●宇宙探査●月と火星を第2の地球に!―SPE―         科学技術研究者   勝 未来

                 ~各国は月と火星の探査計画を着々と実行に移している~   

●宇宙探査<ブックレビュー>●「宇宙背景放射」(羽澄昌史著/集英社)

2016-01-17 01:41:25 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:宇宙背景放射~「ビックバン以前」の痕跡を探る~ 

著者:羽澄昌史

発行:集英社(集英社新書)

目次:第1章 宇宙の「ルールブック」を求めて―素粒子実験から宇宙誕生の瞬間を撮る実
         験へ

    第2章 ビッグバンとCMB
    第3章 「空っぽ」の空間
    第4章 インフレーション仮説
    第5章 原始重力波とBモード偏光
    第6章 ポーラーベアの挑戦
    第7章 戦国時代のBモード観測―ライバルとの競争、そしてライトバード衛星へ

 この書籍「宇宙背景放射~『ビッグバン以前』の痕跡を探る」(羽澄昌史著/集英社)は、宇宙最古の光である「宇宙背景放射」(あるいは「宇宙マイクロ波背景放射」)、英語では、「Cosmic Microwave Background」略して「CMB」について、一般の読者向けに分かりやすく書かれた書籍である。通常、宇宙の起源に関する書籍は、難解で素人にはなかなか読み通すことが困難ものが少なくない。これに対し、同書は、基本的には宇宙についての専門知識が無くても、一気に最後まで読み通すことができ、読み終わったときは、今、宇宙の解明がどこまで進んでいるかが、大雑把に把握することが出来るようになるという、貴重な書籍と言える。宇宙がまだものすごく小さかったときに起きたのが、138億年に前に起こったビックバンである。このことは、ほとんどの人が知っているであろう。宇宙最古の光であるCMBは、このビックバンにより生まれたのだ。つまり、ビックバンを知っているということは、知らず知らずのうちにCMBも知っていることに繋がる。そう考えると、CMBが身近な存在になってくる。「ビックバン仮説」を言い出したのは、ロシア出身のアメリカ人物理学者のジョージ・ガモフである。つまり、誕生したばかりの宇宙は超高温・超高密度の「火の玉」であり、それが爆発を起こしたという理論だ。もっとも、「ビックバン」という言葉を最初に使ったのは、ガモフとは正反対の、宇宙には始まりも終わりもないとする「定常宇宙論」を提唱したフレッド・ホイルだったということは、誠に皮肉なことだ。ホイルが、ガモフの理論を貶すために使った「ビックバン」だったが、今ではガモフの理論は「ビックバン理論」と呼ばれ、その正しさが証明されている。

 このガモフの「ビックバン理論」は、ある予言をしていた。もし、過去の宇宙が熱い火の玉であったとすれば、その時の光が現在の宇宙にも残っているはずだ、というのである。ただしそれは、光として残っているのではなく、その後、宇宙空間が膨張したことによって、波長が引き伸ばされ、電磁波の一つであるマイクロ波として存在しているはずである、とする。ここで、昔、習った、光も電磁波に一つで、可視光線とよばれていることを思い出してほしい。一般には、光は目に飛び込んでくるのに対し、電磁波はまったく見えないから、同じものと言われてもピンと来ないかもしれないが、光も電磁波も同じ横波で、ただ、周波数が違うだけの話なのである。では、どうしてそんなビックバンの名残のマイクロ波が宇宙を漂っているのを、人類は発見できたのであろうか。結論から言うと単なる偶然からである。アメリカのベル研究所に在籍していたアーノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンの二人は、人工衛星を利用した長距離通信プロジェクトで開発された「角笛アンテナ」と呼ばれた巨大なアンテナを電波天文学に転用できないか、いろいろと実験を行っていた。その時、アンテナをどの方向に向けてもノイズが入ってくる。ノイズが入って来ては、本来の実験ができない。二人は、いろいろ調べてみたが、ノイズの原因はさっぱり分からない。最後は、ハトの糞が原因ではと、考える始末。その後、二人は、宇宙物理学者の助けを受け、このノイズこそがCMBのマイクロ波である結論を得る。この結果、二人は、ノーベル賞を受賞する。偶然がノーベル賞に繋がったのだから面白い。ただ、パスツールが言っているように「偶然は、準備のできてない人は助けない」(このことは「セレンディピティ」という言葉が使われる)ということで、二人は、準備ができていたということになろう。

 ここまでは、大体常識の範囲内で理解がいく。ところが、宇宙の空間に限ってみると、そうとは言えなくなる。アインシュタインが提唱した「光速より速いものはない」という原理は、宇宙空間には当てはまらない。宇宙空間の膨張速度には制限がないのだ。つまり、人類が認識できる範囲を超えて宇宙空間が広がっており、これは「地平線問題」と名付けられている。広い高原で地平線は見えるが、その先は見ることができないのと同じこと。この難問を解決すると期待されているのが、「インフレーション理論」である。この理論は、ほんの一瞬としか言いようもないごく短い時間に、アメーバが銀河ひとになるぐらいの勢いで宇宙が膨張した考える。この「インフレーション理論」は、今のところ仮説ではあるが、この理論が登場したおかげで、宇宙の「地平線問題」「平坦性問題」「宇宙原理」などが一挙に解決するという、夢の理論だ。よく、ビックバンが先に起こったのか、インフレーションが先に起こったのか、という疑問が投げかけられるが、インフレーションが先が正解だ。まず、物質でない宇宙空間の急激な膨張が起こり、その後に、物質の爆発であるビックバンが起こったのだ。宇宙空間という背景を舞台に、物質の膨張が行われたということ。ところで、この夢の仮説「インフレーション理論」を世界で一番最初に提唱したのは、1980年代はじめ、日本の佐藤勝彦と米国のアラン・グースである。正確には、佐藤勝彦の方がアラン・グースより数か月前に論文の提出を行っていることが国際的にも認められている。もし、この「インフレーション理論」が観測により証明されれば、ノーベル賞は間違いないと言われている。

 ところが、2014年3月、「原始重力波を初めて検出」「インフレーションの決定的証拠を発見」という衝撃的ニュースが世界を駆け巡った。一般の人には、何のことやら皆目分からなかったことだろうが、インフレーションというビックバン以前の宇宙の急激な膨張を知っている人にとっては、衝撃的なニュースであった、さしずめそれが日本人なら「これで佐藤勝彦がノーベル賞を受賞するぞ」と確信しただろう。ところがこの「発見」は、半年後に間違いであることが判明した。ところで「インフレーション理論」によると、空間の量子ゆらぎによって原始重力波が生じると予言されている。ところが、インフレーションが終わると、膨張は急激に減速に転じ、量子ゆらぎも地平線を越えて届くようになる。つまり、138億年前の量子ゆらぎが、原始重力波として我々の前に再登場してくる。この書籍の著者の羽澄昌史氏は、観測施設「POLARBEAR(ポーラーベア)」(チリのアタカマ高原)、「BICEP2」(南極)で日夜、CMBの観測を行っている。ところで、原始重力波とCMBとはどんな関係にあるのだろうか。それは、1996年に発表された「インフレーションを震源とする原始重力波が存在するならば、その痕跡がCMBに指紋のように残っているはずだ」という説に基づいている。要するに、CMBは、インフレーションの手前に広がるスクリーンのようだと考えられる。詳細は、この書籍の著者の羽澄昌史氏が主催する「宇宙マイクロ波背景放射偏光観測 KEK-CMB POLARBEARグループ」のホームページ(http://cmb.kek.jp/polarbear/index.html)を参照するとよいだろう。(勝 未来)

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「宇宙はどうして始まったのか」(松原隆彦著/光文社)

2015-05-08 10:50:45 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:宇宙はどうして始まったのか

著者:松原隆彦

発行:光文社(光文社新書)

目次:第1章 「この宇宙」には始まりがある
     第2章 無からの宇宙創世論
    第3章 量子論と宇宙論
    第4章 相対論と宇宙論
    第5章 素粒子論と宇宙論
    第6章 宇宙の始まりに答えはあるのか

  多くの人は、宇宙の端にたどり着いたら、その先はどうなっているのかが知りたいと思う。学者は、丁度、風船の上を歩いていくと、また元の場所に戻ってきて、永久に宇宙の果てにはたどり着けないと、答える。その答えに「なるほど、そうだったんだ」と考える人は、この書「宇宙はどうして始まったのか」(松原隆彦著/光文社)を読む必要はないのかもしれない。「そう言われても納得がいかない」と考える人はこの書を読むべきだろう。その理由は、著者がまえがきに書いている通り「本書では最先端の研究の解説よりも、それについてああでもない、こうでもないと批判的にいろいろな可能性を考えていくことで、随筆的な雰囲気を含むようにしました」と書いている通り、同書はこちこちの学術書ではなく、一般の人が疑問に思う事柄を、最先端の研究成果に基づいて、著者が分かりやすく解説してくれている。

 この書のタイトルにもなっている「宇宙はどうして始まったのか」について最近、インフレーションという言葉がマスコミを賑わせている。アメリカの研究チームが「インフレーションの痕跡を発見した」と発表して、一時、学界が大騒ぎになったが、その後、検証機関により間違えだと結論付けられて一件落着となったが、今後、インフレーションの痕跡が見つかる可能性は大いにありうる。そのためにも、宇宙の門外漢であってもインフレーション理論を少しでもかじっておいた方がいい。宇宙論で言うインフレーションとは「宇宙初期に宇宙の大きさが急膨張することを表している」ということである。ここで、多くの人は、「昔、宇宙の始まりはビックバンである」と教わったが、宇宙の始まりは、インフレーションなのか?ビックバンなのか?という素朴な疑問が頭を過ぎる。

 この書ではこの答えをこんな風に説明している。それは「研究者の間では、標準ビックバン理論における最初の火の玉のような状態を『ビックバン』と呼ぶことが多い。インフレーションが最初の火の玉のような状態を作り出すのだから、この場合は、インフレーションの方がビッグバンよりも前に起きたということになる。つまり、ビッグバンとインフレーションのどちらが先に起きたかについては、何をビッグバンと呼ぶかによって答えが変わる。したがって、これは単なる言葉の問題でしかない」「一般向け解説書は、話を分かりやすくするために話が単純化されている場合が多い」という。つまり、ビッグバンをどのように定義するかがポイントなのだ。さらにこの書では、「初期特異点」という用語を使って宇宙の始まりの解説が続くが、専門家の間でも「初期特異点」について統一がついているわけではないという。さらに、「宇宙の本当の始まりは、インフレーションよりも前であり・・・」とインフレーション以前にも話が及び、宇宙の始まりの話題は尽きない。

 この書の「第6章 宇宙の始まりに答えはあるのか」は圧巻である。我々が考える宇宙の始まりとは、また異なる考えが次々と紹介される。例えば、ホィーラーという学者が提案した「観測者参加型宇宙」。「ホィーラーによれば「膨大な数のビットからなる情報がこの世界の存在をつくり上げいるのだという。私たちは直観的にこの世界や宇宙が存在していると考えているが、そうした存在というものでさえも、突き詰めれば情報の集まり以上のものではない」というのだ。何やら、神がかり的考えにも感じられるが、よく考えると道理のある考えでもある。この世のあらゆるものは、私たちが情報を処理する過程で生まれてくるとホィーラーは主張する。この世にあるものが、本当にあるか否かは、情報処理にゆだねられているというのだ。何やら、宇宙の構造の理由を人間の存在に求める考え方である人間原理を思い起こさせる。著者は、あとがきで「宇宙論には、先入観の入り込む余地が大きい傾向にあります。先入観を乗り越えて宇宙の真実を明らかにするには、虚心坦懐に宇宙を見つめていくしかありません」と締めくくっている。
(勝 未来)

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「世界はなぜ月をめざすのか」(佐伯和人著/講談社)」

2015-01-11 19:24:08 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:世界はなぜ月をめざすのか~月面に立つための知識と戦略~

著者:佐伯和人

発行:講談社(ブルーバックス)

目次 : 序 章 月探査のブーム、ふたたび到来!
    第1章 人類の次のフロンティアは月である
    第2章 今夜の月が違って見えるはなし
    第3章 月がわかる「8つの地形」を見にいこう
    第4章 これだけは知っておきたい「月科学の基礎知識」
    第5章 「かぐや」があげた画期的な成果
    第6章 月の「資源」をどう利用するか
    第7章 「月以前」「月以後」のフロンティア
    第8章 今後の月科学の大発見を予想する
    第9章 宇宙開発における日本の役割とは
    終  章 月と地球と人類の未来

 日本人にとって月は、太古の昔から和歌などに歌われるなどして、親しみのある天体である。しかし、その誕生からして謎に満ちている。巨大隕石が地球に衝突して、その勢いで岩石が飛び散り、長い時間をかけて現在の形になったというのが一番の有力説だが、まだ確定したわけではない。そもそも、月が無かったなら、地球の姿勢は不安定となり、高温、低温の差が激しく、生物が誕生できたかどうかも怪しくなる。言ってみれば月は、我々人類にとってはなくてはならない貴重な存在なのである。そこで、これまで各国ではロケットを打ち上げ、月探査を行ってきた。それらは、ルナ (旧ソ連)に始まり、アポロ (米国)、かぐや (日本)、嫦娥1号 (中国)、チャンドラヤーン1 (インド)など、数々の実績を挙げてきた。そして、現在行われている月探査は、米国のルナー・リコネサンス・オービター/エルクロスと中国の嫦娥3号である。「世界はなぜ月をめざすのか~月面に立つための知識と戦略~」(佐伯和人著/講談社)は、過去、現在、そして未来にわたって人類と月とのかかわりを、誰でも分かるように解説した書籍である。著者の佐伯和人氏は、専門が惑星地質学・鉱物学で、現在大阪大学の准教授を務め、JAXA月探査機「かぐや」プロジェクトの地形地質カメラグループ共同研究員、次期月探査機「SELENE2」計画着陸地点検討会主席を務めるなど、月探査を語るには最適な立場にある人である。

 第1章から第4章までは、月科学の基礎知識を誰でも理解できるように平易に解説されているので、「月とはそもそも何者だ」と考えている読者にとっては、非常に助かる内容である。例えば「月では太陽光線に照らされた昼の側は120℃、太陽光線が当たらない夜の側はマイナス170℃いかという大変な温度差がある。昼の側でも日なたと、岩陰などの日陰は、昼夜の差ほどではないにしても、200℃前後も温度差がある」そうであり、人間が生存するには過酷な環境であることが分かる。月の表面は、レゴリスと呼ばれる細かい砂で覆われている。このレゴリスは、月の石が粉々にくだかれたもので、平均的な粒の直径が100μm弱。数μmしかないような小さな隕石さえ、大気に減速されることなく、最大秒速数十㎞といった高速で月表面の岩石に衝突する。そのような衝突が月の誕生から45億年間続いてきたために、月の表面の岩石は粉々の砕かれのだという。月には川が流れてはいない。ところが川が流れていたような峡谷が月には存在している。これは何故か。このような地形は、水ではなく、マグマによってできたと考えられているそうである。月の海を形成したマグマは、ハワイの火山のマグマよりもサラサラと流動的だと考えられている。そのような、サラサラしたマグマが大量に吹き出すと、まるで水流のように地面を削るという。

 第5章では、日本の月探査機「かぐや」があげた画期的成果について詳細な解説が行われている。高度100㎞で、「かぐや」は、1年半以上にわたって、月の極を通る軌道を周回・観測し、2009年6月11日に月の表側に制御落下された。「かぐや」に搭載された多数の観測機器は、それぞれ世界の最先端となるデータを出しており、現在でも解析が続けられているという。日本の宇宙探査機では、「はやぶさ」、それに続き昨年末打ち上げられた「はやぶさ2」が圧倒的に知名度が高いが、月探査機「かぐや」は、最先端の月のデータを地球に送り、そのデータは、現在解析され、月の謎の解明に大きく貢献していおり、その重要度は「はやぶさ」に劣るものではない。特に注目されるのは、「かぐや」が世界で初めて見つけた月面上の縦孔構造。これは月面に空いた、直径50mを超える大孔で、深さも数十mあるという。春山純一博士のグループが、「かぐや」の地形カメラの映像をくまなく探して、3か所の縦孔を見つけたというのだ。月面上の縦孔は、人類が月面に降り立って活動をする際に、重要な役割を果たす。特に月面に降り注ぐ宇宙線の脅威から人体を守るには、縦孔に入ることが最も有効だ。もし、隠れるものがない場合は、月面上に建造物建て、宇宙線から身を守らなければならない。しかし、最初に月面に降り立って、すぐに月面に頑強な建造物を構築すことは非常に困難だ。その点、縦孔があれば、月での活動をスムーズに行うことができる。

 同書が、通常の月に関する書籍と異なるのは、月科学の解明の先をさらに一歩進めて、月の「資源」をどう利用するかに関して言及していることであろう。一般に月資源を利用することは、月から鉱物を地球まで運ぶというイメージを持ちやすいが、著者は、それはコストの点からも現実的でなく、月での資源活用を考えるべきだとする。現在、米国が進めている火星に人類を送り込む計画でも、月に一旦降り立ってから月を出発し、彗星に降り立ち、そして彗星から火星を目指す案が検討されていると聞く。火星ばかりでなく、今後、人類が宇宙探査や宇宙開発に挑む場合、月を中継点とすることは、ほぼ間違いないことだろう。そのために月の資源を使ってロケットの燃料をつくり出すことを考えることが重要だとする。言われてみれば確かにそうであろう。そう考えると、各国が月探査を急ぐ理由も分かってくる。今後打ち上げが予定されている月探査機は、ムーンライズ (米国)、嫦娥4号・5号 (中国)、ルナ・グローブ計画 (ロシア)、セレーネ2 (日本)、チャンドラヤーン2(インド)などであるが、筆者は日本の月探査計画を今後急速に強めなければ他国に後れをとると、と次のように警鐘を鳴らす。「月着陸機の周辺を実効支配したからといって、たいした問題でないとおもわれるかもしれません。しかし、まったく逆で、これは大問題です。近年の月探査によって、月の開発すべき『良い場所』が次々と判明していますが、その場所はきわめて限られた面積しかないことも明らかになってきています」。つまり、月開発に最適な場所は限られており、早い者勝ちになるということだ。そう考えると、同書は真っ先に宇宙探査の予算を握っている日本の政治家に読んでもらわねばならない書籍なのかもしれない。(勝 未来) 

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「宇宙はなぜこのような形なのか」(「コズミックフロント」/KADOKAWA)

2014-08-25 11:26:24 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:宇宙はなぜこのような形なのか

著者:NHK「コズミック フロント」制作班

監修:渡部潤一(国立天文台副台長)

発行:KADOKAWA(角川EPUB選書)

目次:Chapter1 物理学 Physics

     宇宙はどのように誕生したのか
     ダークマターの謎に挑む
     最初の星を探せ

    Chapter2 天文学 Astronomy
     太陽系の起源を探る
     パルサーの発見
     ブラックホールは実在した
     銀河系の構造
     不思議な天体 マゼラン雲

    Chapter3 生物学 Biology

     土星の衛星 エンケラドス
     火星の生命探査
     太陽系の外で生命を探す
     宇宙に知的生命体はいるか

    Chapter4 工学 Engineering

     スペースシャトルが切り開いた宇宙
     国際宇宙ステーションへの道
     月面探査競争

 NHK-BSプレミアムで毎週木曜日の午後10時からの宇宙テレビ番組「コズミック フロント」をご覧になったことはあるだろうか。既にご覧になった方は、この番組が書籍になったと考えれば、同書「宇宙はなぜこのような形なのか」(NHK「コズミック フロント」制作班著/渡部潤一<国立天文台副台長>監修/KADOKAWA<角川EPUB選書)>)の内容は、自ずと想像がつくと思う。宇宙テレビ番組「コズミック フロント」は、宇宙に対する最新知識を画像を通して、多くの人が理解するのに打って付けの番組である。特別に宇宙の知識がなくても容易に理解できるように工夫されているので、子供から大人まで誰でも知らず知らずのうちに宇宙の基礎知識が身に付けることができる、貴重なテレビ番組だ。最近放映されたタイトルを挙げてみると、「未踏の宇宙を切りひらけ! NASAジェット推進研究所」 「宇宙でイチバン! 驚異の天体 最も熱く速い星」「宇宙飛行士列伝 奇跡の生還スペシャル~ロシア編~」 「ファーストコンタクト」 「宇宙でイチバン! 宇宙一明るく輝く星」 「バーチャル宇宙ツアー 異形の惑星」 「大逆転! イプシロンロケットの挑戦」 などなど、実に興味深い内容で埋められていることが分かる。例えば「バーチャル宇宙ツアー 異形の惑星」では、最近発見されつつある太陽系外惑星が目の前に現れるのであるから、映像からの情報ほど強いものはない。

 しかし、一方では、テレビ映像は、論理立てて知識を吸収しようとすると、自ずと限界があることも事実である。一度知識を整理し直して、一貫性のある知識を手に入れるためには、書籍が一番いい。それを実現したのが同書なのである。通常、宇宙に関する書籍は、専門の天文学者が執筆するケースがほとんどであるが、この場合、知識の正確性では最上なデータが提供されるが、素朴な何故といったような発想には、どうも欠けるきらいがある。この点、同書の著者は、NHK「コズミック フロント」制作班なので、読者の立場に限りなく近い人たちなので、素人にも分かりやすく、最新の宇宙の知識が平易に紹介されているので、宇宙の入門者には打って付けの書籍といえよう。しかも、第一線の研究者である国立天文台副台長の渡部潤一氏が監修者となっているため、内容の正確性も保証されていることもうれしい。その渡部氏は、同書の「はじめに」の中で、「そんな番組から出版物が生まれたなら。誰しもが、そう思うだろう。これだけ、宇宙に関して広く、深く、そして最新の知見を集積した日本放送史上まれに見る金字塔たる科学番組を、活字にしない手はあるまい。・・・本書は、最新の宇宙研究の現場をみなさんにビビッドに提示しつつ、個々の専門分野をフロンティアまで追求した深さ、そして分野全体を俯瞰する広さを併せ持つ、極めてまれな宇宙に関する書籍となっている」と書いている。

 同書の全体は、物理学、天文学、生物学、工学の大きく4つに分けられている。「Chapter1 物理学」では、宇宙の誕生から最初の星の誕生であるファーストスター、それに現在の宇宙が形成されるまでを辿る。最近、佐藤勝彦博士らが提唱した、ビックバン以前の宇宙形成の理論であるインフレーション理論が世界の注目を集めているが、これらの最新知識をひとまず得ておきたいという読者にとっては便利である。さらに、かなり知られてきたダークマターについても、やさしく解説されているので、頭に入りやすい。「Chapter2 天文学」では、誰でも知っている小惑星探査機「はやぶさ」の話から始まる。目標は、地球から約3億キロメートルも離れた小惑星イトカワだ。もう知らない人がいないくらいの話ではあるのだが、その意義はと問われて正確に答えられる人は、果たしてどのくらいいるのか。そんな時に同書は威力を発揮する。専門家ではなくとも「はやぶさ」の偉業が良く理解できる。今年中にも「はやぶさ2」は打ち上げられることになっている現在、同書により、「はやぶさ」の果たした成果を整理しておくことは、今後の宇宙探査を知るうえで欠かせない。このほか、我々の銀河系はどのような構造となっているかなどは、最近になり正確に把握できたことも多く、最新知識を整理するには、同書は打って付けと言えよう。

 「Chapter3 生物学」は、ある意味では、一番興味がわくところである。火星に生物の痕跡が見つかったといったニュースが飛び交うが、未だはっきりとした証拠はない。さらに、果たして地球以外に知的生命体は存在するのかといった素朴な疑問にもこの章では答えてくれる。それらの中の一番のハイライトは、太陽系以外の惑星が、最近になり続々と発見始めたことだ。つまり、第二の地球探しに世界の関心が集まっている。これらの中には、生命体はおろか、知的生命体がいるかもしれないのだ。現在、我々は、そんな人類史上まれに見る大発見前夜にいるのかもしれない。この章では、そんな知的好奇心を満たしてくれる内容となっている。そして、最後の章である「Chapter4 工学」を迎える。ここでは国際宇宙ステーション(ISS)までの道のりが紹介される。時々、「『ISS』は新しい成果に乏しい」といった批判を言う人がいるが、それは間違えだ。人類は今、“宇宙大航海”時代の入り口に入ったところで、長期間の宇宙滞在自体が、次のステップの足掛かりになるのである。そして、今、火星にばかり人々の関心が集まりがちだが、水面下では月面探査競争も激化していることを、同書の最後で触れている。日本の宇宙政策について考えさせられる個所だ。以上、同書は、宇宙の入門書として、さらには、入門は卒業した人たちの知識の再整理には、最適な宇宙書と言えるだろう。豊富なカラー写真は眺めているだけでわくわくしてくる。(勝 未来)

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「ここが一番面白い!生命と宇宙の話」(長沼 毅著/青春出版社)

2014-06-26 12:49:12 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:ここが一番面白い!生命と宇宙の話~たとえば、地球は水の惑星ではなかった!~

目次:はじめに
    第1章 生命はどこからやってきたのか
    第2章 人間はなぜ、人間になることができたのか
    第3章 広大な宇宙に第2の地球を探して
    第4章 人類が宇宙へと旅立つ日
    第5章 最後、宇宙は鉄になる

著者:長沼 毅

発行:青春出版社

 少し前までは、太陽系以外に地球のような惑星は、この広い宇宙を探してもなかなか探し出すことはできなかった。ところが、1995年に太陽系以外の惑星の第1号が発見されると、次々に新しい惑星が発見され、今ではその数は数百に及ぶという。何故、最近になって太陽系以外の惑星の発見が相次ぐのかというと、天体観測の技術が大幅に向上したからである。太陽系外惑星を探すことは、東京から100㎞ほど離れた富士山頂において、電球の周りを回る蚊の姿をとらえるほど困難さがあるといわれる。太陽系外惑星の発見は、これからも加速度的な速さで進められることが予測されている。太陽系外惑星とは、①恒星に極めて近い距離を公転している灼熱のガス惑星②極端な楕円軌道を持つため、恒星に近づく灼熱の夏と、遠ざかる極冬を繰り返すエキセントリック・プラネット③恒星を持たないで宇宙空間を漂う浮遊惑星④超新星爆発の後に残るパルサーから生まれる死の惑星⑤炭素を主成分とするため純度の高いダイヤモンドが大地に眠る炭素惑星・・・などがあるが、今後さらに新しいタイプの惑星の発見は相次ぐことになろう。そうなると、それらの惑星には地球のように生物が住んでいるのかどうかという素朴な疑問が生じてくる。そんな素朴な疑問に答えてくれるのが、「ここが一番面白い!生命と宇宙の話~たとえば、地球は水の惑星ではなかった!~(長沼 毅著/青春出版社)」なのである。

 著者の長沼 毅氏は、生物学者で、現在、広島大学大学院生物圏科学研究科准教授を務めている。自ら“辺境生物学者”を名乗り、地球上の辺境の地に直接出向き調査を行っているだけに、同書は説得力のある内容となっており、それが何よりも同書の強みである。「深海の高圧や火山の高温、南極の低温に砂漠の乾燥など、そういう極端な環境条件でもやっていける生き物には、必ずと言っていいほど飛び抜けた能力があり、それを知る度に、地球生物の限界についての生命観が広がっていく」と著者は言う。そんな例として、同書の「はじめに」おいて、2010年、NASA(米国航空宇宙局)が発表した「猛毒である『ヒ素』を食べて増殖する異質な生命体の発見」の話が出てくる。生命が誕生する条件とは①有機物があること②有機物を反応させる場となる液体があること③生命活動を維持させるエネルギー源があることーの3つという。NASAの発表に生物学者が沸き立ったわけは、「生体を構成する元素を置き換える」という生物の可能性が示唆されたことにある。つまり、過酷な環境下にある太陽系外惑星にも生物が存在する可能性は十分に考えられるということだ。

 この書の副題として「たとえば、地球は水の惑星ではなかった!」と書かれている。これを見て「オヤ?」と思わない人はないであろう。何故かと言うと、我々は、「地球は水の惑星だ」と子供の時から叩き込まれてきたので、今さら「地球は水の惑星でない」と言われても、そう簡単に納得するわけにはいかない。その理由について、著者の長沼氏は、次のように、いとも簡単に解説する。「地球上にある水はわずかなもの。全質量の0.02%しかありません。地球より小さい木星の衛星の方が、地球よりよっぽど水を持っています。水の量だけを考えると、地球は『水の惑星』と大見得を切るのはどうかと思います。ただ、表面が液体の水に覆われた惑星と言う分にはよいでしょう」。ここまで読んでようやく「地球は水の惑星でない」根拠を理解することができた。要するに、水は地球の表面を薄く覆っているだけの話ということだ。しかも、その水も我々が使う真水ともなると、さらに少なくなるというから話は深刻だ。地球の97%は海水で、真水はたったの3%だというのだ。さらに、その3%のうち、7割は南極とグリーンランドにある氷で、残りの3割だけが地下水であり、人類が生存していくために必要な真水なのだ。このようなことを考えると、「水」の貴重さを身に持って感じることができる。

 同書の流れは、「生命はどこからやってきたのか」に始まり、「人間はなぜ、人間になることができたのか」「広大な宇宙に第2の地球を探して」「人類が宇宙へと旅立つ日」「最後、宇宙は鉄になる」で終わる、壮大な人類史を辿っている。地球上の生命の由来は、地球そのものなのか、あるいは宇宙から運び込まれたものなのか、について誰もが理解できるよう、平易に解説がされているので、「なるほどそういうことなのか」と一つ一つ納得させられる。そして、この書がユニークなのは、生物学的な学問的アプローチに加え、「もし、宇宙人とばったり出会ったら」というようなFS的なアプローチが共存していることだ。そして、人類の宇宙への第一歩として著者は、火星を第二の地球にすることを提案している。既に、アメリカは火星に人類を送り込むプロジェクトに着手しているようであるが、昔の夢物語がそろそろ現実の課題になってきていることを、実感でる時代へと入りつつあるようだ。そんな時代に、多くの人が、地球や宇宙の正確な姿を把握しておくことが何より大切だが、同書は、これらのニーズに充分に応えられるだけの内容となっている。(勝 未来)

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「宇宙はなぜこのような宇宙なのか」(青木 薫著/講談社)

2014-06-18 06:06:21 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:宇宙はなぜこのような宇宙なのか~人間原理と宇宙論~

著者:青木 薫

発行:講談社(講談社現代新書)

目次:第1章 天の動きを人間はどう見てきたか
    第2章 天の全体像を人間はどう考えてきたか
    第3章 宇宙はなぜこのような宇宙なのか
    第4章 宇宙はわれわれの宇宙だけではない
    第5章 人間原理のひもランドスケープ
    終 章 グレーの階調の中の科学

 私が「宇宙はなぜこのような宇宙なのか~人間原理と宇宙論~」(青木 薫著/講談社)を購入した理由は、本のサブタイトルに“人間原理”という言葉を見つけたからだ。我々は、気が付いてみたら地球上で生活してわけで、現在の地球環境が当たり前だと感じる。それどころか、暑いだの、寒いだのと文句ばかりを言う。でもよく考えて見ると、人類は、地球の衛星の月でさえまだ定住生活の経験をしていない。というよりは、できないのである。空気がないし、ようやく最近になって水があるようだと分り始めたところだ。また、宇宙線から人体をどう守るかの問題もクリアーしなければならない。さらに、人間が定住生活をするための居住環境をどのようにつくり出すかも問題である。月面にある砂状の鉱物を固めてビルを建てればいい、という人もいるが、この方法でビルが建設できる保証があるわけでもない。日本のJAXAでは、月観測衛星「かぐや」によって、月面の様子を調べたが、この時に、洞窟らしき穴を見つけ出した。JAXAは、月面に下りたら、まずこの洞窟に逃げ込み、定住生活環境づくりの作戦本部とする計画だという。

 要するに、地球の直ぐ側の月でさえ、人類にとっては過酷な環境なのだ。ましてや火星で人類が生活するなんて、今のところ夢物語だ。確かに、火星旅行を企画している民間団体は存在しているが、火星に行くだけで、帰りのロケットは飛ばない。つまり、今火星旅行をしようとすると、一生を火星で過ごし、地球には帰還できない。というわけで、地球という環境は、何故にこうも人類にとって都合のいい環境にできているのか、大いなる疑問が湧く。たまたまなのか、あるいは、何か今までの常識を超えた、新しい基準が、この宇宙に隠されており、この基準でもって、我々人類は生かされているのであろうか。そう考えると“人間原理”という考え方に基づいた宇宙論は欠かせない考え方かもしれないと思い始める。その一方で、“人間原理”という言葉から連想するのは、地動説みたいな響きを伴っており、そう安易に受け入れるわけにはいかない、という気もする。

 ということで、勢い込んで「宇宙はなぜこのような宇宙なのか~人間原理と宇宙論~」(青木 薫著/講談社)を読み始めたのだが、“人間原理”に話に入る前に、第1章 天の動きを人間はどう見てきたか、第2章 天の全体像を人間はどう考えてきたか、の2つの章で人類がこれまで宇宙をどう認識してきたのか、が丁寧に解説される。この2章は、天文学の門外漢が読んでも理解できるので、大変参考になる。例えば、第1章 天の動きを人間はどう見てきたか、の中の「誤解されたコペルニクス」を読むと、我々のコペルニクスに関する知識は実に曖昧であることを痛感させられる。素人考えでは、「コペルニクスは、それまでの地動説をひっくり返して、天動説を打ち立てた」であるが、実は話はそう単純ではないことがこの書を読めば分ってくる。実は、コペルニクスは天球を信じていたというのだ。コペルニクスは、地球と太陽の役割を交換して、地球を運ぶ天球を「偉大な球」と呼び、その偉大な球の中心を、宇宙の中心としたという。詳しくは本書を読んでほしいが、漠然と考えていた過去の宇宙論が、この2章によって正確な知識として身に付けることができる。

 第3章 宇宙はなぜこのような宇宙なのか、になってようやく“人間原理”の本論に入る。その前に筆者は、前書きの冒頭で、「20世紀半ば、宇宙論の分野に『人間原理』というとんでもない考え方が登場した。とんでもないというのは、少しも大袈裟ではない。なにしろ人間原理は次のようなことを主張していたからである」。この人間原理の主張というのが、「宇宙がなぜこのような宇宙であるのかを理解するためには、我々人間が現に存在しているという事実を考慮に入れなければならない」。この議論を始めるとなると、何やら哲学的あるいは宗教的なニュアンスが感じ取れる。筆者も最初は、こんな“人間原理”の考え方を素直には認めることはできなかった、と告白している。著者の青木 薫氏は、京都大学の理学部を卒業したれっきとした科学者であり、これまで数多くの科学書の翻訳を手掛け、2007年度日本数学学会出版賞を受賞している科学書の翻訳のエキスパートである。因みにこの書は、同氏の最初の著作物という。そんな、著者も、今では「『人間原理、毛嫌い派』から『人間原理、要検討派』に転向した」という。同書の中で人間原理の主導者の一人であルケンブリッジ大学のブランドン・カーターの次のような言葉が紹介されている。「宇宙は(それゆえ宇宙の性質を決めている物理定数は)、ある時点で観測者を創造することを見込むような性質をもっていなければならない。デカルトをもじって言えば、『我思う。ゆえに世界はかくの如く存在する』のである」。(勝 未来)

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「日本人と宇宙」(二間瀬 敏史 /朝日新聞出版)

2014-06-01 20:05:40 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

 書名:日本人と宇宙~なぜ、宇宙先進国になれたのか!?~

著者:二間瀬 敏史 

発行:朝日新聞出版

目次:パート1 月・日・星そして宇宙と日本人

    第1章 「愛でる月」から「探査する月」へ
    第2章 母なる太陽の異変を探る
    第3章 我ら星の子/恒星をめぐる物語
    第4章 生命のすむ惑星を探して
    第5章 太陽系の小さな仲間たち/小惑星と彗星
    第6章 宇宙誕生の謎に迫る

    パート2 日本人と宇宙の関りの歴史

    第7章 日本人の宇宙観/飛鳥人から江戸っ子まで
    第8章 日本の近代天文学の誕生
    第9章 現代天文学から未来の天文学へ

 私がこの書に弾かれたのは、本のタイトルの「日本人と宇宙」である。早とちりをして、日本人は宇宙人?と読んでしまった後に、よく見ると「人」は入ってはいなかった。例えば「日本人と素粒子物理学」なら、湯川秀樹、朝永振一郎そして南部陽一郎まで、脈々と続くノーべル賞受賞者を輩出している日本なので、題材はありあまるほどありそうに思うが、「日本人と宇宙」と言われて直ぐに思い浮かぶのは、私は糸川英夫ぐらいなので、一冊の本になりうるタイトルなのかと興味が惹かれたというのが、正直なところだ。この本を読み終えたときに、この考えが全く間違えであることに恥じ入ってしまった。「日本人と宇宙」は、昔から深いつながりを持っており、その集大成が宇宙探査機「はやぶさ」や国立天文台ハワイ観測所「すばる望遠鏡」など、世界の頂点に立つ技術成果であったのだ。逆に言うと、宇宙に関して大きな成果を挙げてきた研究者たちについて、我々日本人は余りに知らなさ過ぎるのではないか。

 この本の筆者の二間瀬 敏史氏も「まさか自分が『日本人と宇宙』というタイトルで本を書く日が来るとは、想像もしていませんでした」と書いているほどなので、宇宙科学者自身が言うほどだから、まあ、許されるのかな、と思いきや、その先に「少なくとも私個人の体験から言えば、宇宙のことを研究する上で、自分が日本人だと意識したことはほとんどないのです」とあった。つまり、素粒子物理学者以上に宇宙科学者は、ボーダーレス化しているのかもしれない。このため、日本人だからどうのこうの言うことは、憚られることなのかもしれない。しかし、筆者自身、「『すばる望遠鏡』を見ると誇らしい気分になります」とあるように、宇宙科学者も潜在的には日本人であることを意識していることも事実である。

 著者の二間瀬 敏史氏は、京都大学理学部を卒業後、英国のカーディフ大学で一般相対性理論で博士号を取得。その後、ドイツ、米国、英国の研究所や大学で研究生活を送り、現在は、東北大学大学院理学研究科天文学専攻、教授を務めている。専門は一般相対性理論、宇宙論の理論的研究。これだけの経歴をみると、一般の読者には手が届かない専門書かと思いきや、各章の冒頭には、有名な詩や文学からの一節が紹介され、それから徐々に宇宙の話に入っていく工夫がこらされている。本文に入っても、特別な宇宙や天文学の知識が無くても読むことができる。例えば、「第1章 『愛でる月』から『探査する月』へ」では、「ある時、生徒の一人が“I love you”という英文を“我は君を愛す”と訳しました。すると漱石先生は、こう教えたそうです。『きみ、日本人はそんな言い方をしませんよ。“月が綺麗ですね”とでも訳しなさい』と」要するに文科系でも読みこなせる宇宙の話になっているのだ。とわ言え、内容自体は、宇宙のことを知っている人でも実に面白く読み進むことができ、しかもその内容は充実している。

 この書には、宇宙に関わった日本人の研究者が沢山紹介されており、一種の人名辞典的な役割を果たしている。名前はゴシックで表記されているので頭に入り易い。注文を言うと、後で調べるために、巻末に人名の掲載ページ付き一覧表を付けてもらえばもっと有り難かったのであるが・・・。この書に登場する一人一人を紹介するわけにいかないので、宇宙物理学者の林忠四郎について少々書いておこう。素粒子物理学者の湯川秀樹は日本人なら誰でも知っているが、林忠四郎を一般の人が果たしてどのくらい知っているのであろうか。著者の二間瀬 敏史氏は「故・林忠四郎先生(2010年没)は、宇宙におけるさまざまな現象を理論物理学によって解明・記述する宇宙物理学の、日本における先駆者です。私を含め日本のすべての宇宙物理学者の『父』といえる偉大な方」と書いている。林忠四郎の三大業績と言われるものがある。①林フェーズの発見②ビックバンにおける元素合成③太陽系起源についての京都モデル、の3つである。「林フェーズ」とは、太陽が生まれて現在の状態に至るまでの過程を解明した理論。「ビックバンにおける元素合成」とは、有名なガモフのビックバン理論(αβγ理論)が言う「始原物質」(宇宙の卵)が「中性子だけからできていたのはおかしい」とし、できた元素を理論的に示した。「太陽系起源についての京都モデル」とは、太陽系形成理論において、われわれのいる太陽系などの恒星・惑星系がどのように誕生したかを理論的に解析した。正に、宇宙物理学者の林忠四郎は、素粒子物理学者の湯川秀樹に並び立つ偉人だったのだ。
(勝 未来)

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「宇宙に外側はあるか」(松原隆彦著/光文社)

2014-04-28 20:13:15 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:宇宙に外側はあるか

著者:松原隆彦

発行所:光文社(光文社新書)

目次:第1章 初期の宇宙はどこまで解明されているか
    第2章 宇宙の始まりに何が起きたのか
    第3章 宇宙の形はどうなっているのだろうか
    第4章 宇宙を満たす未知なるものと宇宙の未来
    第5章 宇宙に外側はあるか

 宇宙の始まりは何時か?ビックバンが起こった137億年前というのがこれまでの定説であった。これは2003年に米航空宇宙局(NASA)のWMAP探査機による宇宙背景放射の観測をもとにしたもの。しかし、2013年3月に欧州宇宙機関(ESA)は、宇宙の始まりは、これより1億年前の138億年という数字を明らかにした。ESAでは2009年に打ち上げた宇宙望遠鏡「プランク」により15カ月間にわたりマイクロ波を調べ、観測可能な最も初期の宇宙図を作製し、これにより導き出された数字であるという。数字が137から138に変わっただけなので、訂正して一件落着ということになるのであろうが、我々の日常生活の感覚からすると、1億年という時間は、とてつもない時間の差であり、思わず「そういとも簡単に変えられては困る」とつい言いたくもなる。しかしこれは、現代という時代の宇宙観が、日進月歩のスピードで変化している証拠の一つとも言えるのであろう。

 それでは、今から138億年前にビックバンが起こったことは認めることとしよう。問題は、ビックバンが起こる以前と、138億年より先の宇宙はどうなっているのかである。ホーキング博士なら「ビックバンは神が起こさなくても、数学的に解明できる」ということにもなろうが、我々凡人にはビックバンが起こる以前がどうなっているのかを理解することは容易ではない。同時に、138億年かけて宇宙船に乗って宇宙の淵に到達し、窓から外を覗いたら何が見えるのか、という素朴な疑問も湧き上がって来る。今の宇宙論の常識では、どうも宇宙の外側は見えないらしい。それは、昔、人類は、水平線を見て、その先は海の水が滝のように流れ落ちていると信じていた。しかし、実際には違っていた。海を渡って行ってみるとぐるりと地球を一周して、また元の場所へと戻ってしまう、ということを体験したのだ。これと同じように、いくら人類が宇宙の外を見てみようとしても、宇宙をくるっと回ってもとの場所に戻ってくるだけだから、考えるのはおよしなさい、と。

 この書「宇宙に外側はあるか」(松原隆彦著/光文社<光文社新書>)は、以上に説明では、どうしても納得のいかない、一般の人が読む宇宙の研究書として最適な本だ。つまり、宇宙の専門知識はあまり持ち合わせていたくても、読み通すことが出来るのが、同書の特徴の一つに挙げることができる。著者の松原隆彦氏は、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構・准教授で、これまで東京大学大学院理学系研究科・助手、ジョンズホプキンス大学物理天文学科・研究員などを務めた第一線の研究者である。同書のプロローグで著者の松原隆彦氏は次のような疑問を投げかける。「宇宙はどうして始まったのか」「宇宙が始まる前は何だったのか、宇宙が始まる前の宇宙は宇宙でないのか」「宇宙に始まりがあるなら、宇宙に終わりはあるのか」「宇宙に終わりがあるとすると、宇宙の終わりの後には何があるのか。次の宇宙が始まるのか」「そもそも、始まったり終わったりするような宇宙はどこに存在するのか。この宇宙よりももっと大きな、何か、得体の知れないものの中にこの宇宙があるのか」。

 同書は、これらの疑問を一つ一つ解き明かす恰好な書籍ということができる。同時に、読み進むうちに、奇妙な感覚に捉われることも確かだ。例えば、最期の「第5章宇宙に外側はあるか」の終わりの方に、「マルチバースの世界」という項目が出て来る。「宇宙は英語で『ユニバース』です。ユニというのは『ひとつの』という意味なので、これを『多数の』という意味のマルチに変えた『マルチバース』という言葉が多宇宙を表します。マルチバースの中の一つの部分が私たちのユニバースです」。我々に宇宙のほかに、宇宙は沢山あって、我々の宇宙はその中の一つに過ぎないのではないかという、宇宙観である。もうこうなると、我々の宇宙の始まりが、137億年前から138億年前に訂正されたくらいの話はなんともなくなってくるから不思議だ。自分と同じ人間が別の宇宙に存在し、現在、生活をしているかもしれない、と考えると、何か、SFの世界に彷徨うようでもあり、奇妙な感覚に捉われる。地球はあと50億年もすると太陽に飲み込まれてしまうらしいが、それまでには宇宙の全容が解明されているいることを望むばかりである。(勝 未来)

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「べテルギウスの超新星爆発」(野本陽代著/幻冬舎新書)

2014-04-01 15:03:16 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●


書名:ペテルギウスの超新星爆発―加速膨張する宇宙の発見―

筆者:野本陽代

発行:幻冬舎

目次:第1章 ベテルギウスに爆発の兆候?!
          晩年を迎えたベテルギウス
          ベテルギウスに爆発の兆候?! など
    第2章 星の誕生と進化
          地球中心から太陽中心へ
          太って赤くなるのは老化現象 など
    第3章 たそがれを迎えた星たち
          彗星の番人の誤算
          客星現る など
    第4章 宇宙の扉を開く
          ミクロの世界、マクロの世界
          宇宙の過去を見る方法 など
    第5章 宇宙はどこまでわかったか
          夜空はなぜ暗いのか
          昨日のなかった日 など
    第6章 加速膨張する宇宙の発見
          謎のエネルギーの存在
          恐竜の絶滅と超新星探し など


 この書籍の筆者の野本陽代氏は、慶応義塾大学法学部卒業して翻訳業を営むサイエンスライターなのではあるが、これまで出版してきた天文学の著作を読むと専門の天文学者顔負けの博識ぶりにはただただ敬服させられる。このことは、2004年から2011年まで文部科学省宇宙開発委会委員を歴任していたことからも裏付けられる。

 そんな野本陽代氏の最新の著作がこの「べテルギウスの超新星爆発―加速膨張する宇宙の発見―」(幻冬舎新書)である。ペテルギウスとは、我々にお馴染みのオリオン座にある1等星のことであるが、このペテルギウスが近く爆発するかもしれないというニュースが世界中を駆け巡った。この星は地球から約630光年と比較的近い距離にあるので、爆発すれば満月と同じくらいの明るさになると言われている。

 明るいだけなら問題はないのであるが、爆発と同時に強力な放射線が発射され、地球がその放射線を浴びれば人類を含む地球上の生物に致命的ダメージを与えるのではないかとも言われてきた。幸い、この放射線から地球の位置がずれていたので事なきことが分った。ことほど左様に宇宙は日々激しく活動しているわけである。この本はそんな宇宙の成り立ちから、これからの宇宙がどう変化を遂げていくのかを超新星という現象を例にとり、誰でもが理解できるよう平易に解説してある。

 現在の宇宙は膨張していることを証明したことに対し、2011年のノーベル賞が授与されたが、この受賞者がまだ学生の駆け出し時代から筆者は交流を持っていたという。この宇宙膨張のいきさつを紹介する第6章などは、何か推理小説でも読んでいるような感覚に襲われる。宇宙がどう生まれ、これまで人類がそれをいかに探求し、さらにこれからの展開はどうなるのかに興味がある人には欠かせない書といえる。
(勝 未来)
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●宇宙探査<ブックレビュー>●「宇宙は何でできているのか」(村山 斉著/幻冬舎)

2014-03-20 11:32:38 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●


書名:宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎―

著者:村山 斉

発行:幻冬舎

目次:序章 ものすごく小さくて大きな世界
   第1章 宇宙は何でできているのか
   第2章 究極の素粒子を探せ!
   第3章「4つの力」の謎を解く - 重力、電磁気力
   第4章 湯川理論から、小林・益川、南部理論へ - 強い力、弱い力
   第5章 暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎
     


 著者の素粒子論を専門とする村山斉氏は、現在、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の機構長の要職に就いている。このカブリとは、米国カブリ財団の名称で、同財団の寄附による基金設立を受け、2012年4月より新たな名称で研究活動をスタートさせた。このKavli IPMU(カブリ・イプムー)は、最先端を行く数学者、理論物理学者、実験物理学者、天文学者からなる研究者のグループを形成している。

 ここで不思議に思えるのは、数学はともかく、「物理学者=素粒子」と「天文学者=宇宙」とが同じ研究所で研究していることだ。素粒子とは極小の世界を研究することだし、一方宇宙は極大の世界を研究することで、この2者は両極端にいるはずであり、互いに机を並べて研究することはないはずなのだ。実はこの謎が、この村山 斉著「宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎―」(幻冬舎新書)のテーマそのものとなっている。

 今我々が住む宇宙は、137億年前にビックバンによって生まれたが、そのスタートの時を追究していくと素粒子の研究に行き着くし、その後宇宙は膨張していったわけで、こうなると天文学なくして解明できない。「宇宙の起源を知ろうと思ったら、素粒子のことを理解しなければならない」と村山氏は説く。これはちょうどギリシャ神話に登場する、自分の尾を呑み込んでいる蛇である「ウロボロスの蛇」を思い起こさせる。

 つまり、自然界の両極端にあるように見えながら、この2つは切っても切れない関係にあるのである。「いま起きている宇宙論の変化は、『天動説』から『地動説』への転換に匹敵するほどのインパクトがある」と言う村山氏が、最先端の素粒子論と宇宙論の2つを難しい数式を使わず、誰でもが理解できるように書き記したのが同書である。もうこれ以上易しく解説するのは不可能では、といった感じすら受けるほど丁寧に書かれた、最先端を走る科学者自身による本である。(勝 未来)
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