JAXAは、X線天文衛星「ひとみ」との交信が途絶えた問題で、「衛星状態正常」から「姿勢異常」が発生し、「物体の分離」に至るまでの状況を発表した。
<4つの推定メカニズム>
(1)3月26日に、活動銀河核観測のための姿勢変更運用を計画通り実施した。
(2)姿勢変更運用終了後、姿勢制御系の想定と異なる動作により、実際には衛星が回転していないにもかかわらず、姿勢制御系は衛星が回転していると自己判断した。その結果、回転を止めようとする向きにリアクションホイール(RW)を作動させ、衛星を回転させるという姿勢異常が発生した。【推定メカニズム①】
(3)加えて、姿勢制御系が実施する磁気トルカによる角運動量のアンローディング(磁気トルカ作動または姿勢制御用スラスタの微量噴射により、 リアクションホイールの回転数を正常動作範囲内に調整する運用)が姿勢異常のため正常に働かず、RWに角運動量が蓄積し続けた。【推定メカニズム②】
(4)姿勢制御系はこの状況を危険と判断し、衛星を安全な状態とするためセーフホールド(SH)に移行し、スラスタを噴射したと推定される。この際、姿勢制御系は不適切なスラスタ制御パラメータにより、想定と異なる指示をスラスタに与えたと推定される。その結果、スラスタは想定と異なる噴射を行い、衛星の回転が加速する作用を与えたと推定される。【推定メカニズム③】
(5)衛星の想定以上の回転運動により、太陽電池パネルの一部、あるいは伸展式光学ベンチ(EOB)など、速い回転に対して構造的に弱い部位が分離したと推定される。【推定メカニズム④】
<推定される現在の衛星状態>
•衛星全体が速い速度で回転
•衛星の回転力に弱い部位(太陽電池パネルの一部、EOB等)が分離
•バッテリ枯渇(充電するためには、充電機能ONが必要なため通信の確保が必要)
•通信が確立できていない(3/28以降)。3/26~28にかけて3回電波は受信できているが、テレメトリが取得できていない。調査の中で①②の事象を確認しており、衛星状態推定・復旧運用に向け詳細な調査を継続している。①キャリア周波数として200[kHz]程度ずれた電波を受信している。②周波数スペクトルが地上試験データと異なっている。
•軟X線分光検出器(SXS)冷却システムの液体ヘリウムの減少(現時点では枯渇までは至っていないと推定)
<当面の計画>
以下の作業を並行して行っていく。
(1)電力・通信の確立に向けた運用、回転状態・形状推定のための地上観測
(2)メカニズム、故障の木解析(FTA)等の推定が残る部分の検証
(3)今回の事象の要因(開発・運用のプロセス、及びその体制を含む)の分析
(4)宇宙開発利用部会へ報告