昭和46.47.48年頃、広島の八丁堀、
天満屋広島店の前に毎日、傷痍軍人がへたっていた。
いつも白衣で、
片足か、
片腕か、
片目の無い、傷痍軍人姿だった。
二人組みで、
一人は賽銭箱を前に、ひたすらお辞儀を繰り返す。
一人はアコーディオンで、「戦友」のような、さみし気な軍歌を弾く。
その哀れな感じの音が商店街にもよく響いていた。
ところが、残業や飲み屋帰りの人が、
黒塗りの高級車で帰っているのは、
あの、
歩けない足や、無い腕の傷痍軍人だろうと見破った噂がひろがった。
それでも、噂を知らない人もいて、暫くは天満屋の前に座りつづけた。
この街頭の傷痍軍人は、
広島県の呉市、福山市にはいない。岡山県岡山市にもいない。
たぶん、人口100万都市以上で成り立つ業だったのだろう。
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「失われゆく仕事の図鑑」 永井良和他 グラフィック社 2020年発行
傷痍軍人
白い衣類に身を包み、
残った脚を投げ出して、もう一方の脚が失われていることを
見る人にわかるような姿勢をとってゴザのうえに座っていた。
施しを受ける木箱が置いてあった。
こういう姿をさらし、人の同情をひいて金銭を恵んでもらう。
名誉の負傷といわれていたが
仕事にもつくことができず施しを請うことになった。
自治体などが禁じたことで、じょじょに少なくなり、存在も忘れられていった。
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「昭和の消えた仕事図鑑」 澤宮優 原書房 2016年発行
傷痍軍人の演奏
戦地で負傷して働けなくなった復員兵が街角に立ち、
ハーモニカ、アコーデオンなど音楽を演奏し、
通行人から金銭を貰う。
当初は本物の復員兵だったが、
後に復員兵を装った失業者が多く現れた。
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