私の家族では、姉夫婦や夫ニックが天職を持つ人である。天職を持つ人の周りにいる者には天職者を支えるという天職に恵まれる事がある。ゴッホの弟テオや山内一豊の妻がそれだ。私はニックを幸福にする才能はかなりある。それも天職と信じる。
句友三島広志さんの句集『天職』(角川書店) を読んだ。いつものように十句選び、真剣な感想文を書いたが、コロナのせいで延期になっているかたつむり句会の次の十句鑑賞にこの句集を皆で読むつもりなんで、今日は公表しないでおく。三島さんのあとがきを読んで、非常に感銘を受けて書いた文章のコピーを残す。
三島広志さんの句集『天職』を読んでいたら、ニックが隣で無伴奏バッハ四番プレリュードを弾き始めた。三十六曲中最も重要な曲とニックが言い、またニックの最も好きな曲でもある。生徒にこの曲を教える時にニックがする物語。
「これは、石や煉瓦を積み上げてピラミッドや聖堂を築くように、音を”積み上げてゆく”曲なのだ。」
「これは、たった一人で”塔を建てる人”の物語である。一人で黙々と石を積み、積んだ石に登ってまた石を積む。半ば積み終えた時に石が崩れ、人も地に倒れ伏す。太陽に目眩み、手足が萎え、絶望に襲われるが、神に祈り、女神に祈り、再び起って、また一つずつ石を積んでゆく。最後の一石を積み終え、力尽き、頽れる人の眼に、誇らしく美しい塔が映っている。」
「積み上げるイメージで弾けば、自然と呼吸が定まり、この曲を弾くべきリズムが生まれる。」
三島さんの『あとがき』を読み終え、宮沢賢治の「手は熱く足はなゆれど」の詩を初めて知り、“われはこれ塔を建つるもの”という不思議なイメージの一致に感動した。誰かに伝えたくてこの文章を書いた。