祖母の妹は、
祖母に似ず美人だった。
祖母に似ず上品な話し方をしていた。
神戸で割と裕福な暮らしをしていたそうだが、
神戸空襲で家族と家を失い、無一文、家無し状態となった。
戦災後、茂平の実家に帰り、予科練帰りの子と二人仮住まいをしていた。
その後、笠岡町営住宅に引っ越し、小さいながらも親一人・子一人で暮らしていた。
妹を不憫と思った祖母は、
内緒の品やお金を、孫(管理人の姉)に託して町営住宅まで、こっそり届けていた。
ある日のこと、
いつものように孫(管理人の姉)が町営住宅に物を届けに歩いていると、
あの、きれいな祖母の妹がヨイトマケ姿で働いていた。
孫(管理人の姉)は「見てはいけないものを見たようで、片目をつむって走り抜けた」と話していた。
あるお盆の日、
「おばちゃんは千原しのぶに似ているね」
「わーっ、私、千原しのぶ大好き」
ほんとに、千原しのぶ似の、きれいな祖母の妹さんだった。
・・・
「昭和の消えた仕事図鑑」 澤宮優 原書房 2016年発行
エンヤコラ
女性の日雇い労働者のこと。
夫が亡くなったり、事情があって働けない家庭では主婦が日雇い労働に出て一家を支えた。
ニコヨンの女性版。
昭和30年頃は、戦争で夫を失ったり、戦地から未帰還の夫を待ち続ける女性や、
着の身着のままに乳幼児を背負って引揚てきた女性、
あるいは戦災で家を焼かれ、財産を失った女性も多かった。
多くの女性は子供を育てるためにニコヨンの道を選んだ。
《世はさかさ 昔は夫人 いま人夫》
ヨイトマケの唄
エンヤコラをヨイトマケとも呼ぶ。
丸山明宏が歌う『ヨイトマケの唄』で知られるようになった。
家族のために働きぬいた女性労働者への賛歌である。
・・・