊なライトが多いので一般的ではない。
 全体の電力が小さいので、特殊なライトを多用している。このために、一般的な話にならず、この講座本来の目的から外れてしまった。ちなみにボーダーをのぞいて全部を500Wのスポットに置き換えるとそれだけで50Aの電力が必要となる。もっとも、これぐらいの電力ならちょっとした場所ならなんとかなるかもしれない。
 フアッションビルのスタジオ(水戸だとサントピアのサウスコア、静岡だとアピタ地下イベントホール)の電源だと200Aぐらいは使える。ただし、丸ごと全部使って200Aである。客電や音響などのほかの電力を考えると、とてもそこまでは使えない。



09-02
調光機を用意する


 照明の灯体を明るくしたり、暗くしたりするためにはスイッチでばちばち点けたり消したりするのと、調光機を通して明るさをコントロールする方法の二種類がある。
 スイッチによる方法は明るさのコントロールが出来ないので最近の芝居ではまったくといっていいほど使われていない。
 調光機にもいくつかの種類があって大きく次の二つに分けることができる。

○電圧をコントロールするもの
例  スライダックトランス等

○電流をコントロールするもの
例  サイリスタ、トライアックを使ったもの

 電圧をコントロールするものは、トランスを使って電圧を上げたり下げたりするものであり、最近ではこの形で照明をコントロールしているところは少なくなってしまった。理由は電流量が大きくなるとトランスが大きくなること、低電圧で使用しょうとすると発熱量が大きくなり、接触する電極のカーボンが燃えだすなどの事故が起きやすいためである。
 最近ではトライアックというスイッチング素子が小型で安くなったため、ほとんどの調光機がトライアックを利用した電流制御方式を採用している。このタイプの調光機は大きく分けると更に次のようになる。

○メーカーが作って売っているもの
 コンピューター内装の物から、2シーン以上を組み込めるもの、マスターフェーダーがついているものまでさまざまなものが出ている。最低の物でマスターフェーダー付きで6回路25万円ぐらいで買える。テレビの歌番組みたいな照明をやろうとすると最低でも24チャンネルぐらいのコンピューター内装の調光機が必要。値段は知らないが200万円ぐらい出せば買えるのではなかろうか。

○市販の壁組み込み型の調光機の組み合わせ
 最近はこの手の調光機が以前の半額以下になり、1kWでも5000円ぐらいで買える。これを通風の良い箱に組み込んで使う。[月虹舎]では川津重夫が作ったものがあり、テント公演などではこれがもっぱら使われている。



図 9-5 川津君の作った調光機


 この方式の欠点としては、フェーダーが小さいこととヒステリシスが発生しやすいことが挙げられる。ヒステリシスというのは、フェーダーを上げたときと下げたときで明るくなるスピードや暗くなるスピードが違ってしまうという現象で、これがあるとフェーダーのポジションを決めにくいうえに、ゆっくり暗転するつもりだったのに急激に暗転してしまうという失敗を起こしやすい。

○自作
 マスターフェーダー付きは素人では製作に無理がある。簡単なものならキットが数社から出ているので、キットを利用するといい。[月虹舎]では秋月電気通商のトライアックキットを利用している。
 照明機材を自作するときの注意として、必ず次のものを作りこんでおくようにしたい。

・放熱板
・ファン(出来れば)
・直結と調光の切り換えスイッチ
・ヒューズ
・ボリュームはスライドボリュームに
・ケース

 これらは、キットとは別に材料を買ってこなくては作れないものばかりなので、結局必要になる費用はキット本体の値段の数倍に跳ね上がる。6回路用の部品は大体2~4万円で手に入る。このうち入手の困難なのは受電端子とスライドボリューム。スライドボリュームは最低50kΩ、出来れば1MオームのB型、35mm以上のストロークの物が必要だが、売っているのは10kΩがほとんど。このため、スライドボリューム式の調光機を作ろうとするのなら、まず、最初にスライドボリュームを手に入れる必要がある。値段が高くてもいいのなら、丸茂電機など調光機を昔から作っているメーカーから購入するといい品物が手に入る。
 調光機の回路図の例は巻末資料に示しておく。
 製作するときには電気の知識がある人間が作ること。20A用のトライアックに20Aの電流を流すとトライアックはまず壊れる。また、内部の配線材料が15Aまでしか使えない線を使ってあれば、20Aは流せないことを知らないととても危険だ。
 [月虹舎]では現在まで4台の調光機を作っている。第一号機は一万円で[アクアク]に売却された(かなりひどい出来だったので心苦しく思っている)。この資金を元手に二号機三号機を製作した。二号機は火事で消失。三号機は現在あまり使われていない。四号機は最近作ったものだが、自分でなにかやる時用にと静岡に引き上げてある。
 演劇をやるのに調光機は必ずしも必要ではない。会場にある場合も多いし、他の劇団から借用するのも一つの手である。しかし、後何回路かあればいいな思う時が結構あるものだ。手元に一台、6回路ぐらいの小型の物と、2回路ぐらいの物があれば便利だろう。調光回路、一回路あたりの容量は20Aぐらいが使いやすい。



09-03
自作できる照明器具


 原則を言えば、自分で照明器具を作っても効率が悪くてほとんど使いものにならない。また、安全面についても放熱処理がうまくなされていなかったりして、問題がある。

 例外的に自作して楽しめる照明としてはストロボがあるだろう。
 自作とは言ったが、実はストロボはキットがあって安く売っている(*00)。注意することは、売っているのは裸のままなので、ほかに自分でケースなどを用意しなければならない。また、ストロボで使う電圧は数万kVにもなるので、取り扱いには十分注意すること。電気に弱い人は死ぬこともある。
 最も安全な方法としては、タミヤ模型から出ているストロボキット(2500円ぐらい。キットといっても実は立派な完成品)を懐中電灯の中に仕込んで使うなどの方法が考えられるだろう。



ストロボキットの使い方
(原稿紛失のため転載不可)


 ストロボは、瞬発性をもつため電力の割りには結構楽しめる。[グッバイガール]では雷の光を表現するのにこのストロボキットを使った。こういう使い方をするときは、ACアダプターを使えるようにしておくと便利だ。元電源を入れるだけでストロボが発光してくれる。

 このほかにも、空缶を利用したフットライトなど作ろうと思えば作れるものも多いが、結局買うか、借りたほうが安くつくような気がする。



09-04
どうすれば照明が分かるようになるのか


 本来照明というのは比較的簡単で、4~5回経験すれば、たいていの人が簡単なプランぐらい立てられるようになる。いや、一回も経験がなくても本さえ読めれば、簡単なプランなんかすぐ出来る。ただし、照明器材にいつでも触ることの出来る環境にいればの話だが。
 一番難しいのは、照明の仕込みというのは時間の制約が大きいことにある。会場へ入れるのは当日しかなくて、当日の会場での舞台を想像して、仕込み図を書くのだが、思いがけない計算違いがあるのはしばしばだ。
 良い方法は実際の会場を利用した照明講座を開くことだろう。市民演劇祭のように一つの会場を何団体も利用するような時、まず全劇団の照明係を集めて、講習会を開き、全劇団の日程が終了したところで、反省会を兼ねて講習会を開くのが遠回りのようで一番の近道だと思う。



09-05
照明をうまく見せるコツ


 "照明がいい舞台でした"といわれるのは、照明係にとってうれしい言葉ではない。それは照明だけが浮いた舞台という意味にも取れるからだ。逆に"照明がひどい舞台でした"といわれても困る。私なりの照明をうまく見せるコツをいくつか書く。

○舞台を見せる時と照明を見せる時を分ける。
 役者の台詞が入っているときは基本照明とし、入退場のような時にきめわざを入れる

○全部をうまくやろうとしない。
 数が少ないからきめわざなので、欲張らない。

○思いがけない位置から光を出す。
 手が光る。窓ガラスに書いた文字が光る。など、もっと単純に窓ガラスの向こう側が光っているだけでも感動的なシーンを作ることも可能。

○単純な発想でプランを立てる。
 今まで一番感動したのは、通過する列車の窓の光を舞台で観たとき。後でどうやったのかを聞いたら、スポットライトの前で二枚の段ボールを交互に振っていただけだとのことだった。仕掛けは単純に超したことはない。
 以上思いつくままに書いてみた。



09-06
照明係はこんなことを言われると困る


 照明の仕事は演出との二人三脚。だからといって、こういうことを言う演出に出会うと困ってしまう。

○予算を無視した要求をする。
 会場の電力は30Aしかないのに、明るい照明をやれという演出家。やってやれないことはないが、スポットライトがいっぱい必要。舞台面を何面も設定してくれる演出家も困りもの。照明の数がやたらと増えていく。

○全編不気味な感じにしてくれとか、特殊な照明にしろという。
 たまにやるから異常なので、いつもやったら普通になってしまう。赤や青をかけると、のっけはショッキングだろうが、客はすぐに慣れてしまう。

○やたらスモークをかけたがる
 スモーク用にはスモーク用の照明があるので、これもあまり使いたくない。

○テレビみたいな照明にしろという
 テレビの最近の流行はバリライト(ライトがやたらと動くやつ)だ。一回セットするだけで40万円が、最低の料金。照明で使える予算が100万円以上ある時には使用を考えてもいいが。

○芝居の最中に照明に指示を出す
 照明の人間を馬鹿にしているとしか思えない。
 ほとんどの場合、照明をよく知らない演出家ほどこういうことをする。
 そう言えば、照明というのはタダだと思っている人がいる。照明は消耗品であり、100~200時間使ったら球は切れるものと思って間違いない。球一つの値段は2000円から3万円。スモークと一緒に使う、ITOやACの電球は1~2万円と思えばいいだろう。こういうライトを80台とか100台とか使うとなれば、それなりのお金がかかる。ITOで1000~3000円/1台日の借り賃がかかると思えば間違いがない。



 *00
 ストロボキットは下記の店で売っています。


株式会社小澤電気商会

電話
03-3253-4401
ファクス
03-3253-8535
アクセス
JR秋葉原駅下車
ニュー秋葉原センター内

 

 日曜日は営業していないようなので注意が必要です。実はきょう、キットを買おうと思って行ってみたら売り切れでした。来週には用意しておくと言ってくれましたが、そんなにたびたびは行けません。あらかじめ電話で連絡して入荷しておいてもらってから出かけるようにした方がよさそうです。

 


貧乏な地方劇団のための演劇講座 第10章 宣伝

2012年04月15日 17時26分43秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

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 地方のアマチュア劇団の予算では華々しい宣伝をすることは不可能に近い。少ない予算で効率的な宣伝をするにはどうしたらいいのだろうか。方法としては、地味に売り歩く、マスコミを利用する、の2つが主なやり方だろう。

追記:2011.5.4
当時はインターネットなんかなかった時代だ。今は、どれだけ魅力的なホームページを作れるかが勝負かもしれない。

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10-01
マスコミを利用する

 マスコミを利用するのはきわめて効果的な方法といえる。新聞、ラジオ、ミニコミ、プレイガイドなどは小さなスペースにのっただけでも、結構多くの人が読んだり聞いたりしているものなのだ。マスコミを利用しない手はない。

新聞の利用法

 新聞の地方欄にはかならず今週の[催し物]というコーナーがある。ここへは、こまめに情報を送ろう。ただし、ここへ情報を送るのは最後の作業。
 新聞社相手には、もっとしたたかに行動する必要がある。公演の一ヵ月前に各新聞社あてに公演の案内を送る。この時直接新聞社回りをするともっと効果的だ。新聞社へ送る資料は以下の物をそろえれば完璧だろう。

・チラシ
・芝居のあらすじ 今回の芝居の目的
・劇団の経歴、構成メンバーの紹介
・劇団のPR(劇団の方向性などアピールする点)
・練習日程
・練習風景の写真または過去の公演の写真
・代表者または情宣担当者の連絡先
・招待券

 実は自分たちでもここまでそろえたことはまずない。ここまで手間をかけるには、情報宣伝専門のスタッフが必要になる。たいがいは、チラシをもっていって、取材にきてくださいという程度になってしまうことが多い。本当は①から⑧までそろえるべきだろう。
 新聞社は電話帳で調べてとにかく新聞と名のつくところには全部連絡すること。宝くじは買わなければあたらない、という原則はここでも当てはまる。特に周に一回程度入ってくる地方版の新聞PR紙は本紙よりも取っておく人が多いので、本紙よりも宣伝効果を期待できることがある。
 今週の[催し物コーナー]へは3週間前と2週間前の2回送ること。ここへはチラシと劇団紹介文程度でOK。1回だけだと、欄がいっぱいの時は没になることがある。2回送って没になったらあきらめること。

ミニコミの利用法

 送る資料は、新聞社と同じだが、取材にちゃんと対応できるようにしておけば、座談会形式やインタビュー形式のしっかりした記事にしてくれる。時には2~3の劇団が集まってで座談会形式のPRをさせてもらうことも考える。

就職情報誌など

 写真を少し多めにする。高級な雑誌はカラー印刷している。クライアントに見本刷りを見せる都合もあるので、締切が早いから、なるべく早く回る。これはミニコミも同じ、公演が決まったらなるべく早く連絡をしよう。

ラジオ/テレビの利用法

○ラジオは投書するしかない。へたなテツポも数うちゃあたる。ただし、平日の昼間の番組のリスナーは客になりそうもない。

○テレビでニュースとして取り上げてもらう。ドキュメンタリーとして取り上げてもらう、など色々考えられるが、地方劇団が芝居をやるぐらいのことではニュースにならない。それよりは、[欽ちゃんの仮装大賞]に出ることを考えるほうが手っ取りばやいかもしれない。仙台の[IQ150]という劇団はこの時の賞金を元手に稽古場を借りたとのこと。当然、観客動員ものびただろう。

10-02
情報誌を作る

 あなたの街に劇団が5つ以上あるのならば、自分たちの情報誌を作ることを考えるといい。映画を観る会で、自分たちの上映会の宣伝のために情報誌を発行しているところは全国にいっぱいある。劇団も、自前の情報誌を発行して、評論やファンの声などを載せると、楽しいのではあるまいか。
 もちろん、情報誌を作るとなるとそれはそれでいろんな問題が生じる。

○資金をどうするか
 一回に1~2万円あれば、簡単なものなら出せるはずだが。

○誰が書き、誰が出すのか
 演劇をやる目的で集まった劇団員。出版という作業にはむいていないかもしれない。いつどこで、どの劇団がやる、という情報だけでは情報誌はつまらなくなる。良い評論や、記事が必要となる。こういう記事は誰が書くのだろう。

○どういうルートで配布するか
 公民館に置いてもらう。DMで送付する。方法は色々考えられるけれども、配布する手間が馬鹿にならない。かといって、手抜きをして読んでもらえなければ効果はない。

 現在でも各劇団単位で、こうした情報は出しているはずだが、これをもう少し効率的にする方法はないのだろうか。

10-03
地味に売り歩くとは

 地味に売り歩くといっても、一軒一軒歩き回って、チケットを買ってくれというわけではない。昔、公演前に各家々に投げビラをしたり、街頭宣伝車で、街を流していた水戸の某劇団があるが、公演前日は出来ればこういうことでばたばたしたくない。といいつつも、自分たちも公演前日と当日に駅前や大学前でビラまきをしたことがある。
 地味に売り歩く宣伝行為はポスター、ビラ、DM(ダイレクトメール)の3つだろう。

○ポスター
 ポスターははっきりいって、あまり効果を期待しない方がいい。100枚のポスターを貼って、2~3人の客が増えるだけかもしれない。しかし、ポスターもない芝居はつまらない。ポスターは何より、記念品としての価値が第一だろう。
 今でこそ、ビデオや録音も気楽に利用できるようになったが、こうした器材が出回る前は記録といえば、写真、記念といえば、ポスターぐらいしかなかったのだ。
 さて、ポスターだがサイズはA3~B3程度とする。A2となれば映画のポスターサイズだが残念ながら大きすぎてなかなか貼ってもらえる場所がない。昔はこのポスターをはらせてもらう行為そのものが演劇をやる側と観てもらう側との最初コミュニケーションだったような気がする。
 ポスター貼りにいく時は次の道具をもっていくのを忘れずに。

・ガムテープ
・画鋲
・セロテープ
・カッター
・チケット
・ビラ
・伝票
・ハンコ
・封筒

 伝票は、チケットをあずかってもらえたときに使う。納品書を切っておくと自分が回収にいけないときにも誰かに代わりに持っていかせることができる。領収書にも納品書にもなる仕切り書のタイプが便利。ハンコは領収書に押すもの。封筒はチケットを入れたりするのに使う。
 つい近頃まで、[月虹舎]ではポスター貼りとテント張りという2つの作業をさぼると後々までなんやかやと言われたものだ。平日は忙しいので、ポスター貼りは日曜日に一気にやって、一日で町中を[月虹舎]の芝居をやるんだという感じであふれさせたい。こう考えていたので、市内をブロックに分けて劇団員総出で貼って歩いた。こういうときは、なるべく多人数が必要となる。用事があるときはしようがないとしても、出来るだけさぼらないで作業したいものだ。
 しかし、出来の良いポスターは信じられないほど集客能力がある。ポスターの力を馬鹿にしてはいけない。

○ビラ
 ビラはなるべく作った方がいい。ポスターを作らないときはビラに力を入れるのも良い。最近の[月虹舎]ではポスターよりもビラにウェイトがかかっている。ただしポスターをそのまま縮小するときはバランスを考えて縮小すること。字の大きさなど縮小すると結構気に掛かるもの。出来れば別のデザインを用意したい。
 ビラを置く場所は、公民館、映画館、喫茶店など。喫茶店に置かせてもらうビラは下図のようにするといい。

図10-1 ビラの処理

 街頭でのビラ配りはあまり効果がない。しかし、客足の伸びないときは何でもやってみることが必要だ。コンサート会場の前で、[せめてこの半分でも客が入ってくれればいいのに]と呟きながら、寒空の下でビラまきをしていると、フツフツと闘志が湧いてきたりする。なお、他人のイベントでビラまきをさせてもらうのには、あらかじめ主催者に断ること。時には、ビラを折り込ませてくれたりもする。
○DM(ダイレクトメール)
 はがきでも十分。ただし、分かりやすく、作ること。読んだだけで、いってみようかなと思うようなものが出来れば満点。
 DM(ダイレクトメール)の欠点は一度来場した客にしか出せないこと。つまり、新しい客を増やす努力を常にした上で、効果を持ち続けるという手段なのだ。ダイレクトメールだけで2~300人集める劇団もあるので、経済効率から言うと比較的効率の良い方法といえる。
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貧乏な地方劇団のための演劇講座 第11章 会場設営

2012年04月15日 17時26分12秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

 この所の[月虹舎]はテント公演か、芸術館のACM劇場のどちらかだから、会場設営に苦労することなどはあまりなくなった。[三月劇場]の頃は、あちらこちらの喫茶店を点々としたり大学の教室でやったりしていたので、会場設営にはかなり苦労していた。喫茶店で、夕方5時からなら貸してくれるというので、5時から入って7時開演というハードスケジュールをこなしたことも何度かある。
 今ではこういうアホなことをやる劇団も、貸してくれる喫茶店もなくなってしまっただろうから、あまり書いても参考にならないかもしれないが、一つの記録としてそのことにも触れておこう。

11-01
喫茶店

 喫茶店でやるのはなかなか大変だ。

○何時から貸してもらえるのか
 一番きびしかったのが夕方5時からというもの。開場までに、1時間半しかない。この短時間内で、中の椅子を全部ワゴン車に載せて、照明を吊り、暗幕を張り、音響をセットして、メイキャップをして、本番となる。
 たいがい15分遅れぐらいとなってしまったものだ。
 喫茶店を1日借りると、最低では3~4万円払わなければならないが、このぐらいの時間だと当時7千円~1万円で借りられた。

○照明は吊れるのか。電源はあるのか
 照明は天井のボードにヒートンで固定した。これが許されないときには、スタンドを用意するしかない。

○控え室は取れるのか
 役者が隠れる場所がなければしょうがない。なければ暗幕や衝立てで袖を作る。

○出入口の開閉で外の明かりが入ってこないのか
 案外これを忘れることがある。客が出入りするたびに外からの明かりが舞台に入ってくるのではやりずらくてしょうがない。

 喫茶店は演劇用に作られているわけではないので、とてもやりづらいのだが、どことなく魅力があって私は好きだ。1~2人の小さい芝居ならば今でも試みていいのではあるまいか。とにかく、舞台を広く使おうとすると、内部の椅子やテーブルをどこかに運ばなくてはならない。この作業が実は大変なのだ。これさえクリヤーしてしまえば、ドリンクを楽しみながらゆったりと芝居を楽しむことが出来る。[カサブランカ]や[グッバイガール]などの[まるで映画のように]というシリーズでは、夜7時半という遅い時間に開演して、仕事帰りの人もゆっくりと芝居を楽しんでもらおうという企画だったが、ちょっと時代が早すぎたようだ。

11-02
教室/公民館

 教室でも公民館でも暗くならない会場で昼間公演しなければならないことほどつらいものはない。常磐大学の大学祭に招待された時に[三月劇場]が使った教室がそういう3面ガラス張りの会場だった。暗幕を貼るためのカーテンレールもなく、床、壁、天井とも傷を付けることは一切まかりならんというお達しだったので、頭を抱えてしまった。
 暗幕を貼れない会場。あるいは貼れても下から光の洩れてくる会場はビニールマルチを貼る。ビニールマルチはマイホームセンターで売っている農業用の黒いビニールのこと。1本3000円ぐらいで売っているので、これを2枚重ねで貼ると、ほとんど太陽光線を通さない。軽量なのでセロテープによる固定でも上演時間内に落ちてくることはない。
 照明は会場のなかにパイプを立てて、もうひとつ小さな箱を作って、それに固定した。また、その箱の3面に暗幕を張り、背景とした。

図11-1 教室での会場設営の例


11-03
テント

 [月虹舎]といえば何と言っても千波湖に翻るテントだが、実はあのテントは芝居用の特注品である。普通のアマチュアではもう少し違ったテントを組み立てることが多いようだ。たとえば、最近、静岡の劇団が駿府公園のなかに張ったテント劇場はイントレを組み合わせたもので、10人がかりで骨組みを作るのに丸一日かかり、幕を張るのに丸一日かかり、装置で三日、照明で二日、とほぼ一週間丸潰れとなってしまった。

 

図11-2 テント構造図

 

 [月虹舎]のテントは直径約10mなので、静岡の劇団の方が倍以上大きい構造になっている。照明も吊りやすいし、舞台もかなり広く使える。天井も高いので広々と見える。
 しかし、こういう機動力のない劇場をテント劇場と呼ぶのはふさわしいのだろうか。単なる巨大仮設劇場のような気がする。
 [月虹舎]のテントの場合、テントを張る作業は次のよう手順で進めていく。


○丸く広げる

○4点ぐらいに足をつけ、(この足が多いとみばはよくできるが、建てるのが大変)

○突撃隊がテントのなかに入る

○真ん中の脚を立てるのと同時に4本の脚を立て、ロープでひっぱり仮固定する。

○足を付け加えながらロープを調整して形を整える

 以上が一番人数のいらない、[月虹舎]のテントの建て方である。

 自分たちではやったことがないが、イントレを使う方法がある。回りの枠をイントレで組みたて、屋根部分はイントレ間にパイプを渡して、その上に屋根枠を組んでやるもの。手慣れていれば2~3人で一日で組み上がるうえ、照明も吊り込みやすいだろう。現物を私は観ていないが、筑波で安部田保彦がこの方法でテントを張っている。
 イントレは角でテントは丸なのでどう処理したのかは不明だが、ロープを引っ張る必要がないことと、中央に邪魔な支柱がないというメリットがある。
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貧乏な地方劇団のための演劇講座 第12章 記録

2012年04月15日 17時25分38秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

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 劇団を運営していく上で忘れがちになるのが記録である。劇を上演することが忙しくて、記録などついないがしろになってしまう。別に記録などなくても誰も困らないが長い間演劇をやっているとつい過去をふりかえることも多くなる。その時に記録があるとみんなで楽しむことが出来る。
 では記録とはどういう物があればいいのだろう。

○ビデオ
○ポスター、チケット、ビラ
○舞台写真
○会計簿
○アンケート

 ビデオは後々まで楽しめるという点では一番である。芝居は消え物だという人がいるが、これほどどういう舞台だったのかが分かるものはほかにはない。ビデオも年々高性能になって、ハイテクの良さを実感させられる。
 記録などといいだすこと自体、自分が年を取った証拠なのだろう。若い頃は記録なんて考えもしなかった。それでも学生時代の作品でもポスターの残っていない作品などは、ほとんどまったく中身を忘れているが、ポスターが残っている作品ほど記憶が鮮明なのは不思議なものだ。火事でポスターもほとんどが焼けてしまったので、今はもう昔の芝居を思い返すものは台本ぐらいしか残っていない。
自分の書いた作品でも再演されることはそうそうあるものではない。作品を忙しく書いている頃は、過去など振り返りもしなかった。この所、あまり作品も書かずに、劇から遠ざかっており、夜中にぼうっと過去の作品のビデオを観ることがある。自分の現場をもたない今の生活に、大きな不満があるわけではなく、毎日家出のんびりできる生活は楽でもあるのだが、少しだけ淋しい。
 記録を本当に必要とするのは、生活が忙しくなって芝居をやる暇もなくなってしまった人たちではなかろうか。あなたはそうならないかもしれない。でも、明日の自分は誰にも分からない。誰かがそっと記録を取っておいてくれるときっといつかは誰かの役に立つに違いない。

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貧乏な地方劇団のための演劇講座 第13章 基礎練習

2012年04月15日 17時25分05秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

貧乏な地方劇団のための演劇講座もこれでおしまいだ。最後に基礎練習を持ってきたのは、最初に原稿を書いたときに、書き忘れていたからだと思う。
昔のことなので、正確には記憶していない。今、高校生に指導するときにはストップモーションとか、スローモーションの練習を多く取り入れるようにしている。
最後に書いている「大声を出すのが発声、早く喋るのが発音と考えている人がいるがこれも間違っている。 楽に声を出せるようにするのが発声、正しく喋るようにするのが発音」というのは、今も正しいと思っている。最近の劇団や高校生の公演を観ているとまだ勘違いしているなと思うことがしばしばある。
指導している先生たちからして「発声ができていない」とよく講評のときに言うが、ほとんどは「音は聞こえているけれど、台詞として聞こえてこない」だけなのだ。
そういう視点で、ほかの劇団の芝居を観て欲しい。そして自分たちの芝居に応用してください(2011.05.07追記)。

さらに追記:いろいろな本を読むと発音の練習には「外郎売(ういろううり)」がいいと書いてある。というわけで、数年前から試しているが明確な効果が上がっているかどうかは不明だ。なぜかというと、大声を出す練習のほうがいかにも練習をやったという感じがするらしく、「外郎売」はあまり人気がないため熱心に練習しないから効果が上がらない、というのが理由のひとつだ。もうひとつは正確に読む練習が必要なのに、ただいたずらに早く読んでしまうためだ。「なぜこの練習が必要なのだろう」という意識がないせいとせっかくやる練習も意味はない。
これらの点をきちんと説明しても、いまだに自分自身が参加しないときの練習は十年一日のごとく大声を出す練習をやっている。まあ、声を出さないよりは出したほうがいいのだが(2011.05.08追記)。

以下が最終章の本文となる。
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 基礎訓練が大切なことは演劇をやっている人たちはみんなよく知っている。特に高校演劇の伝統校出身の役者がいたりすると、基礎訓練が大好きだったりする。
 しかし、社会生活をしていて、練習は夜の2~3時間しか取れないのに、それだけ基礎訓練をすることはメリットがあるのだろうか。また、基礎訓練はメチャクチャプロ並みなのに、芝居本番ではその基礎訓練はどこへ行ってしまったのでしょう、という劇団も多く見かける。では、基礎訓練というものはどれだけやればいいのだろう。
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13-01
発声練習


 発声練習の目的を知っているだろうか。発声練習の目的は喉の緊張を取り、自分自身がどういう楽器なのかを認識することにある。色々な練習法の本を読み、難しい部分を全部省略するとこういうことになる。特に、昔は大劇場での公演が多く音響も悪かったので、こういう練習が必要だったのだろう。
 発声の中で最も芸術的とされているものに、オペラのベルカントという発声法があるがベルカントは特殊な発声法であって、演劇に向いているとは思えない。
 発声練習には色々な方法があるが一番簡単な例をあげる。

○鼻で息を吸い、ゆっくり口から吐く。この時なるべく腹式呼吸にする。ただし、女性は無理に腹式呼吸を身につけるとホルモンバランスを崩し、色気がなくなる場合もあるので、肩が上下しない程度に胸と腹同時に吸う。

○同じく息を吸い、2拍に区切って吸う。これを3拍、4拍、7拍、10拍というように増やしていく。息は全部吐ききること。

○[ムー]という音を、歯の間から出す。この時、口のなかのあちらこちらに音をぶつけてみたり、体を色々動かしてみたりする。最終的には、両足を肩幅に広げ、ゆったりとした姿勢で音を出してみる。

○同じく[ムー]という音をだしながら、ゆっくりと口を開ける。この時自然と[あー]という音になってくる。 これが、その人の持っている基本の[あ]の音である。これをなるべく長く出す。2度目は少し強く出すようにする。

 以上の練習はリラックスした状態で音を出す練習なので、時間があったらテンションをかけた状態での発声練習もやってみよう。

○両手を水平にのばし、両足を肩より少し広く取り、腰を真っすぐ椅子に座るようにゆっくりと(30秒ぐらいかけてゆっくりと、)腰を落としながら声を出す。また、逆に座った姿勢から声をだしながら立つ。
 早い話がゆっくりとヒンズースクワットをやりながら声を出すわけです。

13-02
発音練習

 有名なのは、[あえいおうあお]~[うぁうぇうぃうぉううぁうぉ]という50音を発声する奴とか、早口言葉とか。しかし、本当はこの練習の目的は自分はどの音がうまくいかないのかを知るための物であり、歯の形や顔の形によって、出ない音もあるので、単に音がうまく出ないからといって、ああしろ、こうしろと騒ぐための物ではない。場合によっては[赤い鼻のトナカイ]であることの方が重要な場合もあるのだ。

○ゆっくりと一音づつ、[あえいおうあお]と言ってみる。これを[うぁうぇうぃうぉううぁうぉ]までやる。
○少し早くやる。この時、呼吸が腹式呼吸になっているかどうかを注意する。

○お互いにどの音がうまく出ていないのかを注意する。

○音がうまく出ていない場合は原因を探る。
 この練習をやることで顎の形が変わってくることもある。女優がきれいに見えるのは顎の線がきれいだということも原因となっている。もし、ある音がうまく出ないとしたら、ストレッチング体操をした後にもう一度やってみる。筋肉の疲れというケースも考えられる。

13-03
肉体訓練

 腹筋力だけは鍛えておきたい。疲れが出てくるとまず、腹筋が体を支えきれなくなる。腹筋を鍛えるのは色々な方法があるが、下のは一例。

○ゆっくりと足をあげる。(30゜ぐらい)

○15秒そのままにする。この時ゆっくり息を吐く。

○息を吐きおわったら足をすとんと落とす。

 このほかストレッチングが体の緊張を取るのには有効。

 以上で約15分ぐらいかかるはず。一回2時間の練習だとしたら、これぐらいで切り上げて台本の練習に入らないと練習時間がなくなってしまう。
 プロになろうとしている人は[俳優の発声訓練](富田浩太郎著、未来社刊)や[実験演劇論](グロトフスキ著、テアトロ刊)他、たくさんの発声訓練の本が出ているので、これらを読むなり、演劇学校へ通うなりしてほしい。
 ストレッチングや、肉体訓練の本も色々出ているが日本の演劇ではほとんどの場合、野口体操の流れとなっている。(劇団四季はどうも違うシステムを取り入れているようだが)ところが、この肉体訓練についてだけは、本を読んでもよく分からないものだ。なぜなら野口さんがイメージという点を強調しすぎたために(このイメージ性ゆえに野口体操が広まったといえるが)具体的なポイントについて書いてある本が少ない。野口体操と少し違うが[子供操体法](武田忠 著 農文協 刊)がこの手の本の中では写真入りで分かりやすい。
 さて、[月虹舎]では今までほとんど基礎訓練をやつたことがない。理由の第一に教えるほうも基礎訓練のレッスンを受けたことがないので、まともに教えられない。第二に基礎訓練をやろうといっても人が集まらない。第三にかったるい。本当は基礎訓練は役者が日常的に行なっているもので、稽古場まできてやるもんじゃない、という意識もある。
 間違った練習や、目的のはっきりしない練習は舞台を作る上での障害になるだけだ。特に次の3点は守りたい。

○発声練習は音を有機的に出すことが出来るようにくふうすること。モノローグと朗読と会話では発音や発声の仕方が違う。

○発声練習では呼吸の練習を主体にする。

○実際の舞台で活きる練習をする。

 特に最後は時間がないときに大切である。公演がないときだったら基礎訓練を一時間かけても二時間かけてもいいが、公演半月前になっても練習前に一時間の基礎訓練というのでは時間のないアマチュア劇団の場合自滅行為と考えていいだろう。

 ところで、大声を出すのが発声、早く喋るのが発音と考えている人がいるがこれも間違っている。
 楽に声を出せるようにするのが発声、正しく喋るようにするのが発音。だから、台詞は楽な声で正しく喋ることから始めること。やっているうちにだんだんと早くなってくるはず。その時に変な間が出来るようだったら、呼吸法に問題がある。早く喋るためには、素早く音もなく息を吸い、コントロールして吐き出す必要がある。
 台詞が早くなってくればくるほど、間があくという舞台がある。近頃の[月虹舎]の舞台もこういう傾向が観られる。こういうときは、呼吸法を無理していないか、喉を無理していないかをチエックしてみるといい。原因がかならずあるはずだ。

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