<もし世界の終りが明日だとしても私は今日林檎の種子(たね)をまくだろう。>
このルターの有名な言葉はさまざまなリミックスを経て、寺山修司は革命家のゲオルグ・ゲオルギウの言葉と紹介し、調べてみたら数年前にテレビドラマの台詞に使用されてそれなりにリバイバルした言葉なのだという(全く知らなかったけど)。勿論、この言葉は寺山修司でもなく、テレビドラマの台詞でもなく、小学生の頃から知っている。
五島勉のノストラダムスの大予言ブームの頃、高木彬光が大人げなく、真剣に書いた反論本で巻末の結論として書いていた(大人気なくと書いたものの、高木自身、易に通じ、成吉思汗や邪馬台国などの“古代ミステリ”に関する著作も多い)。せっかく大推理作家らしく、科学的に、理路整然と反論していたのに、その結論はあんまりじゃないかと子供心には思ったのだけれども、やっぱし子供心にとっても勇気付けられたのは確かだ。
オレは高木彬光を通して、この言葉――種子を受け取ってしまった。
個体としての人間は「種子をまかない」という成熟しきった選択もできるほとんど唯一の生物なのだが、それでも日常生活を送る中で、意識的、無意識的に関わらず、人間は「種子」をまかずにはいられない。
人間が選択肢、行動することは社会という「土壌」に種子をまくことに他ならない。
26日は夕方から特定秘密保護法案の衆院本会議の強行採決が迫る国会周辺に向かった。昨年12月に危惧したとおり、自民党の第二次安倍政権は実に危険な選択をし続けている。前日に福島で地方公聴会が開かれ、すべての意見陳述者が反対もしくは審議の継続を求めたにも関わらず、政府の強行採決は直後から報じられていた。自民党の石破幹事長はこの件に関わらず「すべての可能性は排除しない」と発言するが、そもそも「結論ありき」での発言は詐欺師そのものである。
彼が強行しようとしていることはいわば日本の「土壌」の入れ替えである。もしかしたらそれは「特定の人々」のオアシスを作るだけの砂漠化なのかもしれない。
16時過ぎに国会議事堂前に着くと、まずは事堂裏の議員会館前へ、そして官邸前を回る。
議員会館前は園良太ら「へサヨ」グループが、官邸前はそれに飽きたらしい(もしくは主導権が握れないのがわかったらしい)極左グループが陣取る。議員会館前はそれなりに人が集まり、それなりに熱心なコールが続いていたのだが、官邸前が酷かった。それまで極左グループは気の毒な一般参加者に一瞥することすらなく、自分たちの「儀式」を続けるだけだった。それも18時を過ぎて火炎瓶テツさんたちが準備を始めてひとまず安心した。
18時45分から衆院本会議が始まることがTLに流れてきた。
オレは空、ヤマタクさんと合流してドラム隊が準備しているという国会正門前に向かう。
議事堂前の横断歩道を渡る頃には十数人がコールを始めていた。
オレもいつもはレスポンスで使うことはないトラメガを使う。まだ人数が少ないから仕方がないか…と思いつつ、この夜は「よりデカい声」が必要なのだから使うのは当たり前である。
さらにヤマタクさんやパンチョ君はTwitterでの情報拡散と国会周辺の一般参加者へ国会正門前集結の呼びかけに走る。誰が主催者(団体)ということもなく、事前の告知もせず、準備もしていたわけでもない(コール用のトラメガは合わせて3台)のだが、それでも数百人の人々が集まる。多くの「顔馴染み」が集まり、コーラーは反原連と男組のメンバーが中心になって務めた。20時過ぎ、ジャポニスタン君に状況を訊ねた。携帯で情報確認する余裕もなくコールを続けていた。
そして強行採決を知った。居ても立ってもおられず、コールの爆心地へ向かう。
そのときすでに交差点付近の歩道の規制線は崩れかけていた。bc君や何人もの参加者が歩道のぎりぎりまで立って、警備を挟んで国会議事堂へ向かって怒りを表明する。警備の動きも慌しくなり、警官が隙間なく目の前に並び、規制線はコーンから鉄柵に変わった。
ネトウヨ政権へのカウンターのつもりで向かったオレもヘイトデモのカウンターのような錯覚すら覚えた。
その瞬間から「採決撤回」――ただそれだけのシンプルなコールを抗議参加者はひたすら叫んだ。本当に、それだけが言いたいのだ。「秘密保護法採決撤回」のコールは、それから1時間以上続いた。
特定秘密保護法の審議は参議院に移された。
政権はメディアの世論調査の結果を見て強行採決を決意したという。そして「参院では数の力を使う」と明言している。
調査ではほとんどの世論が賛否については3つにわかれている。賛否はともかく、政府が何をやらかすかわからないから「わからない」と答えてしまう人が少なくないのは当然だ。それでも今回ばかりは識者も含めてメディアも当事者となって法案には反対している(反対しているなら視聴者にしっかり伝えろと思うのだが)。政府はこの「下準備」を強行して何を目論んでいるのか。
12月6日の会期末に向けて、たとえそれが砂漠であろうとも抗議者は種をまき続ける。