アストロスケールは、この度、2024年2月に開始した商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ、Active Debris Removal by Astroscale-Japan)」のミッションにおいて、観測対象のデブリ(宇宙ゴミ)から約15mの距離まで接近に成功した。
これは、民間企業がRPO(ランデブ・近傍運用)を通じて実際のデブリに接近した、世界で最も近い距離。
運用を終了した衛星やロケット上段等のデブリは非協力物体と呼ばれ、外形や寸法などの情報が限られるほか、位置データの提供や姿勢制御などの協力が得られない。
そのため、その劣化状況や回転レートなど、軌道上での状態を把握しつつ、当該デブリに安全・確実にRPO(ランデブ・近傍運用)を実施することは、デブリ除去を含む軌道上サービスを提供するために不可欠な技術。
ADRAS-Jは、実際のデブリへの安全な接近を行い、近距離でデブリの状況を調査する世界初の試み。
具体的には、大型デブリ(日本のロケット上段:全長約11m、直径約4m、重量約3トン)への接近・近傍運用を実証し、長期間軌道上に存在するデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行っている。
ADRAS-Jミッションは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が大型デブリ除去等の技術実証を目指し実施する商業デブリ除去実証(CRD2)のフェーズIとして実施しているが、今回の接近は、JAXAのミッション要求とは別にアストロスケールが独自に実施した事業者独自ミッションであり、捕獲運用直前までのRPOを実証し、将来のミッションに備えることを目的としていた。
具体的には、まずデブリの後方50mの距離から、デブリと同一の軌道上を直進し、その後、将来デブリの除去としてその捕獲や軌道離脱も行うADRAS-J2(Active Debris Removal by Astroscale-Japan2)のミッションで捕獲箇所として想定している衛星分離部(PAF)の下方に回りこんで接近、最終的には、同ミッションで対象デブリの捕獲運用開始を想定している距離(CIP)にまで接近し、相対的な速度、距離、姿勢を合わせる想定であった。
実施の運用では、これまでの近傍接近の運用と同様に、搭載センサでデブリの3D形状を高精度で測定し、その動きをリアルタイムで観測。自律的なナビゲーションシステムでそのデータをリアルタイムで処理し、デブリの動きを予測しながら自身の軌道や姿勢を制御しながら段階的に距離を縮めた。
接近や姿勢制御がこれまで以上に繊細で困難な極近距離において、慎重かつ精密な運用により、予定通りデブリの後方50mからPAFの下方約15mに機体を位置付け、一定の時間、相対的な距離と姿勢を維持することに成功した。
その後ADRAS-Jがデブリとの相対姿勢制御の異常を検知し、自律的にアボートを行った。
結果としてADRAS-Jはデブリから待避しており、安全な状態を保っている。