最後のご奉公。最後の週末。いよいよこの日曜で退職する。先に辞めた仲間が、お疲れ様&お祝いもろもろ会をやろうゼイバース、と誘ってくれた。嬉しいなあ。
最後のスピーチを考える。
「ありがとうございます。最初に、みなさまに感謝します。私を教え、助けてくださってありがとうございました。私は皆様と共にここで働くことを楽しみました。私は一月に日本へ帰ります。私は日本で夢があります。私は、故郷の観光ガイドとなり、世界に誇る最短の詩、俳句を(特に海外からの旅行者)に紹介したいのです。またコンサートチェリストである夫も、日本の各地で小さなコンサートを開く夢を持って、共に日本へ行きます。皆様、私達の町を訪ねてきてください。これから私は客として、この店を愛していきます。最後に、もう一度お礼を申します。」
これを英語でさらさらっと言うつもり。
店で働きだして一番よかったのは、今まで純文学しか読まなかった私が、漫画も、エンタメも、自己啓発なんてハウツー本も読むようになり、Jポップやアニソンも聞くようになったこと。世界が広がった。おまけに先生と一緒になって、初めてアメリカを知った気がする。外人(日本人)の私が見聞してきたアメリカは一部だけだった。だからといって、評価が上がったわけではないが。
先生が車を持って、はるばるオハイオまで(酢寺のペアレントウィークに)行ってしまったので、メトロノースに乗れない。週末はレイルリンクバスがない。
「ワントレインで行くからだいじょうV!(手は×)」とポーズして、笑って見送ったものの、ハドソンラインの快適に慣れた体は、いまさら地下鉄を受け入れない。えらいしんどい。
木曜はひさびさの朝番。置き土産に特殊業務(平台メンテ)を一人黙々とする。というのは嘘で、腰が、腰が、と文句言いながらやる。
仕事帰り、アッパーイーストへPのバイオリンを聴きに行く。
前夜、ハイフェッツの弟子だったPと先生と三人で盛り上がったー。男二人ならべて昔話させたり、まぜっかえして飲んだりするのがいちばん楽しい。ハイフェッツ神話はいろいろ聞いたけど、ハイフェッツ夜の神話を聞いたのは初めて。非常に興味深いものだった。
コンサートの曲目は、バッハ・ソナタEメジャー、タネエフ?・ソナタAマイナー、ベートーベン・クロイツェル。私は前にここで、E先生のコンサートを聞いた。イタリアの古い館をそのまま運んできて復元した。ライブラリがコンサートホールになってる。窓を開けたまま演奏する。先生の二番目の妻にばったり会い、一緒に座る。
で、新婚生活はどうよ?
いやー、ぜんぜん変わんないっす。
それはいいこと。私のときは、えらい変わっちゃったからねー。
へえー。そうでした?
そうよーお互いに。でそのまんま子育てに突入しちゃったからねー。
わかりますよ。
で、彼と一緒にいて楽しい?
はい。わたしが部屋でタコ踊りしてたら、来て一緒に踊ってくれるんですよー。
へえー(……)。ま、結局人と人、人と楽器、どっちも相性が一番。もう相性だけねっ。
そっすねー。
よかったね、相性のいい相手とめぐり合って(微苦笑)。
はい、おかげさまで。
なんてって、コンサート後、ベートーベンが最高だったこと、喉越しのつるつるの酒みたいに鮮やかなのに滑らかなサウンドが気に入ったことなどをPに話し、日本人のピアニストに挨拶し、白ワイン飲んで帰る。帰り道、遠ー。
休みに、カラオケへ行く。エターナルスノウ(フルムーンを探して)を、「これは私の歌だから」とマイクを取ったら、連れも、「これは私の歌」とマイクを取る。カラオケでマイクの取り合い。ほのぼのするなあ。
で、もう一つ夢ができた。私が詩を書いて、弓子が作曲して、弦子に歌わして、金もうけする夢。