徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

参加する真実・仮名手本忠臣蔵/「浄瑠璃を読もう」

2013-02-10 01:01:17 | Osamu Hashimoto
<「赤穂浪士の復讐事件」は、初演時で既に四十数年前の過去のものとして完結してしまっているし、「武士の世界の事件」として、町人たちをシャットアウトしている。しかし、江戸時代の町人たちは、これに参加をしたいのである。だから、その余地を探したのである。(中略)「事実のあら方は知っている。しかし、そんなことはどうでもいい。我々に必要なものは我々のドラマである」として、「関係ない現実」を捨ててしまった。このドラマの作者達の意気込みはがすごいのである。「現実を踏まえて、自分たちに必要なドラマだけを拾い上げる」――江戸時代の浄瑠璃作家は、そういうことをやって、しかもその通りに、この虚構だらけのドラマ『仮名手本忠臣蔵』は「忠臣蔵の最高峰」として残っているのである。その「虚構だらけの最高峰」という矛盾したものに対して、「事実はどうだ?」というリサーチは近代以後盛んに行われるが、結果はたいしたものではない。「虚構から出発して組み立てられた、身にしみる必要な真実」の方が、ずっと重要だというだけのことである。>(橋本治『浄瑠璃を読もう』新潮社2012/「仮名手本忠臣蔵と参加への欲望」より)

「考える人」に2004年から2011年秋まで掲載された連載をまとめた一冊。治ちゃん自身が「私の悪い癖で分かりやすい本ではない」と書くように、ほとんど「音楽」を一から解体して寄り道しながらまた組み立てるするような内容なので、実に難しい…のだが、切れ味というかキレ方というのは相変わらず。巻頭の『仮名手本忠臣蔵』も山場の討ち入りの手前でばさっと章を終えてしまう。それこそ「事実のあら方は知っている」と言わんばかりに、「こっちの方が本当のストーリーだよ」と言わんばかりに、あっさり解説を終える。
それが虚構だらけの最高峰「仮名手本忠臣蔵」なのだから仕方がない。
武士の世界の事件には「参加したくても参加できない」町民は、誰もがご存知の事実によりも、本来のストーリーでは端役に過ぎないモデルを見つけ出し、妄想を膨らませながら「身にしみる必要な真実(ストーリー)」を作り上げる。観客はまた自分たちのための虚構に自らを重ね合わせつつ真実を見出す。
その中(ストーリー)に自分もいる、それこそが生きていく上で重要なことなのだから。
今、現場に行き、参加すること――それはオレにとっても「必要な真実」なんだと思う。ゴール裏だって、路上のデモや抗議だってきっと同じことだよ。
ゴール裏や路上に立つ人たちは、巨大なストーリーに生きている「主役」に対して、何か、やっぱり「オレにも参加させろ」って言っているように感じるんだな…この場合、その「ストーリー」はどちらが虚構なのか真実なのかわからないけれど。


浄瑠璃を読もう
価格:¥2,100
<小説の源流も、わたしたちの心やふるまいの原型も、みんな浄瑠璃のなかにある! 江戸時代に隆盛した一大文学ジャンル浄瑠璃。その登場人物は驚くほど現代人に似ている。『仮名手本忠臣蔵』『義経千本桜』から『冥途の飛脚』『妹背山婦女庭訓』まで、最高の案内人とともに「江戸時代的思考」で主要作品を精読。「お軽=都会に憧れてOLになった田舎娘」など、膝を打つ読み解きが満載。浄瑠璃の面白さを再発見!> <わたしたちの心の原型も、小説の源流も、みんな浄瑠璃の中にある。最高の案内人と精読する読み逃せない8作品。>

登録情報
単行本:444ページ
出版社:新潮社(2012/7/27)
言語:日本語
ISBN-10:4104061131
ISBN-13:978-4104061136
発売日:2012/7/27
商品の寸法:19.8x13.6x3.2cm


仮名手本忠臣蔵(橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 (1))
竹田出雲,並木千柳, 橋本治, 三好松洛, 岡田嘉夫
価格:¥1,680
<忠臣蔵は日本でいちばん有名な物語のひとつ。しかし、その原作である「仮名手本忠臣蔵」の内容はあまり知られていない。橋本治と岡田嘉夫が仮名手本忠臣蔵の世界を忠実に描き出す。歌舞伎作品を絵本に再現するシリーズ第1弾。>

登録情報
大型本:52ページ
出版社:ポプラ社 (2003/10)
ISBN-10:4591074455
ISBN-13:978-4591074459
発売日:2003/10
商品の寸法:25.4x24.8x1.2cm

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