吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

山田正紀『ブラックスワン』ハルキ文庫2014年4月28日第2刷発行

2018-04-09 07:55:41 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 読み終わったとき『ああ、やられたっ!』と思う、そんな小説のひとつです。



 物語は新幹線乗り換えの偽装から始まる。よくある時刻表トリックかと思って読み始めると、実はそうではない。
 読めばそのトリックのネタは最初からバラされています。
 そんなことではない。そんなことではないのです。

 事件はとあるテニスクラブの内部で起こった焼死事件、ご丁寧に見取り図まで付いている。
 すわ!密室殺人か?と誰しも思う。そしてどうやって実行したのかを推理する・・・。
 そんなことではない。そんなことではないのです。

 この物語の本当のポイントはその動機にあるのです。

 そして読み始めた瞬間から、あなたはもう作者の仕掛けたトリックの内部にとり込まれているのです。

 物語は『たまたまバイト先で知り合った大学生の男女7人が一緒に旅行する』ことから始まります。

 同じバイト先から貰ったタダ券でバレエ『白鳥の湖』を観た男女7人が知り合い『一緒にスキーに行こう!』という流れ(そんなことありましたよね!)になり『どうせなら白鳥を見に行かないか?』(学生時代ならよくあるノリです)という案で、新潟県の瓢湖に赴く・・・。

 一行は瓢湖で日本にいるはずのないブラックスワンの姿を見かける。


※バレエ『白鳥の湖』から・・・ブラックスワンに騙される王子

 白鳥の湖を観た一行が白鳥の中に紛れ込んだ1羽のブラックスワンを見つけるのは偶然なのか?どこかの誰かが仕組んだことなのか?(本来『白鳥の湖』は悲劇であることを思い出してください!!)一人の女子大生が、この旅行から帰らず行方不明になってしまう。失踪としか言いようのない出来事。

 失踪前に何らかのアリバイ工作が行われた模様(上述の時刻表トリックです)。
 失踪するならアリバイ工作はなぜ必要だったのか?ナゾです。
 ここでその七人を整理しておきますと、

 橋淵亜矢子:失踪した女子大生
 市川恵子 :現在は桑野恵子、主人公(桑野晃一)の妻、末期の癌患者
 丸山 厚 :現在は水戸に住む大学研究員
 唐沢浩一 :現在は野球好きの父親、瓢湖行きを提案した一行のリーダー格だった
 武井睦夫 :現在は武井ファッション・メーカー社長(二代目)
 中野良夫 :その後、交通事故により死亡している
 𠮷田美津子:現在は津本美津子、明るく元気な女性

 そして18年前に失踪した橋淵亜矢子を名乗る女性がテニスクラブで焼死()する。

 いったい、この事件はなぜ起こったのか?
 失踪した橋淵亜矢子を回想する文集の編集に携わるうちに、主人公は18年前の事件の真相に迫ることになる。
 その悲しい結末とは・・・。

 読み終わった瞬間『ああ、そうだったのか!』と感動すると同時に、自分の青春時代の思い出も蘇ってくる、そんな小説です。
 オビの惹句にもある通り、最後まで読んだ後、ぜひもう一度読み返してください。
 青春時代に自分のやった数々の失敗に、あなたはケリをつけられますか?そんな問いかけをされる本です。
 おすすめします。

 ああ、暗くなってしまうので、ここで心ハレバレと朗らかに。

 ♪だーれが殺したブラックスワン! ♪だーれが殺したブラックスワン!

 失礼しましたー!


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2 コメント

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ほ〜 (きなこママ)
2018-04-09 10:26:57
なんと 素晴らしい書評!
この手の推理小説は大好き。
多分 読み出したら止まらないでしょうね。
それに 学生時代にありがちな失敗のケリ、と聞くと
我が身にオーヴァーラップして
非常に身近に感じるわ〜

ご紹介ありがとうございます。
読んでみよ。
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Re:ほ〜 (管理人)
2018-04-09 23:14:42
以前『全作品ハズレなし‼』と紹介した山田正紀です。推理やサスペンスものまで書くンです。いま、このシリーズは復刊フェアというのをやってるようで、チャンスです。
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