「きれいやで」 夫らしいたったそれだけの言葉と届いたのは、3枚の画像だった。
友人たちと購入した13人乗りの釣り船で、和歌山の加太に釣りに行った早朝だった。 15年くらい前だったろうか、
波しぶきをあげながら走る船で遭遇した日の出の画像。
オレンジ色に明けていく空、濃い朝日のその格別な美しさに、思わずシャッターを押したのだろう。
それを送ってくれた夫の優しさに胸がジーンとした。 多分他の人はしてないと思う。 その日の事を思い出した。
今日、お昼を過ぎて4時頃出かける夫に「カメラ持って行き」って言ったのに、持って行かなかった。
最近、大阪港の中央突堤、駐車場に止めずに、近くに車を止めて車内で音楽を聴きながら景色を眺める。
ブログに、缶コーヒーを買って スマホで音楽を聴きながら ぼう~と時間を過ごす
ありがたですね イヤホンから 演歌 カントリー フォーク ビッグバンド
陽が落ちるのを見て帰ると言う、そんな時間が増えてきた。 ここは有名な夕日のスポットである。
9枚の画像が届いた。 カメラではそうはいかないが、スマホなのですぐに届いた。
丁度いい具合に貨物船が入って、夕日に色を添えている。 nice!
海から送られてきた朝日のあの時の思いとは少し違う。 あの頃の会話には、まだ老いと言う言葉はなかった。
しかし老いても美しいものは私にも見せたい、共有してくれる・・そんな夫の優しさは変わらない
15年前位、兵庫県作用の山里で、会社の商品の縫製をして頂いていたお宅へ夫について行ったことがあった。
病と認知症になられたご主人様が亡くなり縫製用のミシンや生地の原反などを引き取りに行ったのである。
家の前の畑から白い煙が静かに立ちのぼっていたのは、ご主人さまのものを燃やしておられたからとか。
お供えとお線香を・・と玄関に入らせてもらった時、玄関には2枚の短冊に書かれた奥さまの歌が飾ってあって、
それを読んで思わず立ちすくんだ。
☆ いつまでも 一緒にいようと 言いながら 夫は逝きし 我を残して ☆
☆ 夫いぬ 広き母屋に ひとり聞く カナカナと 蜩の鳴けり ☆
ご主人様が亡くなられ広くなった家、一人の寂しさが溢れた歌だった。
「仲がいい夫婦やで」作用から帰ると夫は良く話してくれた。夫が行くとお餅をついて下さり山の幸を頂いた。
ご主人が認知症になられ仕事が出来なくなった。
素敵なカップで入れて下さったミルクティーを飲みながら、見あげた天井にびっくりした。
毛筆で書かれた奥様の手紙の文字を読みながら涙が出た。 愛情いっぱいの一枚一枚。
用事で出掛ける時に「ソノは今あなたの好きな煙草を買いに行っています、帰るまで待っていてくださいね」
「今日は郵便局に行って来ます、帰りには美味しいおやつを買って帰りますから楽しみにしていてくださいね」
家をあけるとき必ず毛筆で手紙を書いたそうで、ご主人亡き後その紙を壁や天井にまで沢山貼ってあったのだ。
老いた夫婦の飾らない本当の愛が溢れていた。 その思い出の中で暮らしている八千草薫似の奥様だった。
立派なお仏壇は、私たちが来るからではなく、手入れがしてあるのが分かる、庭のお花や好物のお供え、
愛情いっぱい感じるお仏壇であった。 感動で胸がいっぱいになった。
奥様の短歌が何枚もかけてあった。 私ももし後に残ったらこんな風に、夫のゴルフや釣りや卓球やら撮った写真
部屋中に飾ってそんな中に暮らして行こうかなぁ・・それもいいなぁと思った。
作用の帰りにはいつも、私の好きなアザミ、ススキや山の花を摘んでプレゼントと持ち帰ってくれた。
奥様の話といい、大自然の中を行き来する道々、ひと時を思い出しながら言葉が出て来なかった。
いつか連れて行ってやりたいと、夫が言ってくれた意味が分かった気がした。
夫の撮った夕日の画像を眺めながら、作用のあの一日が甦った。