一人暮らしのH婦人にとって、彼女は60年来の仲の良いいい意味の喧嘩友だちだった。
25日に亡くなる10日ほど前の夜中に「あんたの誕生日をしよう」と電話があったそうである。
「何言うてんの、まだまだ早いやない」 婦人の誕生日は1月27日。
私達も毎年前後の休日には料理とプレゼント持参で出向き、3人で祝う。
その友だちとも会ってお祝いの食事をしていたようである。
あの時言われるままに会ってお祝いしていたら、こんな別れ方をしなくてもすんだのに・・。
「一人やからころっと逝きたいけれど、もう10年は生きないと損」なんてあのとき電話で。
虫の報せ・・60年来のおつきあいの深さが、そんな電話をかけさせたのではないだろうか。
どんなに辛くやるせない年末になったのだろう。 もうすぐ新しい年を迎えようと言うのに。
「年が明けたら淡路島へ行きましょう、お母さんのお墓参りに」約束をしたのだが、
亡くなった友だちが「あんたの頭がふわふわするの、お母さんのお墓参りをしていないからや、
けんちゃんに連れて行ってもらい」 あの時の最後の電話でそうも言ったそうだ。
足元もおぼつかなくとてもお墓参りなど、ましてや遠方へはもう一人では行けない。
夫は「おかん、それはあの人の遺言や。 暖こうなったら行こうな」
帰り際「お力落しのないように、元気でいて下さいよ」 手を握ると強く握り返してきた。
いつもにないその強さは、かけがえの無い友を突然に失った寂しさだと思った。
いつもよりもっとさようならが辛かった。 見えなくなるまで手を振って見送ってくれている。
一人暮らしにいっそう不安が伴うであろう。 日が経つごとに友を失った悲しみは増してくるきっと。
神戸には雪がちらついていた。 空気の冷たさが悲しみを追う。