上原ひろみ / PLACE TO BE
12月14日、サントリーホールへ上原ひろみを観に行ってきました。これはね~、ホント楽しみにしてました。サントリーホールってところが良いですよね。今回はバンドではなくソロ・ピアノ公演。でも正直、これが発表されたとき、なんでサントリーホール!?って思いました。サントリーホールと言えば、日本で最も権威のあるクラシック・ホール、という印象を私は持っています。実際、スケジュールを見てもほとんどクラシックで埋め尽くされています。ちなみに上原ひろみの前日は新日本フィル、さらにその前はホセ・カレーラスのクリスマス・コンサートです。もちろん、クラシック以外のコンサートが全く行われない訳ではありませんが、やっぱりそんじょそこらのホールとは違う特別感を感じます。ちなみに私にとってちゃんとチケットを買ってこのホールに来たのは、おそらく学生時代にソプラノ歌手のアプレーリ・ミッロを見に来て以来だと思います。
*ここからはコンサート内容に触れますので、これから観に行かれる方はご注意ください。
さて、上原ひろみです。ヴィンヤード形式と呼ばれる、ぶどうの段々畑を模した観客席に囲まれたステージ。その中央にグランドピアノが佇みます。開演前、主人を待つそのグランドピアノの静かな姿に、否応なく今夜のライヴへの期待値が高まっていきます。そしていよいよ主役の登場です。ピアノの妖精のような衣装に身を包んだ上原ひろみ。大歓声が巻き起こるなか、彼女がピアノの前に座ると水を打ったように静まり返る。シーンとした中、鍵盤を前に精神統一する彼女の姿がいつもより長いように感じる。そして始まったのが「I’ve Got Rhythm」。流石にサントリーホール、音が良いです。粒立ちがよい音色がホール全体に柔らかく広がる感じ。アコースティックな質感を最大限に響かせた音。それゆえにロック・コンサートに慣れた私の耳には音が小さくも感じましたが、繊細な音の表情全てを聞き逃すまいと、反って集中して上原ひろみに対峙することが出来たかもしれません。そんな中、上原ひろみは速射砲のような早弾きで鍵盤の高音部から低音部まで何度も一気に駆け抜けていきます。サントリーホールだからと言って別に特別なことをする訳ではありません。いつもの上原ひろみです。って言うよりいつも以上に上原ひろみな感じ。
とにかく曲への“入り”方が凄まじい。彼女が一心不乱にピアノを弾く姿はもうお馴染みですが、これまでのバンド活動や他アーティストとのコラボレーションでは、相手の音を聴いてそれに対してどうする?みたいな感覚が多々あったはずで、もちろんそこが面白くもあったのですが、ピアノ・ソロの場合は、対ピアノに没頭するより他はなく、ただひたすら鍵盤に全神経をぶつけ、曲に入り込んでいく。その凄まじさはある種の“狂気”すら感じさせる。もちろん表現者としてこの上なく魅力的で素敵な“狂気”です。
激しい曲では息つく暇もないほどに鍵盤の端から端までを叩きまくり、時には肘も使いながら、トリッキー且つ躍動感たっぷりなリズムやフレーズを次々に繰り出して来る。顔を歪めたかと思えば笑顔になったり、また恍惚とした表情を見せたり。そしてスローな曲で魅せる陶酔したかのような感情表現は、まるで完全に曲と一体化したエモーショナルのかたまりのよう。そして何より全ての曲で、一音目を弾き始めると同時に“入る”集中力が凄まじく、曲が進めば進むほどさらに“入って”いく感じはまさに鳥肌もの。
もちろんいつもの低い唸り声も聴こえてきます。曲によってはもう唸りっぱなし。そして「うん!」とか「あん!」とか気合いのかけ声! さらに珍しく高い声でしっかりメロディーを歌っちゃってる場面も何度かあったり。リズミカルな曲では足をドンドン!ドンドン!と踏みならしながら弾く。そして立ち上がる。さらにスローな曲でも立ち上がる。って言うかほとんど立ちっぱなし。沸き上がる感情に立ち上がらずにはいられないんでしょうね。踊るように体をくねくねさせながら繊細なフレーズを絞り出すように弾く。そんな姿にはなんかジャズよりブルースを感じさせられたり。
前半は「I’ve Got Rhythm」、「Sicilian Blue」、「BQE」、「Somewhere」、「Berne Baby Berne」、「Choux A La Creme」という流れでしたが、もちろんどの曲も素晴らしかったです! 特に最も“狂気”を感じた「BQE」、泣きそうなぐらい染みた「Somewhere」、ハネたリズムとベース・ソロで一気に観客を引き込んだ「Choux A La Creme」は最高でした。そしてそんな演奏とは真逆に、相変わらず脱力なMCも彼女のライヴには不可欠ですね。今回のツアーのテーマでもある「世界をめぐるピアノとの旅」にちなんだ曲の背景など、思いのほかよく喋ってくれているのが印象的でした。
そして15分の休憩を挟んで後半へ突入。
私のような後ろの方の席の人にはいまいち違いが分からない程の微妙な衣装チェンジをして登場。スロー・ナンバー「Green Tea Farm」から始まり、「Capecod Chips」、「Desert on the Moon」、「Pachelbel’s Canon」と続きます。新作中心の中で「Desert on the Moon」の選曲は光っていましたね。個人的には「Pachelbel’s Canon」を演ってくれたのが嬉しかったです。上原ひろみにしては恐ろしく音数の少ない曲ですが、いい“間”を持ってるんですよ!
そして「Viva! Vegas」の3部作! この曲はこのツアーのハイライトでしょう! 本人もMCで「この曲は運しだい」みたいなことを喋っていましたが、まさに運試しが観客を巻き込んでいきます。運が悪かったら第3部「The Gambler」は始まらないかもしれません! ま、そんなことはないでしょうけど、これから行かれる方はお楽しみに。“運”を呼び寄せた時の彼女の表情にも注目です。で、歓喜の中始まった「The Gambler」がまた最高でした! 目が回るような曲展開をアヴァンギャルド且つスピーディーに駆け抜け、終わった後は観客総立ちの大喝采。
アンコールは「Place to be」。そしてみんなが大好きな「The Tom & Jerry Show」。観客が一体となっての大手拍子が巻き起こります。その手拍子でピアノの音が聞こえない程。上原ひろみもそれに応えるべくアグレッシヴに弾きまくる。ステージをぐるりと観客席が取り巻いてる分、その一体感はいつも以上に高揚感を誘います。もちろん上原ひろみもこの一体感を体感していたことでしょう。弾き終わった後その充実感を表すように、立ち上がって両手を挙げてのガッツ・ポーズ。そしてピョン!と飛び跳ねました。ホント素敵な人です。
そして客電がつき、終演のアナウンスが流れ、観客達もホールを後にし始めるなか、私を含めた諦めの悪い観客は拍手を辞めない。もしやと思いましたけど、そこはやはり上原ひろみ、調律師の方を紹介するため再度ステージに登場。そしておもむろに鍵盤を叩く。曲は「Brain Training」。私もここぞとばかりにステージ前まで駆け寄りました。上原ひろみは弾きながら観客を煽る煽る。完全にロック・モード。痺れました! この最終曲を含めた終盤の盛り上がりは、まるでアーティストと観客の気持ちが一つになっていくドラマのようでもあり、上原ひろみが奏でる音楽の力を感じさせられました。
終わったあと時計を観たら22時! 開演が19時でしたから、3時間ですよ! ま、途中15分の休憩がありましたけどね。ピアノだけでこの長丁場。凄いエネルギーです。やはりある意味“狂気”です。そしてその“狂気”に乾杯です!!
次はブルーノート。あ~、クリスマス・コンサートも行きたかったな~。
~関連過去ブログ~ お時間有ったらぜひ!
09.09.11 上原ひろみ@表参道ヒルズ
08.12.28 @有楽町(上原ひろみ ジャパン・ツアー・ファイナル@東京国際フォーラム)
08.09.02 東京JAZZ2008まとめ、その1
08.08.25 @東京JAZZ2008(上原ひろみ at 丸ビル)
08.06.07 上原ひろみ(5月31日新宿タワーレコード&「BEYOND STANDARD」)
07. 9.27 チック・コリア&上原ひろみ@ブルーノート東京
07.09.03 上原ひろみ結婚!
07. 8.06 フジロック07 第2位(HIROMI'S SONICBLOOM@オレンジコート)
05. 8.25 フジロック05 第4位)
12月14日、サントリーホールへ上原ひろみを観に行ってきました。これはね~、ホント楽しみにしてました。サントリーホールってところが良いですよね。今回はバンドではなくソロ・ピアノ公演。でも正直、これが発表されたとき、なんでサントリーホール!?って思いました。サントリーホールと言えば、日本で最も権威のあるクラシック・ホール、という印象を私は持っています。実際、スケジュールを見てもほとんどクラシックで埋め尽くされています。ちなみに上原ひろみの前日は新日本フィル、さらにその前はホセ・カレーラスのクリスマス・コンサートです。もちろん、クラシック以外のコンサートが全く行われない訳ではありませんが、やっぱりそんじょそこらのホールとは違う特別感を感じます。ちなみに私にとってちゃんとチケットを買ってこのホールに来たのは、おそらく学生時代にソプラノ歌手のアプレーリ・ミッロを見に来て以来だと思います。
*ここからはコンサート内容に触れますので、これから観に行かれる方はご注意ください。
さて、上原ひろみです。ヴィンヤード形式と呼ばれる、ぶどうの段々畑を模した観客席に囲まれたステージ。その中央にグランドピアノが佇みます。開演前、主人を待つそのグランドピアノの静かな姿に、否応なく今夜のライヴへの期待値が高まっていきます。そしていよいよ主役の登場です。ピアノの妖精のような衣装に身を包んだ上原ひろみ。大歓声が巻き起こるなか、彼女がピアノの前に座ると水を打ったように静まり返る。シーンとした中、鍵盤を前に精神統一する彼女の姿がいつもより長いように感じる。そして始まったのが「I’ve Got Rhythm」。流石にサントリーホール、音が良いです。粒立ちがよい音色がホール全体に柔らかく広がる感じ。アコースティックな質感を最大限に響かせた音。それゆえにロック・コンサートに慣れた私の耳には音が小さくも感じましたが、繊細な音の表情全てを聞き逃すまいと、反って集中して上原ひろみに対峙することが出来たかもしれません。そんな中、上原ひろみは速射砲のような早弾きで鍵盤の高音部から低音部まで何度も一気に駆け抜けていきます。サントリーホールだからと言って別に特別なことをする訳ではありません。いつもの上原ひろみです。って言うよりいつも以上に上原ひろみな感じ。
とにかく曲への“入り”方が凄まじい。彼女が一心不乱にピアノを弾く姿はもうお馴染みですが、これまでのバンド活動や他アーティストとのコラボレーションでは、相手の音を聴いてそれに対してどうする?みたいな感覚が多々あったはずで、もちろんそこが面白くもあったのですが、ピアノ・ソロの場合は、対ピアノに没頭するより他はなく、ただひたすら鍵盤に全神経をぶつけ、曲に入り込んでいく。その凄まじさはある種の“狂気”すら感じさせる。もちろん表現者としてこの上なく魅力的で素敵な“狂気”です。
激しい曲では息つく暇もないほどに鍵盤の端から端までを叩きまくり、時には肘も使いながら、トリッキー且つ躍動感たっぷりなリズムやフレーズを次々に繰り出して来る。顔を歪めたかと思えば笑顔になったり、また恍惚とした表情を見せたり。そしてスローな曲で魅せる陶酔したかのような感情表現は、まるで完全に曲と一体化したエモーショナルのかたまりのよう。そして何より全ての曲で、一音目を弾き始めると同時に“入る”集中力が凄まじく、曲が進めば進むほどさらに“入って”いく感じはまさに鳥肌もの。
もちろんいつもの低い唸り声も聴こえてきます。曲によってはもう唸りっぱなし。そして「うん!」とか「あん!」とか気合いのかけ声! さらに珍しく高い声でしっかりメロディーを歌っちゃってる場面も何度かあったり。リズミカルな曲では足をドンドン!ドンドン!と踏みならしながら弾く。そして立ち上がる。さらにスローな曲でも立ち上がる。って言うかほとんど立ちっぱなし。沸き上がる感情に立ち上がらずにはいられないんでしょうね。踊るように体をくねくねさせながら繊細なフレーズを絞り出すように弾く。そんな姿にはなんかジャズよりブルースを感じさせられたり。
前半は「I’ve Got Rhythm」、「Sicilian Blue」、「BQE」、「Somewhere」、「Berne Baby Berne」、「Choux A La Creme」という流れでしたが、もちろんどの曲も素晴らしかったです! 特に最も“狂気”を感じた「BQE」、泣きそうなぐらい染みた「Somewhere」、ハネたリズムとベース・ソロで一気に観客を引き込んだ「Choux A La Creme」は最高でした。そしてそんな演奏とは真逆に、相変わらず脱力なMCも彼女のライヴには不可欠ですね。今回のツアーのテーマでもある「世界をめぐるピアノとの旅」にちなんだ曲の背景など、思いのほかよく喋ってくれているのが印象的でした。
そして15分の休憩を挟んで後半へ突入。
私のような後ろの方の席の人にはいまいち違いが分からない程の微妙な衣装チェンジをして登場。スロー・ナンバー「Green Tea Farm」から始まり、「Capecod Chips」、「Desert on the Moon」、「Pachelbel’s Canon」と続きます。新作中心の中で「Desert on the Moon」の選曲は光っていましたね。個人的には「Pachelbel’s Canon」を演ってくれたのが嬉しかったです。上原ひろみにしては恐ろしく音数の少ない曲ですが、いい“間”を持ってるんですよ!
そして「Viva! Vegas」の3部作! この曲はこのツアーのハイライトでしょう! 本人もMCで「この曲は運しだい」みたいなことを喋っていましたが、まさに運試しが観客を巻き込んでいきます。運が悪かったら第3部「The Gambler」は始まらないかもしれません! ま、そんなことはないでしょうけど、これから行かれる方はお楽しみに。“運”を呼び寄せた時の彼女の表情にも注目です。で、歓喜の中始まった「The Gambler」がまた最高でした! 目が回るような曲展開をアヴァンギャルド且つスピーディーに駆け抜け、終わった後は観客総立ちの大喝采。
アンコールは「Place to be」。そしてみんなが大好きな「The Tom & Jerry Show」。観客が一体となっての大手拍子が巻き起こります。その手拍子でピアノの音が聞こえない程。上原ひろみもそれに応えるべくアグレッシヴに弾きまくる。ステージをぐるりと観客席が取り巻いてる分、その一体感はいつも以上に高揚感を誘います。もちろん上原ひろみもこの一体感を体感していたことでしょう。弾き終わった後その充実感を表すように、立ち上がって両手を挙げてのガッツ・ポーズ。そしてピョン!と飛び跳ねました。ホント素敵な人です。
そして客電がつき、終演のアナウンスが流れ、観客達もホールを後にし始めるなか、私を含めた諦めの悪い観客は拍手を辞めない。もしやと思いましたけど、そこはやはり上原ひろみ、調律師の方を紹介するため再度ステージに登場。そしておもむろに鍵盤を叩く。曲は「Brain Training」。私もここぞとばかりにステージ前まで駆け寄りました。上原ひろみは弾きながら観客を煽る煽る。完全にロック・モード。痺れました! この最終曲を含めた終盤の盛り上がりは、まるでアーティストと観客の気持ちが一つになっていくドラマのようでもあり、上原ひろみが奏でる音楽の力を感じさせられました。
終わったあと時計を観たら22時! 開演が19時でしたから、3時間ですよ! ま、途中15分の休憩がありましたけどね。ピアノだけでこの長丁場。凄いエネルギーです。やはりある意味“狂気”です。そしてその“狂気”に乾杯です!!
次はブルーノート。あ~、クリスマス・コンサートも行きたかったな~。
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09.09.11 上原ひろみ@表参道ヒルズ
08.12.28 @有楽町(上原ひろみ ジャパン・ツアー・ファイナル@東京国際フォーラム)
08.09.02 東京JAZZ2008まとめ、その1
08.08.25 @東京JAZZ2008(上原ひろみ at 丸ビル)
08.06.07 上原ひろみ(5月31日新宿タワーレコード&「BEYOND STANDARD」)
07. 9.27 チック・コリア&上原ひろみ@ブルーノート東京
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07. 8.06 フジロック07 第2位(HIROMI'S SONICBLOOM@オレンジコート)
05. 8.25 フジロック05 第4位)